上 下
43 / 47

第43話

しおりを挟む
 何とか体勢を立て直して眼下を眺めると、コンスタンスホテルは四角かった角が丸みを帯び、あちこちから黒煙をたなびかせていた。

「わははは、何もかもが消し飛んだな!」
「笑い事じゃないよ、レックス。一般宿泊者にも被害が及んでるかも」

 それにこの場は別室が全てを収める手筈だったのだ。調別員も手中に置く筈が、レックスの言う通り計画の何もかもが消し飛んでしまった。こんな派手な案件を幾ら別室とはいえ押さえ込めるものなのだろうかとハイファは暫し悩む。シドの言う通り、状況説明と実況見分は免れそうにない。

 まずはレックスがハイファの自室から勝手に持ち出した銃をこっそり預かる。これは以前に法務局に登録してあるので、自分かシドが撃った事にしておけば問題ない。

 そうだ、シドだと気がついて、見ればシドは機体が揺れて床に倒れたときのままの姿勢で伸びている。慌てて傍にしゃがんで肩を揺さぶった。

「シド、シドっ! どうしたの、大丈夫?」
「うっ……揺らすな、ハイファ。こ、腰が……壊れた、痛ってーっ!」

◇◇◇◇

「じゃあ、ネオニューヨークに帰っても、本当に気をつけてね。向こうにはまだビューラーファミリーの残党がいるかも知れないし」
「分かっている。それにこうしてボディガードもいるのだ、心配せずともよい!」

 単身者用官舎ビルの屋上で、肩にレジェンディオをとまらせたレックス=ナイトは、シドとハイファに向かって手を差し出した。二人と固く握手をする。

「世話になった! では、さらばだ!」

 踵を返してナイト損保が迎えに寄越したBELに乗り込む。その頭にはクリーニングを終えたボルサリーノが載っていた。BELとともにやってきたボディガードの一人がスライドドアを閉めて二人に一礼し、それも乗り込むと屋上の風よけドームが開く。

レックスの帰還か――」

 蒼穹にBELが溶け込んでしまうまで見送って、風よけドームが閉じた屋上を二人はあとにする。エレベーターに乗り込むと、ハイファは強風に乱れたシドの前髪をそっと撫でた。

「ちょっと淋しくなるかもね」
「静かになっていいさ。あのまま置いとくと、タマの神経がやられる」
「それは言えるかも。……ところで貴方は病院だからね」
「病院ならもう行ったじゃねぇか」
「治った訳じゃないでしょ、マルチェロ先生にブロック注射して貰っただけなんだから」

 緊急機が辿り着く直前に、間一髪でシドとハイファにレックスは別室が差し回した軍用BELに拾われた。そのまま郊外の軍施設に運ばれ、身動きの取れないシドは別室専属医務室でサド医者に喜色満面で注射針を刺されたのだった。

「でも署の様子くらいは見てこねぇと」
「顔を出すと却って拙いんじゃないかな?」
「結局、機捜は現着しちまったんだ。どうせ現場に俺たちがいたことはバレてる」

 フレシェット弾をバラ撒いた以上、言い訳は利かない。九ミリパラと四十五口径もライフルマークが登録されているので、これも調べられれば同じことだった。

「うーん……でも何て言い訳するの?」
「行ってから考えるさ」

 またポーカーフェイスでするすると大嘘をこくのだろう。

「じゃあ、付き合ってあげるけど、帰りはそのままセントラル・リドリー病院だからね」
「……」

 返事をしない愛し人を宥めすかして三十九階でエレベーターを降り、スカイチューブを使わせて七分署に移動した。

 一階の機捜課のデカ部屋では、ヴィンティス課長が多機能デスクにへたり込んでいた。管内で点々と五人の半死体が発見された挙げ句、コンスタンスホテルでガチンコの銃撃戦、オマケに爆破で死傷者多数の一報を聞いた途端にダウンしたらしい。

 何も訊かれないのは有難いと、少々の罪悪感を抱きつつもハイファが思っていると、傍にやってきた人影が左隣のシドのデスクに叩きつけるように片手を置いた。

「おい、イヴェントストライカ。ちょっと顔を貸せ」

 対衝撃ジャケットを脱ぎ、デスクに着いたシドを、主任のゴーダ警部が鬼瓦のような厳つい顔で見下ろしている。剣呑な雰囲気に主任のバディであるナカムラがおろおろしていた。シドは襟首を掴まれるようにしてロッカールームに連れ込まれる。勿論ハイファも同行した。

 口を開こうとしたハイファを、ゴーダ主任とシドの両者が目で牽制する。
 その上で主任がシドを見据えて口火を切った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

コラテラルダメージ~楽園11~

志賀雅基
SF
◆感情付加/不可/負荷/犠牲無き最適解が欲しいか/我は鏡ぞ/貴様が作った◆ 惑星警察刑事×テラ連邦軍別室員シリーズPart10[全36話] 双子惑星の片方に小惑星が衝突し死の星になった。だが本当はもうひとつの惑星にその災厄は訪れる筈だった。命運を分けたのは『巨大テラ連邦の利』を追求した特殊戦略コンピュータ・SSCⅡテンダネスの最適解。家族をコンピュータの言いなりに殺されたと知った男は復讐心を抱き、テラに挑む。――途方もない数の犠牲者が出ると知りながら。 ▼▼▼ 【シリーズ中、何処からでもどうぞ】 【全性別対応/BL特有シーンはストーリーに支障なく回避可能です】 【Nolaノベル・小説家になろう・ノベルアップ+・ステキブンゲイにR無指定版/エブリスタにR15版を掲載】

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

眺める星は違っても~楽園28~

志賀雅基
キャラ文芸
◆テロはインパクトある主張だが/名も無き礎となる勇気を持たぬ者の愚行◆ 惑星警察刑事×テラ連邦軍別室員シリーズPart28[全47話] 刑事のシドとハイファに今回別室から降ってきた命令は、他星系のテロリストグループの資金源を断ち、今後のテロを阻止せよ、なる内容だった。現地で潜入を果たすも下っ端は汚部屋掃除や爆破テロ阻止の為に逮捕されたりとロクでもなく、更にテログループは分裂して内ゲバに発展し……。 ▼▼▼ 【シリーズ中、何処からでもどうぞ】 【全性別対応/BL特有シーンはストーリーに支障なく回避可能です】 【Nolaノベル・小説家になろう・ノベルアップ+にR無指定版/エブリスタにR15版を掲載】

セイレーン~楽園27~

志賀雅基
キャラ文芸
◆貴方は彼女を忘れるだけでいいから//そう、か//次は後ろから撃つから◆ 惑星警察刑事×テラ連邦軍別室員シリーズPart27[全43話] 怪しい男らと銃撃戦をしたシドとハイファは駆け付けた同僚らと共に巨大水槽の中の海洋性人種、つまり人魚を見た。だが現場は軍に押さえられ惑星警察は案件を取り上げられる。そこでシドとハイファに降りた別室命令は他星系での人魚の横流し阻止。現地に飛んだ二人だがシドは偶然管理されていない自由な人魚と出会ってしまい――。 ▼▼▼ 【シリーズ中、何処からでもどうぞ】 【全性別対応/BL特有シーンはストーリーに支障なく回避可能です】 【Nolaノベル・小説家になろう・ノベルアップ+にR無指定版/エブリスタにR15版を掲載】

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

処理中です...