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第一章 聖女転生
第18話 勝利の雄叫び
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夜にやった俺の文字通りの電撃作戦。何度か帝国軍が河を超えようとしたようだが、何度目かの電撃から静かになった。それ以降は帝国が国境の河を渡って来る気配が無くなった。俺の電撃だっちゃ作戦が功を奏したのだろう。そして膠着状態のまま、次第に空は紫色に染まっていき陽の光があたりを照らし始めるのだった。
河の様子が次第にはっきりして来て、俺達ヒストリア王国軍は目を見張る。まず対岸に帝国軍は一人もいなかったのだ。恐らくは一旦兵を引いたのかもしれない。
「シュバイス団長! 帝国は一人もいません!」
「…うむ。どうやらその様だ」
その言葉を聞いた我が軍にざわめきが走る。夜通し敵襲に備えて来た兵士達が、その様子をみて唖然としているのだった。そしてようやく城塞都市カルアデュールから、ミラシオン伯爵率いる軍二万が到着した。馬に乗ったミラシオン伯爵が、河縁にいる俺達のもとに駆け付けて来る。
「シュバイス団長! 状況はどうなっている?」
ミラシオンが大きな声で聞いて来たので、シュバイス団長はそれに答えた。
「帝国兵は一旦退いたようです!」
「どういうことだ? 撃退…したのか? 相当な数がいると聞いていたが…」
「そうなのですが、実は…」
シュバイスが何かを話そうとするが、ミラシオンがそれを遮るように話した。どうやら視線上におかしなものを発見したらしい。
「あの河に浮いている者達は、我が領軍の兵か?」
「いえ! 我が軍に怪我人は一人もおりません!」
「一人もいない? あの河に山積みになっているのはなんだ?」
「それが…」
シュバイスが困ったように俺を見てきた。俺がどう言ったら良いかを考えていると、俺を一晩中護衛していた重騎士が口を開いた。
「恐れながら申し上げます! 聖女様が神のお力により帝国兵を焼き払いました!」
いや…焼き払ったという表現はおかしい。俺は数百ボルトの電流を河に流し続けただけだ。馬が失神するほどなので、人間が喰らったらたまったもんじゃないだろうが、俺は電気をバリバリっと流し続けただけなのだ。
すると、シュバイスとミラシオンが俺を見る。その目の奥には少しの恐怖が見て取れた。この残虐な所業をやったのが、目の前にいる見目麗しい金髪の美女だって言うんだから仕方がない。とはいえ、俺は死にたくない一心で必死にやっただけだ。そんな目で見られる筋合いはない。そしてミラシオンが恐る恐る聞いて来る。
「聖女様。それは本当でしょうか?」
「はい。ミラシオン卿。昨晩の勝利の女神は我々に味方してくださいました。女神フォルトゥーナ様に感謝の祈りを捧げましょう。これは神による御心によるものです。我々の行いが正しかったと言う証明に他なりません」
とかなんとか、俺は化物扱いをされたくないばかりに口から出まかせを言った。するとミラシオン伯爵の目の輝きが突然変わって来た。やはり信仰という物は凄い。
「素晴らしい! 皆の者! 我が国には聖女様がいる! 女神フォルトゥーナ様の化身であらせられる聖女様が、天敵である帝国に神の裁きを下された! この戦いは我々の勝ちだ!」
おおおおおおおおおおおお!
盛大な喝采と共に、男たちの雄叫びが響き渡った。そして俺は心の中でほくそ笑む。
やった! めっちゃラッキー! これでひとまず王都に帰れる! ソフィアちゃん! ビクトレナちゃん! スティーリアちゃん! 待っててくれよ! 帰ったらまた女子会しよう!
俺は内心飛び跳ねるように喜んでいた。するとこの喝采を聞きつけたミリィが天幕から飛び出して来て、俺のもとへとやって来た。
「良かった…。聖女様…ご無事で…本当に…」
どうやら泣いているようだ。泣かないで欲しい…俺はミリィをそばに抱きよせて囁きかける。
「泣くのは止めてね。貴方はいつも笑顔でいてほしいから、貴方の笑顔が私に力をくれた。この勝利はきっと貴方が、私のもとに女神フォルトゥーナを連れてきてくれたから。貴方なくしては、私はこのような戦果をもたらす事は出来なかったでしょう」
「そんなことはございません…。私は、何もしておりません」
いやあ…、本当にミリィのおかげなんだけどな。ミリィにカッコいい所を見せて、生き残ろうと必死になったらこうなっただけなんだけど。しかし…この河の惨状は頂けない…。俺が手を下したにしては、あまりにも残虐過ぎる結末だ。
「ミラシオン卿。よろしいでしょうか?」
俺はミラシオンに声をかける。
「は! 聖女様! 何なりと!」
やはりこのような戦果をもたらしたら、俺に対しての態度はだいぶ変わって来るらしい。だが男にかしずかれるのは好きじゃない。
「この河に浮かぶ帝国兵には、まだ生きている者がいるでしょう。それを捕虜にする必要があるのでは?」
「その通りです! シュバイス!」
「は! 皆! 河の帝国兵で息をする者がいるやも知れん。全て捉えて捕虜にせよ!」
「「「「「「「「は!」」」」」」」」
兵達が一斉に動き出した。合わせて四万数千の兵が河に入り、生存者を探し始めるのだった。
「それで…、亡くなったものはいかがなさいましょう?」
シュバイスがミラシオンに聞くと、ミラシオンは自分で答えずに俺を見た。
まあしばらくは帝国が、ヒストリア王国に攻めてこないように見せしめが必要だろうけどなぁ…
「丁重に葬ってやる必要があります。敵とはいえ同じ人間。彼らもきちんと葬られる権利がある。敵の状況を確認しつつ、対岸に埋めて墓標を立てるのがよろしいかと思われます」
「なんと慈悲深いお言葉でございましょう! ではその様に致します!」
ミラシオンがシュバイスに目配せすると、すぐにシュバイスが隊員にそれを伝えに言った。それを目にした俺がふとしゃがみ込む。流石に徹夜して疲れたかもしれない。
「ふう」
「どうされましたか!」
ミラシオンが慌てて手を差し伸べるが、もちろん俺がイケメンの手を握る事は無い。
「ちょっと疲れました」
俺が言うと、守ってくれていた魔導士がミラシオンに報告する。
「聖女様は夜通し魔力を全開で放出されておりました。恐らくは魔力枯渇で立っているのもやっとかと思われます」
いや、そうでもない。まだ三分の一くらい魔力は残ってる感じがする。
「それは、気が利かずに申し訳ございませんでした! ここまで来ればもはや帝国は敵ではありません。後は我々に任せて、何卒カルアデュールにお戻りください。既に使用人には伝えております故、一度お身体を御安めになると良い。そして今日の午後にも王都から援軍が到着いたします。何かが起きたとしてもここは大丈夫です」
「それは助かります。ではそうさせていただきます」
あたりめえだ! 今回、働いたのは正真正銘俺一人だけなんだからな! ただジッと待っていただけの領兵には、こっからきっちり仕事してもらわんといかん。
「ミリィ」
「はい」
「それでは貴女が馬を引いて私を連れて行きなさい」
「もちろんです」
やった! これでべったりとミリィにくっつける。ずっとくっついたまま、カルアデュールまで馬の背中に揺られていこう! えへへ!
ミラシオンがミリィに声をかけた。
「では、ミリィ嬢。聖女様をお頼み申す」
「はい!」
そして俺はミリィが乗る馬の後ろにのった。そしてぎゅっとミリィの腰に腕を巻き付けて、頭を背中にピタッとくっつける。
「相当お疲れになっているのでございますね」
いや…、確かに少しは疲れているけど、これはミリィにくっつきたいからだけだよ。
「少しね。だからなるべくゆっくりと馬を進めて頂戴。途中休み休み行く事にしましょう」
そう、ゆっくりじっくりとね。
「はい!」
ミリィが屈託のない笑みを浮かべて、俺の顔をじっと見る。その間、俺はキリリとした顔で彼女を見返すのだった。そして馬が走り始め、また背中に顔をつけると…俺はこの上なくだらしないエロい顔をしてしまうのだった。
ねっ! 私頑張ったもんね! ミリィたん! ゆっくり行こうね!
するとミリィが俺に振り向いて言う。もちろん俺の表情はキリリとしている。
「何かおっしゃいました?」
「何も言ってない」
「失礼いたしました」
そして俺は再びミリィの背中に耳をつけて、彼女の鼓動を感じる事に専念するのだった。
生きててよかったぁ!
俺は心の中で勝利の雄たけびをあげるのだった。
河の様子が次第にはっきりして来て、俺達ヒストリア王国軍は目を見張る。まず対岸に帝国軍は一人もいなかったのだ。恐らくは一旦兵を引いたのかもしれない。
「シュバイス団長! 帝国は一人もいません!」
「…うむ。どうやらその様だ」
その言葉を聞いた我が軍にざわめきが走る。夜通し敵襲に備えて来た兵士達が、その様子をみて唖然としているのだった。そしてようやく城塞都市カルアデュールから、ミラシオン伯爵率いる軍二万が到着した。馬に乗ったミラシオン伯爵が、河縁にいる俺達のもとに駆け付けて来る。
「シュバイス団長! 状況はどうなっている?」
ミラシオンが大きな声で聞いて来たので、シュバイス団長はそれに答えた。
「帝国兵は一旦退いたようです!」
「どういうことだ? 撃退…したのか? 相当な数がいると聞いていたが…」
「そうなのですが、実は…」
シュバイスが何かを話そうとするが、ミラシオンがそれを遮るように話した。どうやら視線上におかしなものを発見したらしい。
「あの河に浮いている者達は、我が領軍の兵か?」
「いえ! 我が軍に怪我人は一人もおりません!」
「一人もいない? あの河に山積みになっているのはなんだ?」
「それが…」
シュバイスが困ったように俺を見てきた。俺がどう言ったら良いかを考えていると、俺を一晩中護衛していた重騎士が口を開いた。
「恐れながら申し上げます! 聖女様が神のお力により帝国兵を焼き払いました!」
いや…焼き払ったという表現はおかしい。俺は数百ボルトの電流を河に流し続けただけだ。馬が失神するほどなので、人間が喰らったらたまったもんじゃないだろうが、俺は電気をバリバリっと流し続けただけなのだ。
すると、シュバイスとミラシオンが俺を見る。その目の奥には少しの恐怖が見て取れた。この残虐な所業をやったのが、目の前にいる見目麗しい金髪の美女だって言うんだから仕方がない。とはいえ、俺は死にたくない一心で必死にやっただけだ。そんな目で見られる筋合いはない。そしてミラシオンが恐る恐る聞いて来る。
「聖女様。それは本当でしょうか?」
「はい。ミラシオン卿。昨晩の勝利の女神は我々に味方してくださいました。女神フォルトゥーナ様に感謝の祈りを捧げましょう。これは神による御心によるものです。我々の行いが正しかったと言う証明に他なりません」
とかなんとか、俺は化物扱いをされたくないばかりに口から出まかせを言った。するとミラシオン伯爵の目の輝きが突然変わって来た。やはり信仰という物は凄い。
「素晴らしい! 皆の者! 我が国には聖女様がいる! 女神フォルトゥーナ様の化身であらせられる聖女様が、天敵である帝国に神の裁きを下された! この戦いは我々の勝ちだ!」
おおおおおおおおおおおお!
盛大な喝采と共に、男たちの雄叫びが響き渡った。そして俺は心の中でほくそ笑む。
やった! めっちゃラッキー! これでひとまず王都に帰れる! ソフィアちゃん! ビクトレナちゃん! スティーリアちゃん! 待っててくれよ! 帰ったらまた女子会しよう!
俺は内心飛び跳ねるように喜んでいた。するとこの喝采を聞きつけたミリィが天幕から飛び出して来て、俺のもとへとやって来た。
「良かった…。聖女様…ご無事で…本当に…」
どうやら泣いているようだ。泣かないで欲しい…俺はミリィをそばに抱きよせて囁きかける。
「泣くのは止めてね。貴方はいつも笑顔でいてほしいから、貴方の笑顔が私に力をくれた。この勝利はきっと貴方が、私のもとに女神フォルトゥーナを連れてきてくれたから。貴方なくしては、私はこのような戦果をもたらす事は出来なかったでしょう」
「そんなことはございません…。私は、何もしておりません」
いやあ…、本当にミリィのおかげなんだけどな。ミリィにカッコいい所を見せて、生き残ろうと必死になったらこうなっただけなんだけど。しかし…この河の惨状は頂けない…。俺が手を下したにしては、あまりにも残虐過ぎる結末だ。
「ミラシオン卿。よろしいでしょうか?」
俺はミラシオンに声をかける。
「は! 聖女様! 何なりと!」
やはりこのような戦果をもたらしたら、俺に対しての態度はだいぶ変わって来るらしい。だが男にかしずかれるのは好きじゃない。
「この河に浮かぶ帝国兵には、まだ生きている者がいるでしょう。それを捕虜にする必要があるのでは?」
「その通りです! シュバイス!」
「は! 皆! 河の帝国兵で息をする者がいるやも知れん。全て捉えて捕虜にせよ!」
「「「「「「「「は!」」」」」」」」
兵達が一斉に動き出した。合わせて四万数千の兵が河に入り、生存者を探し始めるのだった。
「それで…、亡くなったものはいかがなさいましょう?」
シュバイスがミラシオンに聞くと、ミラシオンは自分で答えずに俺を見た。
まあしばらくは帝国が、ヒストリア王国に攻めてこないように見せしめが必要だろうけどなぁ…
「丁重に葬ってやる必要があります。敵とはいえ同じ人間。彼らもきちんと葬られる権利がある。敵の状況を確認しつつ、対岸に埋めて墓標を立てるのがよろしいかと思われます」
「なんと慈悲深いお言葉でございましょう! ではその様に致します!」
ミラシオンがシュバイスに目配せすると、すぐにシュバイスが隊員にそれを伝えに言った。それを目にした俺がふとしゃがみ込む。流石に徹夜して疲れたかもしれない。
「ふう」
「どうされましたか!」
ミラシオンが慌てて手を差し伸べるが、もちろん俺がイケメンの手を握る事は無い。
「ちょっと疲れました」
俺が言うと、守ってくれていた魔導士がミラシオンに報告する。
「聖女様は夜通し魔力を全開で放出されておりました。恐らくは魔力枯渇で立っているのもやっとかと思われます」
いや、そうでもない。まだ三分の一くらい魔力は残ってる感じがする。
「それは、気が利かずに申し訳ございませんでした! ここまで来ればもはや帝国は敵ではありません。後は我々に任せて、何卒カルアデュールにお戻りください。既に使用人には伝えております故、一度お身体を御安めになると良い。そして今日の午後にも王都から援軍が到着いたします。何かが起きたとしてもここは大丈夫です」
「それは助かります。ではそうさせていただきます」
あたりめえだ! 今回、働いたのは正真正銘俺一人だけなんだからな! ただジッと待っていただけの領兵には、こっからきっちり仕事してもらわんといかん。
「ミリィ」
「はい」
「それでは貴女が馬を引いて私を連れて行きなさい」
「もちろんです」
やった! これでべったりとミリィにくっつける。ずっとくっついたまま、カルアデュールまで馬の背中に揺られていこう! えへへ!
ミラシオンがミリィに声をかけた。
「では、ミリィ嬢。聖女様をお頼み申す」
「はい!」
そして俺はミリィが乗る馬の後ろにのった。そしてぎゅっとミリィの腰に腕を巻き付けて、頭を背中にピタッとくっつける。
「相当お疲れになっているのでございますね」
いや…、確かに少しは疲れているけど、これはミリィにくっつきたいからだけだよ。
「少しね。だからなるべくゆっくりと馬を進めて頂戴。途中休み休み行く事にしましょう」
そう、ゆっくりじっくりとね。
「はい!」
ミリィが屈託のない笑みを浮かべて、俺の顔をじっと見る。その間、俺はキリリとした顔で彼女を見返すのだった。そして馬が走り始め、また背中に顔をつけると…俺はこの上なくだらしないエロい顔をしてしまうのだった。
ねっ! 私頑張ったもんね! ミリィたん! ゆっくり行こうね!
するとミリィが俺に振り向いて言う。もちろん俺の表情はキリリとしている。
「何かおっしゃいました?」
「何も言ってない」
「失礼いたしました」
そして俺は再びミリィの背中に耳をつけて、彼女の鼓動を感じる事に専念するのだった。
生きててよかったぁ!
俺は心の中で勝利の雄たけびをあげるのだった。
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