Golden Drop~Barter.21~

志賀雅基

文字の大きさ
上 下
55 / 62

第55話

しおりを挟む
「何発だ?」
「二十九掛ける二、十五掛ける二、本体が十六で合計百四。あとポケットに四十」
「私も一緒で百四十四だ。どのくらいだ?」

「二百いたとして、ブレガー襲撃で三十は殺られたんじゃないですかね?」
「二百八十八発もあれば何とかいけそうだな」
「なるべくヘッドショット狙いで殺れば充分ですよ」

 そう言って力強く笑んだ京哉の細い腰を抱き寄せ霧島は荒々しく口づける。歯列を割って入り込んできた霧島に京哉は好きなだけ舌を、唾液を与えた。
 ふっと離れると改めてソフトキス、灰色の目が澄んだ黒い瞳を覗き込む。

「本当にいいんだな?」
「勿論ですよ。忍さんが行くなら僕も行きます」
「ならば出るぞ」
「はい」

 部屋を出て階段を下り、バーに出て行くとマスターが驚いて二人を見た。

「お客さん、だめです、危ないですよ」
「俯いて歩かなければならない理由など、何処にもないからな」
「お世話になりました。でも荷物とコートだけ暫く置かせて下さい」

 一旦カードでマスターに宿泊料を支払う。

 そこで驚いたのはテーブル席でビールを飲んでいたマイルズとネッドも同様だ。幽霊でも見たように怯えた目をしている。

「あんたら、生きて……」
「あのときはチクって悪かった――」

 二人の髪結いの亭主を一瞥して霧島は言った。

「もう何とも思っていないから安心しろ」
「で、あんたらはまさか……?」
「ああ、ちょっとレアードの屋敷まで行ってくる」

 制止する声を背に二人はスイングドアを揺らして表に出た。右に進路を取る。

「わあ、早春のいい陽気ですね」
「そうだな、茶畑の緑が濃くて綺麗だな」

 心配していた霧島の足取りもしっかりしていて、京哉は安堵し寄り添って歩いた。

 ゆっくりと大通りを三十分も歩くと右側に保安官事務所が見えてくる。椅子に腰掛けて腕組みし外を睨みつけていた老シェリフは窓越しに二人に気付くと目を剥いた。

 ひらひらと京哉が手を振って挨拶する。

「京哉、そろそろだぞ」
「分かっています」

 ここから二百メートルも行けば最初の目的地レアードの事務所だ。何人いるかも分からず内部構造も不明。圧倒的に不利なのは承知していたが京哉は不思議なほど怖くはなかった。

 これ以上なく信頼して背を預けられるバディに微笑んでみせる。

 辿り着いたレアードの事務所では張り番をしていたチンピラが二人、霧島と京哉の顔を見て慌ててドアを開け、中に飛び込んだ。壁も薄い事務所内でガチャガチャと音がする。

「ここは何人くらいだろうな?」
「さあ。でもなるべくここで戦力を削いでおきたいですよね」
「確かにな。では、邪魔するぞ……っと」

 ドアの上下の蝶番に霧島がシグで二射ずつぶち込む。外れかけた合板のドアを蹴り飛ばし、右肩をぶつけるように室内に躍り込んだ。

 室内は真ん中にデスクの地平、奥に応接セット。左右に二階への湾曲した階段があり、二階の廊下がバルコニーのように一階の天井に張り出している。
 それだけを瞬時に見取って霧島、まず目に付いた男五人が銃を抜き出す寸前に速射で九ミリパラを放った。二秒と掛からぬ五連射で五人の男が吹っ飛ぶ。

 霧島と背中合わせに立った京哉も、右の階段を駆け下りてきた一団に九ミリパラを叩き込んでいた。速射で五人、六人とオールヘッドショット。一団は手にしたサブマシンガンを発射することなく棒きれの如く斃れた。

 一挙動で十人以上を叩き伏せた二人はデスクの陰に身を投げ出しつつ、霧島は一階デスク周辺の二人、京哉は二階バルコニーから狙ってきた二人を撃ち倒す。
 デスクの陰から霧島は膝撃ち、銃を向けてきた応接セットの男たちに銃弾を見舞った。一瞬で事務所内を血に染められ、男たちは銃を構えながらも腰が引けたらしい。

 だがここにきて二階からの反撃が始まった。デスクのふちが銃弾で削られる。黒髪の頭を僅かに出して京哉が撃つ。三射、四射。バルコニーからヘッドショットを食らった男がデスクにドサリと落ちた。その間に霧島がサブマシンガンを拾う――。

 シェリフ・パイク=ノーマンがレアードの事務所に飛び込んだ時、既にやるべきことは残っていなかった。向けられた銃口に霧島と京哉はゆっくりと両手を挙げる。

「撃たないでくれ、シェリフ」
「その節はお世話になりました」
「なんじゃ、あんたたちか。にしてもこれは……」

 シェリフは手にショットガンのベネリM3、腰にはリボルバ、たすきがけに散弾の弾帯という勇ましい姿だった。その姿で事務所内を見渡しシェリフは絶句している。

 そこには三十人以上の男たちが斃れていたのだった。動く者はいない。

「シェリフ。このくらいで腰が引けるなら参加申請は却下するからな」
「何を、この青二才が。減らず口はレアードを叩き潰してからにせい!」
「わあ、シェリフかっこいい~っ!」
「あ、いや、そうかの」

 息子ほども歳の違う京哉に抱きつかれ、シェリフは白髪頭を掻きながら酒焼けした顔を赤らめて照れた。
 バディの必殺技・男転ばしを霧島は横目で眺めながら外に出る。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

エイリアンコップ~楽園14~

志賀雅基
SF
◆……ナメクジの犯人(ホシ)はナメクジなんだろうなあ。◆ 惑星警察刑事×テラ連邦軍別室員シリーズPart14[全51話] 七分署機捜課にあらゆる意味で驚異の新人がきて教育係に任命されたシドは四苦八苦。一方バディのハイファは涼しい他人顔。プライヴェートでは飼い猫タマが散歩中に出くわした半死体から出てきたネバネバ生物を食べてしまう。そして翌朝、人語を喋り始めた。タマに憑依した巨大ナメクジは自分を異星の刑事と主張、ホシを追って来たので捕縛に手を貸せと言う。 ▼▼▼ 【シリーズ中、何処からでもどうぞ】 【全性別対応/BL特有シーンはストーリーに支障なく回避可能です】 【Nolaノベル・小説家になろう・ノベルアップ+にR無指定版/エブリスタにR15版を掲載】

織りなす楓の錦のままに

秋濃美月
キャラ文芸
※鳴田るなさんの”身分違いの二人企画”に参加しています。 期間中に連載終了させたいです。させます。 幕藩体制が倒れなかった異世界”豊葦原”の”灯京都”に住む女子高生福田萌子は 奴隷市場に、”女中”の奴隷を買いに行く。 だが、そこで脱走した外国人の男奴隷サラームの巻き起こしたトラブルに巻き込まれ 行きがかり上、彼を買ってしまう。 サラームは色々ワケアリのようで……?

やんごとなき依頼人~Barter.20~

志賀雅基
キャラ文芸
◆この航路を往かねばならぬ/準備万端整えたなら/荒れてもスリル日和だろう◆ キャリア機捜隊長×年下刑事バディPart20[全53話] 釣りを愉しむ機捜隊長・霧島と部下の京哉。電波の届かない洋上で連休を愉しんでいた。だが一旦帰港し再びクルーザーで海に出ると船内で男が勝手に飲み食いし寝ていた。その正体は中央アジアで富む小国の皇太子。窮屈なスケジュールに飽き、警視庁のSPたちをまいて僅かなカネで辿り着いたという。彼の意向で二人がSPに任命された。 ▼▼▼ 【シリーズ中、何処からでもどうぞ】 【BL特有シーンはストーリーに支障なく回避可能な仕様です】 【Nolaノベル・小説家になろう・ステキブンゲイにR無指定版/エブリスタにR15版を掲載】

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

切り替えスイッチ~割り箸男2~

志賀雅基
キャラ文芸
◆俺の回路は短絡し/想う権利を行使した/ざけんな動け!/護りたくば動け!◆ 『欲張りな割り箸男の食らった罰は』Part2。 県警本部の第三SIT要員として、ようやくバディを組めて平穏な生活を獲得した二人に特命が下る。海に浮いた複数の密入国者、これも密輸される大量の銃に弾薬。それらの組織犯罪の全容を暴くため、二人は暴力団に潜入するが……。 ▼▼▼ 【シリーズ中、何処からでもどうぞ】 【全性別対応/BL特有シーンはストーリーに支障なく回避可能です】 【Nolaノベル・ムーンライトノベルズ・エブリスタ・ノベルアップ+に掲載】

僕の四角い円~Barter.17~

志賀雅基
キャラ文芸
◆神サマを持つと人は怖い/神の為なら誰にも/神にも折れることを許されないから◆ キャリア機捜隊長×年下刑事バディシリーズPart17[全48話] 高級ホテルの裏通りで45口径弾を七発も食らった死体が発見される。別件では九ミリパラベラムを食らった死体が二体同時に見つかった。九パラの現場に臨場した機捜隊長・霧島と部下の京哉は捜索中に妙に立派ながら覚えのない神社に行き当たる。敷地内を巡って剣舞を舞う巫女と出会ったが、その巫女は驚くほど京哉とそっくりで……。 ▼▼▼ 【シリーズ中、何処からでもどうぞ】 【BL特有シーンはストーリーに支障なく回避可能です】 【Nolaノベル・小説家になろう・ノベルアップ+・ステキブンゲイにR無指定版/エブリスタにR15版を掲載】

処理中です...