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第24話

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 本日のタイムテーブルも分からないまま、二人は七時過ぎに起き出して交互にリフレッシャを浴び、着替えて執銃した。

 シドはショルダーバッグを担いだハイファと廊下に出るとエレベーターで一階に降りる。ここでモノを食わせて貰えそうなのは一階のビアホールくらいだったからだ。

 果たして眠たげなお姐さんたちとモーニングセットにありついていると、昨日のダークスーツが一人やってきて、ここを九時半に出る旨を告げられた。

 逃げる気もないが見張る気もなさそうなマフィアの手下は去り、二人は食事を続行する。意外に旨くボリュームもあるモーニングセットを平らげ、ゆっくりと二杯目のコーヒーを味わっているうちにハイファにリモータ発振が入った。

 応答し現在地を知らせた三分後、ハイヒールの音も高らかにユーフェが登場する。

「声くらい掛けてくれてもいいじゃない!」
「メシくらい静かに食いたかったんだよ」
「嘘だよ、ほら、昨日も遅かったし。寝不足は美容の敵だから」

 機嫌良くナイトリーの娘としてゼナス製薬に口を利いて貰おうとハイファは席を立って椅子を引いてやるなどの、なかなかに涙ぐましい対応をしている。
 そんな相棒の努力と、やや図に乗ったユーフェをシドは醒めた目で眺めた。

「で、パパには発振してくれたんだろうな?」

 コーヒーカップの載ったソーサーをハイファから受け取りながら、ユーフェは形のよい鼻をつんと横に向けた。

「先程、社長に連絡を取らせて頂きました。あたくしが案内役に任ぜられましたわ」
「へえ、左様で」

 これで第一関門は突破、取り敢えずジョカに入るなり弾かれる心配はなくなった。食事を始めたユーフェと世話を焼く相棒を残してシドは席を立つ。ビアホールを出てエントランスを挟んだ反対側、ロビーのソファで煙草を咥えて火を点けた。

 そこには先客がいた。紺のスーツにレジメンタルタイを締めた男とグレイのスーツにピンドットのタイの男で、よく見れば彼らも昨日ダークスーツだった手下たちだ。

「あんたらもバイヤー、アルフレート新薬か?」
「いや、天符スリーだが、天符シックスまでは送るように言われている」

 天符Ⅲが何なのかは分からないが、何れにせよこの星系の主産業たる製薬会社は、何処もここもキナ臭い金儲けをしているらしい。
 過去に出遭ったジャンキーの目や彼らに傷つけられた被害者たちを思い浮かべて、ジョカごと吹き飛ばしてやりたい気分で男たちと紫煙を吐いていると、ひとしきりユーフェの相手をし終えたハイファがやってきた。

「シドも少しはお姫様の相手をして……どうしたの、灰が落ちそうだよ」
「あ、すまん。お姫様が何だって?」

「ううん、それはもういいけど。ただ昨日息巻いた割には何も知らないみたいだね。居住区と研究室との往復で、実際にはミカエルティアーズの生産現場も見たことがないみたい」

「ふん、そんなとこだろうな。パパも跡継ぎ娘に危ない橋は渡らせねぇだろ」
「まあね。でもとにかく僕らは今日中に工場の座標だけでも探り出さないと」
「……今日中?」
「そうだよ。だって外来者が泊まる所もないんだよ?」

「そいつを何とかしてくれるのがお姫様じゃなかったのかよ?」
「僕らのためにホテルを一軒建ててくれるとか?」

 咥え煙草でシドは諸手を挙げる。

「分かった、座標な。それでテラ連邦軍はジョカに駐留してるんだろうな?」
「テラ連邦議会は高度文明圏の有人惑星に必ず一ヶ所以上の基地か三ヶ所以上の駐屯地を置くことを義務づけてるからね。具体的には八仙ヤセン側に惑星内駐留テラ連邦軍基地が一ヶ所あるよ」

「そこに例のアレだな、『全ての仕事を放り出して……』ってヤツ」
「中央情報局第一種強権発動だね。『全ての通常業務を停止して、最優先で発動者を直接的に支援せよ』。一般兵士は知らないけど、何処でも司令官クラスなら心得てるから」
「で、ミカエルティアーズの工場を空爆で吹っ飛ばす、と」

 聞いていたバイヤーもどきの男たちがギョッとしてシドとハイファを見比べた。

「ちゃんと総員退去の警告はするからね」
「当たり前だろ。でもそれが根本的な解決になるのか?」
「取り敢えずはテラ連邦の本気を見せるのが目的ってとこかな」

「メディアに流してマフィアをビビらせるなら天符大陸ごと更地にしちまう方が良くねぇか?」
「機嫌悪いなあ、気持ちは分かるけど」

 バイヤーもどきは『本当にこいつら正気か、つれて歩いて大丈夫なんだろうな?』といった目で薄気味悪そうに二人を見つめている。

 やがて食事を終えたユーフェがやってきてハイファにまとわりつき、それなりに場は和む。シドは黙々と灰を生産し九時半にバイヤーもどきは全員を外へと促した。

 エントランスの外には普通のコイルタクシーが一台停まっていて前席にバイヤーもどき、後席にシドとハイファにユーフェが乗り込む。ここまでこれば見張りも何もないらしい。

 夜の人混みが嘘のようになくなった、あっけらかんと明るい昼間のゲンテの街をタクシーは走り抜け、昨夜シドたちが定期BELで着いた宙港に十五分ほどで滑り込んだ。停泊していた小型宙艦の前で停止し身を沈ませる。

 ぞろぞろとタクシーから降り、紺のスーツにつれられて三人はエアロックをくぐった。外で艦のキャプテンらしき人物と話していたグレイのスーツがあとからやってきて全員にワープ宿酔止めの白い錠剤を配った。

 十時ジャストに宙艦は何の前置きもなく反重力装置を始動、シンノー星系第四惑星フギの重力に逆らってしずしずと上昇を始める。
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