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第24話

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 結局二十時からの夕食に遅刻し、ミーア他メイドやジョルジュたちから心配されたが、シドとハイファの心配は互いの首筋の赤い痕がバレないかという一点だった。

 だがハイファは長い髪を留めずに流れるままにし、シドは急遽ドン・ライナルトのワードローブからハイファが探し当ててきた台襟の高いドゥエボットーニのドレスシャツに着替えて、何とか乗り切ることができた。

「ソフィーヤ姉様、さらさらの髪が素敵ね」
「ありがと、ミーア。ライナルト様はきちんとサラダもお食べになって」
「へいへい、お食べになりますよっと」

 デザートのクレームブリュレとコーヒーまで頂いてしまうと本日の予定は終了、と思ったら甘かった。執務を放り出したツケ、今頃になってアガサ森林開発株式会社の会長が持つ別荘でのパーティーに招待されていたことが判明したのである。

「ンなもん、怪我して欠席じゃなかったのかよ?」
「申し訳ありませんがアガサ森林開発は我がドラレスファミリーにとって大切な……有り体に申し上げますと集票マシンでございます。外すことはできないのです」
「ふうん。場所は何処だ?」
「この街中でございます。今ならまだ間に合うかと」

 そこまで言われては仕方ない。どうせ行っても飲んで話を聞いてりゃいいだろうとシドとハイファは急いで私室に戻り、ハイファによって探し出された服に着替えた。

「くそう、またこの格好かよ」

 タキシードを着せられたシドは、うんざり顔で腕をぶんぶん振り回した。

「それだって略装も略装なんだからね」

 執銃するためカマーバンドは巻かず、中に織り模様のあるシルバーグレイのベストを着てベルトを誤魔化したのだ。更にベストに合わせて蝶タイではなくこれもシルバーグレイのタイをウィンザーノットで締め、思い切り外してドレスシャツはブラックというコーディネートだ。

「ほら、これも巻いて」

 白絹のマフラーを首に掛けられながら、シドはハイファをじっと眺める。髪を結い上げられたハイファはオーキッドのカクテルドレスを着ていた。
 肩は剥き出しだがプニプニがバレると拙いのでワンショルダーになっている。割とタイトなデザインでドレスはAラインだ。その上から透けるショールを羽織っていて、なかなかにそそるものがあった。

 これも執銃はできないので苦肉の策、ガーターベルトで一キロを超える銃は保持できず、強引にショルダーバンドを大腿部に巻きつけテミスコピーを身に帯びていた。

 マフィアの秘密を知った以上、何処で狙われるか分からない身である。

 チャリンとベルが鳴りシドがリモータでロック解除すると、ジョルジュが中までは踏み込まずに深々と礼をし二人を見て僅かに目を細めた。

「これはこれは……では、宜しいでしょうか」

 廊下に二人で出てみるとそこにはミーアもいた。こちらも招待されたらしく、イエローのカクテルドレスを着てブルーのショールを羽織っている。その背後には既にレイバーン以下ダークスーツの護衛たちが十五名ほども立っていた。そのメンバーで屋上に上がる。

 今度は小型BEL二機に専属パイロットとコ・パイがスタンバイしていた。分かれて乗り込むと早々にテイクオフする。

 街の中だというアガサ森林開発の会長別荘まではたったの五分、上がったと思えばもうランディングだ。これもかなりの規模だと思われる屋敷の屋上には、既に二桁の豪華個人BELが駐機されている。何処もここもライトアップされ、目の底が痛いくらいだった。

「さて、行くか」

 まずダークスーツが降りて周囲の安全を確認したのちシドたちも降機する。エレベーターホールにはディレクターズスーツを着た初老の男が立っていてシドとハイファとミーアに対し恭しくお辞儀をした。

 全員はエレベーターに乗れず、先にダークスーツが半分降りたのちシドたちも一階へ。一階ではクロークの係員にリモータの招待状をチェックされる。そこでシドが囁いた。

「なあ、さすがに俺たちの顔はバレるんじゃねぇか?」
「さあ? でもジョルジュがああ言ったんだし、大丈夫なんじゃない?」
「たぶん平気よ。アガサ森林開発会長と兄様たちは会ったことはない筈だし、今回の招待客は殆どがアガサの仕事関係、兄様たちのことはポラでしか見たことはないと思うわ」
「ふうん、さすがにお嬢は詳しいな」

 上手く招待状チェックはクリア、早速廊下をメイド二人に案内されて、十八人の大所帯はパーティー会場の大ホールに放り込まれた。

 小編成ながらオーケストラが軽やかな音楽を奏で、招待客が疲れないようGフィールド発生装置で一Gを割る中、シドとハイファにミーアはダークスーツに囲まれながら壁に掛かった名画のホロを観賞し、テーブルに饗されている料理をつまんだりして、グラス片手になるべく目立たないよう過ごした。
 ミーアはああ言ったが何処で本物を知る者に出遭うか分からない。

「適当に時間潰したら、さっさと帰ろうぜ」
「そうだね。どうせ招待客の出欠なんて向こうはもう把握してるんだし」
「あら、だめよ。せめて兄様たちはアガサの会長に挨拶くらいしてくれないと」
「バレるよりはいいんじゃねぇか?」
「そう言わずに、『あたしたちの子供のため』にも人脈は大切にしてくれなきゃ」

 悪魔的に響いたアクセントにシドは眉間にシワを寄せハイファは静かに沈む。この辺りもマフィアのお嬢ということだろうか、攻撃のポイントを心得ている。
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