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第一章 聖女転生
第29話 聖女の策略
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その後、王宮のダイニングルームに集まって会食の運びとなった。俺の後ろにお付きのメイドであるミリィが立ち、俺の対面にミラシオンが座った。テーブルが広くて距離があるのが不幸中の幸いである。ロンゲのイケメン伯爵など、俺の真逆に位置する天敵である。
そして俺はあえてミラシオンに語りかけないようにしていたのに、逆に前に座るミラシオンの方から語りかけて来た。ルクスエリムに話しかけているようで目線は俺の方を向いている。
「御前で聖女様と一緒に会食させていただけるとは光栄でございます」
いや、全然光栄じゃない。
そう言って、ミラシオンがルクスエリムにペコリと頭を下げた。ルクスエリムはいわゆるお誕生席のような所に座り、その右には王妃のブエナが、その対面に第一王子のカレウス、その隣に王女ビクトレナが座る。
ビクトレナちゃんは、相変わらず化粧が濃くてそれはそれで可愛い。なにかコンプレックスとかあるのかな? よくよく素顔を見た事は無いけど、普通に顔の作りからして悪く無い感じがする。恐らく自分の良い所が分からずに塗りたくっているタイプだ。このタイプは意外に、ナチュラルメイクにすると化ける時がある。
「この国を救ってくれた二人の英雄と会食が出来るとは嬉しいですね」
王子のカレウスが屈託のない笑みを浮かべて、俺とミラシオンに言った。さらっさらの金髪の毛にきらっきらの笑顔がキモイ。だがその整った顔を好む女は多いらしく、まあ平和そのものといったお坊ちゃん好きにはたまらんだろう。するとミラシオンがそれに答えた。
「私が英雄などと、此度の帝国との戦いはほとんど聖女様の独壇場でございました」
「それは本当なのですね?」
「はい。嘘はございません。我が領の兵は一人も怪我を負う事無く、一夜にして帝国が逃げ帰ったのでございます。私の手柄はないのですよ」
なんでこのミラシオンってイケメン伯爵は、本当の事をべらべらと言うのかね? 少しは自分の手柄って事にして、褒美の一つももらえばいいじゃねえか。おかげで全部、俺の功績になって面倒な事になったんだぞ。
「まあよいではないか、ミラシオンも素直にその功績を受け入れるべきだとは思わんか?」
「しかし」
あーグダグダとコイツは。
「ミラシオン卿。あれはカルアデュールの兵がおとりになって下さったからこその作戦でした。あのとき川岸に我が軍が居なければ、帝国を引き寄せる事は出来無かったでしょう。そして私のあの魔法が、あれほど上手く事は想定外でございました。全ての条件が重なった奇跡なのです」
「は! 聖女様はあの時もそのようにおっしゃいましたが、それでもほとんどが聖女様の功績だと思われるのです!」
「いえ。私一人では成し遂げられませんでした」
「そ、そう言っていただけると助かります」
すると今まで黙って話を聞いていた、王妃ブエナが言った。
「しかし聖女としての儀式を経て、その様な力を得るとは大したものです」
するとルクスエリム王もそれに添えるように言う。
「そうだな。回復魔法と蘇生魔法、阻害魔法と身体強化などの支援魔法がそなたの力だったと思うが、まさか攻撃魔法を習得しているとはな」
「いえ、ルクスエリム王。帝国戦で使用したのは攻撃魔法ではありません。あれは阻害魔法でございます。国境を流れる大河とおびき寄せてくれた我が国の兵が居たからこそ、あの奇跡は起きました。私の魔力は聖女の儀によってかなり増大したようですが、根本は変わっておりません」
「うむ。という事は条件が違えば、その力が及ばない事もあると言う事か」
「左様でございます」
「まあその事は、他言無用でいいだろうな。世間では聖女が大規模な攻撃魔法を使用したと思っておる。他国でもその話で持ち切りだそうだ。それならばその脅威の力であるという風評は、そのままにしておればよい」
「はい」
「は!」
俺とミラシオンが揃ってルクスエリムに答えた。俺もそれには異論がない。その事が仮想敵対国の動きを鈍らせ、同盟国との国交が有利に動くのは良いと思う。しばらくは英雄的な扱いに甘んじようと思ったのはそのためだ。平和が続けば、女達との楽しい時間も続くからな。
するとビクトレナ王女が言った。
「聖女様はお美しい上に、凄い能力をお持ちです。私は王女であるというのに、何の力も持ち合わせておりません。平和な毎日を送っているのが申し訳ないわ」
なにいっちゃってんの! ビクトレナみたいな可愛い子が、あんな危ない前線に出たりする必要はないし、国内のお偉いさんみたいな皺くちゃな連中と難しい話をしなくてもいい。そういうのは、ここにいるミラシオンや他の貴族がやればいい。
俺はつい口を挟む。
「何をおっしゃいますか! ビクトレナ様はそれでよろしいのです。危険な事は私達が対処しますので、王都で安全にお過ごしくださいませ!」
「ありがとう。フラル様はいつもそう言って下さる。まるで騎士のような力強いお言葉に、私はいつも救われるのです」
うそ! じゃあ、惚れる? 惚れちゃう? 俺も好き!
するとルクスエリムが言った。
「そうじゃ! ビクトレナ! さきほど聖女フラルが貴族の娘を集めた勉強会を提案して来たのだ。お前もそれに参加してみると良い!」
マジ! やった! またまた棚ぼた! ビクトレナが研修に混ざってくれる!
「勉強会とは?」
ビクトレナが聞くので俺がそれに答える。
「もちろん、わが国には優秀な殿方がたくさんいらっしゃいます。ですが殿方頼りばかりで、女がただ家庭を支えるだけでは国は強くなりません。若いうちから、より有効な殿方の支援が出来るように、いろんな経験をしておくことが重要だと思っています。見聞を広げる為に各地を視察しに赴いたり、現場を見る事で得る経験が大事なのです。特に難しい勉強をすると言うわけではございません」
するとビクトレナがニッコリ笑って答えた。
「それなら参加いたしたく思います!」
「ありがとうございます」
ブエナ王妃が微笑みながら言った。
「あら、やはりフラルは先を見据えているのね。私達のような古い女にはちょっと荷が重そう」
「王妃様。私は王妃様の見識は、とても素晴らしいと思っております。しかし若い貴族の娘は、知識という物を浅く捉えているのです」
そう…、集まってガールズトークすると、絶対男の話ばっかりだしね…。そんなんじゃ、聖女である俺とは話が合わなくなってしまう。まず…男の話なんて聞きたくねえし、出来れば共有体験をして親睦を深めたいと思ってるんだよね。
「あら? 私自身、そんな大した知識はないと思うけど」
「そんな事は御座いません。私はブエナ様を見習いそのように思うのです」
「ありがとうフラル。そんな事を言ってくれるのはあなただけかしら」
「本当にそう思うのです」
そう。娘のビクトレナの気を引くなら、まずその母親であるブエナとの懇意を深めるのはすっごく大事なのだ。するとビクトレナが俺に言って来た。
「勉強会の主宰はフラル様?」
「いえ。誠に不敬だとは思うのですが、理事長をブエナ様にお願いできないかと」
「私?」
「はい。やはりブエナ様が理事長をされて頂いた方がよろしいかと思うのです」
「私に務まるかしら?」
すると俺に変わりルクスエリムが答えた。
「良いではないか、優秀な文官を見繕って手伝わせるとしよう」
それはありがたい!
「ルクスエリム王には、何から何まで支援いただいて痛み入ります」
「フラル。そなたはこの国にとってそれだけ重要な存在なのだ。貴族の娘の勉強会はそなたに一任する。理事長をブエナとし、いろいろと取り計らってくれ」
「はい!」
すると横から、
「あの! それでは! 私の娘もよろしいでしょうか!」
ミラシオンが慌てて言ってきた。
えっ、お前に娘いんの? 待てよ…親父にしてこの顔なら…娘は…
それを受けてルクスエリムが言った。
「そう言えば上の子は十四になるか」
「はい」
「では詳細が決まりましたら通達をお出しします」
俺が言うとミラシオンが嬉しそうに答えた。
「ありがとうございます!」
完璧だな。俺がチラリとビクトレナを見ると、俺の目を見つめてニッコリと微笑み返してくれる。俺は少しずつ、公爵令嬢ソフィアの包囲網を縮めて行くのだった。
まってろよソフィア。合法的に仕事として定期的に会えるようになるからな!
俺は心でそう思い、薄っすらとほくそ笑むのだった。
そして俺はあえてミラシオンに語りかけないようにしていたのに、逆に前に座るミラシオンの方から語りかけて来た。ルクスエリムに話しかけているようで目線は俺の方を向いている。
「御前で聖女様と一緒に会食させていただけるとは光栄でございます」
いや、全然光栄じゃない。
そう言って、ミラシオンがルクスエリムにペコリと頭を下げた。ルクスエリムはいわゆるお誕生席のような所に座り、その右には王妃のブエナが、その対面に第一王子のカレウス、その隣に王女ビクトレナが座る。
ビクトレナちゃんは、相変わらず化粧が濃くてそれはそれで可愛い。なにかコンプレックスとかあるのかな? よくよく素顔を見た事は無いけど、普通に顔の作りからして悪く無い感じがする。恐らく自分の良い所が分からずに塗りたくっているタイプだ。このタイプは意外に、ナチュラルメイクにすると化ける時がある。
「この国を救ってくれた二人の英雄と会食が出来るとは嬉しいですね」
王子のカレウスが屈託のない笑みを浮かべて、俺とミラシオンに言った。さらっさらの金髪の毛にきらっきらの笑顔がキモイ。だがその整った顔を好む女は多いらしく、まあ平和そのものといったお坊ちゃん好きにはたまらんだろう。するとミラシオンがそれに答えた。
「私が英雄などと、此度の帝国との戦いはほとんど聖女様の独壇場でございました」
「それは本当なのですね?」
「はい。嘘はございません。我が領の兵は一人も怪我を負う事無く、一夜にして帝国が逃げ帰ったのでございます。私の手柄はないのですよ」
なんでこのミラシオンってイケメン伯爵は、本当の事をべらべらと言うのかね? 少しは自分の手柄って事にして、褒美の一つももらえばいいじゃねえか。おかげで全部、俺の功績になって面倒な事になったんだぞ。
「まあよいではないか、ミラシオンも素直にその功績を受け入れるべきだとは思わんか?」
「しかし」
あーグダグダとコイツは。
「ミラシオン卿。あれはカルアデュールの兵がおとりになって下さったからこその作戦でした。あのとき川岸に我が軍が居なければ、帝国を引き寄せる事は出来無かったでしょう。そして私のあの魔法が、あれほど上手く事は想定外でございました。全ての条件が重なった奇跡なのです」
「は! 聖女様はあの時もそのようにおっしゃいましたが、それでもほとんどが聖女様の功績だと思われるのです!」
「いえ。私一人では成し遂げられませんでした」
「そ、そう言っていただけると助かります」
すると今まで黙って話を聞いていた、王妃ブエナが言った。
「しかし聖女としての儀式を経て、その様な力を得るとは大したものです」
するとルクスエリム王もそれに添えるように言う。
「そうだな。回復魔法と蘇生魔法、阻害魔法と身体強化などの支援魔法がそなたの力だったと思うが、まさか攻撃魔法を習得しているとはな」
「いえ、ルクスエリム王。帝国戦で使用したのは攻撃魔法ではありません。あれは阻害魔法でございます。国境を流れる大河とおびき寄せてくれた我が国の兵が居たからこそ、あの奇跡は起きました。私の魔力は聖女の儀によってかなり増大したようですが、根本は変わっておりません」
「うむ。という事は条件が違えば、その力が及ばない事もあると言う事か」
「左様でございます」
「まあその事は、他言無用でいいだろうな。世間では聖女が大規模な攻撃魔法を使用したと思っておる。他国でもその話で持ち切りだそうだ。それならばその脅威の力であるという風評は、そのままにしておればよい」
「はい」
「は!」
俺とミラシオンが揃ってルクスエリムに答えた。俺もそれには異論がない。その事が仮想敵対国の動きを鈍らせ、同盟国との国交が有利に動くのは良いと思う。しばらくは英雄的な扱いに甘んじようと思ったのはそのためだ。平和が続けば、女達との楽しい時間も続くからな。
するとビクトレナ王女が言った。
「聖女様はお美しい上に、凄い能力をお持ちです。私は王女であるというのに、何の力も持ち合わせておりません。平和な毎日を送っているのが申し訳ないわ」
なにいっちゃってんの! ビクトレナみたいな可愛い子が、あんな危ない前線に出たりする必要はないし、国内のお偉いさんみたいな皺くちゃな連中と難しい話をしなくてもいい。そういうのは、ここにいるミラシオンや他の貴族がやればいい。
俺はつい口を挟む。
「何をおっしゃいますか! ビクトレナ様はそれでよろしいのです。危険な事は私達が対処しますので、王都で安全にお過ごしくださいませ!」
「ありがとう。フラル様はいつもそう言って下さる。まるで騎士のような力強いお言葉に、私はいつも救われるのです」
うそ! じゃあ、惚れる? 惚れちゃう? 俺も好き!
するとルクスエリムが言った。
「そうじゃ! ビクトレナ! さきほど聖女フラルが貴族の娘を集めた勉強会を提案して来たのだ。お前もそれに参加してみると良い!」
マジ! やった! またまた棚ぼた! ビクトレナが研修に混ざってくれる!
「勉強会とは?」
ビクトレナが聞くので俺がそれに答える。
「もちろん、わが国には優秀な殿方がたくさんいらっしゃいます。ですが殿方頼りばかりで、女がただ家庭を支えるだけでは国は強くなりません。若いうちから、より有効な殿方の支援が出来るように、いろんな経験をしておくことが重要だと思っています。見聞を広げる為に各地を視察しに赴いたり、現場を見る事で得る経験が大事なのです。特に難しい勉強をすると言うわけではございません」
するとビクトレナがニッコリ笑って答えた。
「それなら参加いたしたく思います!」
「ありがとうございます」
ブエナ王妃が微笑みながら言った。
「あら、やはりフラルは先を見据えているのね。私達のような古い女にはちょっと荷が重そう」
「王妃様。私は王妃様の見識は、とても素晴らしいと思っております。しかし若い貴族の娘は、知識という物を浅く捉えているのです」
そう…、集まってガールズトークすると、絶対男の話ばっかりだしね…。そんなんじゃ、聖女である俺とは話が合わなくなってしまう。まず…男の話なんて聞きたくねえし、出来れば共有体験をして親睦を深めたいと思ってるんだよね。
「あら? 私自身、そんな大した知識はないと思うけど」
「そんな事は御座いません。私はブエナ様を見習いそのように思うのです」
「ありがとうフラル。そんな事を言ってくれるのはあなただけかしら」
「本当にそう思うのです」
そう。娘のビクトレナの気を引くなら、まずその母親であるブエナとの懇意を深めるのはすっごく大事なのだ。するとビクトレナが俺に言って来た。
「勉強会の主宰はフラル様?」
「いえ。誠に不敬だとは思うのですが、理事長をブエナ様にお願いできないかと」
「私?」
「はい。やはりブエナ様が理事長をされて頂いた方がよろしいかと思うのです」
「私に務まるかしら?」
すると俺に変わりルクスエリムが答えた。
「良いではないか、優秀な文官を見繕って手伝わせるとしよう」
それはありがたい!
「ルクスエリム王には、何から何まで支援いただいて痛み入ります」
「フラル。そなたはこの国にとってそれだけ重要な存在なのだ。貴族の娘の勉強会はそなたに一任する。理事長をブエナとし、いろいろと取り計らってくれ」
「はい!」
すると横から、
「あの! それでは! 私の娘もよろしいでしょうか!」
ミラシオンが慌てて言ってきた。
えっ、お前に娘いんの? 待てよ…親父にしてこの顔なら…娘は…
それを受けてルクスエリムが言った。
「そう言えば上の子は十四になるか」
「はい」
「では詳細が決まりましたら通達をお出しします」
俺が言うとミラシオンが嬉しそうに答えた。
「ありがとうございます!」
完璧だな。俺がチラリとビクトレナを見ると、俺の目を見つめてニッコリと微笑み返してくれる。俺は少しずつ、公爵令嬢ソフィアの包囲網を縮めて行くのだった。
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