上 下
96 / 139
橋本里奈の章

第96話 脱出の手がかり

しおりを挟む
ベキン!

ドアの碁盤の目のようになっている一部からは折れたゾンビの腕が、その隣の板の部分が外れかけていた。どうやらもう一体のゾンビが押し込んできているらしい。

ベギン!

「破られる。」

吉永さんがモップで抑え込んでいたドアのもう一部が取れた。するとそこからゾンビの頭が入り込んで来た。腕じゃなく気持ちの悪い腐った頭が顔を上げようとする。

パン!

菜子様が至近距離からゾンビの頭を打つと、ゾンビの頭は動かなくなってしまった。どうやらやっつけたらしい。

「よし!どうやらゾンビが詰まったらしいわ。」

吉永さんが言う。

「とにかくこの状態を維持しましょう。」

あずさ先生が言った。

恐らく死んだゾンビの、(死んだと言っても既に死んでいるのだが)後ろからゾンビが押しているようで、もそもそと穴から突っこんで動かなくなったゾンビが動く。

「あちら側にもバリケードが出来たようなものね。」

「ええ。」

とにかくドアの向こう側にはゾンビがいるものの、詰まってしまって入り込めないでいるようだった。そんなとき私が周りを見ているとある事に気が付いた。どうやら窓の上の方に小さな換気扇のような丸いプラスチックの部分があったのだ。

「見てください!」

「あれ、換気扇かしら。」

華江先生が言う。

「そうじゃないですかね?」

「何か乗る台のようなものが無いでしょうか?」

愛菜さんが言う。

「いまバリケードで全部使っているから、乗れるものはないわね。」

「あの、私を肩車できますか?」

私が愛奈さんに言う。

「やってみる。でも私ひとりじゃ里奈ちゃんを支えられないかも。」

「じゃあバリケードは3人で押さえましょう。吉永さんお願いできますか?」

「なら私が土台になるわ。愛奈さんが支えてくださる? 」

「分かりました。」

吉永さんがバリケードを押さえるのをやめて、こちらに来る。

「それじゃあ、しゃがむので里奈さんがまたがって。」

「すみません。」

しゃがみ込んだ吉永さんにまたがって、愛菜さんが私のお尻を押して立ち上がる。

「と、届きました!」

「外せるかしら!」

「やってみます。」

私が換気扇のような部分の円形のプラスチックを両手でつかんで引っ張る。するとプラスチックカバーのようなものが外れた。中を見てみるとそれは換気扇ではなかった。

「すみません。換気扇ではないようです。」

「何があるの?」

「監視カメラでした。」

「監視カメラ…。」

吉永さんがしゃがんで私を下ろした。

「この部屋ずいぶん徹底しているのね。」

「重要機密が隠されているんだわ。」

吉永さんと華江先生が言う。

ガン!

ガン!

ドアから何かが打ち付けられるような音がした。

すると首を突っ込んで死んだゾンビがズルリと抜け落ちる。

「あ!」

すると向こう側からゾンビの目がのぞいた。後ろから何度も押したおかげで詰まったゾンビが落ちてしまったようだった。塞がった穴が広がったおかげでゾンビは私達をみつけたようだった。私達を確認したゾンビはつかみかかる勢いでまた穴から腕を突っ込んで来た。

「さっきより力が強いみたい!」

ドアとバリケードごとぐらりぐらりと揺れて来た。

バギン

「ど、ドアが壊れた!」

ドアの上部が少し曲がってこちら側に折れてきそうだった。2カ所の板が壊れたおかげで弱ってしまったらしい。吉永さんがモップで必死にドアを押さえていた。

「このままでは時間の問題だわ。」

吉永さんが言う。

「でもどうすれば!」

「突破するしかないんじゃないかしら?」

「でも吉永!向こうにどれくらいゾンビがいるかわからないのよ。」

「しかし菜子様!このままでは!」

吉永さんと菜子様が良い争いを始めると、皆が蒼白になり何をすべきか分からなくなってしまったようだ。

「とにかく、銃を!銃は3丁あります!それを構えて1体ずつ倒していきましょう。」

吉永さんが言う。

「でも!」

「やるしかありません!」

菜子様と吉永さんのやり取りを聞きつつ私は震えていた。既に渡された銃も思うように握れない。

「里奈ちゃん!貸して!」

それを見かねた、あずさ先生が私から銃を取り上げる。

「合図をしたら一斉にドアから離れましょう!」

「はい!」

「3、2、1!」

みんなでドアを押さえていたバリケードから離れて後ろに下がる。

ゴン

ドン

バキ

バリケードを離れてもすぐにゾンビがなだれ込んでくる事は無さそうだった。私たちはただ息を呑んでドアの方を向いている。菜子様と吉永さん、あずさ先生が銃を構えていた。

「ドアが。」

ガギ

どうやらドアノブが壊れてしまったようだ。木で出来た部分が破損して薄っすらドアが押される。

「開いちゃう。」

私が言うと皆に緊張が走った。

ガン

しかし…

ドアがいきなり開くことはなかった。テーブルやロッカーなどが置いてあるのでそうそう入ってくる事が出来ないらしい。吉永さんがそろりそろりとドアに近づいて行く。

「吉永!何を。」

「1体でも入ってきたら撃ちます。至近距離の方が当たりやすいですから。」

吉永さんがドアの前に立って私たちは後ろで見ていた。

ズッ

ほんの少しだけドアが開いた。

グッ

吉永さんの腕に力が入る。

ズッ

また少しドアが押されると、その隙間からゾンビの体が見えた。

ズズッ

更に押された。既に5センチくらいの隙間が空いている。

パン!

吉永さんが銃を撃つと、見えていたゾンビの眉間に弾丸が吸い込まれて倒れていく。

「私の銃は弾が無くなりました。」

吉永さんが言う。

するとあずささんが吉永さんに近づいて自分が持っていたオートの銃を渡す。

「すみません。私は撃ったことが無いので。」

「いえ、助かります。」

吉永さんはそのオートの銃を構えてまたドアに向かう。

ズズ

更に5センチほど開くと、体をねじ込ませるように1体のゾンビが入ってこようとする。

パン!

ドサ。

「皆さん!この状態でバリケードを押さえてください!」

吉永さんが言う。

みんなは慌ててバリケードの方に行き5人で押さえ始めた。

「1体ずつ仕留めます。」

「「「「「はい!」」」」」

5人でバリケードを押さえこれ以上ドアが開かないようにする。

吉永さんが集中してドアの外を狙うのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...