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第32話

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夏の中旬に、ガルシア王国では建国を記念する建国祭が開かれる。



市民街では前夜祭も開かれ、沢山の屋台が立ち並びとても賑わう行事である。

王侯貴族は建国祭当日に、昼と夜に舞踏会が王城で開かれ、国中の貴族が集まる。



そんな建国祭が10日後に迫った日にルイスは用事があり、登城していた。

城の中は、建国祭の準備でバタバタと忙しそうに人達が動き回っている。

そんな城の廊下をルイスは一人歩いていると、前から第二王子が側近を連れて前から歩いてきた。

ルイスは直ぐに廊下の脇に避け敬礼をし、第二王子達が去るのを待つ。



そんなルイスを見かけたライムンドは、ルイスの前で立ち止まった。



「グラシア第三騎士団長、少し聞きたい事があるのだが」

 

「はっ!何でありましょう」



「今年の建国祭は昼と夜、どちらのパーティーに出席するのだ?」



騎士団に務めている者は、警備の関係上、昼か夜のパーティーに順番で出席する。

何故、第二王子が自分の出席を気にするのかわからなかったルイスだが、聞かれた事に素直に返事を返す。



「はっ、今年は夜会に参加させて頂きます」



「そうか…ならソフィア姉様もパートナーとして連れてくるように」



「え?…あの、まだ婚約を結んだわけではないので、パートナーとして連れてくるのはいかがかと…」



王侯貴族が開くパーティーにパートナーとして出席出来るのは基本は貴族だけ。

平民が出席するには、貴族と婚約を結んでいるか、パーティーの主催者から直々に招待されているかのどちらかなのでソフィアは今回の建国祭には出席出来ないのだ。



「別に構わない、婚約者として連れてくるように。レイナルド兄様がずっとソフィア姉様に会いたかったとうるさいんだよ。

この前は公務が入って自分は会えなかったのに俺だけ会えたのがズルいって」



兄である王太子のレイナルドが事あるごとにグチグチ言ってきたのを思い出してウンザリとした様子でライムンドは話す。

聡明で完全無欠が具現化したかの様な王太子だと巷では称えられているが、ライムンドからしたら王太子妃とソフィアに激甘な姿を見ている為、弟としては複雑な心境である。



王太子が妃を溺愛しているのは有名だが、レイナルドはソフィアの事も実の妹以上に可愛がっている。

一番年が近いせいかは知らないが、その愛情は弟であるライムンドから見ても鬱陶しいくらいである。



妹の様だと言ってもソフィアは年が近く、英雄の娘である。

その為、余り親しくしては王太子妃が嫌がるかと思うだろうが、実は王太子妃もソフィアの事を妹の様に可愛がっているのだ。

幼い頃から一緒にレイナルドと王太子妃であるセラフィナ、ソフィアの三人で良く遊んでいたと聞いた。



そんなソフィア大好き人間が、自分は公務で会えなかったというのに、弟だけ会ったとしれば愚痴の1つや2つ言うだろうがライムンドからしては、たまったものではない。

その為、建国祭でレイナルドがソフィアに会える様に、こうしてルイスに連れてくるように言ったのだ。



「…は、はい。かしこまりました。ソフィアと参加させて頂きます」



突然出てきた王太子の名前にルイスは、素直に了承する事にした。



「頼んだよ、一応招待状は出しとくから。実際は婚約者じゃないと言われても王族直々に招待されたと言っておけば周りも黙るだろう」



「お気遣い感謝いたします」



「それじゃ、よろしく頼むよ」



90度の礼をしたルイスに、第二王子はヒラヒラと手を振って去っていった。





ルイスは仕事の帰り【まんぷく亭】へ寄りソフィアに建国祭を共に出席して欲しいと頼む事にした。



もう昼の営業時間が過ぎているのでルイスは【まんぷく亭】のドアをノックする。



「はーい」



ノックの音に反応して、鈴を鳴らすような声が聞こえた。



ガチャッとドアが開く。



「あら、ルイスさん!いらっしゃいませ、外は暑いですよね、どうぞ中に入って下さい」



「あぁ、ありがとう」



店の中に招き入れられたルイスはソフィアに言われるがまま、席へと座った。

ソフィアはルイスに冷たいお水を出して、ルイスの向いの席へと腰を下ろした。



「忙しい所すまないな」



「いえ、良いんですよ。今日はどうかされたのですか?」



「あぁ…実はソフィアに頼みがあって来たのだ」



「頼みですか?」



ルイスは先程、城であった第二王子との会話をソフィアに話し説明した。



「と、言う訳なのだ。ソフィアには俺のパートナーとして建国祭に共に行ってもらいたいのだが…良いだろうか?」



「えぇ、分かりました。

すみませんレイお兄様のせいでルイスさんにご迷惑かけてしまって…」



「いや、それは構わない。俺もソフィアをパートナーとしてパーティーに出席出来るのは嬉しいからな。

それより…ソフィアは王太子殿下にとても好かれているのだな」



「そうですね、年の近い妹だと可愛がって貰ってます。

今年でレイお兄様が26歳で、私が22歳なので4歳差ですね。

ライ君が18歳なのでレイお兄様と結構歳が離れていますから、私とレイお兄様で遊ぶ事が多くて、産まれた時から良くして頂いてます」



王太子が兄の様な存在というのも驚いたし、第二王子がライ君呼びなのにも驚いたルイスだが、それよりもソフィアの年齢をルイスは初めて聞いた。



「ソフィアは22歳だったのか」



「あっ!まだ誕生日が来ていないので今はまだ21歳です。そういえばルイスさんと、まだ年齢の話もしていませんでしたね」



「そうだったな…まぁ、これからお互いに知っていこう。俺は現在27歳で今年で28歳になる、誕生日は来月だな」



「もうすぐではないですか!今日聞けて良かったです、是非お祝いさせて下さいね」



「あぁ、ありがとう。ソフィアの誕生日はいつなのだ?」



「私は11月の初めの日です」



「そうなのだな、ではその日は休みをとってどこか遊びに出かけるか」



「ふふっ、楽しみにしてますね」



恋人と誕生日を祝い合う約束を出来たルイスとソフィアは嬉しそうに笑いあった。



「俺もだ。それで、建国祭当日に着ていくドレスなのだが」



「あ、ドレスならいくつか持ってるのでそれを…」



「いや!ソフィア、是非俺にドレスを贈らせてほしい」



これだけは譲れないとルイスはソフィアの言葉を遮るように願い出た。



「え、でも…」



まだ、婚約を結んだ訳ではないのに、そんな高価な物を貰っても良いのだろうかとソフィアは悩む。



「もう、建国祭まで時間がないので今回は既製品になってしまうが、是非俺に贈らせて貰いたい。知り合いにドレス工房を営んでいる奴がいるので、今度の休みに行かないか?」



ルイスはもっと早く建国祭にソフィアと出席出来ると分かっていたらオーダーメイドのドレスを贈れたのにと、残念な気持ちでいっぱいだ。



そんなルイスの強い気持ちを感じたソフィアはコクリと頷いた。



「明後日のお休みでしたら、なにも用事が無いので大丈夫ですけど…ルイスさんは急にお休みとれるのですか?」



「問題ない、いつもロベルトから有給を取れと言われているが、なかなか取らないので毎回叱られているのだ。明後日だったら急な仕事も無いし大丈夫だ」



「そうなのですか?働き過ぎは身体に悪いのでお休みはちゃんと取ってくださいね」



「あぁ、ありがとう。明後日、馬車はこちらで用意するから、昼過ぎに迎えにくるな」



「はい、お待ちしてますね」



「それと…ドレス工房の側に美味しいレストランがあるんだ、良かったら夕食を一緒にとらないか?」



「はい、是非!楽しみにしてますね」



「良かった、じゃあ明後日に…」



そう言ってルイスは席を立った。



ルイスはソフィアと共に買い物に行ける、既製品だがドレスを贈れる、パーティーに共に行ける喜びが溢れ返り、嬉しくて脳内で小さな自分が小躍りを踊っている。



喜びから顔がにやけそうになるのをルイスはソフィアに見られないように必死に取り繕い、頑張って真顔を保ち外へと出た。



ソフィアがドアを閉めるのを確認し、そして周りに誰もいない事を見渡してから、声なき声で「よっしゃー!!」と叫びガッツポーズをした。



どんなドレスがソフィアに似合うか脳内で妄想しながらルイスは軽い足取りで騎士団へと帰っていった。


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