上 下
62 / 139
長尾栞の章

第62話 親友と先輩が生き残った方法

しおりを挟む
栄養補給食品と水分を取ってなっちゃんとみなみ先輩は眠ってしまった。

私は唯人を抱いていた。

「よしよしがんばりましたね。」

私は気持ちを落ち着かせて、唯人の紙おむつを交換して母乳を与えていた。

胸が張ってたくさん母乳が出る・・

それを麻衣さんが微笑みながら眺めていた。

「なんか栞ちゃんママがさまになってきたわ」

「そうですか?」

「うん。最初はぎこちなかったけど今はすっかりママ。」

「確かに慣れてきたかもしれないです。夜泣きにもだいぶ慣れたし。」

「私にも子供が生まれるんだなあ・・」

「はい。」

そして母乳を与えているうちに唯人が眠ってしまった。

「麻衣さん唯人と二人を見ていてください。」

「うん。」

病室に戻ると梨美ちゃんがベッドに横たわっていて、側らに座るあずさ先生がこっちを振り向いた。

「意識はまだ戻らないわ。お水を・・」

「持ってきました。一応ゼリーも。」

「口を湿らせてみる。」

「はい。」

すると梨美ちゃんに反応があった。

「点滴も見つけたけど常温だったから・・」

「ダメでした?」

「ひとつ開封してみたけど大丈夫そうだった。奈美恵さんなら分かると思うんだけど・・」

「どうしましょう。」

「与えるしかないわ。じゃないと彼女が危ない、おそらく大丈夫なはず。」

「はい。」

あずさ先生は梨美ちゃんの脇に点滴をさげ、彼女の腕に針を刺した。

「祈りましょう。」

私とあずさ先生がじっと梨美ちゃんを見つめる。

呼吸はしているようだったが、か細い。

1時間程度で点滴が全部落ちた。

すると。

梨美ちゃんが目を開いた。

「こ・・こは・・」

「梨美ちゃん!」

「・・えっ・・栞ちゃんが・・いる・・」

「そう!栞よ!なっちゃんもみなみ先輩も無事!」

「・・そう・・よかった・・」

梨美ちゃんはまだ朦朧としているようだった。

「梨美ちゃん。休んでいいの、もう助かったんだから。」

「・・え・・たすか・・」

「そうよ!もう大丈夫!」

「よか・・た・・本当に・・」

「ええ。安心して。」

梨美ちゃんがかすかにほほ笑んでいる。

すっ

ふいに梨美ちゃんの目が閉じられた。

「え!梨美ちゃん!」

私は梨美ちゃんの手をぎゅっと握った。

「梨美ちゃん!!」

「栞ちゃん彼女は大丈夫よ。どうやら眠ってしまったらしいわ。点滴で少し回復したみたい。」

「よかった。」

ポロポロと涙が出て来る。

失いたくない・・とにかくなんとか回復してほしかった。

「私が見ているから大丈夫よ。」

「いえ私もここにいます。」


そのまま夜になってしまった。

梨美ちゃんはずっと眠っているようだった。  

すると・・

「梨美ちゃんは?」

病室の入り口からなっちゃんが声をかけて入ってきた。

「大丈夫よ。」

あずさ先生が答える。

「梨美ちゃんはなんとか持ちこたえてくれたみたい。」

私も言う。

「よかった・・」

なっちゃんがふらふらになりながら梨美ちゃんそばに座る。

「なっちゃん!大丈夫?」

「うん。ありがとうしおりん。しおりんが水とゼリーをくれたから少し回復したみたい。」

「ちょっとまってて、まだ食べ物あるから取ってくる。」

「うん・・」

私が車に行くと麻衣さんが唯人を見ていてくれた。

車は冷房がつく為、唯人を寝せるのに車にいてくれたのだった。

過ごしやすい為、みなみ先輩もここに寝ていた。

「唯人は?」

「大丈夫ねているわ。」

「みなみ先輩は?」

「さっき少し起きたけど、水を飲んだらまた寝ちゃったみたい。」

「あ・・すみません・・起きてます・・」

みなみ先輩が目を開ける。

「あ、そうなんですね。失礼しましたうるさかったかしら。」

「いえ。」

「みなみ先輩、今日はもうこの時間なので動けなくなってしまいました。病院の中に入りましょう。みなみ先輩は歩けますか?」

「なんとか。」

そしてふらつきながらみなみ先輩が立ち上がって、麻衣さんの肩を借りながら車を降りて行った。私は唯人を連れて車からビニール袋ごと食料をとり車に鍵をかける。

「これでよし。」

そして遅れて病院に入って行くのだった。

「ベッドが3つあるからそれぞれ横になるといいわ。」

「はい・・」

「わかりました・・」

なっちゃんとみなみ先輩がそれぞれのベッドに眠る事になった。

すると・・なっちゃんが聞いてくる。

「あの!でもここに居たらあいつらが来ますよね?」

「ゾンビ?」

「はい。あいつらは夜でも動くんです!」

「大丈夫なのよ。」

「えっ?」

「説明は明日の朝するわ、とにかく今日は眠った方がいい。麻衣さんもね。」

「すみません。」

あずさ先生は妊婦の麻衣さんにもソファーで横になるように進める。

私は唯人を抱いて、なっちゃんのベットの脇の椅子に腰かけた。

「やっぱりゾンビから逃げ回ってたんだね。」

「うん・・ゾンビ来ないの?」

「大丈夫よ。安心して眠って。」

「うん・・」

私が手を握るとなっちゃんは目を閉じた。

「彼女達は、大変だったみたいですね。」

私があずさ先生に声をかける。

「そうみたいね。」

「私達が通りかからなかったらもう・・」

「ええ間違いなく終わってたわね。」

「本当によかったです。友達とサークルの先輩なんです!」

「奇跡よね。栞ちゃんは強い運を持ってるみたい。遠藤さんの隣に住んでいたりとかね。」

「我ながらそう思います。」

思い返してみれば私は本当に運がいい。

今回のことだって・・普通だったら彼女らは助からなかった。

なっちゃんもみなみ先輩も梨美ちゃんも、ボロボロだけど生きていてくれた。

それを考えただけでポロポロと涙がでてくる。

とにかく今日はゆっくり休んでもらって明日いろいろ話そう。

これまでの事とこれからの事を。

「ね・・唯人。私達の事もなっちゃんに教えてあげなくちゃ。」

静かに眠り始めた4人の寝顔を見て安心した。

唯人は腕の中で眠っている。

「夜泣きしたら、隣の部屋に移った方がいいかな。」

皆をおこさないようにと思うのだった。


朝になった。

私は何度か夜泣きする唯人に起こされたので少し眠かった。

さらにあずさ先生と私が交代で起きて、衰弱していたみんなの様子を見ていた。

「ふう。どうやら梨美さんは顔色が少し戻ったみたいね。」

目を覚ました梨美ちゃんにあずさ先生が声をかける。

「あの先生。胸が少し痛いです・・」

梨美ちゃんが答えた。

「ごめんなさい。心肺蘇生で、もしかしたら肋骨にひびが入ったかもしれないわ。」

「そうなんですね?とにかく命を助けてくださってありがとうございます。」

梨美ちゃんがホッとした表情を浮かべる。

「あの、ちょっとした食べ物があるのでどうぞ。」

私が言うと、なっちゃんとみなみ先輩が言う。

「えっと貴重な皆さんの分をこれ以上もらえない。」

「そう、必死な思いで集めた食べ物なのでは?」

「ううん。まあ必死な思いではあるけど、まだ拠点に帰ればたくさんあるから。」

私が言うと、あずさ先生が言う。

「私達は大丈夫よ。麻衣さんだけお腹の子のために少しもらったらいいわ。」

「じゃあ私はこのクッキーを4,5枚とお水をいただくわ。」

麻衣さんはクッキーを取りペットボトルの水を受け取る。

「3人はいきなり食べると胃が受け付けないから、クッキーも溶かすように食べてほしいの。」

あずさ先生がみんなに促す。

「わかりました・・それでは遠慮なく。」

「ありがとうございます・・」

「なっちゃんもみなみ先輩も遠慮しないでね。」

「うん。」

「ありがとう。」

そしてなっちゃんとみなみ先輩がクッキーを口の中で溶かすように食べていく。

「梨美さんは栄養補給ゼリーの方がいいわね。」

あずさ先生が梨美ちゃんに栄養補給ゼリーを渡してあげる。

「ありがとうございます。」

「ゆっくりでいいわ。」

「はい。」

そして3人がご飯を食べている間に、私は懐で温めておいた水入りの哺乳瓶を取り出す。

そして携帯用に持ってきた粉ミルクを入れてシェイクする。

「おいで。」

私は唯人を抱きかかえて哺乳瓶に入ったミルクを与える。

唯人は勢いよく飲み始めた。

「あの聞いていいのか分からないんだけど・・しおりん。その子は?」

なっちゃんの意識もはっきりしてきたみたいで聞いてくる。

「えっと私の子よ。」

「えっ!?」

「栞ちゃんの!?」

「栞さんが子供を!?」

なっちゃんと梨美ちゃんとみなみ先輩が目を見開いて驚いていた。

「うんいろいろあって、どうしても子供が必要だったの・・」

「えっ?どうして?相手は?」

なっちゃんが驚いて聞いてくる。

無理もない2年前は私も3人も大学生だった。

それが子供にミルクを飲ませていて、それが自分の子だというのだし驚かないわけはない。

特になっちゃんは親友だし。

唯人君の消息もつかめていないのに、どうして子供がいるのか納得いかないだろう。

「えっと私から説明するわ。」

あずさ先生が私たちの空気を見て話し始める。

「実はね、私は麻酔科医なんだけどもう一人仲間に天才外科医がいるの。その人はウイルスなどにも精通していてね・・その人がある人の子を妊娠する計画を立てたのよ。」

「ウイルスの博士かなにかですか?」

みなみ先輩が聴き直す。

「まあそんなところかしら。」

「それがどうして子作りになるんですか?」

「私達と一緒に、ゾンビウイルスを消してしまう不思議な能力を持った男の人がいるの。」

「えっ!男性が生き残っているんですか?」

「やっぱりそう思うわよね。私たちもそうだった。その人はゾンビウイルスを寄せ付けず、更にその細胞はゾンビを消去してしまう力を持っていたのよ。」

「消去ってそんな・・そんな人がいるんですか?」

なっちゃんも驚いている。

「いるのよ。そしてねその細胞を研究した結果、ゾンビウイルスを燃やしてしまうという摩訶不思議な能力を持っている事がわかったんだけど。」

「ゾンビウイルスを・・燃やす。」

「ひょっとして少し心当たりがあるかしら?」

「はい・・」

なっちゃんは思い出して怖くなってしまった様子だった。

「私が話します。」

「どうしたの。」

「はい、私たちは車を乗り継いで生活していました。ゾンビを振り切って無人の土地に行ってはコンビニに車ごと突っこんで、窓からとれるだけ食料をとってゾンビが群がる前にそこを離れる。そんな生活をしていたんです。」

「2年弱も?」

「はい・・」

「それは・・辛かったわね。」

「細々とそうやって暮らしていたのですが、転々としているうちに栄養が足りなくなってきて、だんだんと力が無くなって言ったんです。」

「それがその結果ね。」

「はい。」

「そして?」

「はい、私たちは既に限界でした。食べ物をもっと大量に求めて業務用スーパーに突っ込んだのです。」

「なるほど。」

「そしたら中にたくさんのゾンビがいて車がつっかえって、もたついている間にあっという間に取り囲まれてしまって・・」

「どうしたの?」

「3人でずっと車の中から出られなくなってしまいました。ゾンビは私達を取り囲んで車を揺らし続けました。自動ドアの隙間とかに挟まっているような状態で・・」

「それであの状態に?」

「辛うじて車内にあった水と食料でしのいでいたんですが・・トイレは後部の荷物置き場のダンボールにするようにして・・」

みなみ先輩となっちゃんと梨美ちゃんがポロポロと泣いていた。

確かにクルマの中は凄い異臭がしていた。その原因がわかった。

「その状態で10日くらい生きていたのですが・・体力のない梨美ちゃんが意識をなくして。でもいざという時の為にエンジンは切ってて」

「どうしたの?」

「そしたら急に!ゾンビが燃えて消えたんです。あっという間にいなくなってしまったんです!」

「そうね。わかるわ、それは私達も経験した。」

あずさ先生が冷静に言う。

「そうなのですね。」

「・・あなたたちよく耐え忍んだわね。」

あずさ先生が泣いていた。

私も・・

麻衣さんも・・

本当に凄い。

《3人は必死に生きたんだ・・》

「そうねそれがゾンビを消す力を持つ男の人の能力よ。」

「それと子作りとどういう・・?」

「彼の子を宿すと宿している間は同じ力を持つの。そして生まれた子が男児ならその力を引き継ぐのよ・・」

「ひょっとしてこの子が・・」

「ええそうよ。彼が栞ちゃんに産ませた第一号の男の子。」

なっちゃんとみなみ先輩と梨美ちゃんが赤ちゃんを見る。

私は彼女たちに伝えるのだった。

「この子の名前は唯人。」

3人とも私の気持ちを知って滝のように涙を流すのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

【R18】ショタが無表情オートマタに結婚強要逆レイプされてお婿さんになっちゃう話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

【R18】【BL】執着白ヒョウに好きな女の子を奪われ、捕食されたハリネズミの話

ペーパーナイフ
BL
ハリネズミのケモミミであり、男子高校生のロンはいじめっ子で白ヒョウのハクが嫌いだった。 中学生になり、彼が転校したことで縁は切れたはずだった。なのにまた日本に戻ってくるなんて…。イケメンな彼はクラスの人気者だけどなぜか俺ばかりに執着する。 そんなとき俺が密かに思いを寄せる女の子、ウサミちゃんの存在が彼にバレてしまい…。 「ロン、全部忘れるぐらい気持ちよくしてやる」 注意⚠ 男女のカップルが登場します。 攻めが女の子と付き合います(接触なし) エロ濃いめR18(リバ、妊娠なし) 自慰、挿入、本番あり

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

処理中です...