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長尾栞の章

第5話 肝試しで襲われる

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カラカラカラ


温泉の戸を開くと湯気が漂ってきた。意外に広くて外の露天風呂につながるドアもあった。

「広いわね。」

華絵先輩がつぶやいた。

「そうですね。意外にゆったり。」

なっちゃんが答える。

浴室の周りを囲むように洗い場があり、みんなは鏡に向かって座る。シャンプーとリンスそしてボディソープが備えつけられていた。

みんな洗顔料以外は備えつけの物をつかう。

全員が体を洗い始めた。


ハンドタオルで泡立てて腕を洗ったらピリピリした。

日焼けしている・・

みんなタオルを使わず泡でそっと洗っていた。

「日焼け止めしてたのに。」

真衣先輩が腕を見ながら言う。

「長袖でも結構焼けちゃうんですね~。」

公佳先輩も日焼けを気にしているようだった。

「まあ仕方ないわよ、野外スポーツに日焼けはつきもの。」

華絵先輩が言った。

「みなみはそんなに気にしてないみたいよ」

華絵先輩が言うとみなみ先輩が答える。

「そんなことも無いんですよ華絵さん・・どうしても練習すると焼けちゃって。これでもかなり日焼け対策はしてるんです。」

「そうよねー、うちの大学に室内練習場あればいいんだけど、文科系の大学しね・・」

麻衣先輩が言う。

皆どうやら日焼けを気にしているようだった。そうかぁ私もそろそろ気にしなくちゃいけないのかな?と思いながら、なっちゃんに聞いてみる。

「なっちゃん日焼け対策ってしてるんだっけ?」

「ぜーんぜん。ただひりひりが嫌だからローションを塗ったりはするよ。」

元気っ子のなっちゃんは日焼けを全く気にしていなかった。

「わたし赤くなるだけでヒリヒリして黒くならないんだー。私も綺麗に焼いてみたい。」

梨美ちゃんが浅黒く焼けた健康的ななっちゃんをみて羨ましがっている。

ザバー

なっちゃんが温泉をあがる。するとみなみ先輩も一緒にでるようだった。

「熱くて入ってられないー。もうあがるね。」
「私も熱くてだめだわ。」

2人が浴室を出て行った。

「露天風呂に行ってみようかしら。」

華絵先輩が言う。

「私も行きますー。」
「あ、私も!」

私と梨美ちゃんがついていく。

カラカラカラカラ

露天風呂に続くドアを開けると外は涼しかった。ハンドタオルを胸から下に垂らして歩いて行く。温泉に片足をつけてみると中の温泉よりぬるくて長く入っていられそうだった。

「気持ち良いですねー!」

私が華絵先輩に言うと、

「本当ね、合宿のプランを変えてよかったわ」

「去年までは違ったんですか?」

「ええ去年までは海だったけど、みんな日焼けしたくないって・・結局日焼けはするのよね。でもそれで温泉がある高原にしようってなったの。夜がこんなに涼しいなんて過ごしやすくていいわ。」

すると梨美ちゃんが言う。

「ほかの大学に行ってる友達のサークル合宿の会費が意外に高かったらしいんですけど、1人2万6千円って安いですよね?」

「お友達の学校のサークル合宿の会費はいくらなの?」

「2泊で3万7千円だそうです。」

「ええ!高いわね。私だったら行かないわ。」

「うちは2泊で2万6千円ですもんね!どうしてこんなにおさえられてるんですかね?」

「去年まではご飯を出してもらえるところに泊まってたから、うちも高かったんだけどみんなで話し合って自分達で楽しんで料理作ろうってなったのよ。」

「そしたらおさえられたって感じですか?」

「そうね・・あとこの合宿用の施設も、リーズナブルだったっていうのもあるかしらね。」

私もここは凄く良いなって思ってた。

「ここたしかに地味ですけど、そこがいい感じですよね!」

「ほんとそうね。」

露天風呂での女子トークは続いた。すると真衣先輩と公佳先輩も露天風呂に来た。

「えー、すっごい気持ちいい!涼しいー」

真衣先輩がテンション上がってる。

「本当だ。意外に立派な施設でびっくりです。」

公佳先輩も感心していた。

「あとは男性陣がつくる料理ね。」

華絵先輩が言うと、真衣先輩が答える。

「え、カレーなんて簡単ですよ!男子でも出来ます。」

「それもそうね、ふふふ。」
「あははは。」

2人が顔を見合わせて笑っていた。

「さてそろそろ上がりましょうか!カレーの話してたらお腹がなっちゃった。」

公佳先輩の言うとおりだった。

私となっちゃん、梨美ちゃんが同時にお腹がなった。


「ほらほら若い3人のお腹の虫がなっちゃったわ。」

私達が温泉を出た頃には陽が落ちて暗くなっていた。

温泉で火照った体を冷ますようにTシャツの首の部分をパタパタさせながら歩く。ログハウスの中に入るとすでにご飯の準備は出来ていたようだ。

「お!来たな!俺達特製のカレーを食わせてやるぞ。」

陽治先輩が得意げな顔で言って来る。健先輩がしらっとした顔で答えた。

「まあ市販のカレールーだけどな。」

すると雷太先輩がにこにこ顔で言う。

「いやー普通が一番うまいっすよ!豚バラジャガイモ人参玉葱に中辛で十分。」

啓介先輩がそこにフォロー?を入れる。

「いや、少し良いカレールーなんだよ。中辛でもちょっと辛めかもしれないけど。」

すると唯人君がテンション高めで言った。

「えっ!辛めのカレー好きっす!腹減りましたよ」

「よっしゃ!みんなで食おうぜ!」

健先輩の号令がかかった。

「楽しみね。」

華絵先輩がみんなに微笑みながらご飯を盛り付けて渡してくれる。

ログハウス内にはカレーのいい匂いが漂うのだった。


・・・楽しい一日だった。


そして・・・


事件は二日目の夜に起きるのだった。


午前は普通にテニスの練習をして、午後は沢に行って冷たい水に素足を浸して涼んだ。

お昼のバーベキューでは雷太先輩が食べすぎて寝込んでいたが、3時には復活して普通にスイカを食べてたので凄いと感心する。みんなで沢でスイカを食べて本当に楽しかった。

「今日も楽しかったですね!」

私が言うと華絵先輩が答えた。

「そうね。栞ちゃんが楽しいって言ってくれて私もうれしいわー。」

「華絵先輩!私もたのしかったですよ!」

なっちゃんが言うと華絵先輩が笑いながら、なっちゃんのほっぺをプニプニしていた。


「よし!それじゃあ夜は恒例のきもだめしだな!」

陽治先輩がはりきって言う。

「まったくー!魂胆がみえみえよー、どうせ怖がって私たちにしがみつかせようと思ってるんでしょ?」

真衣先輩が訝しむように陽治先輩に言った。

「ふふふ、ばればれですね。陽治さん」

啓介先輩が正直に言うのがおかしくて皆んなが笑う。

「どうしてもやらなきゃダメですか?」

みなみ先輩が眉毛をハの字にして抗議している。

「みなみは怖いんだろ?」

雷太先輩が言うとみなみ先輩はジト目で雷太先輩をにらんでいた。

「まあ、男子はこれのために来たようなものなんでしょ?」

みなみ先輩がズバリと言うと、健先輩が抗議をする。

「俺は純粋にテニスの練習がしたくてだなー!」

「わかったわかった。じゃあお前はやらないのな。」

陽治先輩が言うと健先輩が慌て言う。

「やるよ!やる!4年になったらゼミに卒論に就活とサークル活動なんて出来なくなるからな、思い出作りさせてくれ!」

陽治先輩、華江先輩、真衣先輩がちょっぴり暗い顔になった。全員来年は4年生だから思うところがあるのだろう。

空気が微妙になったのを見かねたなっちゃんが元気に言う。

「そうと分かったらくじ引きしましょ!組む人決めましょうよ!」

割り箸に色分けして塗り分け、反対にして紙コップに差し込んだ。

「ゴクリ。」

「ちょっと!陽治君!そんな真剣にならないでよ!笑っちゃうじゃない。」

「し・・真剣になんてなってねえよ!」

華江先輩につっこまれ顔を赤くする陽治先輩。

「あー動揺してるー」

公佳先輩にまでつっこまれる。



チーム分けは次の通りになった。

健先輩 佐波梨美さん 公佳先輩

陽治先輩 なっちゃん みなみ先輩

啓介先輩 梨美ちゃん 華絵先輩

雷太先輩 麻衣先輩 

唯人君 長尾栞(私)

チームは5つに分かれた。



じつは少し前から、唯人君がほんの少し気になっていたから私は内心で喜んでいた。
  
「私、健先輩とかぁー」

公佳先輩が言うと健先輩が抗議する。

「なんだか嫌みたいに聞こえるけど・・」

「いえそういう意味じゃないんです。」

すると華絵先輩が言う。

「公佳ちゃんは陽治君とがよかったんでしょ?」

「そんな華絵先輩!いや・・否定もできないですけど・・」

「俺だって、なっちゃんとみなみちゃんとの元気コンビだぜ」

陽治先輩がつぶやくと二人が猛抗議する。

「えー不満?こんなに可愛い子と組めて?ねえ夏希ちゃん」
「ほんとです!陽治先輩ちょっと贅沢ですよ!」

「不満とは言ってないよ!!」

二人に責められてタジタジになっていた。

「私は雷太くんと!こわーい事がおきたらまもってね!」

「うっす!麻衣先輩!おれお化け苦手っすけどがんばります!」

「たよりなーい」


「「「「「はははっは」」」」」


「1年生チームは大丈夫?」

「俺はお化けとか平気です。」

「わたしは滅茶苦手ですー」

「じゃあ唯人君が栞ちゃんを守ってやるよーに!」

なっちゃんが唯人君を指さして言う。なっちゃんだけが知っている私の秘めた思い。

「わかりましたー。」

《くじを作ったのは、なっちゃんだから・・もしかすると謀ったな?》


「じゃあこの林の先にある、湖までグループごとに行くんですよね?」

「結構距離ありますよ。」

「健先輩!じゃあ私たちからいきますよー。」

「お、おう!」


それぞれに時間を空けて出発することにした。


私と唯人君が最後にのこり、これから出発するところだった。

「途中真っ暗だよね・・本当に怖いんだけど・・」

「俺、平気だから。」

唯人君が頼もしかった。お化けとか幽霊の類を全然信じていないらしい。

でも二人きりで歩いて行くのにドキドキしてきた。心臓の音が聞こえてしまわないか不安だった。

少し距離を置いて歩き始める。

林の道は暗くて本当に怖かった・・二人の足音だけが聞こえる。

ガサッ

「キャッ!」

唯人君の腕に思わず抱きついてしまった。

《そ・・そう・・これは不可抗力、仕方ない》

「大丈夫?」

「う、うん。」


私たちはみんなのいるところに向かって歩いて行く。

ガサッ

《今度はおどろかないぞ!》

バキッ!

《えっ・・・》

目の前の唯人君が倒れる。後ろを振り向くとそこにはガラの悪い男が二人立っていた。一人は木の棒を持っていた・・それで唯人君を殴った・・

「ゆ!」

私は後ろに立っていた男から口を押さえられて雑木林の中に連れ込まれた。


なに!?なにがおこってるの?

「おお可愛いんじゃねえ?」

「マジだ・・早くすましちまおうぜ」

「ここって大学生のサークルが来るってのは本当だったんだな。」

「ああ、遠路はるばる来てよかったぜ。どうせこの県の人間じゃねえしバレねえ」

ガラの悪い二人の男はサングラスとマスクをしていて顔が見えなかった。私は後ろから腕を羽交い絞めされて口をふさがれた。

「んっんんーー!!」

「タオルで口を塞いじまおうぜ」

《うそ?これって私・・》

ビリビリ!

Tシャツを思いっきり引き裂かれた。

「んーー!!!」

「俺が押さえてるから早く」

とにかく足と手をじたばたとさせた!必死に抵抗し続けるしかなかった!

ジャージと下着に手をかけられて一気に下げられた。

「んんん!!!!」


するとその時だった。

ドカ!

そこにいたのは唯人君だった。頭から血を流して私の足の間にいた男を蹴っとばしたのだ。

「やめろ!」

「おいおい・・復活がはやいな・・」

もう一人の男が唯人君と取っ組み合いになる。唯人君は必死に相手を組み伏せようとするが、どうやら相手の方が体が大きく力が強いようだった。

もう一人が大きい石をもって唯人君に近づいて行く。

「やめて!」

わたしは思いっきりその石をもった男に体当たりをしたのだった。

石を落として男がよろめいた。それに気を取られたもう一人の男が唯人君からはじき飛ばされる。

「おっと」

二人の男が立ち上がりかけたとき、タオルが口から外れたので私が叫んだ。

「助けて―!!!!」

「ちっ!」
「やべえな!」

二人の男は一目散にその場から立ち去って行った。 

「はぁはぁはぁ・・」

「唯人君!大丈夫!」

「くらくらする・・」

「助けて―!先輩―!」

私は思いっきり叫び声をあげた。

「いやいや・・み・・みんなが来る前にあの・・」

「えっ?」

「下着とジャージを・・」

私は不意に足元を見ると・・はいていなかった。そういえば・・さっきあの男たちに下げられて!

「きゃぁぁぁぁぁ」

私はしゃがみこんで隠した。

「早く!はいて!」

私は慌てて下着とジャージをはいた。

「これを着て!」

唯人君は私に自分が来ていたTシャツを脱いで貸してくれた。


「どうした!?」

雷太先輩の声が聞こえる!

《た・・たすかった・・》


しばらくしてみんなが駆けつけてきたのだった。
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