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第24話・昼間から夕方(探偵・ヤクザ・整備士)〈画像解説付属〉

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 それから暫くして電車を降りる。今度はバスでゴロゴロと二十分も揺られたか。降りるなり次は車道を逸れて藪を漕いだと思うと、すぐに獣道の如き細い道が現れた。茂った樹でやや薄暗く、うっかりすると木の根に足を取られそうで、先を歩かされる薫は何度か恭介の腕に助けられた。

 山歩き用の姿でもなく靴もスーツに合わせた革靴のままでうんざりし果てたと同時に視界が拓ける。そこは山の頂上を平らに削った、一面の草地だった。

 向こうの方には格納庫らしきカマボコ型の建屋がある。薫が眺めるうちに格納庫の大扉が片方だけ人力で開けられた。扉を開けた男は青いツナギを着て被っていた帽子を片手にし、此方に向けて振っている。

「整備士さん……てことは、やっぱりちゃんと飛行機があるんじゃん」

 薫は歩きつつ振り向き示す。だが吸血鬼の懸案は晴れないようで、肩を竦めただけで整備士の意外と若い男の許に辿り着き、酷く落胆したかのように呟いた。

「ああ、まだあったか……」

 一方で整備士らしき男は恭介の来訪が嬉しくて堪らないらしく、自分の手を汚れの目立たぬところで拭ってから恭介に握手を求め、格納庫の奥に走って冷蔵庫から麦茶かウーロン茶か分からぬ液体をグラスふたつに注いで恭介と薫に配給してくれた。

 せっかくの厚意に冷たい麦茶で喉を潤しつつ、格納庫の真ん中にデンと鎮座している、想像よりは大きかった物体を薫は観察した。もしもこれが恭介の言う飛行機ならば、薫にも子供の頃の恭介の気持ちが解るような気がした。

 何故かと言えば、薫の中の飛行機像から逸脱している。そもそもプロペラ式というのが古臭い感じで気に食わないが、そのプロペラが逆だ。普通は前についているのに、この機体はプロペラが尻にくっついている。
 こんな非常識なモノが空を飛ぶなんて感覚的に嫌だ。

 ――これに乗る? 練習とか言ってた? 冗談だろ?

 そりゃあ、たっぷり血を飲んで焼肉をたらふく食った吸血鬼でも腰が引ける訳だ。
 だが、どうしてだか互いに『デレたら負け』と思い込んでいるために、薫は背を向け肩を震わせていた。
 そこで『そんな馬鹿な』と血の気が引くような会話が耳に飛び込んでくる。

「複座に改造は済んでいるのか?」
「ええ、キョウさん。狭いのは当然ですが、そちらの方が細身で助かりましたよ」
「で、本当に飛べるんだろうな?」
「僕の心血を注いだ機体ですよ? ただ、却ってタンデムで乗らないと墜ちます。入手できた機銃弾に合わせて改造したら翼面荷重が――」

 疑問で破裂しそうになった薫は、もう一度振り向いてその飛行機らしからぬ物体を眺めた。

「恭介、あのさ、コレはナニ?」
「前の大戦末期に試作機がたった一機だけ作られた震電しんでん……その幻の二機目だ」

「震電、これぞ男のロマンですよ!! あの時代にエンテ翼、プロペラは当たり前に牽引式トラクター発想一択だったあの頃に推進式プッシャですよ!? 横風にも強く、まさしく連合軍の度肝を抜くにふさわしい局地戦闘機のこの震電・幻の二号機は、真っ先にキョウさんのお爺様がロストテクノロジーを危惧し密かに手に入れ隠しておいた――」

 整備士の男がこぶしを握り締めて更に力説していたが、薫は目の前が暗くなった恭介の気持ちが痛いほど分かったし、気の毒に吸血鬼の棺桶も古くなったなあとしか思えなかった。


 けれどそこで整備士君が来訪者二人を脱力させる。

「でも、この貴重な震電を魔改造する訳、ないでしょう。大体、それは暢気に書いている間に先に映画にやられて……いえ、内輪の話ですが。とにかく乗って貰う機はこっちですよ」

 そう言って反対側の大扉をガラゴロと押し開けた。そこにも一機のプロペラ機が鎮座していた。やたらと古く塗装も剥げてはいたが、今度の機体はちゃんと前にプロペラがくっついていて、少なくとも薫には震電なる機体よりもヒコーキらしく見えた。


「わーい、飛行機だー」

 棒読みが聴こえなかったかのように恭介が整備士君に訊く。

「くそう、こいつは……まさか大戦末期の量産品じゃないだろうな?」
「大丈夫でしょう、お爺様のコレクションですよ?」
「へえ、やっぱりこれも大戦中のブツなんだ?」

「そうだな、前の大戦で疾風はやてと呼ばれていた」
「ふうん。前の大戦って湾岸? 何処? 恭介、生きて戦った?」
「俺をジジイ扱いしても誰得だぞ」

 確かにこの面子では納得できる。
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