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長尾栞の章

第49話 いきなりエッチに備える

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ついに遠藤さんへED治療薬の投薬が始まった。

治療1日目。

そして私たちは全てを遠藤さんにゆだねた。

一度、女性達が考えた管理体制から彼を解き放ってあげる事にしたのだった。

どうしても管理されると彼にプレッシャーがかかってしまうからだ。

私もそれが自然かなと思う。

いずれは計画を元に戻すか微調整しなければいけないと華江先生も言っていたけど、今は彼の心の問題を最優先にしてあげることが最善だと結論づいた。

彼は本当に凄い人だし必ず克服できると思う。

「昨日の今日で彼はどうするのかしらね?」

沙織さんが言う。

沙織さんと私はレストランでお茶をしながら話していた。

私はと言えば沙織さんと愛奈さんからだいぶ疎遠されていたのだが、先日の一件ですでに仲は修復しており一緒に話すようになった。

「すでに彼に選択権がありますからね・・私たちはそれを待つだけです。」

「そうね。彼もどうやら決心ついたようだったし。」

「条件も全て取り払って女性たちはただ待つのみですね。」

「全て白紙って事よね。」

「はい。」

ルールはない。

遠藤さんは、いつでもどこでも誰とでも自由にしていい事になっている。

誘って性交してもいいし気が向かなかったらしなくてもいい、やる気になったタイミングで自由にしていい事になっている。

かなり自由な状況を作り出して女性は彼の全てを受け入れる。

それだけだ。

「今、ここに急に彼が来るかもしれないって事よね?」

「そういう事になりますよね。」

「こんなこと言うのもなんだけどさ・・」

「なんです?」

「ドキドキしちゃう。」

「えっ!そうなんですか?」

「だっていきなり・・急によ。」

細身で眼鏡をかけた隠れ美人の沙織さんが言うのはちょっと意外だった。

でも・・真面目で地味目な見た目だからといっても、男性とお付き合いした経験もあるし特におかしなことではない。

「私は」

「うん。」

「・・ちょっと怖いです。」

「そうよねぇ。それぞれ感じる事は様々よね。」

そう今回の件・・ウキウキしている人もいれば、私のように緊張したり怖がったりしている人もいる。

未経験の里奈ちゃんや未華さんも私と同じような心境らしかった。

逆に同じ未経験組でも翼さんはワクワクすると言っていた。

華江先生は私だけにポツリと・・「一番年増だけど彼はきてくれるかしら・・」とぼやいていた。

「だってさぁ彼は一回で一人だけを相手するとも限らないのよ!」

「えっ?そんなことしますかね?」

「まあしないとは思うけど、可能性が無いとは言えないわよ。」

私はちょっと自分の顔が赤くなるのが分かった。

「そんなぁ」

「まあ彼も初めてだからそれはないと思うけどね。」

「はぁ・・」

待つだけの女性陣の方が気持ち的にちょっと負担がある。

「栞ちゃんはどうする?」

「どうするもなにも、もちろんすべてを受けいれます。」

そんなことを言っていられない現実を見た。

あんなことがこの都市で・・いや世界中で起きているのだ。こんなところで止まっていられない。

覚悟して進むだけ。

「私の予想では遠藤さんは、きっと一番好きな人に最初に行くと思います。」

「私もそう思うな。」

「でも私じゃない。」

「私でもないわ。」

「私、二人きりの時に好きな人じゃないと言われてますから。」

「うん、それ意外だったなあ。私はてっきり栞ちゃんだと思ってたわ。」

「でしたよね・・」

「ごめんねー。だってさ!こんなに可愛くてスタイルも良くてさ、誰の手の垢もついていない女子大生よ!好きにならない方がおかしいと思うのよ。」

「そんなそんな!私なんてそんな凄いものではないですから!!」

「いやあなた相当のものだけど・・。前ね私と愛奈、あずさ先生、華江先生、瞳さんの5人のお姉さん組でね、話し合った事るのよ。」

「何をですか?」

「遠藤君が誰を選んだのか。」

そんなことをお姉さん組で話していたんだ。

という事はお姉さん組に遠藤さんが好きな人はいなかったって事かな?

「で、どういう結論に?」

「それはね・・」

沙織さんの話ではこうだった。

優美さんは最初にトライして玉砕したからまずは可能性が低い。可愛いけど常に化粧をして髪をセットする徹底ぶりにあざとさも見える、男性経験が豊富なのも遠藤さん的には選ばないのではないかと除外される。

あゆみちゃんは女子高生で年下だけど男性経験はある。ちょっとギャルっぽい風貌で遠藤さんのタイプじゃないのかなという事。未成年と言うところで真面目な遠藤さんの中ではタブーになっているんじゃないかと思われた。

里奈ちゃんは女優橋本里奈を抱けるという男の夢があると思われた。しかし里奈ちゃんはあゆみちゃんと同じ未成年と言うところが、遠藤さんの中のタブーとしてあると考え除外。

奈美恵さんは、あの悩ましい巨乳とナイスバディで可能性が高いと判断された。しかし・・彼女と遠藤さんが親しく話しているのをあまり見た事が無く、趣味などがあっていない事から本命ではないと推測された。

そこで絞られたのが4人。

翼さんはまず見た目。このグループの中でも1,2を争う美人。背も高いし白い肌がその綺麗さに拍車をかけている。遠藤さんより5歳ほど上だけど、ボーイッシュながらもその優しげな目が彼の好みではないかという事。ただ未経験と言う事でそこがどう転ぶかのポイントだった。

未華さんもかなり可能性が高いと考えられた。黒髪で真面目な性格、目力があるけど優しい性格がずば抜けていて気配りが出来る。透明感のある演技派女優のような存在感は、このタイプが好きな男性には他に選択肢など考えられないはず。しかし彼女も未経験という部分がどうなるのか分からない。

・・というわけで・・

麻衣さんが遠藤さんが選ぶであろう筆頭候補だったらしい。

見た目的にはこのグループの中でもトップクラスで、多少の男性経験もあり柔軟な性格が遠藤さん的には相性抜群ではないかと。

白い肌は翼さんと同じように彼女のアイドル的可愛さに拍車をかけている。そして同い年という事もあり、よく話している光景を見かけるという事だった。ニコニコしながら彼女と話している遠藤さんを目撃している人は多い。

そしてもう一人の候補が私らしかったのだ。

彼女らが言うには・・

私は見た目的に上位と並ぶという事だった・・

《そんなことは無いのに。》

最初から一緒に居た事と趣味が合っているという事。年齢的に少し年下で付き合う対象年齢としては丁度いいという事。私の年齢なら未経験と言うのもそれほど珍しくないという事が、皆が私じゃないのかと想像した要因らしい。

「・・・という事なのよ。」

「そうなんですね?」

「ええ、でも栞ちゃんが違うとなれば・・」

翼さんか麻衣さんか未華さん・・

近いうちに彼女たちに新たな発展があるかもしれない。

お姉さん組の推理を聞いていると妙に納得が出来た。

「だと・・急にここに来るということは。」

「・・ないわね。」

少しがっかりした。

「でも栞ちゃん。遠藤君はこの世界で大変になってしまった反面、男のロマンも手にした気がするのよね。」

「ロマンですか?」

「自分が世界を救うかもしれない・・普通に考えたら物凄い重たい話だけどね。でも自分の肩にかかったものが世界の命なんてね・・物語の英雄のようね。」

《そうだ・・彼は英雄かもしれない。》

私達は英雄を支える名誉ある仕事をもらった。そう考えると逆に気持ちが楽になるのだった。


「ふう。」

彼の治療が始まった次の日の朝・・

来なかった・・

《私の元へは。》

そんなに期待してたわけじゃない。

でも期待して無かったわけでもない。

正直、昨日は寝る前に念入りに体を洗った。軽く香水をふってみた。軽く髪を巻いた。歯を磨いて念入りに口臭予防のうがいをした。ムダ毛のチェックもした。かわいい格好をして眠った・・いや・・寝れなかった。

でも結局遠藤さんは私のところには来なかった。

《うーん・・これからこれが毎日?》

はるか昔、大奥の女性たちの気持ちはこんな感じだったのだろうか?

ヤバイわ・・

維持できるのだろうか?毎日自分を磨き続ける事なんてできるだろうか?

しかしその日は必ず来る。

私は寝たか寝ないかわからないような気怠い体を、ベッドから起こして身支度をする。

「さて・・」

今日は料理当番だったので、皆が起きる前に足早にレストランに行く。

レストランではすでにガサゴソと音がしていた。キッチンに居たのは今日一緒に食事当番をする愛菜さんだった。

《愛菜さんもなんだか眠そうだけど・・》

「愛菜さん早いですね!おはようございます。」

愛菜さんに近寄って行くと、ほのかに嗅ぎ慣れない香水の匂いがした。

「栞ちゃん眠れた?」

「それが眠れなくて。」

「私もよ・・」

「そうなんですね・・」

二人でどんよりした空気を発していた。

「栞ちゃん香水って珍しいね。」

「愛菜さんも・・」

「うふふふ」

「あははは」

2人は同じ状況だった事を理解して笑い出す。

「やっぱりさ!そうなるよね?」

「なりますよー!」

「毎日ばっちり眉毛描いて寝るの無理だわ。」

「私も・・リップが枕カバーについてましたよ。」

私たち二人はみんなで食べる朝食を作りながら話している。

「彼を一人待ち続けるのって・・ちょっと辛いわよね。」

「でも、遠藤さん完全フリーという決まりを作ったので、それはしばらく続きますよね?」

愛奈さんはちょっと考えるように黙る。

「遠藤さんから選ばれた人が誰か分からないけど、その人を正妻という事にして振り分けてもらったらいいのかな?とか思ったりして。」

愛奈さんはいい事を思いついたと言わんばかりだった。

「それって大奥で言うところの御局様ですかね?」

「そう。本当は正妻とかがするんじゃなくて乳母だったと思うけど、もちろんここは大奥じゃないから無理よね。でも・・やはり正妻に選ばれた人に振り分けられた方が他の人は気が楽というか・・」

「たしかに・・」

「私・・大奥のドラマ好きだったのよね!それで思いついただけだから栞ちゃん忘れてちょうだい。」

愛奈さんはきっと寝不足で、ちょっとおかしなことを考えだしたのかもしれない・・

「良い案ね・・」

「!」

「!」

ガイイン

私と愛奈さんは二人でビックリした。つい鍋の蓋を落としてしまった。


「わ!」

「あ、ごめんなさい・・驚かせちゃったわね。」

そこにいたのはあずさ先生だった。

「今のは良い案よね!正妻に選ばれた人が次の采配を振るう!」

「あ、いや私が大奥とか好きだったので思いつきですけど。」

愛奈さんが気まずそうに言う。

「いや・・でもさあ。遠藤さん的には自分が好きな人が、次の相手を振り分けるんだから仕方ないみたいなとこあるじゃない!」

「ですよね。」

そういわれてみればそうだった。

好きな人の前で次はこの人って遠藤さん自身が選び辛いかもしれない。

でも正妻に選ばれた人が振り分けるのなら、遠藤さんも気分的に問題は無いと思う。

「それ!いいですよね?」

「本当だ。遠藤さんの気持ち的にも楽になりますよね。」

「そうよね!」

愛奈さんと私とあずさ先生が納得する。

「でも・・その正妻に選ばれた人が、女子高生の里奈ちゃんやあゆみちゃんだったら?」

「そうですよねー。次の人を決めていくなんて女子高生にはキツイかも。」

「たしかに・・」

そうこうしていると食堂にあゆみちゃんと里奈ちゃんがやって来た。

「おはようございまーす。」

「聞いてましたよー!私たちが何を決めるのが辛いんですか?」

「あ、いや・・それは・・」

私が口ごもってしまう。

するとあずさ先生がきっぱりと話す。

「えっとね。遠藤さんが選んだ好きな人からね、次に遠藤さんと交わる相手を選んでもらったらいいんじゃないかって・・」

「えっ!私はいいと思います!」

「私もそう思う!」

意外にも女子高生の賛同を得られた。

里奈ちゃんとあゆみちゃんも・・どうやら眠れなかったようだった。

そして二人も薄っすらと化粧をして香水をふっていた。

《やっぱり私たちと同じように思っていたんだ。》

「おはよう・・」

「皆さんお揃いですね。」

「あら?何か密談?」

入って来たのは瞳さんと沙織さんと奈美恵さんだった。

どうやら・・彼女たちもおしゃれをしていたようだ。

どこか気だるそうな眠そうな雰囲気だ。

そして彼女達も遠藤さんに選ばれた人ではない事が分かった。

「みんな早いわね。」

「おはようございます・・」

続いて華江先生と未華さんも入って来た。

そして、この二人も多分に漏れず少しおしゃれをしていて香水の香りがした・・

さすがに皆が香水をふっているとレストラン内は香りがきつくなってきた。

「どうやら・・皆も考える事は同じだったか・・」

華江先生がポツリと言った。

「えっと来ていないのは・・」

「あと3人と・・遠藤君ね。」

《という事は残り3人の中に遠藤さんが選んだ相手が居るという事だ・・》

優美さんと麻衣さんと翼さん。

大本命が2人も入っていた。

私たちは固唾をのんで次に入ってくる人を待つのだった。
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