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第44話
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この日も夕方になってようやく京哉は立ち歩くことが可能になった。
お蔭で一緒にスーパーマーケットに行けた。最終日は海苔弁当ではなく霧島の手料理を食べたいと京哉がせがんだのだ。
けれど霧島は有名税で済まされず立っているだけで人目を惹いてしまう、非常に気の毒な宿命を背負った男である。わざと人の多い時間帯に入店し、計画していた最短ルートのみ辿って買い物を済ませた。帰路もクリアして無事に部屋まで辿り着く。
空腹すぎて却って待てない京哉も手伝い作ったのはサラダとスープにオムライスのタコさんウインナー添えだった。早速ロウテーブルで向かい合い手を合わせる。
「頂きまーす。ん、美味しいけど、熱っ!」
「そのタコは逃げんから、もう少しゆっくりと食え。躰に悪いぞ」
そう注意する霧島も警察官で食うのに五分とかからない。明日の早朝に京哉がここを発つまでの、まるでハネムーン最終夜のような時間が二人とも惜しいのだ。
だが食器や調理器具を片付け終えコーヒー&煙草タイムになってコンビニスイーツの話題で盛り上がってしまい、二人で一階コンビニに降りるしかなくなる。
充実したスイーツコーナーでチョコ系がいいかフルーツ重視系がいいか品定めしていた京哉が何気なく目を上げた。そこで雑誌棚にとんでもないモノを発見する。
【霧島カンパニー御曹司のお相手は男性だった!】
中央にでかでかと書かれたそれは某実録系週刊誌の見出しが広告ポスター用に拡大されたものらしく、バックに写っているのは紛れもなくこのコンビニに来た際のツーショットだ。とにかくその週刊誌を一冊購入して二人は五階の部屋に駆け戻った。
「公安すら撒いた我々を見つけ出し、あれだけ警戒していたスナイパーと機捜隊長の目を欺いて撮影に成功するとは恐るべきメディアのド根性だな」
言い放った霧島も京哉の心配はあったが、幸い京哉に関してはスクープ画像も一般人と同じく目元に加工がされている。余程親しい者にしか見破れまい。
しかしそんな事実を知る前の、階段を駆け上らされていた間に腹は決めていた。
何が京哉に降り掛かろうとこの自分が護ればいいだけだ。京哉だってそれなりの戦い方を知っている男である。むしろ本気で敵に回せば京哉の方が怖い。
それに出版されてしまった雑誌に文句をつけても今更だ。
ぺらぺらと紙質の悪いページを捲り、手を止めると切れ長の目に笑みを浮かべる。
「なるほど、やっと『霧島忍・男しか受け付けない事実公言作戦』が功を奏したな。これで私に後継者を作るのは不可能と周知され、無駄な縁談を持ち込む余計な世話焼き人も現れなくなる。今後は全て説明要らず、霧島カンパニーにも戻らずに済むかも知れん」
泰然自若という言葉を体現して笑う男を眺め、そんなに能天気でいいのかと京哉は思う。少なくとも霧島会長は簡単に攻略できる相手ではない。おそらく正面切ってぶつかる息子の霧島よりも潜んで仕留めるタイプの自分の方が霧島会長との相性は良さそうだと分析していた。
生きている間に悪魔に会えるなら面識を得たかったが、息子が男の嫁をつれてきたらどんな反応を見せるだろう。おまけに電話では少々失礼な物言いもした。まあ、当分の間は毛嫌いの域も遥かに超えている霧島が会わせるのは避けそうだが。
などといった現実逃避の思考も唐突に限界がきてロウテーブルに突っ伏す。
「あああ、信じたくない、明日が怖いよ~っ!」
「何も怖がることはないだろう。これに関しては罪を犯した訳でもないのだからな」
「そう正論ばかりで世の中は動かないんです」
京哉は諭したが既に有名人で変人で思惑通りに事が進んだ霧島は何処吹く風だ。
「正論で動く世の中もあるぞ」
目を上げると霧島が携帯を振っていた。メールでも入ったらしい。
「たった今仕入れたばかりの旨いネタ、欲しくはないか?」
珍しくも灰色の目が浮かべた人の悪い笑みに京哉は頷く。
お蔭で一緒にスーパーマーケットに行けた。最終日は海苔弁当ではなく霧島の手料理を食べたいと京哉がせがんだのだ。
けれど霧島は有名税で済まされず立っているだけで人目を惹いてしまう、非常に気の毒な宿命を背負った男である。わざと人の多い時間帯に入店し、計画していた最短ルートのみ辿って買い物を済ませた。帰路もクリアして無事に部屋まで辿り着く。
空腹すぎて却って待てない京哉も手伝い作ったのはサラダとスープにオムライスのタコさんウインナー添えだった。早速ロウテーブルで向かい合い手を合わせる。
「頂きまーす。ん、美味しいけど、熱っ!」
「そのタコは逃げんから、もう少しゆっくりと食え。躰に悪いぞ」
そう注意する霧島も警察官で食うのに五分とかからない。明日の早朝に京哉がここを発つまでの、まるでハネムーン最終夜のような時間が二人とも惜しいのだ。
だが食器や調理器具を片付け終えコーヒー&煙草タイムになってコンビニスイーツの話題で盛り上がってしまい、二人で一階コンビニに降りるしかなくなる。
充実したスイーツコーナーでチョコ系がいいかフルーツ重視系がいいか品定めしていた京哉が何気なく目を上げた。そこで雑誌棚にとんでもないモノを発見する。
【霧島カンパニー御曹司のお相手は男性だった!】
中央にでかでかと書かれたそれは某実録系週刊誌の見出しが広告ポスター用に拡大されたものらしく、バックに写っているのは紛れもなくこのコンビニに来た際のツーショットだ。とにかくその週刊誌を一冊購入して二人は五階の部屋に駆け戻った。
「公安すら撒いた我々を見つけ出し、あれだけ警戒していたスナイパーと機捜隊長の目を欺いて撮影に成功するとは恐るべきメディアのド根性だな」
言い放った霧島も京哉の心配はあったが、幸い京哉に関してはスクープ画像も一般人と同じく目元に加工がされている。余程親しい者にしか見破れまい。
しかしそんな事実を知る前の、階段を駆け上らされていた間に腹は決めていた。
何が京哉に降り掛かろうとこの自分が護ればいいだけだ。京哉だってそれなりの戦い方を知っている男である。むしろ本気で敵に回せば京哉の方が怖い。
それに出版されてしまった雑誌に文句をつけても今更だ。
ぺらぺらと紙質の悪いページを捲り、手を止めると切れ長の目に笑みを浮かべる。
「なるほど、やっと『霧島忍・男しか受け付けない事実公言作戦』が功を奏したな。これで私に後継者を作るのは不可能と周知され、無駄な縁談を持ち込む余計な世話焼き人も現れなくなる。今後は全て説明要らず、霧島カンパニーにも戻らずに済むかも知れん」
泰然自若という言葉を体現して笑う男を眺め、そんなに能天気でいいのかと京哉は思う。少なくとも霧島会長は簡単に攻略できる相手ではない。おそらく正面切ってぶつかる息子の霧島よりも潜んで仕留めるタイプの自分の方が霧島会長との相性は良さそうだと分析していた。
生きている間に悪魔に会えるなら面識を得たかったが、息子が男の嫁をつれてきたらどんな反応を見せるだろう。おまけに電話では少々失礼な物言いもした。まあ、当分の間は毛嫌いの域も遥かに超えている霧島が会わせるのは避けそうだが。
などといった現実逃避の思考も唐突に限界がきてロウテーブルに突っ伏す。
「あああ、信じたくない、明日が怖いよ~っ!」
「何も怖がることはないだろう。これに関しては罪を犯した訳でもないのだからな」
「そう正論ばかりで世の中は動かないんです」
京哉は諭したが既に有名人で変人で思惑通りに事が進んだ霧島は何処吹く風だ。
「正論で動く世の中もあるぞ」
目を上げると霧島が携帯を振っていた。メールでも入ったらしい。
「たった今仕入れたばかりの旨いネタ、欲しくはないか?」
珍しくも灰色の目が浮かべた人の悪い笑みに京哉は頷く。
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