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第11話

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 翌日、大型トラックに荷物と共に載せられた霧島と京哉は、揺られながら昼食にレーションと呼ばれる不味い携行糧食を摂らされ、いい加減に尻が痛くなった頃に降ろされた。

 降りてみるとそこもやはり黄色い砂礫の大地だった。結構、暑い。振り返ると黄色い岩山があり、切り立った崖を背後にして中隊は布陣していた。

 爆撃機といえば飛行機かと思えば見えるのはヘリコプターばかりだ。滑走路が要らないからだろうかと京哉は思う。それが二十機ほども並んでいた。

 その背後にはトラックやジープがこれも二十台ほど並び、更に後ろには割としっかりした、ここも小学校のような二階建ての建物が建っていた。この中に食堂や厨房に医務室の他、兵士が休める居室もあるらしい。

 他には偵察歩兵用らしいテントが張られていた。高射砲らしきものもあり、大規模なベースキャンプというより、これだけで小型の駐屯地といった威容でそれは広がっている。それらをじっと眺めたのち、京哉は傍に立った霧島に訊いた。

「で、また申告ですよね?」
「ああ。中隊長に申告なんだが、何処にいるのかが分からん」

 そこらを行き交う兵士たちを捕まえて訊き回ると、果たして中隊長のアイファンズ少佐は、エアコンが利いて涼しい建物内一階の指揮官室にいた。申告を終えて敬礼した二人は一仕事終えてホッとしたが、アイファンズ少佐は眉をひそめて二人を見つめている。

「その制服に着いた兵科章、キミたちは情報科じゃないのかね?」

 ボロが出ないよう英語ができない京哉は黙ったまま、涼しい鉄面皮で霧島が答えた。

「そうですが、それが何か?」
「ウチは爆撃中隊、航空科もしくは武器科の人間を欲しているのだが」
「何処かで手違いがあったのかも知れません」
「その手違いを手違いのままここまでくるとは、キミたちもなかなかに酔狂だな」
「恐れ入ります」

「褒めてない。ここに至る過程でどうにかするべきだったと言っているのだ」
「ですが申告した現在、私たちは既にアイファンズ少佐の部下です。部下が酔狂に過ぎて失敗した日には、アイファンズ少佐の責任いかんも問われることになりますが」
「屁理屈のような気もするが、わたしの顔に泥を塗るような真似だけは慎んでくれ」
「承知しております。アイファンズ少佐には枕を高くして眠って頂けるかと」

 何の根拠もない安請け合いだが、中隊長はもう二人に関わりたくなさそうだった。

「ふむ、宜しい。キミたちの乗る爆撃ヘリに案内させよう」
「って、なのにヘリに乗せる気なんですか? 本気ですか、おじさん……むぐぐ」

 鉄面皮のまま、霧島は目茶苦茶な片言英語を吐く京哉の失礼な口を塞いだ。アイファンズ少佐はじろりと二人の酔狂な部下を見つめ、重々しく言った。

「だからウチが欲しいのは爆撃ヘリの乗り手だ。乗員の定数四名を割っているのが六機もある。そもそもは大隊で運用すべきが中隊になってしまったこの状況で、情報科だろうと機甲科だろうと構わん。目を開けていろ。指示を聞け。味方を撃つな。しっかり敵の頭上に爆弾を落としてこい。以上だ」

 しずしずと歩く幕僚につれられ霧島と京哉は建物から出た。つれてこられたのは一機の爆撃ヘリの前である。そこで寡黙な幕僚は回れ右して去って行った。

「わあ、本当にヘリコプター、HU1Bだ! これって旧西側の某大国で開発されて多数の国がライセンス生産した機種なんですよ。ただ、元になった機はすごく旧くてベトナム戦争で主に人員輸送、後期にはガンシップとしても活躍してたんです」
「ベトナム戦争だと? そんな古いブツが何故ここにあるんだ?」

「おそらく他国からライセンス生産品を安く仕入れたか、この国でコピー品を作ったかでしょうね。何れにせよこの機はオリジナルとはかなり違って爆撃用に魔改造されてるように見えますし、そんな骨董品には見えないし、大丈夫じゃないですかね」
「出たな、根拠のない安請け合いが。しかし爆撃に使うとなると大きいものだな」
「誰かいないんでしょうかね? もしもーし、こんにちはーっ!」

 黄色っぽい迷彩塗装の機体に一九一八なるナンバーの書かれたスライドドアをカンカンとノックすると、京哉より少し年上と年下に見える制服男が二人、顔を出した。
 両方共に下士官で年上の方はひょろりとした長身で茶色の髪を短くし、軍曹の階級章をつけていた。年下は小柄で赤みがかった金髪でこちらは伍長だ。

「着任されたパイロット殿と射手ガナー殿ですね?」

 出てきた二人の男が霧島と京哉に対して直立不動の姿勢を取る。相互に敬礼。

「オスカー=コンラッド軍曹、副操縦士、コ・パイロットであります」
「リッキー=マクレーン伍長、爆撃手であります」
「僕はキョウヤ=ナルミ中尉です」
「私はシノブ=キリシマ中尉だ」
「えっ、士官殿が二人ですか?」

 小隊長でもおかしくない士官が二人も配属され、オスカーとリッキーは戸惑った。

「チーム長、パイロットはどちらでしょうか?」

 オスカーの問いに霧島と京哉は口々に、

「僕がガナーです!」
「違う、私がガナーだ!」

 などと重たそうな役目を押しつけ合った。異国の言葉ながら二人の士官が必死に言い争うのをオスカートリッキーは眺め、胸に湧く不安を抑え込めず顔をこわばらせて見守る。更に不安が高まったのは次に霧島が取った行動故だった。

「では、アミダで決めることにしよう」

 砂礫を拾って霧島は地面に二本の線を引き、片方に『射手』と日本語で書いた。呆然と見つめるオスカーとリッキーに砂礫を握らせ、意味も教えず何本かの横線を引かせる。この時点でオスカーとリッキーは胃に変調を感じていた。

「京哉、先に選ばせてやる」
「なら、こっちです」
「私がこっちだな。こうきて、ほらみろ、私がガナーだぞ」
「あああ、そんなのずるい!」
「ずるくない。先に選んだのはお前だ、文句を言うな。お前がパイロットだ」

 その頃には霧島と京哉の兵科章が情報科だという事実にオスカーとリッキーも気付いていた。だが航空科その他から情報科に転身する人間もいる。ほんの僅か、爪の先ほどながら期待していた。

「ふむ、爆弾はここに装着するのか。腹が割れて蹴り落とすのかと思っていたが」

 という、滑らかな英語ながら不穏な霧島の呟きを聞くまでは。

 とうとう不安が頂点に達し破裂して血の気が引き青くなったオスカー=コンラッド先生により、サルでも分かる爆撃ヘリ講座が早速開始された。何も知らないうちに出撃命令で死にたくはない。

 大体、一週間前にも墜落して、たった三日間の短い付き合いだったパイロットとガナーをKIA、つまりキルド・イン・アクションという名誉の戦死をさせているのだ。またも目前で頭を割られるのは勘弁、自分の頭が割れるのはもっと勘弁である。
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