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第3章 不測の事態
4.悲しみの果て
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光太は夜の道を、昨日まで住んでいた実家の方向へ歩いていった。時間は23時を回っていたため、人影もまばらだ。そして、幽霊になって思うことは、とにかく夜が落ち着く。人間だったときは夜道を歩くのがとにかく怖かったが、そんな恐怖は微塵もない。光太は実家の周囲に立っているフェンスまでたどり着くと、そのフェンスの僅かな隙間から、リビングの方を覗いた。しかし、カーテンが閉められていて何も見えない。明かりはついているので、まだ起きているはずだー。
両親が起きていると分かると、光太は腕組みをして念じた。すると、光太の魂が入っていた男の子の身体は、もぬけの殻となって、その場にうずくまっていた。男の子の脱け殻を庭の隅に隠すと、透明な状態となった光太は、玄関へと向かった。
ドアノブをそっと開けようとしたが、その必要はなかった。幽霊になった光太の身体はスルリと玄関ドアをすり抜けて、家の中に入っていった。
「うわ、本当に幽霊じゃんか。」
透明になるのは便利な機能だが、なんだかあまり嬉しくはない。光太は複雑な気持ちを抱え、リビングへと入っていった。
広と美和は、ソファに隣り合って座っていた。互いに下を向き、黙り込んでいる。
先に沈黙を破ったのは広だった。
「美和、光太はしあわせだったかな。俺たち、光太を幸せにしてやれたかな?」
「なんでそんなこと言うんだよ、幸せだったよ!僕は父さんと母さんにありがとうって、伝えたいんだ!」しかし、光太のその叫びが届くことはなかった。
「いつも光太に料理任せちゃって…。本当、ダメな親だったよね。もう光太に何もしてあげられないって思うと、私…。もう無理だわ」美和は下を向き、嗚咽しながら泣きじゃくっている。
その後二人が会話を交わすことはなかった。そして、朝がくるまで二人はソファで隣り合わせに座り、光太の幼い頃からの写真を眺めていた。
その光景を見ていた光太はいたたまれない気持ちになった。自分の死をこれほどまで悲しんでくれる人がいる。光太はいますぐにでも両親と抱き合いたかった。少しでも励まして、悲しまないで生きていってほしいと願った。しかし、これほど近くにいるのに、接することができないまでか、会話すらできない。光太は大きなもどかしさを抱えつつ、リビングを後にした。
朝日が山の間から顔を出し、なんとも幻想的な光で庭を照らしていた。光太は、庭の片隅に咲く白い「トルコキキョウ」の花を二輪摘み取り、リビング前のウッドデッキに丁寧に置いた。
「今までありがとう。」光太は一礼すると、隠してあった男の子の脱け殻に再び入り込み、家を出た。
午前8時。ようやく立ち上がった広は、リビングのカーテンを開けた。
「何もこんなに晴れなくても…。」
清々しいほどの晴れ間に嫌気が差した広は下を向くと、二輪の白いトルコキキョウが置いてあった。
「美和!ここに花、置いたか?」
「ん…。何も置いてないわよ…。」
「これほら!トルコキキョウじゃないか。光太が小学生の頃、学校から持ち帰ってきて庭に植えていたやつだ。」
「本当ね!でもいつの間に二輪だけ。もしかして、光太が来たのかしら。あの子、どこまでいってもいい子なんだから……。」
美和はトルコキキョウの花を一輪両手で優しく握ると、祈るようにおでこに花をあてた。
トルコキキョウの花言葉は「感謝」。
「お父さん、お母さん、いつもありがとう!」 学校帰り、はしゃぎながらトルコキキョウの花を持ち帰ってきた光太を思い出していた。あの頃と変わらない、親思いの光太がそこにいるー。
二人は涙で目を真っ赤にしながらも、ほんの少し、悲しみでくしゃくしゃになった顔に笑顔が戻っていた。そして、トルコキキョウの花を真ん中に、互いに肩を抱き合った。
両親が起きていると分かると、光太は腕組みをして念じた。すると、光太の魂が入っていた男の子の身体は、もぬけの殻となって、その場にうずくまっていた。男の子の脱け殻を庭の隅に隠すと、透明な状態となった光太は、玄関へと向かった。
ドアノブをそっと開けようとしたが、その必要はなかった。幽霊になった光太の身体はスルリと玄関ドアをすり抜けて、家の中に入っていった。
「うわ、本当に幽霊じゃんか。」
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「いつも光太に料理任せちゃって…。本当、ダメな親だったよね。もう光太に何もしてあげられないって思うと、私…。もう無理だわ」美和は下を向き、嗚咽しながら泣きじゃくっている。
その後二人が会話を交わすことはなかった。そして、朝がくるまで二人はソファで隣り合わせに座り、光太の幼い頃からの写真を眺めていた。
その光景を見ていた光太はいたたまれない気持ちになった。自分の死をこれほどまで悲しんでくれる人がいる。光太はいますぐにでも両親と抱き合いたかった。少しでも励まして、悲しまないで生きていってほしいと願った。しかし、これほど近くにいるのに、接することができないまでか、会話すらできない。光太は大きなもどかしさを抱えつつ、リビングを後にした。
朝日が山の間から顔を出し、なんとも幻想的な光で庭を照らしていた。光太は、庭の片隅に咲く白い「トルコキキョウ」の花を二輪摘み取り、リビング前のウッドデッキに丁寧に置いた。
「今までありがとう。」光太は一礼すると、隠してあった男の子の脱け殻に再び入り込み、家を出た。
午前8時。ようやく立ち上がった広は、リビングのカーテンを開けた。
「何もこんなに晴れなくても…。」
清々しいほどの晴れ間に嫌気が差した広は下を向くと、二輪の白いトルコキキョウが置いてあった。
「美和!ここに花、置いたか?」
「ん…。何も置いてないわよ…。」
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「本当ね!でもいつの間に二輪だけ。もしかして、光太が来たのかしら。あの子、どこまでいってもいい子なんだから……。」
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二人は涙で目を真っ赤にしながらも、ほんの少し、悲しみでくしゃくしゃになった顔に笑顔が戻っていた。そして、トルコキキョウの花を真ん中に、互いに肩を抱き合った。
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