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長尾栞の章

第81話 拠点候補探し難航

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私達の乗ったRV車は、国道には戻らずに一度茂原方面経由で行く事にした。湾岸道路を走ると私たちが置いて来たバス、もしくは他の車で追跡されるかもしれないと思ったからだ。

車は長閑な林に挟まれた道をひたすら太平洋側に向かっていた。

「なんかこの辺は、あちこちにゴルフ場があるみたいですね。」

愛奈さんが言う

「みたいですね。」

未華さんが答えた。

「えっとなんていうか森に囲まれた道を走ると、落ち着きます。」

私が言う。

「ああ、栞ちゃん。田舎は新潟だっけ?」

「はい。だから田舎の道ってなんか落ち着くんです。」

「このあたりには人も少なそうだしね。」

「ですね。」

田んぼや畑などもあり穏やかな気候も相まって平和そのものだ。

「こんな風景を見てるとゾンビの世界なんて嘘みたい。」

里奈ちゃんがポツリという。

「そうね。」

「ほんと。」

「でも、たぶんあの道の先の方にいるのはゾンビですよね?」

私が言う。

「消えたし…間違いないわね。」

私達の車が近づくにつれて1キロ先のゾンビが消えているようだった。1キロ先まで道がまっすぐで見通しが良い為、時より人影が見えてそれが燃えるように消えていた。

「でもスタンドアロン型でのナビがあってよかったわ。衛星も生きているみたいだしこれ地方も大丈夫なのね。」

「そうみたいです。でもときより道を大きくそれたところを走っているみたいに表示されますね。」

「しばらくたつと修正されるみたい。」

「いずれにせよ助かります。」

私達はネットワークにリンクしていないカーナビで走っているのだが、これが無ければ倍の時間がかかっていたはずだった。

「さすがにこっち方面には追いかけてこないと思いますよね。」

遠藤さんが言う。あの銃を発砲して来た人たちの事だ、実際は相手を見ていないが皆がそれを心配している。

「ええ、真っすぐ追いかけて来るとしても千葉方面だと思うし、ましてや今までゾンビに囲まれた状態から拠点を大きく離れるとは考えにくいわ。」

「そうですよね。」

遠藤さんが答えた。

「えっとここをまっすぐで茂原で、まもなく自動車専用道路をおりまして左に行きます。」

「オッケー。」

未華さんがナビを見ながら指示をすると愛奈さんが返事をする。

最寄りの十字路に到着して左折する。

「ここをしばらく行くと、千葉外房有料道路という道路が出てきますのでそれに乗ります。」

「了解。」

しばらく進むと目当ての有料道路が出てきた。

そこも問題なく侵入して進むことができた。恐らくあの数年前の事件の夜はそれほど車が走っていなかったらしい。

「この有料道路を走り続けます。」

しばらく走っていると未華さんが言う。

「有料道路を降りてまもなくですね。」

私達がカーナビを見ながら走っていると、地図上でどんどんその場所が近づいて来た。

「ここです。」

「ここがウイルス研究所。」

その建物は白い5階建ての何の変哲もない施設だった。

「発電機とかあればいいんですが、出来れば大型のジェネレーションシステムが。」

未華さんが言う。

「ですね。」

私が答えた。

「でも待ってください。」

「何?」

「いきなり近づいてズドン!は無いですかね?」

「‥‥無いとは言えないわね。」

「ですよね。」

「でもエネルギーも無いし、こんなところを拠点にするでしょうか?」

愛奈さんが言う。

「確かに…。」

あずさ先生も迷っているようだった。すると里奈ちゃんが言う。

「あの、もしそれなら入り口にバリケードなりなんなり作りません?」

「里奈ちゃんの言うとおりだ。特に何も無いし敷地内は荒れ放題の様だな。」

遠藤さんが言う。

敷地内にある木々は無造作に伸び放題で、芝生には雑草がボーボーと生い茂っている。玄関付近まで遮るものもなくここでゾンビを防衛しているとは思えなかった。

「ここはたぶん人はいないわ。」

あずさ先生がきっぱりという。

「俺もそう思います。里奈ちゃんの言うとおりじゃないかな?」

よくよく敷地内を見ると3人の言うとおりだと思えて来る。

「とにかく入りましょう。そして愛奈さんと里奈ちゃんは車で待機で良いんじゃないでしょうか?」

「そうね。建物は数百メートルしかないからゾンビは来ないわ。」

「でも念のため二人は車から降りないようにお願いします。何かあったらすぐにクラクションを鳴らしてください。」

「はい。」
「わかりました。」

私達はあの発砲事件からだいぶ慎重な判断をするようになった。このぐらい慎重でも恐らく危険は伴う。

バタン

私達4人は車を降りて歩いて行く。

「建物のドア空いてますね。」

「本当だわ。」

「これで人がいないのは確定ですね。敷地内でゾンビがいたらドアは間違いなく閉めます。ゾンビがいてもすでに消えているでしょうし。」

「とにかく台車を探しましょう。」

私達が台車を探すと、玄関のそばの総務部的な事務室に台車が立てかけてあった。

それを持って車に戻る。

「とにかく発電機を。」

「はい。」

3人で発電機を台車に乗せてライトを繋げて照らすと十分な光が得られた。そのまま台車をひいてライトで照らしながらビルの中に入っていく。

既にこういう作業は手慣れたものだった。皆それほど心拍数を上げることなくこなしていく。

暫く探したが…

結局ガスなどで発電する発電機は見つからなかった。

「ジェネレーションシステムが無いとなると、ここで研究を継続するのは厳しそうな気がします。」

未華さんが言う。

「高価そうな検査機器はいろいろあるのにね。」

あずさ先生が言う。

「機器をもっていきたい所ですが、どれが使えるのか見当がつきません。」

「ええ。さすがに華江先生がいないと私にも分からないわ。」

「残念ですが次を当たった方が良さそうですね。」

「じゃあ戻りましょう。」

この施設は結局空振りに終わってしまった。どう見てもセントラル総合病院の華江先生の研究室の方が優れている事が分かる。

「あずさ先生。」

「なあに?栞ちゃん。」

「という事は田舎でもコージェネレーションシステムがある場所なら、研究機器さえ運んでしまえばいいんじゃないでしょうか?」

「そうなんだけどかなり重量があるらしいのよ。」

「なるほど。それが運べない理由ですかぁ。」

「とにかく次に行きましょう。」

「わかりました。」

2ヵ所目の拠点候補もどうやら難しいようだった。

「あの。そのシステムがあるとすれば、施設の新しさと規模の大きさで考えた方がいいです。」

未華さんが言う。

「そう言う事ね。」

「はい。」

「それじゃあ最後の候補地を見てみて、それも含めて報告ね。」

「はい。」

そして私たちはまたRV車に戻るのだった。

車に戻ると里奈ちゃんが声をかけて来る。

「どうでした?」

私が首を振る。

「そうなんですかぁ‥。」

「でもなんとなく課題は見つかったような気がする。」

「それは?」
 
愛奈さんが聞いてくる。

「研究施設ありきで考えるより、施設の新しさや大きさで考えた方が良さそうなの。」

未華さんが答えた。

「わかりました。それでどうします?」

愛奈さんがあずさ先生に聞く。

「次は一流大学の千葉にある研究所。ある学部の建物があるらしいわ。」

あずさ先生が言う。

「それじゃあ移動する前に食事にしますか?」

遠藤さんが言う。

「そうしましょう。」

私達は微生物研究所の敷地でご飯を食べ始めるのだった。
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