上 下
8 / 24

第8話

しおりを挟む
「ンまいよ、ホント。ショーユ入れただけなのに旨い。メチャ出汁でてるぜ。そんなに腹壊したくねーなら二、三時間して俺の腹具合見てから食えば?」

 唖然とするアズラエルを尻目にロウテーブルの向かい側、地べたにきちんと正座すると志賀は行儀良く合掌した。改めて胡座をかいて箸を持ち食い始める。

 ロウテーブルはジャンクの中から拾ってきたブツだ。テーブルといえば聞こえがいいがタダの箱である。小汚い上にうっすらバレンシア何とかと印刷されていた。それだけでなくガムテープで補修までしてあるみすぼらしさだ。

 作り付けの卓はランディング時の高機動、飛行艇部分が壊れたときに一緒に折れた。志賀の手にかかると高額な飛行艇まで紙ヒコーキと同じ、一時は艇を捨てて地上にリープもやむを得ないかと冷や汗もののアズラエルであった。

 結局、何とか宙港に降りられたものの飛行艇は深刻なダメージを負っていた。今自分たちがいる、後部の居住ポッドが壊れなかったのは奇跡に近い。

 次々とイカモノ料理を口に放り込む志賀に、アズラエルは眉間にシワを寄せる。

「やっぱり寒いときは鍋に限るよなー」
「お前……腹の中から光りだすぞ」
「多分あの被さってた建材、元はこんな色してたんだな。あの中に剛性ポリアミドが入ってて、その崩壊分子をエサにしたからこんなのが生えた」

 バカを痛ましそうに見るバディの目つきに気付き、更に頬張りつつ志賀が続けた。

「んあ、蛍光成分のこと? 放射性物質の可能性ね。大丈夫だって微々たるモンだし。AD世紀の最終大戦、ワールドウォーセブン前から地球人はある程度、耐性ができてる。俺は勿論一応テラ系のアンタも、な」
「そんなことは言われずとも……だがそんな問題か?」

 毒々しいピンクをフォークで刺し、目の高さに上げる。

「そーだよ。こんな何もない、外にも出てけねー、生体サイクル乱れても寝るしかねえとこで食う以外の愉しみって、いったい何よ?」
「充分愉しんでいるように見えるが――」

 日が昇って大気調整システムがフル稼働し、同時に凍りついた惑星の昼間のフェイズ部分が溶けるまでの本任務不可能な約十時間。電力不足で各ユニットの特にアビオニクス系統のチェックにも難儀する飛行艇の復旧にアズラエルが携わっているその間。

 志賀は寝ているか喚いているかアズラエルの集中を損なう一人漫才や古今東西ゲームを始めるか。ちょっと静かだと思えばリモータのホロスクリーン機能を利用してアプリのゲームに熱中しているのだ、ポンだのチーだの。昨夜は『大車輪』を役満認識しないとかで大騒ぎだった。全くいつの間にそんなアプリを仕込んだのやら。

 それで現場に行ってみれば、辺り一面志賀好みのガジェットだらけときている。

「――それとも体を張ったギャグのつもりなのか?」

 箸を咥えたまま、こちらをじとーっと見詰める志賀。……溜息。何処までジョークで何処から本気か、依然掴めない奴だった。

 自身が食している以上、ガセではないのだろう。何にでも子供のように興味を持ち、やたらとムダ知識を溜め込んでいるのは知っていた。だからといって自分が食う食わないは別なのだが、これで食わずば後で志賀の口撃は免れない。根性なし、年寄りはせいぜい余生を大事にしろ、等々。

 どう見ても食品に分類し難いソレを、キヨミズステージから丸腰ダイヴする気持ちで口に入れる。目顔で問われた味の感想をアズラエルが肩を竦めて示す。志賀は満足げに頷いた。

「食ったら寝よーぜ。そろそろ今日ぐらいはまともに睡眠取んねぇとヤベーんじゃねぇの? 元々紅い目だから分かりづらいけどさ」

 行儀悪く箸で人を指しながら志賀がのほほんという。仕草は軽く、口元もヘラリと笑っているが濃灰色の目は結構真面目だった。

「いったい誰のせいだと――」
「だって何度言っても操縦させてくんないからサ。何だったら帰りもやるよ、俺。迎えの艦まで、こう、グイッと。まっかせて――」
「――もう、いい」

 他星系人種の構成する軍と比べ物にならない程、規律が厳しく階級にこだわるテラ連邦軍だが、その中で異色の存在である自分たちには階級など関係ない。ただ組織の生活が長いアズラエルは己本来の一等特務技官なる階級には拘らないものの、揺るぎない縦割り社会で他者の階級や立場はちゃんと尊重する。

 無駄に敵を作ってもいいことなどないからだ。

 だがこの青年はアズラエルと出会ったそのときから上官、先任者どころか年長者としても遇する気が欠片も感じられない。時折冗談交じりに年寄りだのダンナだの言うものの、タメ口とふざけた態度でまるきり友達のようだ。

 しかしそれは強力な攻撃能力として発現するサイキを嵩に着たものでは決してない。本人の気質と志賀自身が宣言した通り信用し切った安心感だろう。

 初めて出会ったときの志賀の笑顔は一生忘れられんな、とアズラエルは思う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ワイルド・ソルジャー

アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。 主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。 旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。 ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。 世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。 他の小説サイトにも投稿しています。

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

基本中の基本

黒はんぺん
SF
ここは未来のテーマパーク。ギリシャ神話 を模した世界で、冒険やチャンバラを楽し めます。観光客でもある勇者は暴風雨のな か、アンドロメダ姫を救出に向かいます。 もちろんこの暴風雨も機械じかけのトリッ クなんだけど、だからといって楽じゃない ですよ。………………というお話を語るよう要請さ れ、あたしは召喚されました。あたしは違 うお話の作中人物なんですが、なんであた しが指名されたんですかね。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

Night Sky

九十九光
SF
20XX年、世界人口の96%が超能力ユニゾンを持っている世界。この物語は、一人の少年が、笑顔、幸せを追求する物語。すべてのボカロPに感謝。モバスペBOOKとの二重投稿。

恋するジャガーノート

まふゆとら
SF
【全話挿絵つき!巨大怪獣バトル×怪獣擬人化ラブコメ!】 遊園地のヒーローショーでスーツアクターをしている主人公・ハヤトが拾ったのは、小さな怪獣・クロだった。 クロは自分を助けてくれたハヤトと心を通わせるが、ふとしたきっかけで力を暴走させ、巨大怪獣・ヴァニラスへと変貌してしまう。 対怪獣防衛組織JAGD(ヤクト)から攻撃を受けるヴァニラス=クロを救うため、奔走するハヤト。 道中で事故に遭って死にかけた彼を、母の形見のペンダントから現れた自称・妖精のシルフィが救う。 『ハヤト、力が欲しい? クロを救える、力が』 シルフィの言葉に頷いたハヤトは、彼女の協力を得てクロを救う事に成功するが、 光となって解けた怪獣の体は、なぜか美少女の姿に変わってしまい……? ヒーローに憧れる記憶のない怪獣・クロ、超古代から蘇った不良怪獣・カノン、地球へ逃れてきた伝説の不死蝶・ティータ── 三人(体)の怪獣娘とハヤトによる、ドタバタな日常と手に汗握る戦いの日々が幕を開ける! 「pixivFANBOX」(https://mafuyutora.fanbox.cc/)と「Fantia」(fantia.jp/mafuyu_tora)では、会員登録不要で電子書籍のように読めるスタイル(縦書き)で公開しています!有料コースでは怪獣紹介ミニコーナーも!ぜひご覧ください! ※登場する怪獣・キャラクターは全てオリジナルです。 ※全編挿絵付き。画像・文章の無断転載は禁止です。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...