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長尾栞の章
第26話 ゾンビウイルスとおっぱい談
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次の日の朝、細胞の検体を取りに全員でセントラル総合病院に来た。
検体の冷凍保管庫は華絵先生研究室の隣部屋にあるらしい。
「・・・・・・」
皆が息をのんで歩いていた。
ガラス張りの実験施設を静かに歩いて行くのだが、極度の緊張で嫌な汗が出てくる。
なにか・・人体実験でもしてるんじゃないのかとか思えてくる。
「とくに怪しい実験なんかしてないわよ。」
華江先生が緊張している私に話しかけてきた。
《びっくりした!心の中が読まれているのかと思った!》
「いえ・・怪しい実験なんて思っていないですよ!」
「まあこのゾンビウイルスはいくら実験しても全く分からなかったの。それが解明できるかもしれないのは素晴らしい事よ。」
「よかったです・・」
実際それがどれほどの事なのかはよく分からないが、もしゾンビウイルスに対して何か対抗策が取れるのだとしたら華江先生は救世主だ。
12人でぞろぞろと病院内を動き回る。
が、
結局怖いので全員遠藤さんの周りに居たいようだった。
《私だってそうだ。》
遠藤さんがゾンビを消す人だと知って、皆が彼から離れなくなった。
華絵先生の研究室に来ると華絵先生とあずさ先生、奈美恵さんがいろいろと研究に使う機材などを集め始めた。
それをみんなで分担して持つようにする。
作業があらかた終わり隣の細胞保存部屋に向かう。
隣の部屋は寒かった。
「あれ?電源が来てるんですね。」
「そうね。ここは非常時のためにお役所とラインが繋がっていてね、電源供給は間違いなくされるようになっているのよ。非常電源を遠くから引っ張ってきているようなものかしら。」
それだけこの研究は国も注目していたようだ。
「国からは早く解決するように言われていたんだけどね、政府からの連絡も途絶えてしまって研究はそれから中断していたのよ。」
「人々を救う研究ですか?」
「ええ。最初はあの風邪のようなウイルスを治すためのワクチン開発だったわ。でも急激にゾンビパンデミックが起きてからここに閉じ込められてしまってね・・そこにも引き続き緊急回線で国からの指示が出ていたのよ。ゾンビウイルスを駆除する事が出来ないかと・・」
「そんな研究を・・」
「政府からの連絡が途絶えてからは栞ちゃん達に話した通りよ。ここでゾンビから隠れて必死に生きていたのよ」
「辛かったでしょうね・・」
「それでもこの病院には緊急食料が常備されていたから、なんとか助かったようなものね。」
いくら強い華江先生とはいえ、相当恐ろしかっただろうと思う。
そして華江先生は冷凍保存室のドアを電子鍵で開ける。
ドアを開けるとエアシャワー室になっていて防護服がぶら下げてあった。
「みんなは入れないからここで待ってて。」
「華江先生、気をつけてください。」
「ここの中は安全よ。ただし閉じ込められたら凍死するわね。」
ガシャンとドアが閉められ、エアシャワーの音が聞こえる。
プシュー
しばらくすると中のドアが開く音がした。
ガチャン
ガラス越しに華江先生がみえる・・私達に手を振っている。どうやら心配しないでの合図らしい。
先生は白い煙の中に消えていった。
沈黙が流れる。
すると華江先生が戻ってきた。また手を振っている。
ガチャン
プシュー
音がするがすぐには出て来なかった。おそらく滅菌処理中なのだろう。
結構時間が過ぎた。大丈夫なのかな・・
「せ、先生!」
あゆみちゃんが声をあげる。
ガチャ
冷気と一緒に白い煙がドアから漏れてくる。
「おまたせ。」
「ああ・・良かったです。」
そして華江先生の手にはアタッシュケースがあった。
「それは・・」
遠藤さんが聞くと、華江先生が答える。
「これは・・言いにくいんだけど、冷凍ゾンビウイルスよ。急いで家の地下の冷凍保管庫にもっていきましょう。アタッシュケースは特別な金属で出来ていて、中に入っているカプセルも特別なものだから安全よ。」
「えっと遠藤さんの影響で消えるのでは?」
「ケースは特殊なものだから、それもたぶん大丈夫なはずだけど・・でもこればかりは分からないわね。」
そのままアタッシュケースやいろいろな機材をマイクロバスに積みこんで帰る。
華絵先生の家に近づいて来た。
やはり家の近くに帰ってくると少し変化がある。
家の周辺が少し荒れているようなのだ・・それを見るたびに全員が緊張してしまう。
結局・・ゾンビはどこにもいなかった。
門から敷地内にマイクロバスを入れて表の門を閉める。
家の敷地内が全く乱れていないのを確認してみんながバスを降りた。
「皆はリビングにいてちょうだい。私は地下のラボにこれを置いてくるわ。」
「はい。」
そして華江先生が地下に冷凍ゾンビウイルスを持っていく。
「ふう・・これで進展しそうですね!」
「本当です。」
「華江先生の肩にかかっているわけですね。」
少し経つと華江先生が足音が聞こえてくる。
しかし先生は・・浮かない顔で戻ってくるのだった。
「あの・・ゾンビウイルスが消えてしまって・・おそらくアタッシュケースから取り出すまではあったのだと思うけど、出して分析器にかけたらあっというまに消えてしまって。」
「それじゃあ・・遠藤さんの・・」
一瞬皆ががっくりと肩を落とす。
今日の作業がすべて無駄になったからだ。
「いえ、消えたからダメって言う事はないけど。」
「どういうことですか?」
遠藤さんが聞き返す。
「分析器にかけて消えるまでにゾンビウイルスのデータが取れたの。」
「それで?」
「疑似的にゾンビウイルスに似たものを作る事は可能かもしれない。」
「えっ!!そんなことが出来るんですか?」
「まあ仮説ではおそらくできるわ。あと他のカプセルに入っている冷凍ゾンビウイルスはまだ確認していないし、出さなければ保有されているはず。」
皆びっくりしている。
あずさ先生がみんなに華江先生の説明をする。
「大角先生は天才と呼ばれているんですよ。世界的なバイオ研究の権威なんです。」
ほへぇ~
全員が唖然とした顔で華江先生を見つめていた。
世界の第一人者なんだ・・
それから華江先生は毎日研究に没頭しはじめた。
ご飯の時インターフォンで呼べば上がってきて食べるが、すぐに地下に降りて行く。
地下はシェルターにもなっているので緊急時の非常食も保管していたが、それを食べている様子もない。
あきらかに小食になっていた。
「あんなに根詰めて体は大丈夫でしょうか?」
私が奈美恵さんに聞くと、どうやら病院いた時はいつもこうだったらしい。
「まあ、華江先生は放っておいた方がいいわ。気を散らせても仕方ないし。」
あずさ先生も言う。
「研究者って感じですよね。」
「なんだか痩せていっている気がするんですが。」
遠藤さんが心配したように言っている。
「いつもの事って感じですよ。きちんと食べてるし大丈夫だと思います。」
奈美恵さんが普通の事のように言うので、皆がそのことについて話すのをやめる。
そしてあれから私たちは週に1回、遠藤さんと数人で食料調達のために家を出ることになっている。
今日がその日だった・・
遠藤さんが言うには車はマイクロバスだと小回りが利かないという事で、路上で拾ったトヤタ社製の大型RV車を使っている。
この車だと車を押しのける事も出来るし、多少の障害物を乗り越える事も出来た。荒れた町を行動するのに適している車らしかった。
家に残る人たちは、他の人が食料や物資を調達している時間は活動をしない事になっている。
音を立ててゾンビなどが襲撃してくるかもしれないからだ。
地下の華江先生がいる研究室の隣のシェルターに潜んでジッとしているのだった。
生活音や臭いなどゾンビが何に反応するのかが分かっていない以上、遠藤さんと離れる場合には必ずシェルターと隣接したトイレの往復だけとなるのだった。
遠藤さんが離れている間に、華江先生がカプセルに残ったゾンビウイルスを研究する事になっている。
その場合あまりにも手持無沙汰になるため、皆それぞれ町で回収した本などを読んで過ごす事になっていた。
「じゃあ皆さん無事に帰って来てくださいね!」
女優の里奈ちゃんが映画で見たような素敵なスマイルで送り出してくれる。
「栞さん無理しないでください!」
あゆみちゃんも私を心配してくれている。
全員の話し合いで17才の2人は留守番にまわってもらう事にしていた。
「では行きましょうか?」
今日物資の回収に行くのは遠藤さんと私と吹田翼さん、北原愛奈さん、看護師の奈美恵さんだった。
「残る皆さんも十分気を付けてくださいね。」
吹田翼さんが言った。
私も家に残った事があるが・・
地下なので外の物音も聞こえず問題はないはずなのに、もしかしたらゾンビがうろついているのかもしれないという恐怖があるのだった。
「じっとしています。」
真下瞳さんが答えた。
5人はRV車に乗り込み華江先生から借りた鍵を使って外の門を開けて出る。
しっかり門を閉じたのを確認して車を発進させる。
「残った人達が心配ですよね・・」
愛奈さんが心配そうに家の方を見ていた。
北原さんは黒のストレートロングヘア―をきゅっとまとめ上げて綺麗にしていた。切れ長な目にまつげも長いクールビューティーなのだが、その目が不安げに外を眺めている。
不安な雰囲気を変えるため私は北原さんに話しかけた。
「北原さんってスポーツしてたんですか?」
「わかりますか?高校まで水泳してたんですよ。」
「凄いプロポーションがいいから何かやっていたのかなと思ったんです。」
「インハイにも行ったんです。」
「ええーすごい!」
「そんなでもないですよ!それより栞さんは華奢でかわいいのに・・その・・胸が・・」
「はは・・これは母親譲りと申しますか・・なんというか。」
すると吹田翼さんが話に入って来た。
「華奢な人ってたいてい胸が無いイメージですけど、栞ちゃんはポンってありますよね!うらやましいわあ。」
翼さんは長身で色白でボーイッシュな顔のスッキリ美人なのだが、あまり胸には自信が無いようだった。
「ね・・うらやましいよね。」
愛奈さんが同意している。
私もたまにみんなとお風呂に入っているから、みんなの裸をよく知っていた。
「でも翼さんのは凄く形もきれいだしトップの色が薄くて綺麗ですよね。うらやましいですよ。もしかしたらクオーターとかですか?」
「ああ・・ロシア人の血が入っています。おばあちゃんですけどね。」
「ああわかるー翼さんのは色きれいですよね!」
「いやぁ・・ちょっと恥ずかしいです・・」
翼さんの白い肌が薄ピンクに染まる。
「でも大きさで言ったら奈美恵さんが一番じゃないですか?」
「うん!それは否定できない。」
「奈美恵さん凄いですよね・・何を食べたらそうなるんですか?」
私と翼さんと愛奈さんから、急に奈美恵さんに話が飛ぶ。
「いえ・・あのこれ肩が凝るんですよ。夏はいろいろ大変だし・・暑いんです。」
「えー・・そんなセリフ言ってみたいです・・」
愛菜さんがしみじみと言った。
「私はスポーツがあまり得意じゃないので、北原さんのスタイルがうらやましいですよ。腹筋もすっごい引き締まってますよね。胸もツンと上を向いているし最近までスポーツやってたんですか?」
「バイク便に乗るためにジムで鍛えていました。普段から走り込みもしてたし・・でもこんなことになって引きこもるようになったので、体を動かしたくて仕方がないです。」
「わかりますー。」
翼さんが言う。
「翼さんは何かされてたんですか?」
「いやースポーツはしてなかったんですけどね!山登りにハマっちゃってて。登りたいなあ・・」
それぞれがしみじみの平和な時の話を思い出す。
「あのー」
運転していた遠藤さんがみんなに声をかける。
「あ・・・」
「ごめ・・」
「そういえば・・」
私たちは遠藤さんがいるのを忘れて・・おっぱい談義をしてしまったのだった。
遠藤さんの顔が赤くなっている。
これからゾンビがいるかもしれない場所に行く車中の会話にしては・・
ちょっと相応しくなかったかもしれない・・
検体の冷凍保管庫は華絵先生研究室の隣部屋にあるらしい。
「・・・・・・」
皆が息をのんで歩いていた。
ガラス張りの実験施設を静かに歩いて行くのだが、極度の緊張で嫌な汗が出てくる。
なにか・・人体実験でもしてるんじゃないのかとか思えてくる。
「とくに怪しい実験なんかしてないわよ。」
華江先生が緊張している私に話しかけてきた。
《びっくりした!心の中が読まれているのかと思った!》
「いえ・・怪しい実験なんて思っていないですよ!」
「まあこのゾンビウイルスはいくら実験しても全く分からなかったの。それが解明できるかもしれないのは素晴らしい事よ。」
「よかったです・・」
実際それがどれほどの事なのかはよく分からないが、もしゾンビウイルスに対して何か対抗策が取れるのだとしたら華江先生は救世主だ。
12人でぞろぞろと病院内を動き回る。
が、
結局怖いので全員遠藤さんの周りに居たいようだった。
《私だってそうだ。》
遠藤さんがゾンビを消す人だと知って、皆が彼から離れなくなった。
華絵先生の研究室に来ると華絵先生とあずさ先生、奈美恵さんがいろいろと研究に使う機材などを集め始めた。
それをみんなで分担して持つようにする。
作業があらかた終わり隣の細胞保存部屋に向かう。
隣の部屋は寒かった。
「あれ?電源が来てるんですね。」
「そうね。ここは非常時のためにお役所とラインが繋がっていてね、電源供給は間違いなくされるようになっているのよ。非常電源を遠くから引っ張ってきているようなものかしら。」
それだけこの研究は国も注目していたようだ。
「国からは早く解決するように言われていたんだけどね、政府からの連絡も途絶えてしまって研究はそれから中断していたのよ。」
「人々を救う研究ですか?」
「ええ。最初はあの風邪のようなウイルスを治すためのワクチン開発だったわ。でも急激にゾンビパンデミックが起きてからここに閉じ込められてしまってね・・そこにも引き続き緊急回線で国からの指示が出ていたのよ。ゾンビウイルスを駆除する事が出来ないかと・・」
「そんな研究を・・」
「政府からの連絡が途絶えてからは栞ちゃん達に話した通りよ。ここでゾンビから隠れて必死に生きていたのよ」
「辛かったでしょうね・・」
「それでもこの病院には緊急食料が常備されていたから、なんとか助かったようなものね。」
いくら強い華江先生とはいえ、相当恐ろしかっただろうと思う。
そして華江先生は冷凍保存室のドアを電子鍵で開ける。
ドアを開けるとエアシャワー室になっていて防護服がぶら下げてあった。
「みんなは入れないからここで待ってて。」
「華江先生、気をつけてください。」
「ここの中は安全よ。ただし閉じ込められたら凍死するわね。」
ガシャンとドアが閉められ、エアシャワーの音が聞こえる。
プシュー
しばらくすると中のドアが開く音がした。
ガチャン
ガラス越しに華江先生がみえる・・私達に手を振っている。どうやら心配しないでの合図らしい。
先生は白い煙の中に消えていった。
沈黙が流れる。
すると華江先生が戻ってきた。また手を振っている。
ガチャン
プシュー
音がするがすぐには出て来なかった。おそらく滅菌処理中なのだろう。
結構時間が過ぎた。大丈夫なのかな・・
「せ、先生!」
あゆみちゃんが声をあげる。
ガチャ
冷気と一緒に白い煙がドアから漏れてくる。
「おまたせ。」
「ああ・・良かったです。」
そして華江先生の手にはアタッシュケースがあった。
「それは・・」
遠藤さんが聞くと、華江先生が答える。
「これは・・言いにくいんだけど、冷凍ゾンビウイルスよ。急いで家の地下の冷凍保管庫にもっていきましょう。アタッシュケースは特別な金属で出来ていて、中に入っているカプセルも特別なものだから安全よ。」
「えっと遠藤さんの影響で消えるのでは?」
「ケースは特殊なものだから、それもたぶん大丈夫なはずだけど・・でもこればかりは分からないわね。」
そのままアタッシュケースやいろいろな機材をマイクロバスに積みこんで帰る。
華絵先生の家に近づいて来た。
やはり家の近くに帰ってくると少し変化がある。
家の周辺が少し荒れているようなのだ・・それを見るたびに全員が緊張してしまう。
結局・・ゾンビはどこにもいなかった。
門から敷地内にマイクロバスを入れて表の門を閉める。
家の敷地内が全く乱れていないのを確認してみんながバスを降りた。
「皆はリビングにいてちょうだい。私は地下のラボにこれを置いてくるわ。」
「はい。」
そして華江先生が地下に冷凍ゾンビウイルスを持っていく。
「ふう・・これで進展しそうですね!」
「本当です。」
「華江先生の肩にかかっているわけですね。」
少し経つと華江先生が足音が聞こえてくる。
しかし先生は・・浮かない顔で戻ってくるのだった。
「あの・・ゾンビウイルスが消えてしまって・・おそらくアタッシュケースから取り出すまではあったのだと思うけど、出して分析器にかけたらあっというまに消えてしまって。」
「それじゃあ・・遠藤さんの・・」
一瞬皆ががっくりと肩を落とす。
今日の作業がすべて無駄になったからだ。
「いえ、消えたからダメって言う事はないけど。」
「どういうことですか?」
遠藤さんが聞き返す。
「分析器にかけて消えるまでにゾンビウイルスのデータが取れたの。」
「それで?」
「疑似的にゾンビウイルスに似たものを作る事は可能かもしれない。」
「えっ!!そんなことが出来るんですか?」
「まあ仮説ではおそらくできるわ。あと他のカプセルに入っている冷凍ゾンビウイルスはまだ確認していないし、出さなければ保有されているはず。」
皆びっくりしている。
あずさ先生がみんなに華江先生の説明をする。
「大角先生は天才と呼ばれているんですよ。世界的なバイオ研究の権威なんです。」
ほへぇ~
全員が唖然とした顔で華江先生を見つめていた。
世界の第一人者なんだ・・
それから華江先生は毎日研究に没頭しはじめた。
ご飯の時インターフォンで呼べば上がってきて食べるが、すぐに地下に降りて行く。
地下はシェルターにもなっているので緊急時の非常食も保管していたが、それを食べている様子もない。
あきらかに小食になっていた。
「あんなに根詰めて体は大丈夫でしょうか?」
私が奈美恵さんに聞くと、どうやら病院いた時はいつもこうだったらしい。
「まあ、華江先生は放っておいた方がいいわ。気を散らせても仕方ないし。」
あずさ先生も言う。
「研究者って感じですよね。」
「なんだか痩せていっている気がするんですが。」
遠藤さんが心配したように言っている。
「いつもの事って感じですよ。きちんと食べてるし大丈夫だと思います。」
奈美恵さんが普通の事のように言うので、皆がそのことについて話すのをやめる。
そしてあれから私たちは週に1回、遠藤さんと数人で食料調達のために家を出ることになっている。
今日がその日だった・・
遠藤さんが言うには車はマイクロバスだと小回りが利かないという事で、路上で拾ったトヤタ社製の大型RV車を使っている。
この車だと車を押しのける事も出来るし、多少の障害物を乗り越える事も出来た。荒れた町を行動するのに適している車らしかった。
家に残る人たちは、他の人が食料や物資を調達している時間は活動をしない事になっている。
音を立ててゾンビなどが襲撃してくるかもしれないからだ。
地下の華江先生がいる研究室の隣のシェルターに潜んでジッとしているのだった。
生活音や臭いなどゾンビが何に反応するのかが分かっていない以上、遠藤さんと離れる場合には必ずシェルターと隣接したトイレの往復だけとなるのだった。
遠藤さんが離れている間に、華江先生がカプセルに残ったゾンビウイルスを研究する事になっている。
その場合あまりにも手持無沙汰になるため、皆それぞれ町で回収した本などを読んで過ごす事になっていた。
「じゃあ皆さん無事に帰って来てくださいね!」
女優の里奈ちゃんが映画で見たような素敵なスマイルで送り出してくれる。
「栞さん無理しないでください!」
あゆみちゃんも私を心配してくれている。
全員の話し合いで17才の2人は留守番にまわってもらう事にしていた。
「では行きましょうか?」
今日物資の回収に行くのは遠藤さんと私と吹田翼さん、北原愛奈さん、看護師の奈美恵さんだった。
「残る皆さんも十分気を付けてくださいね。」
吹田翼さんが言った。
私も家に残った事があるが・・
地下なので外の物音も聞こえず問題はないはずなのに、もしかしたらゾンビがうろついているのかもしれないという恐怖があるのだった。
「じっとしています。」
真下瞳さんが答えた。
5人はRV車に乗り込み華江先生から借りた鍵を使って外の門を開けて出る。
しっかり門を閉じたのを確認して車を発進させる。
「残った人達が心配ですよね・・」
愛奈さんが心配そうに家の方を見ていた。
北原さんは黒のストレートロングヘア―をきゅっとまとめ上げて綺麗にしていた。切れ長な目にまつげも長いクールビューティーなのだが、その目が不安げに外を眺めている。
不安な雰囲気を変えるため私は北原さんに話しかけた。
「北原さんってスポーツしてたんですか?」
「わかりますか?高校まで水泳してたんですよ。」
「凄いプロポーションがいいから何かやっていたのかなと思ったんです。」
「インハイにも行ったんです。」
「ええーすごい!」
「そんなでもないですよ!それより栞さんは華奢でかわいいのに・・その・・胸が・・」
「はは・・これは母親譲りと申しますか・・なんというか。」
すると吹田翼さんが話に入って来た。
「華奢な人ってたいてい胸が無いイメージですけど、栞ちゃんはポンってありますよね!うらやましいわあ。」
翼さんは長身で色白でボーイッシュな顔のスッキリ美人なのだが、あまり胸には自信が無いようだった。
「ね・・うらやましいよね。」
愛奈さんが同意している。
私もたまにみんなとお風呂に入っているから、みんなの裸をよく知っていた。
「でも翼さんのは凄く形もきれいだしトップの色が薄くて綺麗ですよね。うらやましいですよ。もしかしたらクオーターとかですか?」
「ああ・・ロシア人の血が入っています。おばあちゃんですけどね。」
「ああわかるー翼さんのは色きれいですよね!」
「いやぁ・・ちょっと恥ずかしいです・・」
翼さんの白い肌が薄ピンクに染まる。
「でも大きさで言ったら奈美恵さんが一番じゃないですか?」
「うん!それは否定できない。」
「奈美恵さん凄いですよね・・何を食べたらそうなるんですか?」
私と翼さんと愛奈さんから、急に奈美恵さんに話が飛ぶ。
「いえ・・あのこれ肩が凝るんですよ。夏はいろいろ大変だし・・暑いんです。」
「えー・・そんなセリフ言ってみたいです・・」
愛菜さんがしみじみと言った。
「私はスポーツがあまり得意じゃないので、北原さんのスタイルがうらやましいですよ。腹筋もすっごい引き締まってますよね。胸もツンと上を向いているし最近までスポーツやってたんですか?」
「バイク便に乗るためにジムで鍛えていました。普段から走り込みもしてたし・・でもこんなことになって引きこもるようになったので、体を動かしたくて仕方がないです。」
「わかりますー。」
翼さんが言う。
「翼さんは何かされてたんですか?」
「いやースポーツはしてなかったんですけどね!山登りにハマっちゃってて。登りたいなあ・・」
それぞれがしみじみの平和な時の話を思い出す。
「あのー」
運転していた遠藤さんがみんなに声をかける。
「あ・・・」
「ごめ・・」
「そういえば・・」
私たちは遠藤さんがいるのを忘れて・・おっぱい談義をしてしまったのだった。
遠藤さんの顔が赤くなっている。
これからゾンビがいるかもしれない場所に行く車中の会話にしては・・
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