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長尾栞の章

第38話 妊娠組第一号にエールを

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年が明けた

「ハッピーニューイヤー!」

展望台に集まってみんなで乾杯をする。

「ふう・・ハッピー・・か・・」

「ですよ。」

「きっといい事あります!」

「ほんと皆で何とかしていこうね。」

「そうですよ。頑張りましょう。」

みんながいろんな思いを抱いて新年を迎えた。

《しかし・・今のこの世界で、こんなに穏やかなお正月を迎えた人はいるのだろうか?すべては遠藤さんのおかげ・・》

こんな時だからこそ、私たちは正月三が日は自由にすごそうと決めた。

ただし6人だけをのぞいて・・

そして・・・

子作り計画だけは元日から遂行する事になっていた。

《いわゆる〇はじめと言うらしい・・そんな言葉しらなかったわ・・》

この中で遠藤さんと、私を含めた5人の女性だけがソワソワしているように見える。

それは・・・

昨日の大みそかに第一期妊娠候補の人たちが集まって話し合いがもたれたのだった。

私とあゆみちゃん里奈ちゃん瞳さん優美さんの5人だ。

その内容は誰が最初か。

里奈ちゃんは女優の仕事をしてはいるが高校生で未経験ということもあり、先発から外されて5人の中で最後にという事になった。

私とあゆみちゃん瞳さん優美さんの4人で先発を決めた。

《あゆみちゃんは高校生ながらも経験済みなので大丈夫と言っていたけど・・そうなんだ・・わたし何をどうすればいいのか分からないわ。》

「じゃあくじ引きで決めますか?」

あゆみちゃんが提案した。

《ドキッとする・・くじかぁ・・》

「それが良さそうね。」

瞳さんが言う。

「じゃあ私がくじを作ります。」

「お願い。」

私がくじを作る事になった。

紙に1,2,3,4の番号をふったくじを箱の中に入れて皆の前のテーブルに置く。

「じゃあ一斉に引きましょう。」

瞳さんが言う。皆が箱に手を突っ込んでくじを握った。

「せーの!」

私は4番だった。

1優美さん

2瞳さん

3あゆみちゃん

4私

5里奈ちゃん

の順番となる。

「よし、これで決まりね。」

優美さんがみんなに言うと皆が頷いた。

優美さんはどの順番になっても良かったようでケロッとしている。

それが昨日の夜の出来事。


そして今日、お正月を迎えてとうとう作戦が開始されることになったのだった。

遠藤さんは椅子に座ってみんなと話をしている。

「今年は皆さんいろいろやる事がありますね。」

《そ・・そうだ!や・・やることがある!》

私は内心動揺していた。

「遠藤君だって大変よ。」

「はい。先生・・」

「まああまり緊張せずにリラックスしていくといいんじゃない?」

彼は華江先生から励まされている。

「遠藤君はまじめだからねぇ」

あずさ先生も少しからかうような口調で遠藤さんの肩に手を回して言う。

遠藤さんは赤くなっていた。

「リラックスリラックス。」

あずさ先生がするりと肩から腕をはずすと、奈美恵さんが後ろから遠藤さんの肩を揉み始める。

医療チームが最初の優美さんのために、遠藤さんを優しくフォローしているのだった。

「ほら足を出してください。」

翼さんが椅子を用意して遠藤さんの足を置かせて軽く足ツボをマッサージしていた。

翼さんも後輩がこれから頑張る事を知っているので、少しでも役に立てるように協力している。

遠藤さんがリングサイドのボクサーのようだ。

その後はみんなとオーブンでお餅を焼いて食べた。

海苔まきとあんこ餅を用意して2種類を味わう。

やはりお正月はお餅がいい。

みんなでのお餅タイムが終わってそれぞれの部屋に戻っていく。

私は優美さんと一緒の部屋に居た。

優美さんは化粧直しをしながら私と話をしている。

「優美さん大丈夫ですか?」

「ん?大丈夫よ。心配いらないわ。」

「好きな人とじゃないのに・・」

「えっ?私、遠藤さん好きよ。」

「そうなんですね!よかった・・でも私も遠藤さんは嫌いじゃないです。」

「天然なとこあるけど、勇気があって男らしいわよね。」

「はい。」

「普通の男だったらもう逃げてるんじゃないかな?」

「確かに・・遠藤さんは逃げませんよね。立ち向かっていきます。」

「そうなのよ。地味な人だけど必ず先頭に立つ。引きこもりだったなんて言うけど、普通の世界だったらリーダー向きの性格よね。」

「そうなんですね。」

「まあ彼はまだ新入社員だったらしいから、まだそんな能力を発揮する場なんてなかったと思う。私も短大を出て社会人3年目だし彼とあんまり変わらないんだけど、ああいう上司だったらいいなって言うのはあるわ。」

「優美さんは彼と同い年でしたね。」

「うん。」

優美さんはくりくり目の可愛い顔でににっこりと微笑む。この状況でも髪は綺麗に染めていて、明るめの栗色ヘヤーがかわいい癒し系女子だった。

「優美さん。これから・・遠藤さんの所に行くんですよね。」

「うん。でも彼は私が最初でいいのかなあ?って気持ちもあるけどね。」

「・・どうなんでしょうね。彼は何も言わないから・・」

「前に彼のメンテナンス作戦をした事あるでしょう?彼マッサージするだけでは、何の反応もしなかったように思うのよ。」

「いやー。優美さんみたいな可愛い人からいい寄られる事なんて、きっと彼の今までの人生でなかったから緊張していたんだと思いますよ。」

「まあそれならいいんだけど・・彼女いない歴22年って言ってたもんね・・」

「そうですよ。そんな彼の一番最初の相手が優美さんのような可愛い人なんて、世の男達からみたら羨ましい以外の何物でもありませんよ。」

「ふふ。栞ちゃんは優しいなあー。私のモチベも上げようとしてくれて・・」

「年下なのに差し出がましい真似をしてすみません。」

「えっ!謝らなくていいよ。栞ちゃんみたいに可愛い子に可愛いって言われて嬉しくないわけ無いじゃない。」

「そんな!とんでもないです。私は優美さんの様な魅力的な女性になりたいですもん。」

「ありがとう。」

優美さんがニコっと笑った。

《人懐っこい笑みがかわいいなあ・・》

「じゃあ・・そろそろ行って来るわ。」

「あの・・頑張ってください。」

「あはは、頑張ってくる!言うのもおかしいけどね。行ってきまーす!!」

化粧もバッチリ決まったようで、優美さんは元気よく部屋を出て行った。


優美さんが出て言ってからかなり時間が経った。


優美さんが出て言ってから私は一人部屋で悶々としていた。

いまごろ・・・あの二人はどうなっているんだろう?

優美さんの事だから問題は無いと思う。

瞳さんとあゆみちゃんは今なにを考えているんだろう。

里奈ちゃんだってきっといろんな思いを秘めていると思う。

私は夜の間に彼女達と話をしてみたくなった。

部屋を出て瞳さんの部屋に行く。

コンコン

「はい。」

「栞です。」

ガチャっと扉が開くと瞳さんはローブを着て出てきた。

長い黒髪を後ろにまとめて結んでいて、ほんのりと石鹸とシャンプーの香りがする。

クールビューティーな顔立ちだが化粧を落とすと少し可愛らしくも見えた。

「あ!もうお休みでしたか・・」

「ううん、まだ寝てないわ。お風呂に入ってくつろいでいたところよ入って。」

部屋に入るとお香が焚かれていた。

私がそれをみていたら瞳さんが言う。

「それ今つけたところよ。眠れるようにお香を焚いて気持ちを落ち着かせていたの。」

「・・もしかして眠れなくてですか?」

「そう。やっぱり栞ちゃんも?」

「そうなんです・・」

私と瞳さんがそのテーブルをはさんで座る。

「それはそうよね1期組ということは責任も重大だし、そもそも子供が出来た後は育てていかなければならない。この荒廃した世界に産み落とされる命の事を考えると・・気が重くなるわ。」

「はい・・」

「栞ちゃんもまだ大学2年生よね?こんなことになるなんてね。」

「もちろん未来を考えればそれが重要な事は分かるんです。だだ、なんというか・・心の準備というか・・全く決心がつく感じがしなくて・・」

すると瞳さんに少しの沈黙があったあと・・

「・・・・えっと、いや・・いいわ。そうね。」

「え?何でしょうか?気になります。」

何かを話そうとして、言い淀んだ瞳さんの言葉が気になった。

「あの・・言いにくいんだけど、栞ちゃんは処女でしょう?」

「・・あの。」

「別に隠し事なんてしなくてもいいのよ。そういえば彼氏が出来たてなんて話をしてたものね。」

「そうなんです。」

「その彼氏はもう連絡がつかなくなったんだっけ?」

「はい。おそらくはもう・・」

「でしょうね。残酷だけど男性が生きている確率は皆無だろうと華江先生も言っていたわね。」

「はい。」

私はつい泣きそうになってしまった・・が涙をこらえる。

瞳さんにだって他のみんなにだって会えなくなってしまった人はたくさんいるのだ。

全員が家族にも恋人にも友達にも会えていない。私だけが辛いんじゃない。

「わかるわ。泣きたいわよね。」

「でも、泣くわけには。」

「大丈夫よ、大人の私たちだって泣きたいもの。気持ちは痛いほどわかる。おそらく強い華江先生だってそうでしょうね。」

「はい。」

「あの人はその大切な物を取り戻すために、必死に考え続けて研究を止めないのよね。私ね先生の姿勢を見てあきらめちゃいけないんだって、いつも心に言い聞かせているのよ。」

「瞳さんのような強い人でもですか・・」

「ううん、私なんて強くないの。里奈がいるから強くいられるだけ・・彼女がいなければとっくに崩れていたわよ。」

「里奈ちゃん・・」

「私、マネージャーとして社長からも親御さんからも彼女を任されたのよ。これまでずっと親のような気持になって守ってきたの。だから彼女が生きる意志を見せる限りは頑張らなくちゃ。 」

「はい。」

「きっとね翼さんにも優美さんに対してそんな気持ちがあるわ。同じ会社の後輩でずっと面倒を見てきたんだって・・」

「わかります。特別な気持ちがありますよね。」

「ただね翼さんはね、栞ちゃんと同じ・・」

「未経験ですか・・・」

「ええ。」

瞳さんにはわかるようだった。

どうやら大人の女性たちにはバレてるみたい。

「里奈ちゃんもですよね。」

「そう・・これまで私が芸能界で虫がつかないようにずっと守って来たから。」

「でも彼女はまだ高校生。荷が重いですよね。」

「そうね。でもこんな極限の世界を生きるために彼女達は決心はしているわ。」

「翼さんと里奈ちゃんが・・」

「ええ。」

「たしかに一生懸命です。彼女達は・・」

「ありがとう。里奈なんか女優として暮らしてきたからちやほやされ慣れしてるのにね、いまでは家事も施設の管理の手伝いも出来るようになったの。」

「はい。」

女優さんに限らず私たちも本当にいろいろ出来るようになった。

皆が必死に苦手な事をクリアしてみんなの負担にならないようにしてきた。

それがあって今の生活が成り立っているのだった。

「あゆみちゃんもまだ高校2年生です。親を亡くし兄弟を亡くしてとても辛いけどやっています。だからこそですよね大人の私たちがへこたれるわけにいきません。」

「そう思うのよ。だから栞ちゃん・・お互い気持ちを支えながら頑張りましょう。」

「はい。なんだか・・気持ちが少し晴れました。」

「ふふ。私もよホントにこれでいいのか?なんて悶々としていたから。」

「はは、私もだったんですよ。」

里奈ちゃんとあゆみちゃん・・彼女らはまだ高校生なのに子供を孕まなければならないのだ・・

そんな重責をこれから背負わねばならない。

でもその現実を受け入れて頑張ろうとしているのだった。

「瞳さん・・二人の所に行きませんか?」

「そうね。」

私たち二人は里奈ちゃんの部屋に行く事にした。

コンコン

「はーい!」

部屋のドアを開けて里奈ちゃんが出てくる。中にはあゆみちゃんもいて二人でゲームをしていた。

「里奈。遅くにごめんね。」

「ううん。なんだか悶々としてあゆみと私も眠れなくて・・」

《そうか・・この二人も私と同じ気持ちなんだ。》

二人が愛おしくなる。

まだ女子高生なのにこの現実を受け止めようとしている。

私と瞳さんは顔を見合わせてニッコリ笑う。

「私達もゲームにまぜて!」

「はい!」

私たちは里奈ちゃんとあゆみちゃんの部屋に入っていくのだった。

《・・今・・優美さんはきっと頑張っているはずだ!》

高校生二人や私たちの為に一番バッターとして。

きっと素晴らしい結果をもたらしてくれるはず・・
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