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橋本里奈の章

第128話 未成年

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あれから2年の月日が流れた。今までのペースで時おり生存者も見つける事が出来た。最年少は14歳の女の子、小学校の時にこんな世界になり何とか生きて来たらしい。両親はすでに死に、生存者たちと身を寄せ合って生きて来たという経緯を持っている。

「ずいぶん増えたよね。」

「うん。」

私はあゆみと一緒に子供たちの面倒をみながら言う。私たちが子供の面倒を見る当番で、麻衣先生(ここが保育園化しているためそう呼ばれている。)の下で子供の面倒を見ている。

助けた最年少の14歳の女の子は美桜ちゃんという名前だった。今はその子も一緒に子供たちの面倒を見ていた。

「美桜ちゃん、若いよねー。」
「うん、若い若い。」

私とあゆみが言っていると、麻衣先生がジロッとこっちを見た。

「あら?あなた達だって十分若いわよ。」

「でも彼女は14歳ですよ。」

「里奈ちゃんだってまだ23でしょ?」

「まあそうですけど…なんかそう言っちゃいますよ。」

「年齢の話題はここでは良いけど、みんながいるところでは禁句だわ。」

麻衣さんがそう言う…それもそうだ。助けた人の中には華江先生より年上の人もいたし、あまり大声で話す事じゃない。

「すみません。」
「ごめんなさい。」

私とあゆみが謝る。

「まあ言っちゃったら言っちゃった、でいいと思うけどね。」

麻衣さんがいたずらっぽく笑う。

「あの、里奈さん。」

「なあに美桜ちゃん。」

美桜ちゃんが恥ずかしそうに話してくる。

「里奈さんは女優なのに、一般の見知らぬ男性と…その…。」

美桜ちゃんが口ごもった。もちろん言いたいことがなにか分かる。遠藤さんとの事を話したいのだろう。

「うん、もちろん葛藤はあったよ。でも私は生きたかった、ただそれだけかな。」

「そうなんですね。」

美桜ちゃんは複雑な表情で黙り込んだ。

「いいんだよ。嫌なら嫌で、遠藤さんだってもう28歳になるし美桜ちゃんとは年が離れすぎてる。」

「あの人は優しいし嫌いじゃないんですけど…。」

「美桜ちゃん、里奈の言う通りだよ。美桜ちゃんがいいと思えばいいし、嫌ならしなくてもいいんだよ。」

「は、はい。」

14歳になったばかりの彼女にはとても受け入れがたい話なのだろう。

きゃきゃっ
わーい!
それ!

私たちの周りで子供たちが元気に遊んでいる。上の子達はもう5歳になっていた。麻衣先生の教えのおかげできちんと下の子の面倒を見たりしている。私の息子も元気に遊びまわっていた。

「本当に人が増えたからね。最初は遠藤さんと栞さん二人で、私たちが合流して華江先生達に会って。」

「あれよあれよという間に、子供も合わせて50人くらいになっちゃったわね。」

麻衣さんが言う。

「ですよね。」

「日本を探せば、まだまだ生存者っているんでしょうね。」

「いると思うわ。」

麻衣さんはてきぱきと赤ちゃんのオシメを変えながら話す。そう言う私ももう一人の子のオシメを変えながら話していた。

「皆さん不安ではないですか?」

美桜ちゃんが言う。

皆が少し黙る。

「もちろん不安はあるわ。」
「そうね。私は不安しかなかった。」
「大人の私でも不安はあるわよ。」

私とあゆみ、麻衣さんが言う。

「子供たちの将来を考えると怖くて。」

「なるほどね。それ、私も思ったわ。だって子供を産んだ時はまだ10代だったし。」
「私も。」

「でもね美桜ちゃん。このまま滅ぶより、不安を抱えて生き続けられる事の方がずっと幸せ。私はそう思って子供を産んだわ。死滅していく地球で生きる不安なんてもちろんある、でも不安な気持ちを抱えられるって生きてるって事じゃない?」

「…よくわかりません。」

「だよね。それはそれでいいと思う。」

「だね、私も里奈と同じ。悩めるって事は生きてるって事だから、生きれるって本当にうれしいと思うし。しかも遠藤さんの能力を受け継いだ子供達がこんなにいる。」

「能力ですか…。」

美桜ちゃんはそう言って黙ってしまった。

「未来は誰にも分からない。でも私たちは恐らくこの世界でとても恵まれている環境にいると思う。もちろんこうなる前の世界の方が良かったかもしれない、でも生き続ける意味を考える事なんて無かった。今はずっと考え続けている。女優なんてやってた頃は生きる意味なんてぼんやりしていたわ。でも今はハッキリわかる、私たちは何かの使命をもって生きているんだって。」

「あ!里奈ちゃん!」

麻衣さんが言うので私が手元を見ると…

ちょろーっ

小さいモンスターちゃんから、おしっこが飛び出して来た。私は話に夢中になりすぎておむつを替える手がおろそかになっていたらしい。

「わわっ!」

私は急いでおむつをかぶせて、おしっこが飛ぶのをおさえた。赤ちゃんがおしっこを、し終えたようなのでナップで拭いてあげて、新しい紙おむつをはかせてあげた。

「はいもういいよー。」

すると私がおむつを取り換えていた男の子がハイハイをしていく。先には栞さんが待っていて抱っこして連れて行くのだった。

「じゃあ次は君ね。」

私は隣の子のおむつを替え始める。

「美桜ちゃん、おむつってね…あ、違った…命ってね‥ぷっ」

私が続きを話はじめて、そうだいに噛んでしまった。

「ぷっ」

「あはははははは。」
「うふふふふふふ。」
「ははは。」

つい命とおむつを言い間違ってしまった。私が吹き出すとつられてみんなが笑う。美桜ちゃんも笑ってくれているので安心した。

「美桜ちゃん、命ってみんな意味があると思うのよ。そしてこんな凄い力を持っている命って、絶対大きな意味を持つと思う。この地球の人間が生き残るための意味とか、そんな使命があるんじゃないかって…まあ勝手に思ってるわ。」

私は次の子のうんちを拭きながらそんなことを言っている。

「はい。」

「あらあら、いっぱいしたねー!いっぱい食べたんだねー!」

私はうんちを拭きとって新しいおむつを履かせる。

「えっとどこまで言ったっけ?」

「地球の人間が生き残る使命。」

「そうそう、この子達はそれを背負って生きているんだと思う。その能力を持たない私たちは、彼らが成人するまで大切に育てるだけ。それは私が女優で大成功する事なんかより、もっと大きなことだって思ったんだ。女優で大成功するなんて、この子達を育てる事よりちっぽけなことよ。」

今の言葉で美桜ちゃんの目に少し火が灯ったように思えた。

「おおー、注目されていた女優さんが言うと重みがちがうわー。」

あゆみが茶化す。

「本当だわ。冗談じゃなく里奈ちゃんが言うと重いわね。」

「そんなことないですよ。皆がやってる事だから。」

「あの…里奈さん。またお話を聞かせてください。」

「もちろん!いつでもいいわ。」

美桜ちゃんはそう言うと、栞さん達がいる方へと歩いて行く。美桜ちゃんはまだ14歳なので物資回収には連れて行ってもらえない。いつも子供達と遊ぶ仕事を任されていた。もしかしたらつまらないと思っているのかもしれなかった。

だけどその歩いて行く背中はさっきとは違っているように見えた。
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