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長尾栞の章
第29話 初めて精子を拡大して見た
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私たちが遠藤メンテナンス計画をあれこれ悩んでいた1週間のあいだ。
華江先生の研究は順調に進んでいたようだった。
ある日皆を集めて華江先生が説明をし始めた。
「実は疑似ゾンビウイルスがかなりの精度で出来上がったわ。ほぼ100%よ。」
「素晴らしいです!」
あずさ先生が驚いている。
「まあ本物と違って触れても本当にゾンビになる事は無いのだけど、かなりの確率で再現する事ができたわ。」
「ということは?」
遠藤さんが華江先生に聞く。
「本来のゾンビウイルスは遠藤君が側によると消えてしまうの。しかしこれは細胞レベルで本当に近づいた時にしか反応しないように計算して作られているの。」
素人の私が聞いても・・神の領域のように感じてしまう。
「すばらしいです。」
あずさ先生が本当に尊敬のまなざしで見ている。きっと本当に凄い事なんだと思う。
「だけどね・・遠藤君の皮膚、唾液、頬の粘膜、髪の毛、血液などあらゆる細胞で消去できるのかを検証したわ。」
「どうだったんですか?」
「結果は変わらずで消えないの。」
「それは・・なぜですか・・」
華江先生はこういった。
「まずはね、みんなが確認してる事だから間違いないはずなんだけど、私たちの周りにゾンビがいないのは近頼君が原因で間違いないと思うの。」
皆がコクリと頷く。
それは皆が分かっている事だ。
「あなたの生きた細胞を調べたんだけど、ちょっとわかった事があるのよ。その前にお願いがあって…」
華江先生が遠藤さんの耳に手を当ててひそひそ話をしていた。
《何を話しているんだろう?》
こそこそ話をしているので私たちには聞こえなかった。
そして先生は遠藤さんから離れた。
「えっ!」
遠藤さんが驚いている。
「ちょっと調べたいのよ。お願い!」
そう言って液体の入ったシャーレを渡している。
「これにお願いします。」
「わ、わかりました。」
心なしか遠藤さんの顔が赤い。いや・・赤くなっているのは間違いない。何をするのだろう?
彼は部屋を出ていく。
地下室を出て階段を上がっていくようだった。
しばらく彼は帰ってこなかった。
「遠藤さんどうしたんです? 」
翼さんが華江先生に聞くと・・
「ああ、いまちょっと部屋で準備をしに行っています。少し待ちましょう。」
「はい・・」
《準備?》
すると30分くらいして遠藤さんが階段から降りてくる音が聞こえてくる。
ガチャ
遠藤さんが部屋に入ってくるが・・どうやらあまり浮かない顔をしていた。
《どうしたんだろう?なんだかストレスがかかってしまってるようにも見えるけど・・》
そして遠藤さんは華江先生に対してもじもじしながら言うのだった。
「ごめんなさい緊張して無理です。焦ってしまって…。」
すると華江先生がニッコリ笑って言う。
「私が手伝うわ。」
「えっ!えっ!」
「とにかく急いで調べたいのよ。」
《何を手伝うのだろう?緊張するとか・・?》
とにかく華江先生は研究の方が最優先という様子で慌てているようだった。
しばらく二人で話していたが、今度は二人で部屋を出て行った。
それからなかなか帰ってこなくなってしまった。手持ち無沙汰で女子それぞれが他の部屋に散ってしまう。
それから20分後…
ようやく二人が階段から降りてきて部屋に入って来た。
華江先生には特に変わった様子が無かった。しかし遠藤さんはどことなく恥ずかしそうな、ばつが悪い顔をしていた。
一体何があったんだろう?
すると・・華江先生がみんなに言った。
「準備は出来たわ!みんなをラボに集めましょう。」
みんなが再度地下の研究室に集まった。
「じゃあモニターを見てちょうだい!」
皆がまじまじとモニターを見る。いったい何が行われたというのだろうか?
そこにすぐ全員をあつめてモニターに映し出された映像を見始める。どうやらまた電子顕微鏡で映し出された映像を見るらしい。
「みんなに見てほしいものがあるの!」
華江先生は続けた。
「これは例の疑似ゾンビウイルスよ。」
映像の中に不気味に蠢めく細胞のようなものがあった。あの恐ろしいゾンビウイルスのダミーだった。
華江先生が手にシャーレを持っていた。その手にもったシャーレからスポイトでなにかを吸い出して菌の横にたらした瞬間だった。
衝撃的な光景がモニターに映し出されたのだった。
スポイトで落とされた何かの脇でウイルスが燃えるように消滅した。
《でも・・電子顕微鏡の中で、しっぽのついた何かが元気に泳いでいる・・・これって・・・いや・・見た事あるけど・・おたまじゃくしのような・・これは・・》
「先生!これは特効薬かなにかですか?」
里奈ちゃんが、挙手をして聞いた。
里奈ちゃんだけが素直に聞いていたが・・他のメンバーは既に気が付いていると思う。
「いいえ、生きた細胞です。この細胞のDNAが原因だと思われます。死ぬと効力が無くなるようです。」
「細胞ですか?」
里奈ちゃんが聞くと華江先生が答えた。
「遠藤君の精子よ。」
みな絶句した。
遠藤さんの・・精子を・・みんなで・・見て・・る
「あのみなさん…汚いものをお見せいたしまして大変申し訳ございません。これは私の不徳といたすところであり、死んでお詫びを致したく思う所存でございます。」
《ああ!遠藤さんが壊れてしまった!何を言っているんだ!でも華江先生!それは遠藤さんもこわれるよ!》
私だって男の人たちの前に、はいこれが長尾さんの卵子ですなんてだされたら・・
しかし華江先生はそんな遠藤さんをスルーして言う。
「はあ?死ぬなんてとんでもない?貴方は人類の希望よ!遠藤君!」
遠藤さんの精子はゾンビウイルスを滅ぼす特性があるらしい。
生きている精子じゃないとだめ…。
髪の毛や皮膚や血管にもDNAがあるはずなのだが、生命反応がなければゾンビウイルスには効かないという事が分かったらしい。
今までは皮膚や・・髪の毛だったからダメだったのだが、生きた精子なら効果があるということらしいのだ。
そう・・ゾンビウイルスに効いていたのは、遠藤君の精子だった。
「こんなものを見せてしまって・・俺・・申し訳なくて・・」
遠藤さんがものすごく小さくなっていっている。
私は遠藤さんがとても可愛そうになり、愛おしくさえ思えてしまった。
「そうだよ遠藤さん!これは凄い事だよ!」
私は声を振り絞るように言った。
すると皆が口々に言いだした。
「やっぱ遠藤さんって凄かったんだ!」
あゆみちゃんが言う。
「さすが!あゆみや私達を救ってくれた英雄です。」
里奈ちゃんが言う。
「遠藤さん!里奈を救っていただいてなんとお礼を申し上げていいものか。」
瞳さんが言う。
「あなたはなんとしても、私達で守らねば!」
あずささんが言う。
「これからも私が身の回りのお世話をいたしますね。」
奈美恵が言う。
「私達はあなたに助けられて幸運だったのですね。」
翼さんが言う。
「命の恩人に何をお返ししたら良いものか…。」
翼さんの後輩の、あざといながらもかわいい優美さんが言う。
「やっと守る側から守られる側になった気がします。」
ビルの警備会社に勤めていた沙織さんが言う。
「あのビルに閉じ込められたのは、この奇跡に巡り合うためだったのですね・・」
バイク便メッセンジャーの愛菜さんが言う。
あまりにも恥ずかしい仕打ちにみんなが見かねて、大袈裟ながらに声をかけてあげるのだった。
そうじゃないと・・遠藤さんが救われない。
皆に大袈裟に褒められすぎて遠藤さんが顔を真っ赤にして言う。
「いやいやいや、俺はそんなたいしたもんじゃないっす!」
「いいえ大したものよ。」
ダメ押しで華江先生が言った。
皆が元気に泳ぐ遠藤さんの精子の映像の前で彼をほめたたえるのだった。
この世界を生きるために遠藤さんという存在は希望なのだ。
そのために遠藤さんを含めてこれからどうしていくのか?どうしたいのか?を話す。
「俺はそんなに大それたことを考えてはいません。どうにか食料などを確保しながら生きていければそれでいいんです。でも・・もしかしたら俺が助けられる命がもっとあるかもしれない。ただ実際どうすればいいのかはよく分かっていません。」
「そうね。遠藤君ならそう言うわよね。ただアナタを強制する事は何もないの。そしてあなた一人に考えさせて責任を負わせるつもりも無いわ。」
華江先生の考えはサポートしながらやっていくという事らしい。
「私もそうだと思います。やはり遠藤さんがやりたいようにするのが一番かと!そして一人で抱え込みすぎるのは良くありませんし。」
私が言うと皆も意見し始める。
「遠藤さんだって病気する事もあるし、ストレスを抱えさせるのは良くないと思う。」
奈美恵さんが言う。
「それはそうよね。遠藤君は私たちの希望なのだから無理はしないでほしいというのが率直な気持ちよ。やれることは出来るだけやってあげたいと思う。」
あずさ先生も遠藤さんの為にやれることはやると言う。
「私は看護師だしある程度は健康のチェックや、毎日のケアを出来ると思うので遠藤さん専任のサポートをしたいと考えています。」
奈美恵さんが言う。
「健康の事はそれでいいと思うのだけれど、ただ健康にだけ気を使うのでは遠藤さんも辛いのではないですか?」
愛菜さんが言う。
「俺は・・まあそうですね。食材を確保して家でのんびり読書出来るだけでもいいんですけどね・・」
遠藤さんが言うと愛奈さんがそれに答える。
「まあストレス発散という意味だけではそれだけでもいいと思います。でも病気をしないためには軽いスポーツやトレーニングは必要だと思うんですよ。」
「確かに体も動かしたくなってきましたね。」
「出来ればこのあたりでトレーニングジムを探して、定期的に遠藤さんと皆さんで体を鍛えるようにしませんか?」
愛奈さんが言うと里奈ちゃんマネージャーの瞳さんも賛成する。
「賛成です。ね・・里奈も体を動かさないと!こうなる前までは里奈も体系が崩れてしまうから常に鍛えていたんです。私は愛奈さんの意見に賛成です。」
「ちょ・・真下さーん。もう映画にも出ないのに体絞るのは・・」
「絞るまでは言ってません!里奈も不摂生はいけないと言ってるのよ。」
里奈さんと瞳さんさんが、タレントとマネージャーになってしまう・・
「でもそれはいい事ね。体は適度に動かした方がいい。」
華江先生も同意する。
「スポーツやトレーニングで鍛えるのは、これからこの世界を生きる上でも不可欠となるわ。トレーニングジムを探してスポーツをするのは全員でやった方がいいわね。」
「ですよね・・」
愛奈さんが満足げにうなずく。
「それと・・遠藤さんの趣味についてなんですが読書が趣味ですよね?他には何かあるんですか?」
翼さんが聞く。
「俺は・・アニメや映画を見るのも好きです。」
「それじゃあレンタルビデオ屋さんも行きませんか?」
「そうですね。でもいいんですか?俺がそんなわがまま言って。」
「もちろん、いいと思いますよ。私だって見たいDVDもあるし。」
翼さんが遠藤さんの他の趣味も付き合いたいらしい。
「賛成です。私も映画好きですし。」
沙織さんが言う。
「私も映画は好きですしアニメも見ますよ!」
私がそれに対して答えた。
「栞さんもなのね。じゃあレンタルビデオショップは押さえておきましょう。」
華江先生が言う。
「ゲームとかは・・だめですかね?」
あゆみちゃんが小さい声で話す。
「いいね!俺もゲームやるよ!自分では筐体を持っていないんだけど、大学の頃はアーケードに行ってやったりしてたかな。学生の時は友達ん家で一日中ゲームしたりもしたし。」
「え!私もゲーム好きなんです!一緒にやりたいゲームいっぱいあるんです。」
あゆみちゃんが喜んでいる。
「それならゲームソフトもたくさん回収したらいいわね。私もやりたいゲームあるし。」
あずさ先生もどうやらゲームをするらしかった。
「あら?ゲームってそんなに面白いの?」
華江先生が聞いている。
「結構面白いんですよ。ぜひ今度先生も一緒にやってみませんか?」
あずさ先生が華江先生を誘っている。
「いいわねそうしましょう。」
「あと遠藤さんが好きなのはショッピングですよねー!」
優美さんが言う。
「そうなんです。俺は食料品のショッピングって言うか、買い物じゃなくても物をたくさん確保するのがうれしいんですよ。」
「スーパーの電源にも限界がくるだろうし、この辺周辺だけじゃ数年が限界かもしれない。」
沙織さんが言う。
「確かにそうよね・・」
瞳さんもその部分を心配していたようだ。
たしかにそうだった。
いつまでも食料が供給し続けられるわけじゃない。どこかに食料を生産している人がいればいいのだけれど、この状況ではかなり難しいだろう。
「俺はこの前の、みんなの服を回収するのなんかも楽しかったですけどね。」
「あれは楽しかったですね!」
私が答えると皆もうんうんと頷いていた。
「ならショッピングの趣味はどうにかなりそうね。だけど食料だけはこれからの課題となるわね。」
華江先生が言うと皆が考え出す。
「数か月か数年か分からないですけど、出来るだけ都市内のスーパーや食料品店で持ちこたえられるまでやっていきましょう!そして家庭菜園を始めるのはどうでしょうか?」
遠藤さんが明るく言うのでみんなが頷いた。
おそらく・・いつかは都会を離れて、食料のめどを付けなければいけなくなりそうだった。
《そんなことが私たちに出来るのだろうか?》
いやむしろ・・やらなければならない課題が見えたと言ったところだと思う。
話し合いは夜まで続くのだった。
そしてみんなのおかげで・・
遠藤さんの羞恥プレイは薄れてしまったようだった。
華江先生の研究は順調に進んでいたようだった。
ある日皆を集めて華江先生が説明をし始めた。
「実は疑似ゾンビウイルスがかなりの精度で出来上がったわ。ほぼ100%よ。」
「素晴らしいです!」
あずさ先生が驚いている。
「まあ本物と違って触れても本当にゾンビになる事は無いのだけど、かなりの確率で再現する事ができたわ。」
「ということは?」
遠藤さんが華江先生に聞く。
「本来のゾンビウイルスは遠藤君が側によると消えてしまうの。しかしこれは細胞レベルで本当に近づいた時にしか反応しないように計算して作られているの。」
素人の私が聞いても・・神の領域のように感じてしまう。
「すばらしいです。」
あずさ先生が本当に尊敬のまなざしで見ている。きっと本当に凄い事なんだと思う。
「だけどね・・遠藤君の皮膚、唾液、頬の粘膜、髪の毛、血液などあらゆる細胞で消去できるのかを検証したわ。」
「どうだったんですか?」
「結果は変わらずで消えないの。」
「それは・・なぜですか・・」
華江先生はこういった。
「まずはね、みんなが確認してる事だから間違いないはずなんだけど、私たちの周りにゾンビがいないのは近頼君が原因で間違いないと思うの。」
皆がコクリと頷く。
それは皆が分かっている事だ。
「あなたの生きた細胞を調べたんだけど、ちょっとわかった事があるのよ。その前にお願いがあって…」
華江先生が遠藤さんの耳に手を当ててひそひそ話をしていた。
《何を話しているんだろう?》
こそこそ話をしているので私たちには聞こえなかった。
そして先生は遠藤さんから離れた。
「えっ!」
遠藤さんが驚いている。
「ちょっと調べたいのよ。お願い!」
そう言って液体の入ったシャーレを渡している。
「これにお願いします。」
「わ、わかりました。」
心なしか遠藤さんの顔が赤い。いや・・赤くなっているのは間違いない。何をするのだろう?
彼は部屋を出ていく。
地下室を出て階段を上がっていくようだった。
しばらく彼は帰ってこなかった。
「遠藤さんどうしたんです? 」
翼さんが華江先生に聞くと・・
「ああ、いまちょっと部屋で準備をしに行っています。少し待ちましょう。」
「はい・・」
《準備?》
すると30分くらいして遠藤さんが階段から降りてくる音が聞こえてくる。
ガチャ
遠藤さんが部屋に入ってくるが・・どうやらあまり浮かない顔をしていた。
《どうしたんだろう?なんだかストレスがかかってしまってるようにも見えるけど・・》
そして遠藤さんは華江先生に対してもじもじしながら言うのだった。
「ごめんなさい緊張して無理です。焦ってしまって…。」
すると華江先生がニッコリ笑って言う。
「私が手伝うわ。」
「えっ!えっ!」
「とにかく急いで調べたいのよ。」
《何を手伝うのだろう?緊張するとか・・?》
とにかく華江先生は研究の方が最優先という様子で慌てているようだった。
しばらく二人で話していたが、今度は二人で部屋を出て行った。
それからなかなか帰ってこなくなってしまった。手持ち無沙汰で女子それぞれが他の部屋に散ってしまう。
それから20分後…
ようやく二人が階段から降りてきて部屋に入って来た。
華江先生には特に変わった様子が無かった。しかし遠藤さんはどことなく恥ずかしそうな、ばつが悪い顔をしていた。
一体何があったんだろう?
すると・・華江先生がみんなに言った。
「準備は出来たわ!みんなをラボに集めましょう。」
みんなが再度地下の研究室に集まった。
「じゃあモニターを見てちょうだい!」
皆がまじまじとモニターを見る。いったい何が行われたというのだろうか?
そこにすぐ全員をあつめてモニターに映し出された映像を見始める。どうやらまた電子顕微鏡で映し出された映像を見るらしい。
「みんなに見てほしいものがあるの!」
華江先生は続けた。
「これは例の疑似ゾンビウイルスよ。」
映像の中に不気味に蠢めく細胞のようなものがあった。あの恐ろしいゾンビウイルスのダミーだった。
華江先生が手にシャーレを持っていた。その手にもったシャーレからスポイトでなにかを吸い出して菌の横にたらした瞬間だった。
衝撃的な光景がモニターに映し出されたのだった。
スポイトで落とされた何かの脇でウイルスが燃えるように消滅した。
《でも・・電子顕微鏡の中で、しっぽのついた何かが元気に泳いでいる・・・これって・・・いや・・見た事あるけど・・おたまじゃくしのような・・これは・・》
「先生!これは特効薬かなにかですか?」
里奈ちゃんが、挙手をして聞いた。
里奈ちゃんだけが素直に聞いていたが・・他のメンバーは既に気が付いていると思う。
「いいえ、生きた細胞です。この細胞のDNAが原因だと思われます。死ぬと効力が無くなるようです。」
「細胞ですか?」
里奈ちゃんが聞くと華江先生が答えた。
「遠藤君の精子よ。」
みな絶句した。
遠藤さんの・・精子を・・みんなで・・見て・・る
「あのみなさん…汚いものをお見せいたしまして大変申し訳ございません。これは私の不徳といたすところであり、死んでお詫びを致したく思う所存でございます。」
《ああ!遠藤さんが壊れてしまった!何を言っているんだ!でも華江先生!それは遠藤さんもこわれるよ!》
私だって男の人たちの前に、はいこれが長尾さんの卵子ですなんてだされたら・・
しかし華江先生はそんな遠藤さんをスルーして言う。
「はあ?死ぬなんてとんでもない?貴方は人類の希望よ!遠藤君!」
遠藤さんの精子はゾンビウイルスを滅ぼす特性があるらしい。
生きている精子じゃないとだめ…。
髪の毛や皮膚や血管にもDNAがあるはずなのだが、生命反応がなければゾンビウイルスには効かないという事が分かったらしい。
今までは皮膚や・・髪の毛だったからダメだったのだが、生きた精子なら効果があるということらしいのだ。
そう・・ゾンビウイルスに効いていたのは、遠藤君の精子だった。
「こんなものを見せてしまって・・俺・・申し訳なくて・・」
遠藤さんがものすごく小さくなっていっている。
私は遠藤さんがとても可愛そうになり、愛おしくさえ思えてしまった。
「そうだよ遠藤さん!これは凄い事だよ!」
私は声を振り絞るように言った。
すると皆が口々に言いだした。
「やっぱ遠藤さんって凄かったんだ!」
あゆみちゃんが言う。
「さすが!あゆみや私達を救ってくれた英雄です。」
里奈ちゃんが言う。
「遠藤さん!里奈を救っていただいてなんとお礼を申し上げていいものか。」
瞳さんが言う。
「あなたはなんとしても、私達で守らねば!」
あずささんが言う。
「これからも私が身の回りのお世話をいたしますね。」
奈美恵が言う。
「私達はあなたに助けられて幸運だったのですね。」
翼さんが言う。
「命の恩人に何をお返ししたら良いものか…。」
翼さんの後輩の、あざといながらもかわいい優美さんが言う。
「やっと守る側から守られる側になった気がします。」
ビルの警備会社に勤めていた沙織さんが言う。
「あのビルに閉じ込められたのは、この奇跡に巡り合うためだったのですね・・」
バイク便メッセンジャーの愛菜さんが言う。
あまりにも恥ずかしい仕打ちにみんなが見かねて、大袈裟ながらに声をかけてあげるのだった。
そうじゃないと・・遠藤さんが救われない。
皆に大袈裟に褒められすぎて遠藤さんが顔を真っ赤にして言う。
「いやいやいや、俺はそんなたいしたもんじゃないっす!」
「いいえ大したものよ。」
ダメ押しで華江先生が言った。
皆が元気に泳ぐ遠藤さんの精子の映像の前で彼をほめたたえるのだった。
この世界を生きるために遠藤さんという存在は希望なのだ。
そのために遠藤さんを含めてこれからどうしていくのか?どうしたいのか?を話す。
「俺はそんなに大それたことを考えてはいません。どうにか食料などを確保しながら生きていければそれでいいんです。でも・・もしかしたら俺が助けられる命がもっとあるかもしれない。ただ実際どうすればいいのかはよく分かっていません。」
「そうね。遠藤君ならそう言うわよね。ただアナタを強制する事は何もないの。そしてあなた一人に考えさせて責任を負わせるつもりも無いわ。」
華江先生の考えはサポートしながらやっていくという事らしい。
「私もそうだと思います。やはり遠藤さんがやりたいようにするのが一番かと!そして一人で抱え込みすぎるのは良くありませんし。」
私が言うと皆も意見し始める。
「遠藤さんだって病気する事もあるし、ストレスを抱えさせるのは良くないと思う。」
奈美恵さんが言う。
「それはそうよね。遠藤君は私たちの希望なのだから無理はしないでほしいというのが率直な気持ちよ。やれることは出来るだけやってあげたいと思う。」
あずさ先生も遠藤さんの為にやれることはやると言う。
「私は看護師だしある程度は健康のチェックや、毎日のケアを出来ると思うので遠藤さん専任のサポートをしたいと考えています。」
奈美恵さんが言う。
「健康の事はそれでいいと思うのだけれど、ただ健康にだけ気を使うのでは遠藤さんも辛いのではないですか?」
愛菜さんが言う。
「俺は・・まあそうですね。食材を確保して家でのんびり読書出来るだけでもいいんですけどね・・」
遠藤さんが言うと愛奈さんがそれに答える。
「まあストレス発散という意味だけではそれだけでもいいと思います。でも病気をしないためには軽いスポーツやトレーニングは必要だと思うんですよ。」
「確かに体も動かしたくなってきましたね。」
「出来ればこのあたりでトレーニングジムを探して、定期的に遠藤さんと皆さんで体を鍛えるようにしませんか?」
愛奈さんが言うと里奈ちゃんマネージャーの瞳さんも賛成する。
「賛成です。ね・・里奈も体を動かさないと!こうなる前までは里奈も体系が崩れてしまうから常に鍛えていたんです。私は愛奈さんの意見に賛成です。」
「ちょ・・真下さーん。もう映画にも出ないのに体絞るのは・・」
「絞るまでは言ってません!里奈も不摂生はいけないと言ってるのよ。」
里奈さんと瞳さんさんが、タレントとマネージャーになってしまう・・
「でもそれはいい事ね。体は適度に動かした方がいい。」
華江先生も同意する。
「スポーツやトレーニングで鍛えるのは、これからこの世界を生きる上でも不可欠となるわ。トレーニングジムを探してスポーツをするのは全員でやった方がいいわね。」
「ですよね・・」
愛奈さんが満足げにうなずく。
「それと・・遠藤さんの趣味についてなんですが読書が趣味ですよね?他には何かあるんですか?」
翼さんが聞く。
「俺は・・アニメや映画を見るのも好きです。」
「それじゃあレンタルビデオ屋さんも行きませんか?」
「そうですね。でもいいんですか?俺がそんなわがまま言って。」
「もちろん、いいと思いますよ。私だって見たいDVDもあるし。」
翼さんが遠藤さんの他の趣味も付き合いたいらしい。
「賛成です。私も映画好きですし。」
沙織さんが言う。
「私も映画は好きですしアニメも見ますよ!」
私がそれに対して答えた。
「栞さんもなのね。じゃあレンタルビデオショップは押さえておきましょう。」
華江先生が言う。
「ゲームとかは・・だめですかね?」
あゆみちゃんが小さい声で話す。
「いいね!俺もゲームやるよ!自分では筐体を持っていないんだけど、大学の頃はアーケードに行ってやったりしてたかな。学生の時は友達ん家で一日中ゲームしたりもしたし。」
「え!私もゲーム好きなんです!一緒にやりたいゲームいっぱいあるんです。」
あゆみちゃんが喜んでいる。
「それならゲームソフトもたくさん回収したらいいわね。私もやりたいゲームあるし。」
あずさ先生もどうやらゲームをするらしかった。
「あら?ゲームってそんなに面白いの?」
華江先生が聞いている。
「結構面白いんですよ。ぜひ今度先生も一緒にやってみませんか?」
あずさ先生が華江先生を誘っている。
「いいわねそうしましょう。」
「あと遠藤さんが好きなのはショッピングですよねー!」
優美さんが言う。
「そうなんです。俺は食料品のショッピングって言うか、買い物じゃなくても物をたくさん確保するのがうれしいんですよ。」
「スーパーの電源にも限界がくるだろうし、この辺周辺だけじゃ数年が限界かもしれない。」
沙織さんが言う。
「確かにそうよね・・」
瞳さんもその部分を心配していたようだ。
たしかにそうだった。
いつまでも食料が供給し続けられるわけじゃない。どこかに食料を生産している人がいればいいのだけれど、この状況ではかなり難しいだろう。
「俺はこの前の、みんなの服を回収するのなんかも楽しかったですけどね。」
「あれは楽しかったですね!」
私が答えると皆もうんうんと頷いていた。
「ならショッピングの趣味はどうにかなりそうね。だけど食料だけはこれからの課題となるわね。」
華江先生が言うと皆が考え出す。
「数か月か数年か分からないですけど、出来るだけ都市内のスーパーや食料品店で持ちこたえられるまでやっていきましょう!そして家庭菜園を始めるのはどうでしょうか?」
遠藤さんが明るく言うのでみんなが頷いた。
おそらく・・いつかは都会を離れて、食料のめどを付けなければいけなくなりそうだった。
《そんなことが私たちに出来るのだろうか?》
いやむしろ・・やらなければならない課題が見えたと言ったところだと思う。
話し合いは夜まで続くのだった。
そしてみんなのおかげで・・
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