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第29話
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三人は客室のシートに戻ると三者三様に過ごした。レックスは窓外の星々を眺め、ハイファはホロTVで旧いシネマのリメイク版を鑑賞し、シドは毛布を被って不貞寝である。
二回のワープも順調にこなし、到着十五分前になるとシドも起き出した。
艦内に流れる電波を拾い、テラ標準時と並べてアルケー星系第三惑星ディーネの星系首都タンタール時間をリモータに表示する。ディーネは自転周期が二十六時間十五分三十七秒だ。
一方のハイファは苛立ちの募る愛し人には当たらず障らずで、リモータ操作をレックスにレクチャしている。
まもなく艦内アナウンスが到着を告げた。
人々の列に混じって三人もエアロックを抜けると、外は涼しい風がゆったりと吹いていた。
「タンタール時間、十八時三十五分。夕方みたいだね」
「これが他星か。しかしどうも地球と変わらんな!」
「そりゃあテラ人が住めるようにテラフォーミングされたんだから」
「いいから後ろ、つかえてるぞ」
機嫌の悪い依存症患者にせっつかれ、ハイファは肩を竦めてレックスを促しリムジンコイルに乗り込んだ。連れて行かれた宙港ビルは一棟だけだったが、三十階建てはあろうかという、勿論新しく立派なものだった。
臭気探知機やX‐RAYなどの機器の森である通関をクリアすると、シドは先頭切って歩き出す。真っ先に向かったのは、勿論ロビーフロア隅の喫煙ルームだ。
「それにしたって羽振りが良くねぇか?」
喫煙ルームの窓から外を見てシドが言った。窓外には小規模ながら都市と呼ぶにふさわしい建物群が広がっていたのである。殆どがせいぜい二十階前後の建物だが、それらの中心地には超高層ビルが五本ばかり生えだしてスカイチューブで繋がれている。
「羽振りがいい訳でもないと思うよ。昔々の植民星じゃないんだから、溢れんばかりのフロンティアスピリットなんか要らないようになってるだけで」
「そうでなきゃ誰も入植しねぇって?」
「だよ。今どき荒野に石の小屋を建てて住みたがる人なんていないもん。ある程度の高度文明圏の形を作ってから、『さあどうぞ』って入植させるんだよ」
「じゃあ、資源が枯渇してもそうは困らねぇんだな?」
「それも違うんじゃない? あれ見て――」
と、宙港面側の窓を指す。そこには整然と何隻も並んだ貨物艦から、リフトコイルがコンテナを降ろしているのが見えた。
「あれの中身をこの星はどうやって買うのサ?」
「あ、そうか。食料に医薬品、その他生活物資と資源は交換なんだよな」
「別室資料によると、ここの食糧自給率は十パーセントを割ってるんだってサ」
「星系政府はどうしてんだ?」
「それはまだ立ち上がってないね。テラ連邦議会の植民地委員会と、入植者の代表による統治委員会の共同政策で運営してる。だからこそテラはさっさと最終結論を出したいってこと」
「積み重なる赤字を背負って、財源は税金か。くそう」
「で、そろそろいい?」
三本を立て続けに灰にして煙を脳ミソにフルロードしたシドは頷き、三人は喫煙ルームを出ると、まずはロビーに何台も並んだインフォメーション端末に向かった。
端末から地図をダウンロードすると、次は今夜の宿探しである。既に恒星アルケーは都市の向こうに姿を隠しかけていた。
「どうする、この宙港ビルにもホテルはあるみたいだけど」
「それでは面白くない、外に出るのだ! 他星まできて愉しまずしてどうする!」
「分かったから、耳許で騒ぐなって。仕方ねぇな、出ようぜ」
オートスロープで一階に降りると、エントランス前の広い広いロータリーには無人コイルタクシーが三台だけ駐まっていた。
「宙港の規模にしてはシケてんな」
「ここらが困窮の影響かもね」
緑の瞳を輝かせているレックスを前に乗せ、シドとハイファは後部座席に収まった。
「じゃあ、都市を一巡りしてからホテルのコースでいい?」
同意を得てハイファがモニタにペン型デバイスで座標を入力する。発進したコイル内からはすぐに異状を察知することができた。
「おい、もう日が暮れたのにスカイチューブに衝突防止灯が点いてねぇぞ」
「ってゆうか、ビルの明かりも殆ど点いてないね」
「幾ら困窮してても電力くらいは発電衛星から取り放題だろうが」
「使えば機器だって損耗するからね、思ったよりも状況は悪いのかも知れないよ」
なまじ都市の体を成しているだけに、明かりの点いていないビルが半数以上を占める街は淋しいものがあった。街を一巡りしてみたが、全ての建物に明かりがない通りもあり、こうなると淋しいというより不気味ですらあった。まるでゴーストタウンだ。
「ああ、そっか。これは本当に人が住んでいないんだよ」
「節電じゃねぇってか?」
「そう。アルケー星系に第一次入植したのは総数で約二万世帯だもん。三分の一がディーネに住んでても、たったの六千七百世帯だからね」
「一世帯四人でも二万七千人か。確かに星一個にしちゃ淋しいかもな。でもそんなのでまともなホテルなんかあるのかよ?」
「それは大丈夫、我らが第三者委員会の有識者たちが泊まったホテルがあるよ」
二回のワープも順調にこなし、到着十五分前になるとシドも起き出した。
艦内に流れる電波を拾い、テラ標準時と並べてアルケー星系第三惑星ディーネの星系首都タンタール時間をリモータに表示する。ディーネは自転周期が二十六時間十五分三十七秒だ。
一方のハイファは苛立ちの募る愛し人には当たらず障らずで、リモータ操作をレックスにレクチャしている。
まもなく艦内アナウンスが到着を告げた。
人々の列に混じって三人もエアロックを抜けると、外は涼しい風がゆったりと吹いていた。
「タンタール時間、十八時三十五分。夕方みたいだね」
「これが他星か。しかしどうも地球と変わらんな!」
「そりゃあテラ人が住めるようにテラフォーミングされたんだから」
「いいから後ろ、つかえてるぞ」
機嫌の悪い依存症患者にせっつかれ、ハイファは肩を竦めてレックスを促しリムジンコイルに乗り込んだ。連れて行かれた宙港ビルは一棟だけだったが、三十階建てはあろうかという、勿論新しく立派なものだった。
臭気探知機やX‐RAYなどの機器の森である通関をクリアすると、シドは先頭切って歩き出す。真っ先に向かったのは、勿論ロビーフロア隅の喫煙ルームだ。
「それにしたって羽振りが良くねぇか?」
喫煙ルームの窓から外を見てシドが言った。窓外には小規模ながら都市と呼ぶにふさわしい建物群が広がっていたのである。殆どがせいぜい二十階前後の建物だが、それらの中心地には超高層ビルが五本ばかり生えだしてスカイチューブで繋がれている。
「羽振りがいい訳でもないと思うよ。昔々の植民星じゃないんだから、溢れんばかりのフロンティアスピリットなんか要らないようになってるだけで」
「そうでなきゃ誰も入植しねぇって?」
「だよ。今どき荒野に石の小屋を建てて住みたがる人なんていないもん。ある程度の高度文明圏の形を作ってから、『さあどうぞ』って入植させるんだよ」
「じゃあ、資源が枯渇してもそうは困らねぇんだな?」
「それも違うんじゃない? あれ見て――」
と、宙港面側の窓を指す。そこには整然と何隻も並んだ貨物艦から、リフトコイルがコンテナを降ろしているのが見えた。
「あれの中身をこの星はどうやって買うのサ?」
「あ、そうか。食料に医薬品、その他生活物資と資源は交換なんだよな」
「別室資料によると、ここの食糧自給率は十パーセントを割ってるんだってサ」
「星系政府はどうしてんだ?」
「それはまだ立ち上がってないね。テラ連邦議会の植民地委員会と、入植者の代表による統治委員会の共同政策で運営してる。だからこそテラはさっさと最終結論を出したいってこと」
「積み重なる赤字を背負って、財源は税金か。くそう」
「で、そろそろいい?」
三本を立て続けに灰にして煙を脳ミソにフルロードしたシドは頷き、三人は喫煙ルームを出ると、まずはロビーに何台も並んだインフォメーション端末に向かった。
端末から地図をダウンロードすると、次は今夜の宿探しである。既に恒星アルケーは都市の向こうに姿を隠しかけていた。
「どうする、この宙港ビルにもホテルはあるみたいだけど」
「それでは面白くない、外に出るのだ! 他星まできて愉しまずしてどうする!」
「分かったから、耳許で騒ぐなって。仕方ねぇな、出ようぜ」
オートスロープで一階に降りると、エントランス前の広い広いロータリーには無人コイルタクシーが三台だけ駐まっていた。
「宙港の規模にしてはシケてんな」
「ここらが困窮の影響かもね」
緑の瞳を輝かせているレックスを前に乗せ、シドとハイファは後部座席に収まった。
「じゃあ、都市を一巡りしてからホテルのコースでいい?」
同意を得てハイファがモニタにペン型デバイスで座標を入力する。発進したコイル内からはすぐに異状を察知することができた。
「おい、もう日が暮れたのにスカイチューブに衝突防止灯が点いてねぇぞ」
「ってゆうか、ビルの明かりも殆ど点いてないね」
「幾ら困窮してても電力くらいは発電衛星から取り放題だろうが」
「使えば機器だって損耗するからね、思ったよりも状況は悪いのかも知れないよ」
なまじ都市の体を成しているだけに、明かりの点いていないビルが半数以上を占める街は淋しいものがあった。街を一巡りしてみたが、全ての建物に明かりがない通りもあり、こうなると淋しいというより不気味ですらあった。まるでゴーストタウンだ。
「ああ、そっか。これは本当に人が住んでいないんだよ」
「節電じゃねぇってか?」
「そう。アルケー星系に第一次入植したのは総数で約二万世帯だもん。三分の一がディーネに住んでても、たったの六千七百世帯だからね」
「一世帯四人でも二万七千人か。確かに星一個にしちゃ淋しいかもな。でもそんなのでまともなホテルなんかあるのかよ?」
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