Black Mail[脅迫状]~Barter.23~

志賀雅基

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第19話 画像解説付属

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「じゃあ、まずはホテル探しですね」
「面倒だ、タクシーの運転手に訊こう。携帯も手に入れる必要があるしな」

 そこにワゴンを押したウェイターがやってきて二人の顔を見比べた。

「ああ、それはあっちだ」

 目前に置かれたフルーツパフェを雅人はまじまじ見て、それから霧島に目を移す。

「これって……?」
「私たちからの差し入れだ。しっかりカロリーを摂って元気を出せ」
「すみません、ありがとう。気を使わせちゃってごめんなさい」
「甘い物は大丈夫か?」
「はい、好きです。じゃあ遠慮なく頂きます」

 雅人が柄の長いスプーンを手にするのを見て安堵し、霧島と京哉は煙草もう一本分だけ一人飯の少年に付き合った。黙って見守りガラスの器が空になるのを見届ける。

 ファミリーレストランから出たのは雅人と一緒だった。だが直通エレベーターで一気に一階まで降りると、雅人はホテルでも予約してあるのか霧島と京哉に礼を言い、また謝ってからロビーフロアの人混みの中に紛れ込んで姿を消してしまった。

「放っておいていいんでしょうか、あの調子と顔色で」

 自分たちも人混みを泳いでエントランスに向かいながら霧島が混ぜ返す。

「他人に興味を持たないお前にしては珍しいな」
「幾ら何でも気になりますよ。大体、僕をどんな人非人だと思ってるんですか」
「お前の血は緑色ではないのか?」

「へえ、そこまで仰いますか。初めての時、半ば無理矢理やらかしたクセに僕の血の色を覚えていないとでも?」
「うっ……途中からは合意の上だった筈だぞ。それに誠心誠意看病してだな――」

 今更ながら焦る年上の愛しい男を京哉は見上げ、このネタは一生使えそうだなあ、などと内心ニヤニヤした。やはり結構な人非人かも知れない。

 ロータリーとなった外に出るとやや涼しい風が吹いていた。だが朝七時という時間にしては、かなり日差しが強い。地面の石畳の照り返しに二人して目を眇める。

「これでも岩砂漠の地域に比べたら相当気温も低くて避暑地ってことらしいですよ」
「朝からこれで避暑地とは、昼間が思いやられるな」
「貴方はカロリーの燃焼が速いですからね。食べたばかりで余計に暑いんでしょう」
「燃費が悪くて悪かったな。だが人間いかなる時も食える奴が一番強いのだぞ?」

「はいはい。お互いサツカンなんてやってるんですから、胃腸の頑丈さは折り紙付きですよね。でも貴方ってば、ご飯がないと本気で心身ともに稼働しないんですもん」
「腹が減っては戦が、と言うだろうが」

「そんなに戦いたければ、さっさと貴方一人でナルコム社かマクミランファミリーにカチコミでも行ってきたらどうです? 国外任務のお約束通り、予定調和的な面倒に巻き込まれる前に」
「そう言うお前こそホテルまで自前の足で走りたければ構わんぞ?」

 馬鹿話をしながら客待ちのタクシーの列に近づいた。先頭の白い一台が後部ドアを開けてくれる。乗り込んで霧島がドライバーと英語で話した。タクシーが走り出す。
 何気なく霧島が背後を振り返ると数棟並んだ空港のビルはまだ新しかった。
 霧島の言いたいことを先取りして京哉が解説する。

「最初はエーサの街なかに空港があったんですって。でも戦災で全壊して今度は都市と一緒に木っ端微塵にならないように、この郊外に造り直したと資料にありました」
「殆ど一般人に被害が出ないと誰かが言っていた気がするんだがな」
「今は、ですよ。内戦勃発初期の何処もが血気逸ってた時期は酷かったらしいです」

「根拠のある話なのだろうな、それは」
「知りませんよ、僕だって資料を読んだだけですもん。でも市街戦だのドローンで爆弾の落とし合いだのをやってるようには見えませんしね」
「確かにな。しかし人の代わりに機械ドローンが人を殺す、か……」


 エーサの街までは一本道で周囲は郊外一軒型の店舗やマンションなどが建ち並んでいる。まだクローズ中の家電屋の看板などを眺めていると前方に都市のビル群が見えてきた。そのまま十分も経つと、いつの間にかタクシーは都市を走っている。

 片側四車線の大通りは交通量も多く、渋滞一歩手前といった風なのは通勤ラッシュなのかも知れない。その大通り沿いの店舗が殆ど開いているのを見て霧島が一旦タクシーのドライバーに声を掛けて止めさせた。そこは携帯電話のショップの前だった。

 入店すると安物機種の携帯を二台手に入れて、最低限必要なデータのみをクラウドから落とす。自前の携帯は大事にバッグの底に収めた。これでもちゃんと日本に持ち帰れる保証はない。自分たちですらバッグごと無事帰れるかどうか分からないのだ。

 とっとと要件を済ませて本部長から預かってきたカードでカネを払うと外に出る。そこで改めてエーサの都市を眺め渡した。ぐるりと見上げて霧島が感想を述べる。

「ふむ。大した都市だが、高層建築は少ないようだな」
「そうですね、せいぜい十階建てくらいかな」

 それでもビルはビッシリと建っていて、下層階には携帯ショップのように洩れなく店舗などのテナントが入っている。二、三階にバルコニーのあるビルが多かった。

 何のコマーシャルかそれともアートの類なのか分からないが、幾棟かのビルの外壁に巨大な魚が泳いでいる写実的な絵が描かれている。身を揺らめかせる魚はどれも白銀の鱗を持った古代魚っぽい熱帯魚で、霧島はそれを確かアロワナという名だと記憶していた。

 歩道を歩く人々は少なくない。彼らの身なりを見ると内戦中でも困窮していないことが知れた。というより本当に内戦をしているのか疑いたくなる普通の通勤風景だ。
 そこまで眺めてから再びタクシーに乗り込んだ。一旦料金は支払って降りたが余所からの客が買い物の後にまた利用するのを見越してか、他に客もいなかったらしいタクシーは大通りの路肩に寄せて停まったまま、二人を待ち構えていたようである。

 またも霧島が英語でやり取りするとタクシーは走り出した。エーサの中心地だろうか、時折ビルの谷間から高層ビルが数本生えて出しているのが遠くに見え隠れし、それを目で追っているうちにタクシーは路肩に寄って停止する。霧島がカードで料金精算し、二人はタクシーを降りた。辺りを見回す京哉に霧島が微笑む。

「このワンブロック先にホテルがあるらしい」

 何故ホテルの前まで乗りつけなかったのかと京哉が不審に思っていると、霧島は行く先を指差してからさりげなく京哉の左手を握った。途端に京哉は嬉しくなり日差しより眩い思いで灰色の目を見上げる。手を繋いだまま殊更ゆっくりと二人は歩いた。
 やがてホテルに着く。洒落た銀の飾り文字で『Myrtle Hotel』と掲げられていた。

「何て読むんですか、これ?」
「マートルホテルだ」
「ふうん。でも我らが日本の警察はそんなに気前が良かったでしたっけ?」

「ドレスコードもないから大丈夫だ、問題ない。本部長も文句は言わん」
「それはそうでしょうけど、うーん」
「否応なく命を張らされているんだ、たまにはいいだろう。行くぞ」

 尤もこのエーサの都市内にここよりグレードの低いホテルがあるのかどうかも京哉には分からない。全く怖じる気配のない霧島に腕を取られて三段しかない石段を上り、お辞儀をするドアマンに会釈して自動ドアから中に入る。
 
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