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第43話
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何とか体勢を立て直して眼下を眺めると、コンスタンスホテルは四角かった角が丸みを帯び、あちこちから黒煙をたなびかせていた。
「わははは、何もかもが消し飛んだな!」
「笑い事じゃないよ、レックス。一般宿泊者にも被害が及んでるかも」
それにこの場は別室が全てを収める手筈だったのだ。調別員も手中に置く筈が、レックスの言う通り計画の何もかもが消し飛んでしまった。こんな派手な案件を幾ら別室とはいえ押さえ込めるものなのだろうかとハイファは暫し悩む。シドの言う通り、状況説明と実況見分は免れそうにない。
まずはレックスがハイファの自室から勝手に持ち出した銃をこっそり預かる。これは以前に法務局に登録してあるので、自分かシドが撃った事にしておけば問題ない。
そうだ、シドだと気がついて、見ればシドは機体が揺れて床に倒れたときのままの姿勢で伸びている。慌てて傍にしゃがんで肩を揺さぶった。
「シド、シドっ! どうしたの、大丈夫?」
「うっ……揺らすな、ハイファ。こ、腰が……壊れた、痛ってーっ!」
◇◇◇◇
「じゃあ、ネオニューヨークに帰っても、本当に気をつけてね。向こうにはまだビューラーファミリーの残党がいるかも知れないし」
「分かっている。それにこうしてボディガードもいるのだ、心配せずともよい!」
単身者用官舎ビルの屋上で、肩にレジェンディオをとまらせたレックス=ナイトは、シドとハイファに向かって手を差し出した。二人と固く握手をする。
「世話になった! では、さらばだ!」
踵を返してナイト損保が迎えに寄越したBELに乗り込む。その頭にはクリーニングを終えたボルサリーノが載っていた。BELとともにやってきたボディガードの一人がスライドドアを閉めて二人に一礼し、それも乗り込むと屋上の風よけドームが開く。
「王の帰還か――」
蒼穹にBELが溶け込んでしまうまで見送って、風よけドームが閉じた屋上を二人はあとにする。エレベーターに乗り込むと、ハイファは強風に乱れたシドの前髪をそっと撫でた。
「ちょっと淋しくなるかもね」
「静かになっていいさ。あのまま置いとくと、タマの神経がやられる」
「それは言えるかも。……ところで貴方は病院だからね」
「病院ならもう行ったじゃねぇか」
「治った訳じゃないでしょ、マルチェロ先生にブロック注射して貰っただけなんだから」
緊急機が辿り着く直前に、間一髪でシドとハイファにレックスは別室が差し回した軍用BELに拾われた。そのまま郊外の軍施設に運ばれ、身動きの取れないシドは別室専属医務室でサド医者に喜色満面で注射針を刺されたのだった。
「でも署の様子くらいは見てこねぇと」
「顔を出すと却って拙いんじゃないかな?」
「結局、機捜は現着しちまったんだ。どうせ現場に俺たちがいたことはバレてる」
フレシェット弾をバラ撒いた以上、言い訳は利かない。九ミリパラと四十五口径もライフルマークが登録されているので、これも調べられれば同じことだった。
「うーん……でも何て言い訳するの?」
「行ってから考えるさ」
またポーカーフェイスでするすると大嘘をこくのだろう。
「じゃあ、付き合ってあげるけど、帰りはそのままセントラル・リドリー病院だからね」
「……」
返事をしない愛し人を宥めすかして三十九階でエレベーターを降り、スカイチューブを使わせて七分署に移動した。
一階の機捜課のデカ部屋では、ヴィンティス課長が多機能デスクにへたり込んでいた。管内で点々と五人の半死体が発見された挙げ句、コンスタンスホテルでガチンコの銃撃戦、オマケに爆破で死傷者多数の一報を聞いた途端にダウンしたらしい。
何も訊かれないのは有難いと、少々の罪悪感を抱きつつもハイファが思っていると、傍にやってきた人影が左隣のシドのデスクに叩きつけるように片手を置いた。
「おい、イヴェントストライカ。ちょっと顔を貸せ」
対衝撃ジャケットを脱ぎ、デスクに着いたシドを、主任のゴーダ警部が鬼瓦のような厳つい顔で見下ろしている。剣呑な雰囲気に主任のバディであるナカムラがおろおろしていた。シドは襟首を掴まれるようにしてロッカールームに連れ込まれる。勿論ハイファも同行した。
口を開こうとしたハイファを、ゴーダ主任とシドの両者が目で牽制する。
その上で主任がシドを見据えて口火を切った。
「わははは、何もかもが消し飛んだな!」
「笑い事じゃないよ、レックス。一般宿泊者にも被害が及んでるかも」
それにこの場は別室が全てを収める手筈だったのだ。調別員も手中に置く筈が、レックスの言う通り計画の何もかもが消し飛んでしまった。こんな派手な案件を幾ら別室とはいえ押さえ込めるものなのだろうかとハイファは暫し悩む。シドの言う通り、状況説明と実況見分は免れそうにない。
まずはレックスがハイファの自室から勝手に持ち出した銃をこっそり預かる。これは以前に法務局に登録してあるので、自分かシドが撃った事にしておけば問題ない。
そうだ、シドだと気がついて、見ればシドは機体が揺れて床に倒れたときのままの姿勢で伸びている。慌てて傍にしゃがんで肩を揺さぶった。
「シド、シドっ! どうしたの、大丈夫?」
「うっ……揺らすな、ハイファ。こ、腰が……壊れた、痛ってーっ!」
◇◇◇◇
「じゃあ、ネオニューヨークに帰っても、本当に気をつけてね。向こうにはまだビューラーファミリーの残党がいるかも知れないし」
「分かっている。それにこうしてボディガードもいるのだ、心配せずともよい!」
単身者用官舎ビルの屋上で、肩にレジェンディオをとまらせたレックス=ナイトは、シドとハイファに向かって手を差し出した。二人と固く握手をする。
「世話になった! では、さらばだ!」
踵を返してナイト損保が迎えに寄越したBELに乗り込む。その頭にはクリーニングを終えたボルサリーノが載っていた。BELとともにやってきたボディガードの一人がスライドドアを閉めて二人に一礼し、それも乗り込むと屋上の風よけドームが開く。
「王の帰還か――」
蒼穹にBELが溶け込んでしまうまで見送って、風よけドームが閉じた屋上を二人はあとにする。エレベーターに乗り込むと、ハイファは強風に乱れたシドの前髪をそっと撫でた。
「ちょっと淋しくなるかもね」
「静かになっていいさ。あのまま置いとくと、タマの神経がやられる」
「それは言えるかも。……ところで貴方は病院だからね」
「病院ならもう行ったじゃねぇか」
「治った訳じゃないでしょ、マルチェロ先生にブロック注射して貰っただけなんだから」
緊急機が辿り着く直前に、間一髪でシドとハイファにレックスは別室が差し回した軍用BELに拾われた。そのまま郊外の軍施設に運ばれ、身動きの取れないシドは別室専属医務室でサド医者に喜色満面で注射針を刺されたのだった。
「でも署の様子くらいは見てこねぇと」
「顔を出すと却って拙いんじゃないかな?」
「結局、機捜は現着しちまったんだ。どうせ現場に俺たちがいたことはバレてる」
フレシェット弾をバラ撒いた以上、言い訳は利かない。九ミリパラと四十五口径もライフルマークが登録されているので、これも調べられれば同じことだった。
「うーん……でも何て言い訳するの?」
「行ってから考えるさ」
またポーカーフェイスでするすると大嘘をこくのだろう。
「じゃあ、付き合ってあげるけど、帰りはそのままセントラル・リドリー病院だからね」
「……」
返事をしない愛し人を宥めすかして三十九階でエレベーターを降り、スカイチューブを使わせて七分署に移動した。
一階の機捜課のデカ部屋では、ヴィンティス課長が多機能デスクにへたり込んでいた。管内で点々と五人の半死体が発見された挙げ句、コンスタンスホテルでガチンコの銃撃戦、オマケに爆破で死傷者多数の一報を聞いた途端にダウンしたらしい。
何も訊かれないのは有難いと、少々の罪悪感を抱きつつもハイファが思っていると、傍にやってきた人影が左隣のシドのデスクに叩きつけるように片手を置いた。
「おい、イヴェントストライカ。ちょっと顔を貸せ」
対衝撃ジャケットを脱ぎ、デスクに着いたシドを、主任のゴーダ警部が鬼瓦のような厳つい顔で見下ろしている。剣呑な雰囲気に主任のバディであるナカムラがおろおろしていた。シドは襟首を掴まれるようにしてロッカールームに連れ込まれる。勿論ハイファも同行した。
口を開こうとしたハイファを、ゴーダ主任とシドの両者が目で牽制する。
その上で主任がシドを見据えて口火を切った。
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