上 下
59 / 59
第二章 聖女改革

第59話 孤児の行方

しおりを挟む
 書斎で俺とスティーリアとヴァイオレットが座り、その向かいのソファーにビスティーが座った。そして早速、孤児院の調査結果の報告を聞く。ビスティは手元に紙に記した資料の束を持っていた。それを見ながら早速本題に入る。

「かねてよりご依頼を受けていた、孤児院の件の調査が終了いたしました」

 聖女邸に鮨詰めになっていた俺は情報に飢えていた。とにかく早く次の行動に移りたいからだ。こうしている間にもソフィアに縁談なんか持ちかけられたらどうしよう。この世界は女が自由に動けるようにはなっていない。少しでも状況を改善できると良いのだけれど。

「で、どうだった?」

「白か黒かで言ったら黒です」

 まあ、想定通りの答えだ。

「やっぱりクビディタス司祭の所では何かがあるんだ」

「そうです。いろんなルートを通して調べた結果ですが、お話してよろしいですか?」

「はい」

 そしてビスティ―はテーブルの上に手持ちの資料を広げた。

「表向きはまあ普通に就職してますね。正常なルートで里子に出された子もおりますし、冒険者にメイドになった者もおります。商人のところで働く子もいました」

「なるほど」

「聖女様が教会でお調べになった、名簿の数が足りない件について調べたところ、おかしな点が出てまいりましたので徹底調査することとなりました」

 俺とスティーリアが前もって教会で調べておいて良かった。そのおかげで、ギルドも動きやすかったはずだ。火のないところに煙は立たないからな。

「やっぱりおかしかった?」

「はい」

「どんな感じ?」

「言葉を選ばずに申しますと、養子縁組と非公式な養子縁組があります」

 非公式ってなに?

「まず容姿のいい子供は男女問わず、クビディタスと繋がっている貴族やその周辺の商人などの所に行っています。その子として正式に育てられている者もいれば、消息が良く分からなくなっている者もおります」

「消息が分からない?」

「はい。それにもいろいろな道があるのです」

「どういった?」

「まず容姿の良い子らは引き取られると、何通りかの人生を送ると言う事です」

「何通りかの人生?」

「はい」

 なんだかきな臭くなってきたな。第一に容姿の良い子供ってのが気になるし、大体予想がつくが。胸糞悪くなりそうで聞きたくもないが、調べろって言った手前は聞く義務がある。

「それは?」

「まず公式な養子縁組でございます。その場合は普通に子供として育てられ、実子のサポートにまわされたり自分の所のお抱えの騎士にしたりと様々です。それらは良い勤め先と言えるでしょう」

「ふむふむ」

「そして次に非公式な養子縁組についてです。その場合は貴族の慰み者になっている者がいると言う事です。子供のうちはもちろんですが、成人してからも体の関係を持つことがあるようです」

 まっじで胸糞わりい。自分の所で育てて、自分の愛玩用のペットにするって事か。まあ、薄々は勘づいていたが、実際に聞くとやっぱはらわたが煮えくりかえるな。

「それでどうなる?」

「良くて妾になる子もいますが、悪いと売られます」

「…どこに?」

「娼館や奴隷にです」

 やっぱきたか。そんなところだろうな。

「酷いね」

「はい。ですが娼館に売られても二通り、普通に良い娼館では人として扱われ、自分の稼ぎで普通に暮らしています。悪い方は、金を巻き上げられ薬づけにされて絞り取られています」

 許せん。将来有望な子供達を! とりわけ将来可愛くなるかもしれない女の子を! そんな目に合わせるとは。どうにかして正さねばならない。

「さらに悪い場合は奴隷になりますね。それか病気になって野垂れ時ぬかです。元気なうちから奴隷に売られた者は、むしろ逞しく生きている者もおります。雇われ冒険者などをするものや、悪い場合には盗賊に身をやつします」

「最悪だ。それはいつから続いているかは?」

「恐らく十年以上前からだと」

 うわ! どんだけ被害者がいるか分からねえな。

「むしろクビディタスの孤児院にいるなら、見目麗しくない方が幸せなのかと」

「なるほど。それは他の孤児院でも起きている?」

「そこまでは調べておりません。あくまでもクビディタスの所を中心に捜査しておりましたので」

「そうなんだ」

 するとビスティーは少し考えてから言った。

「そういえばモデストス司祭の所は白です。捜査の段階で調べる事もあったようですが、あそこはクリーンな孤児院だと言えます」

 なるほど、見るからに質素だったしモデストス自身も良い人だった。まあ全ての孤児院がクビディタスのような所だったら地獄だが、モデストスのような所があるのは救いだ。

 俺は少し考えて言う。

「なんでクビディタスは捕まらないんだろう?」

「はい。それは強い貴族との繋がりがあるからです。貴族には派閥がありますので、そのうちの一つに気に入られているのです」

「どの貴族? ドモクレー?」

「いえ。違います」

 えーっ! あいつじゃないのー! あいつは俺をいやらしい目で見てくるし、キモいのに?

「じゃあ誰かな?」

「実は尻尾しか掴めておりません。だがその後ろだてがあるのは事実です」

「尻尾は分かってるんだ?」

「セクカ伯爵です」

 あー、聖女の祝賀会の時に会った事あるぞ。なんつーかよく覚えてないけど、俺の所に鼻の下を伸ばして近づいてきたやつだ。どっちかというとドモクレーの方がキモいが、アイツは白だったのか…。まあ俺にとってはアイツも黒だけど。

「会った事あるね。あれか…、そこから元をたどっては行けなかった?」

「はい。ギルドは内政には関与できませんから。ただ貴族達の不正の温床があるのは間違いありません」

「そうか。その貴族達には聖女支援財団に属してる者もいそうだし、ちょっと調べてみる必要がありそうだ」

 俺がチラリとヴィクトリアを見るとコクリと頷いた。ヴィクトリアに内容を精査してもらって、怪しい貴族の洗い出しをしてみることにしよう。

 そして俺がビスティに聞く。

「分かった事はそんなところかな?」

「まあそうですね。ですが売られたり消息不明になったりした子達の、現在の場所や状況を記した名簿を作成してまいりました。必要ですか?」

 ビスティーがおどおどしたように言う。恐らくその理由に察しはつく。

「買います。いくら?」

 するとビスティーはニッコリして言う。

「まいどあり!」

 その笑顔に俺はちょっとドキドキしてしまう。ビスティはそのくりくりした目で笑う。思わずいくらでも、お支払いしてしまいそうだ。

 俺はチリンチリーンと呼び鈴を鳴らしてメイドを呼んだ。

「はい」

「アデルナを呼んで」

「かしこまりました」

 しばらく待つとアデルナがやって来た。そして俺はアデルナに言う。

「ギルドから情報を買うんだけど、私じゃ相場が分からない。ここからの交渉はアデルナがして」

「かしこまりました」

 アデルナが出てきたことでビスティーも身構える。もちろん俺のような素人では必要以上に金をとられる可能性があるからだ。こういうのは百戦錬磨のアデルナに任せた方が良い。しばらくアデルナとビスティーが話し合い折り合いがついた。

「それでは大金貨十枚ほど」

 前世の日本円にして百万円くらいだった。俺の想定していた金額の三分の一、アデルナに任せなければ俺は大損していたかもしれない。まあこれらを調査するのに何人の人間が動いたか分からないしな。興信所ってのはお高いもんだ。

「ではお支払いを」

「はい」

 返事をしてアデルナは部屋を出て行った。

「ではお帰りの際に情報とお金を交換ということで」

 俺が言うとビスティが返事をする。

「ありがとうございます! これでギルドマスターに叱られずに済みます!」

 なに! けしからん! こんな可愛い子を叱るだなんて!

「もしビアレス殿に叱られるようでしたら、私に言いなさい。私の方から忠告してさしあげます」
 
 するとビスティが驚いた顔をする。まさかそんな事を言われるとは思っても見なかったのだろう。

「あ、あの? よろしいのでしょうか?」

「もちろん。これはビスティーさんと私のホットラインと言う事で」

「わかりました! ありがとうございます!」

 ビスティーは笑ってペコペコしている。

「まあせっかくなのでお茶の続きを。そろそろうちのメイドが美味しいお菓子を買って来る頃です」

 するとビスティーの顔がぱあぁぁぁ! と明るくなった。まあギルドの男くさい環境からすると、ここは居心地がいいだろうからいつまでも居てくれていい。

 ビスティの顔を見ながら、やはりこの世界の女性の立場を向上させてあげなきゃな。と朧気に思う。だがその反面、この難題をどう解決したらいいのか、実はさっぱり見当がついていない俺なのだった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

異世界転生したら悪役令嬢じゃなくイケメン達に囲まれちゃいましたっ!!

杏仁豆腐
恋愛
17歳の女子高生が交通事故で即死。その後女神に天国か地獄か、それとも異世界に転生するかの選択肢を与えられたので、異世界を選択したら……イケメンだらけの世界に来ちゃいました。それも私って悪役令嬢!? いやそれはバッドエンドになるから勘弁してほしいわっ! 逆ハーレム生活をエンジョイしたいのっ!! ※不定期更新で申し訳ないです。順調に進めばアップしていく予定です。設定めちゃめちゃかもしれません……本当に御免なさい。とにかく考え付いたお話を書いていくつもりです。宜しくお願い致します。 ※タイトル変更しました。3/31

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

分厚いメガネを外した令嬢は美人?

しゃーりん
恋愛
極度の近視で分厚いメガネをかけている子爵令嬢のミーシャは家族から嫌われている。 学園にも行かせてもらえず、居場所がないミーシャは教会と孤児院に通うようになる。 そこで知り合ったおじいさんと仲良くなって、話をするのが楽しみになっていた。 しかし、おじいさんが急に来なくなって心配していたところにミーシャの縁談話がきた。 会えないまま嫁いだ先にいたのは病に倒れたおじいさんで…介護要員としての縁談だった? この結婚をきっかけに、将来やりたいことを考え始める。 一人で寂しかったミーシャに、いつの間にか大切な人ができていくお話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ルピナス

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の藍沢直人は後輩の宮原彩花と一緒に、学校の寮の2人部屋で暮らしている。彩花にとって直人は不良達から救ってくれた大好きな先輩。しかし、直人にとって彩花は不良達から救ったことを機に一緒に住んでいる後輩の女の子。直人が一定の距離を保とうとすることに耐えられなくなった彩花は、ある日の夜、手錠を使って直人を束縛しようとする。  そして、直人のクラスメイトである吉岡渚からの告白をきっかけに直人、彩花、渚の恋物語が激しく動き始める。  物語の鍵は、人の心とルピナスの花。たくさんの人達の気持ちが温かく、甘く、そして切なく交錯する青春ラブストーリーシリーズ。 ※特別編-入れ替わりの夏-は『ハナノカオリ』のキャラクターが登場しています。  ※1日3話ずつ更新する予定です。

モヒート・モスキート・モヒート

片喰 一歌
恋愛
「今度はどんな男の子供なんですか?」 「……どこにでもいる、冴えない男?」 (※本編より抜粋) 主人公・翠には気になるヒトがいた。行きつけのバーでたまに見かけるふくよかで妖艶な美女だ。 毎回別の男性と同伴している彼女だったが、その日はなぜか女性である翠に話しかけてきて……。 紅と名乗った彼女と親しくなり始めた頃、翠は『マダム・ルージュ』なる人物の噂を耳にする。 名前だけでなく、他にも共通点のある二人の関連とは? 途中まで恋と同時に謎が展開しますが、メインはあくまで恋愛です。

騎士団長のアレは誰が手に入れるのか!?

うさぎくま
恋愛
黄金のようだと言われるほどに濁りがない金色の瞳。肩より少し短いくらいの、いい塩梅で切り揃えられた柔らかく靡く金色の髪。甘やかな声で、誰もが振り返る美男子であり、屈強な肉体美、魔力、剣技、男の象徴も立派、全てが完璧な騎士団長ギルバルドが、遅い初恋に落ち、男心を振り回される物語。 濃厚で甘やかな『性』やり取りを楽しんで頂けたら幸いです!

処理中です...