上 下
22 / 64

第20話

しおりを挟む


日が暮れた頃にルイスは第三騎士団の医務室で目が覚めた。

ルイスは今日あった事が実は夢だったのではないかと思ったが、自分の着ていた服が裂けているのと側に置いてあった愛剣が真っ二つに折れているのを見て夢ではなく現実であった事を実感させられた。





「あ、団長起きましたか」





ボーッと誰もいない医務室のベッドで窓の外を見ていると、ドアが開きロベルトの声が聞こえた。





「ロベルト、ソフィア達はどうしたのだ?」





「起きて一番に聞くのがそれとは、本当にソフィアさんの事が大切なのですね」





「なっ!大切だとっ!?」





「違いましたか?あのオークキングにソフィアさんが襲われそうになった時の団長の足の早さに私は驚きましたよ」





「ロベルトお前、俺の事からかってるだろ」





「当たり前です、貴方が死にそうになって私も肝を冷したのですから、それなのに…」





「それは…すまなかった」





申し訳なさそうに顔を背け謝るルイスに、本当に仕方がない人だとロベルトは息を吐いた。

破れた服の代わりの着替えを持ってきたくれたロベルトに礼を言いルイスは着替える。





「それにしても、ソフィアさんの治癒魔法は凄かったですね。お狐様の力をお借りしたら瀕死の者まで治せるとは驚きました」





「あぁ、おかげで命拾いしたな」





ざっくりと破れた服を見たルイスとロベルトは、改めてソフィアとキューちゃんの力に驚き、そして感謝したのであった。





「団長、王に渡す報告書を作りましたので確認の方をお願い致します」





「あぁ、すまん助かった」





ロベルトは、今回の森で起きた異変を王に知らせるべく、報告書を作りルイスへと渡した。





「後…王には今回の件を説明するにあたり、ソフィアさんとレティシアさんの事を言わなければならないのですが……」





「だが、それではソフィアが!」





「団長…、人の話は最後まで聞いて下さい、ソフィアさんのお狐様の事は全て伏せて王に話を通すつもりです」





「あ、そうか…だが、新人達にも知られてしまったからな、どこかで狐の事がバレてしまう可能性もあるかもしれない…」





「いえ、大丈夫かと思われます」





「なんでだ?」





「新人達は皆、ソフィア様、レティシア様と女神の様に崇め奉っているので、彼女達が望まぬ事はしないと考えれます。それでも何かの拍子で話してしまう可能性も考えれたので血の契約をさせ、お狐様の事は一切話せないようにしました」





「血の契約!?」





血の契約とは紙に書かれた内容が一切誰にも伝えられなくなる。

制約魔法の中で一番重い契約である。

もし話したり書いたりしようとしても、身体が固まり誰かに伝える事が出来ない様になるのだ。





「少しの可能性も潰しておいた方が良いのですよ。お狐様の事がバレれば絶対に教会が出てきて、無理やりソフィアさんの事を攫って聖女として担ぎ上げますよ。

そうなれば一生ソフィアは教会から出る事が出来なくなってしまいます」





「そっ…それは確かに困るな…。ロベルトお前の対応は正しかった、ありがとう」





「当たり前です、ソフィアさんとレティシアさんは私達の命の恩人です。秘密になさってたお狐様の力も団長の為にお使いになられたのですから、ソフィアさん達が望まれない事などしません」





ロベルトの迅速な対応のおかげでソフィア達の生活が、教会に脅かされる心配はなさそうでルイスはホッとしたのであった。





「それにしても、団長はソフィアさんの事をどう思っているのです?」





「なっ!?急にどうしたのだ……ソフィアの事はその」





ロベルトの急な問いかけにルイスはベットから転げ落ちる、その顔は真っ赤になっていた。





「お好きなのでしょう?」

 



「うっ……………好きだが」





直球なロベルトにルイスは渋々返事をすると、やはりと思ったロベルトはルイスに助言した。





「自分のお気持ちに気が付かれたのなら、早めに行動なさった方が宜しいですよ?うかうかしていると団員の中でソフィアさんに告白する者が現れますよ、ただでさえ美しく、料理も上手で、心優しい女性なのです」





「うっ…」





「気がついたら他の男性とお付き合いしているかもしれませんよ」





「………そうだな。善処する」





ロベルトはルイスにもっと積極的なアプローチをしなければソフィアに好かれて貰えないから頑張れというつもりで言ったのだが。





(そうか、やはり早くソフィアに想いを告げ婚約者になってもらわなければ。他の男がソフィアに想いを寄せるかもしれない……。しかし今まで見合いは全戦全敗の俺などソフィアは好きになってくれるだろうか?)





ルイスは早くソフィアに自分の思いを伝えなければ他の男に取られてしまうと思い、次に会った時に婚約者になって貰える様に告白しようと考えた。





ここで意見が食い違っていることに二人は気が付かなかった。



元平民であるロベルトと、生粋の貴族であるルイスの恋愛の考え方が違うのである。







平民にも見合いはあるが、大体が恋愛結婚の為。

本人同士が仲良くなり告白し、付き合ってから婚約するなり結婚するのがセオリーなのだが。



貴族では殆どが親の決めてきた相手か、見合いであり顔合わせの後、婚約となるので、そもそも付き合うというのは滅多にないのである。







この齟齬が後に問題になるのは誰も気が付かなかったのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

処理中です...