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橋本里奈の章

第88話 プリンセスと共に帰還

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雑木林を抜けてマイクロバス迄みんなでやって来た。

私達6人と今回同行して来た10人を合わせると16人、マイクロバスは座席から考えると21人定員なので十分乗る事が出来た。

「ゾンビがいない?」

菜子様が言う。

「そうなんです。これが遠藤君の力なんです。」

栞さんが説明している。

「この道路のあちらを見てください。」

1キロほど先の場所を指さす。

「動いている人がいる?」

「いえ、あれがゾンビなのです。」

「遠くてよくわからないけどそうなのですね。」

「はい。」

「あれ以上は近づいてこないのですか?」

「はい、近づけないのです。」

「消えていると?」

「燃えるように。」

「・・・・・」

菜子様は呆然としていた。さすがにこんなバカげた力がある事に驚かない人はいないだろうけど。

車がそのゾンビがいる方向に走り出す。

「だ、大丈夫なのですか?」

「はい、問題ありません。」

どこまで走っても回りにゾンビが出てこないのでようやく信じてくれたようだった。

「お付きの人たちもご安心なさってください。」

「ええ。」

「本当なのですね。」

「はい。」

一緒に来てくれた人たちは服装もそれほど乱れてなく、小綺麗にしていた。恐らくあの場所にはそれなりの備蓄があるのだろう。

「それにしても…まさか女優さんが居るとは。」

「はい。私も助けられたんです。たまたま友人が遠藤さんと居合わせて助かりました。」

「皆様は日本の大切な国民です。今までよくぞ生き残ってくださいました。」

菜子様が私たちに言う。

街の中をマイクロバスが走ると荒廃した街並みが見えてきた。窓は割れ車があちこちに散乱して花壇の草木が荒れ放題になっている。

「こんな風になっていたんですね。」

「はい。皆さんがいた場所はもともと雑木林に囲まれていたので、菜子様も初めて見るのですね。」

あずさ先生が言う。

「はい。こんなことになるなんて、いったいどこからこんな病原菌が発生したのでしょう。」

「場所までは特定できないですが、今その研究をしている人の元へ行きますので。」

「このような世界でもそうやって活動される方がいるというのは頼もしいです。」

「はい。」

自分達がいるホテルまでの道のりには特に動く物は居なかった。ただ生存者はほとんど皆無だと思っていたところにこの10人がいてくれた事は、私たちにとっても希望だった。

「実はこの前、このメンバーで千葉のコンビナートに行ったのです。」

「はい。」

「その時生存者と思われる者に遭遇したのですが…。」

「どうしたのですか?」

「いきなり発砲されまして逃げてきたのです。」

「そんな…。」

「生き残った者でエネルギーの奪い合いがあったのかもしれません。」

「生き残った方々も相当切羽詰まっているのですね。」

「はい。すでに警察や自衛隊も崩壊したように思います。警視庁は死体の山でした。」

「ひどい。」

「とにかくこれからどうするか?どうやって生き残るかを集まった人たちで考えるべきだと思うのです。」

「そうですね。そういう考えを持った方々に出会えてうれしいです。」

そして私たちの拠点のホテルが見えてきた。ホテルに近づくと中から数名が出てきてくれた。

「ではここでバスを降ります。」

「降りて大丈夫なのですか?」

「はい。遠藤君がいますので。」

「わかりました。」

それは怖いに違いない。この荒廃した世界を見たら車を降りたくなくなる気持ちがよくわかる。私たちは慣れているけど彼女達からすれば抵抗があるに違いなかった。

おそるおそる車を降りる。

「このバリケードは迷路のように入り組んでいます。バスの入り口や隙間を作って真っすぐにいけないようにしてあるんです。有刺鉄線もあるので注意してください。」

「わかりました。では皆さん!行きましょう!」

菜子様の掛け声でみんなが進み始める。

ようやくバリケードを抜けてホテルの敷地内に入ると、みんなが出迎えてくれた。

「おかえりなさい。」

沙織さんが言う。

「え‥‥。」

翼さんが息を呑む。

「もしかしたら…菜子様ではないですか?」

「そうです。皆様もよくぞ生き延びてくださいました。」

「菜子様も!よくぞ今まで生きて。」

「もっと多くの人を助けたかったのですが、今はここに居る10人だけです。」

沙織さんと翼さんあゆみとみなみさんが、新たな10人を囲んで中に連れて行ってくれる。

「とにかく。まずは皆に食事を、恐らく備蓄されていた食事より豊富なメニューがあると思います。」

沙織さんが言う。

「ありがたいです。」

ホテルの正面玄関に入り鍵をかけた。

「里奈。まさかプリンセスを助けて来るなんて。」

あゆみが声をかけて来る。

「そうなんだよ。びっくりしたわ…」

「ね!まさかだよね。」

「とにかく助かって良かった。あとは官邸の事など調べたいことがあるらしくて。」

「なら華江先生なら何か知ってるかも。」

「だよね。」

そして私たちはエレベータに乗り込む。

「え!?電気が通っているのですか?」

「いえ。これは地下のガスタービンで発電しているんです。」

「エネルギーが確保できていると?」

「都心側のコンビナートは人間が全滅していて、何とかエネルギーが回収できるんです。」

未華さんが説明している。

「すばらしい。早く皆さんにお会いしたいです。」

「まもなくです。」

エレベータを上がりみんながいる場所へと向かう。

私達がみんながいる展望台の方へ行くと、そこに全員が集まっていた。もちろん私たちの子供もいる。

「子供がいる。」

菜子様の付き人吉永さんが言う。

「男の子も…。」

菜子様が言った。

華江先生が近づいてきた時だった。

「え!大角先生ではないですか?」

「菜子様!」

二人は顔を見合わせてそういうのだった。
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