37 / 46
□〔Intermission〕ショート・ショート□
しおりを挟む▽こだわりが有るようで無い男
こだわりが無いようで有る男▼
人目につかぬよう表通りを避けて、なるべく目立たない小径を歩きながら京哉は霧島に滔々と説いていた。
「なんだって『やりすぎ』は禁物だと思いますよ、忍さん」
ようやく自力歩行が可能になって外に出たのはいいが、やはり少々足腰に難を感じて京哉は霧島に文句を垂れ続けている。
ただ、話の内容が『アレを激しくナニされすぎた』というモノなので、声も抑え、表情もかろうじて涼しさを維持していた。
一方の霧島は開き直るでもなく鉄面皮、いや、眉目秀麗を具現化したような怜悧さすら感じさせる、まるきりの常態で京哉に応える。
「私は『やりすぎ』た覚えなぞ無いのだがな。京哉、お前にはあの太陽が黄色く見えるのか?」
「そういう俗説で誤魔化そうったって、そうはいきませんよ」
「誤魔化してなんかいない。お前が悪い、そんな躰で誘っていないとは言わさんぞ」
「僕は断じて誘ってなんかいません!」
とうとうキレかけて京哉は声を高くしたが、直後に自分の腰を支えてくれている温かな手に力がこもるのを感じて、大きな溜息をつくと再び声を潜めた。
「始めちゃったら翌日の僕はいつもこんな風だし、いつもと言えばコンビニ弁当だって海苔弁の一択だし」
「ならば次からは唐揚げ弁当にするか?」
「どうしてそこで唐揚げ弁当なんです、好きなんですか?」
「いや、売っているのをよく見かけるからだ」
呆れて京哉は隣を歩く霧島の横顔を見上げる。
「もしかして海苔弁も『売っている率の高さ』で決めているんですか、好き嫌いやこだわりじゃなくて?」
「そうだ。決め打ちだと迷う時間というロスがないだろう?」
胸を張って言い放った男に京哉は再びの溜息だ。
「決め打ちは貴方の勝手で文句はありません。でも海苔弁が売り切れてたからって余所のコンビニを何軒も行脚する人にロスタイムを語られたくはないですね」
ウィークリーマンションの部屋を出て建物一階のコンビニからなかなか帰ってこなかった時には『また手料理の食材の仕入れか』と思い、京哉はかなり愉しみにしていたのだ。それなのに霧島が違うコンビニの海苔弁の袋を提げて帰ってきたときには言葉も失くした。当たり前だ。
「でもこう言っては何ですが、御曹司サマが海苔弁当なんて随分とショボいものにこだわるんだなあって、ずっと勘違いして……あっ!」
と、京哉は思わず声を上げる。小さなドラッグストアの前を通りかかったところだった。声を上げると同時に京哉は足腰の調子の悪さも忘れる。目を輝かせて店舗の軒先まで駆け寄ると、声を弾ませ嬉し気に霧島に訴えた。
「これこれ、これですよ、忍さん!」
「ん? その衣類の柔軟剤がどうかしたのか?」
「僕はこれしか使わないって決めているんです。匂いに敏感なので、この残り香がない柔軟剤。それでいてタオル類の毛羽立ちも少なく、静電気も抑えてくれて、衣類の縮みも防ぐんですよ。この超優秀な製品がこの値段なんて、ありえない……ああっ、こっちの液体洗剤も普段より20円は安い! 5本買ったら100円もお得! これは買わなきゃ、絶対買わなきゃ損ですよっ、忍さんっ!」
まとめ買いに走ろうとして京哉は、霧島の珍しく退いたような表情と自分をじっと見つめる灰色の目に気付いた。
――そうだ。今から自分たちは霧島の車を買いに中古車屋に行くのだった。
「車を買ったら、載せられるだけ柔軟剤と洗剤を買ってやる。いいか、巡査部長?」
「……ハイ、警視殿」
☆。.:*・゜☆fin☆。.:*・゜☆
【交換条件~Barter.1~ 第37話へ】
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
お前に似合わない職業2[警察官]
志賀雅基
BL
◆探偵は煙草とウィスキーと孤独を愛す/その筈が何処で間違えたよボギー/またかよ◆
[全33話]
探偵の恭介は自殺志願男を拾う。男は刑事だがドジばかりで悲観し電車に飛び込んだものの、吸血鬼である恭介の怪力で助かった。しかし助ける際に吸血した恭介は思考操作の加減を誤り、刑事・泉に惚れられてしまう。恭介には樫原組なるヤクザを一緒に潰した極道の恋人・薫がいて泉とバトルに。更に県警組対の追う薬物ルートまで絡んだ大騒動に発展する!
▼▼▼
【BL特有シーンはストーリーに支障なく回避可能です】
【『お前に似合わない職業[ヤクザ屋さん]』続編ですが単独でも愉しめます】
もう一度、貴方に出会えたなら。今度こそ、共に生きてもらえませんか。
天海みつき
BL
何気なく母が買ってきた、安物のペットボトルの紅茶。何故か湧き上がる嫌悪感に疑問を持ちつつもグラスに注がれる琥珀色の液体を眺め、安っぽい香りに違和感を覚えて、それでも抑えきれない好奇心に負けて口に含んで人工的な甘みを感じた瞬間。大量に流れ込んできた、人ひとり分の短くも壮絶な人生の記憶に押しつぶされて意識を失うなんて、思いもしなかった――。
自作「貴方の事を心から愛していました。ありがとう。」のIFストーリー、もしも二人が生まれ変わったらという設定。平和になった世界で、戸惑う僕と、それでも僕を求める彼の出会いから手を取り合うまでの穏やかなお話。
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
離したくない、離して欲しくない
mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。
久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。
そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。
テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。
翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。
そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。
しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。
偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。
御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。
これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。
【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】
【続編も8/17完結しました。】
「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785
↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる