119 / 139
橋本里奈の章
第119話 救える命
しおりを挟む
結局、私たちは当面いままで通りの生活を続けることになった。回収や遠征先でゾンビ感染をしている人を見つけた場合、常に血清を持ち歩いて打ってあげる事にしたのだった。感染してからゾンビになるまでは理性もあるため、こちらの言う事も聞いてくれるだろう。
だが、遠藤さんや男児を連れて遠征した場合は、感染者に遭遇する事も無いだろうという結論になった。新しい場所に遠征をするときなどは彼らが必ず同行する為、生きている人間に会う可能性は低いだろうと思う。その時は最初から生存者にあうのは未感染の人と言う事になる。それでも生きた人間を救えるのだからいいと言う事になった。
それから数ヵ月はそんな状態で進んだ。
「遠藤さん。」
「なんだい、里奈ちゃん。」
今回の遠征で私は遠藤さんに聞いてみたいことがあった。丁度、車の後部座席に二人になったので話をしていた。運転席には瞳マネ、助手席には吉永さんが乗っている。聞いてみるには好都合なタイミングだ。
「千葉の事覚えてます?」
「ああ覚えてるよ。先生の新しい研究所を探しに行った時だろ?」
「そうです。」
「それがどうかした?」
「あの時、コンビナートから狙撃して来た人が居たの覚えてます?」
「もちろん。」
「恐らく私達がエネルギーを奪いに来た人間だと思われたんですよね?」
「たぶんね。」
「彼らはまだ生きてますかね?」
「‥‥。」
遠藤さんは少し沈黙した。そして何かを考えるように答える。
「東京のコンビナートや食糧倉庫には人が来てないんだよね。もちろん東京の人口から考えてゾンビが大量にいるかもしれないと思えば来ないよね。でも向こう側で食料はどうしてるんだろうって思うんだ。」
「そうですよね。食糧倉庫なども確かにありましたけど、東京近郊よりは数は少ないはずです。かなりの田舎でしたから。」
「もし生きていれば、海を渡ってくる可能性があるかもね。」
「ボートを入手できたらですよね。」
「そうだね。大型船舶じゃあ動かす事が出来るかどうかわからないし。」
「私は、再度確認しに行く必要があるんじゃないかと思うんです。」
私が言う。
あれからだいぶ時が経っているため、人間は全滅してしまったかもしれないし、さすがに弱って歩み寄ってくるかもしれない。人間はいつまでも争っていては、この世界を生きてはいられないと思うのだった。
「だけど、備蓄なんかがあればそれを守るために、攻撃してくる可能性はあるよな。」
「はい。ですが、今生存している可能性があるとすれば、あの時の人間だと思うんです。」
とはいえ、何人いるのか?どんな集団なのか?男女の比率は?何も分からないので、近寄るのは危険かもしれなかった。もしかすると遠藤さんのような力を持っている人が居るかもしれない、とも考えたのだが、それならば絶対東京に進出してくるはずだった。しかしあれから東京で人間と出会う事も無くなった。
「今度一度、みんなで話し合ってみる必要がありそうだね。」
「はい。」
そんな俺達の会話を聞いて吉永さんが話してくる。
「こちらも武装をしているのだし、それはいい考えだと思うわ。いざとなれば応戦すればいい事だし、万が一相手を殺してしまってもその時はお互い様と言う事かしら。」
吉永さんならそう言うと思った。彼女は生きるための術に関してはエキスパートだった。自分たちに害をなす人間なら排除してもやむを得ないと言う。
「しかし、里奈は逞しくなっちゃったわね。女優やってた時は右も左も分からないお嬢様だったのに。」
「瞳マネ。私だって生きるために必死だもの当り前よ。」
「そうね…。」
瞳マネが悲しそうな目をした。それもそのはずだった、彼女は時折、私と二人で話す時には平和な世界で女優業をさせてあげれなかった悔しさを話してくる。どんな女優にしたかったのかとか、世界に通用する女優にしたかったとかの夢を語る。
私も悔しくない訳じゃないが、子供を育てゾンビの世界を生きるうちにその気持ちは無くなってしまった。いまは一番生き残るのに確率の高い方法と、子供達の未来のための人間の確保を最優先に考えている。
「とにかく今度話しましょう。」
「わかった。」
私が言うと遠藤さんが頷く。
そして私たちは新しい場所へとたどり着いた。
京浜コンビナートだった。
丹沢に鹿を獲りに行った帰りに、次はここに来ようと言う事になっていたのだった。
「もしかするとここに人間がいる可能性もありますよね。」
「そうだな。」
道路には相変わらず乗り捨てられた車がたくさんあり、工業地帯に入っていくときもマイクロバスを進めるのに苦労した。
「こんなに道が荒れてるって事は…。」
「使われていないって事ですね。」
「恐らく人間が活動拠点にしていないのかもしれない。」
「ゾンビにやられてしまったとか。」
「もちろんそうも考えられる。」
視界が通った道路の1キロ以上先にはなんとなく動く者がいるような気がする。しかし私たちが進むと消滅してしまうので間違いなくゾンビだった。
「ゾンビはいますけどね。人間がいるかどうか。」
「感染してれば消えるのよね?」
吉永さんが言う。
「そうなります。」
「どのみち助からないって事ならしかたがないか。」
吉永さんはだいぶドライな考えをする。合理的と言った方が良いかもしれない、割り切った考えをした方が生き延びる可能性が高いのだとか。
私はそこまで割り切れない。
甘いかもしれないが、救える命があるのなら救いたいと思うのだった。
だが、遠藤さんや男児を連れて遠征した場合は、感染者に遭遇する事も無いだろうという結論になった。新しい場所に遠征をするときなどは彼らが必ず同行する為、生きている人間に会う可能性は低いだろうと思う。その時は最初から生存者にあうのは未感染の人と言う事になる。それでも生きた人間を救えるのだからいいと言う事になった。
それから数ヵ月はそんな状態で進んだ。
「遠藤さん。」
「なんだい、里奈ちゃん。」
今回の遠征で私は遠藤さんに聞いてみたいことがあった。丁度、車の後部座席に二人になったので話をしていた。運転席には瞳マネ、助手席には吉永さんが乗っている。聞いてみるには好都合なタイミングだ。
「千葉の事覚えてます?」
「ああ覚えてるよ。先生の新しい研究所を探しに行った時だろ?」
「そうです。」
「それがどうかした?」
「あの時、コンビナートから狙撃して来た人が居たの覚えてます?」
「もちろん。」
「恐らく私達がエネルギーを奪いに来た人間だと思われたんですよね?」
「たぶんね。」
「彼らはまだ生きてますかね?」
「‥‥。」
遠藤さんは少し沈黙した。そして何かを考えるように答える。
「東京のコンビナートや食糧倉庫には人が来てないんだよね。もちろん東京の人口から考えてゾンビが大量にいるかもしれないと思えば来ないよね。でも向こう側で食料はどうしてるんだろうって思うんだ。」
「そうですよね。食糧倉庫なども確かにありましたけど、東京近郊よりは数は少ないはずです。かなりの田舎でしたから。」
「もし生きていれば、海を渡ってくる可能性があるかもね。」
「ボートを入手できたらですよね。」
「そうだね。大型船舶じゃあ動かす事が出来るかどうかわからないし。」
「私は、再度確認しに行く必要があるんじゃないかと思うんです。」
私が言う。
あれからだいぶ時が経っているため、人間は全滅してしまったかもしれないし、さすがに弱って歩み寄ってくるかもしれない。人間はいつまでも争っていては、この世界を生きてはいられないと思うのだった。
「だけど、備蓄なんかがあればそれを守るために、攻撃してくる可能性はあるよな。」
「はい。ですが、今生存している可能性があるとすれば、あの時の人間だと思うんです。」
とはいえ、何人いるのか?どんな集団なのか?男女の比率は?何も分からないので、近寄るのは危険かもしれなかった。もしかすると遠藤さんのような力を持っている人が居るかもしれない、とも考えたのだが、それならば絶対東京に進出してくるはずだった。しかしあれから東京で人間と出会う事も無くなった。
「今度一度、みんなで話し合ってみる必要がありそうだね。」
「はい。」
そんな俺達の会話を聞いて吉永さんが話してくる。
「こちらも武装をしているのだし、それはいい考えだと思うわ。いざとなれば応戦すればいい事だし、万が一相手を殺してしまってもその時はお互い様と言う事かしら。」
吉永さんならそう言うと思った。彼女は生きるための術に関してはエキスパートだった。自分たちに害をなす人間なら排除してもやむを得ないと言う。
「しかし、里奈は逞しくなっちゃったわね。女優やってた時は右も左も分からないお嬢様だったのに。」
「瞳マネ。私だって生きるために必死だもの当り前よ。」
「そうね…。」
瞳マネが悲しそうな目をした。それもそのはずだった、彼女は時折、私と二人で話す時には平和な世界で女優業をさせてあげれなかった悔しさを話してくる。どんな女優にしたかったのかとか、世界に通用する女優にしたかったとかの夢を語る。
私も悔しくない訳じゃないが、子供を育てゾンビの世界を生きるうちにその気持ちは無くなってしまった。いまは一番生き残るのに確率の高い方法と、子供達の未来のための人間の確保を最優先に考えている。
「とにかく今度話しましょう。」
「わかった。」
私が言うと遠藤さんが頷く。
そして私たちは新しい場所へとたどり着いた。
京浜コンビナートだった。
丹沢に鹿を獲りに行った帰りに、次はここに来ようと言う事になっていたのだった。
「もしかするとここに人間がいる可能性もありますよね。」
「そうだな。」
道路には相変わらず乗り捨てられた車がたくさんあり、工業地帯に入っていくときもマイクロバスを進めるのに苦労した。
「こんなに道が荒れてるって事は…。」
「使われていないって事ですね。」
「恐らく人間が活動拠点にしていないのかもしれない。」
「ゾンビにやられてしまったとか。」
「もちろんそうも考えられる。」
視界が通った道路の1キロ以上先にはなんとなく動く者がいるような気がする。しかし私たちが進むと消滅してしまうので間違いなくゾンビだった。
「ゾンビはいますけどね。人間がいるかどうか。」
「感染してれば消えるのよね?」
吉永さんが言う。
「そうなります。」
「どのみち助からないって事ならしかたがないか。」
吉永さんはだいぶドライな考えをする。合理的と言った方が良いかもしれない、割り切った考えをした方が生き延びる可能性が高いのだとか。
私はそこまで割り切れない。
甘いかもしれないが、救える命があるのなら救いたいと思うのだった。
0
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
【R18 】必ずイカせる! 異世界性活
飼猫タマ
ファンタジー
ネットサーフィン中に新しいオンラインゲームを見つけた俺ゴトウ・サイトが、ゲーム設定の途中寝落すると、目が覚めたら廃墟の中の魔方陣の中心に寝ていた。
偶然、奴隷商人が襲われている所に居合わせ、助けた奴隷の元漆黒の森の姫であるダークエルフの幼女ガブリエルと、その近衛騎士だった猫耳族のブリトニーを、助ける代わりに俺の性奴隷なる契約をする。
ダークエルフの美幼女と、エロい猫耳少女とSEXしたり、魔王を倒したり、ダンジョンを攻略したりするエロエロファンタジー。
タイムワープ艦隊2024
山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。
この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる