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第13話

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「この後はどうしましょう?ルイスさんは何か見たいものなどありますか」





無事に目当ての物を購入出来た二人は、ガラス工芸店を後にした。

ルイスへのお礼も終わった今、このまま帰ってしまうのが少し寂しいと思ったソフィアはこの後何か見たい所は無いかと聞いた。





「あぁ、良ければだが2階のカフェにいかないか?」





「カフェですか?」





「帝国で人気なカフェの支店が出来たらしくてな、気になっていたんだ」





「それってシンティランテってカフェの事ですか!でも確かあのお店は人気で予約無しでは入れないと聞きましたが」





シンティランテとはフェニーチェ帝国発祥のカフェで新作のスイーツを次々に販売しては、その美味しさから女性にとても人気の店である。

だが、その人気のせいでなかなか予約を取るのも難しいと言われている為ソフィアは一度もカフェに行ったことが無かった。





「あぁ、女性に人気の店だと聞いたので貴方と出かけると決まった日に予約したんだ」





「わぁ!嬉しいです、ずっとシンティランテに行ってみたかったのです」





行ける事に嬉しくなったソフィアはにこにことルイスへと笑いかけた、その笑顔を見たルイスも照れ臭そうに切れ長の目を緩ませ微笑返した。





「それは良かった、では行こうか」





いつも表情が余り変わらないルイスの微笑んだ顔を見たソフィアは少し顔を赤らめ自分の鼓動がトクンッと脈打った様な気がした。

これはどう言う感覚なのかソフィアはまだ分からずにいた。







2階へと行くために階段へと向かうと、そこには機械仕掛けの動く階段があった。

これも最近フェニーチェ帝国が作り導入された物らしい。



ソフィアは初めての動く階段に乗るのが少し怖く戸惑っていたら一緒に乗ろうとルイスが手を差し伸べてくれた。

その手を掴み乗り込んだが動く階段に躓いたソフィアの身体は勢い余ってルイスの身体へ飛び込んでしまった。



「キャッ!」





「おっと…大丈夫か」





「あ、すみません。初めて乗るもので上手に乗り込めませんでした」





抱き着くような形になったソフィアに驚きながらも、階段から落ちないように腰を支えたルイスはソフィアから香る甘い香りにドキリと胸が脈打った。



降りる時も似たような事が起き、ソフィアは恥ずかしそうに下を向いた。





「何度もすみません」





「いや、慣れていないのだからしかたがない。怪我はないか?」





「はい…ルイスさんが支えてくれたので大丈夫です」





そうして辿り着いた2階

シンティランテは階段のすぐ近くにあった。

お洒落な異国感が漂う作りになっている為、入る前からワクワクと気持ちが浮き立つ。



店に入り予約していたルイスの名前を言うと直ぐに店の奥へと案内される。

一つ一つ個室の様な作りになっており、案内された部屋のゆったり出来そうな椅子へと腰を下ろした。

艶のある黒い柱と落ち着いた深緑のザラついた壁が、ガルシア王国では見ない作りで新鮮だった。





「素敵なお部屋ですね、中庭もよく見えますし」

 



「そうだな、予約したかいがあった」





「どんなメニューがあるのでしょうか?とても珍しいスイーツがあると聞いたのですが」





「メニュー表があるな、一緒に見るか」





「はい」





メニュー表に一番初めのページにはこの店のイチオシスイーツが大きくのっていた。




「このお店はパンケーキというスイーツが人気みたいですね」





「今だったらストロベリーと生クリームがふんだんにのったのが期間限定であるみたいだ」





「期間限定のストロベリーですか!私はそれにします」





「では俺もそれにするとしよう」





注文が決まり店員に伝えるとパンケーキは焼くのに少し時間を頂きますと言われたので十数分ほど待つ事になったが、この待つ時間さえソフィアは楽しそうにルイスへ話しかけていた。



そして待ちに待ったパンケーキが運ばれてきた。

3cm程の厚さがあるフワフワとしたパンケーキにたっぷりと生クリームが乗せられ、カットされたみずみずしいストロベリーがいくつも飾られている。



早速、いただきますをして二人はパンケーキを口の中に運ぶ。



「とってもフワフワです、口の中で蕩けて消えちゃいました」



「本当だ…これは凄いな」



口の中に入れた途端にシュワッと消えてなくなる程にフワフワな食感と、しつこ過ぎない生クリームがマッチしていてソフィアとルイスは感激する。



「母が作ってくれたホットケーキに似ているかと思ったんですけど、これはそれよりフワフワです」



ソフィアはメニュー表を見た時に母が良く子供の頃に作ってくれたホットケーキに似ているなと感じていたが大分違う物だった。



「そうなのだな…そういえば貴方から貰ったマフィンとやらもとても美味しかったな」





「本当ですか!それは良かったです、妹と一緒に作ったんです。妹は私よりお菓子を作るのが上手なんですよ」





「それは凄いな貴方がいつも作る店の料理も美味しいが、あれは貴方が考案したのか?」





ソフィアはルイスの問に首を振る。




「いえ、あれは母から教わった料理なんですよ」





「母君が…そういえばホットケーキとやらも聞いたことがないがこのパンケーキと見た目は似ているのだな」





「はい、もっと薄いんですけど蜂蜜とバターを塗って食べると美味しいんです。

お店を開くまでは提供している料理達はどこでも食べられる物だと思っていたので

皆さんに初めて食べる料理だと言われてしまい驚いたんですよ」





「そうなのだな…母君はどこの国の出身なのだろうか?もしかしたらその国の郷土料理かもしれないな」





「確か…西の大陸と言ってましたね」





「そうか…それだったらこの国で知られていない料理ばかりなのは仕方ないか」



その答えにルイスは納得した



東の大陸と広大な海を隔てた先にある西の大陸は船で10日程しなければ辿り着かない場所にある為、なかなか文化などが入ってくる事はない。

尚且つ西の大陸の国は閉鎖的な国が多い為、国同士の国交もないのでどんな国があるのかすら良く分かっていない。

なのでその出身であるソフィアの母が作る料理がこの国で珍しいのは当然だと思ったのだ。









その後パンケーキを食べ終え店を出た二人は

色々な店を見て回った後、馬車に乗ったのであった。



「今日はありがとうございました、お礼のつもりがルイスさんにはお店まで予約して頂いちゃって」



「いや、良いんだ。ソフィアが選んでくれたおかげで、とても良い贈り物が出来る





…………それと、その」





ルイスは少し照れ臭そうにポケットの中から小さな箱を箱を取り出した。





「ソフィア、これを受け取って欲しい」





そう言って取り出した箱の中に入っていたのはガラス工芸店でルイスの目に留まった赤い花の髪飾りだった。





「あの、これは?」



 

突然のプレゼントに戸惑い申し訳なくなるソフィアだが、ルイスはそっとソフィアの手の平の上に髪飾りの入った箱を乗せた。





「ガラス工芸店で見かけてな、貴方に似合うと思ったので送らせて欲しい」





「そうなんですね、嬉しいです!ありがとうございます」





そう言ったルイスの言葉に嬉しそうに微笑みながらソフィアは早速箱の中から髪飾りを取り出し、自分の髪へと着けてみる。

ハーフアップの結び目に着いた髪飾りがルイスに見える様に後ろを向いて見せる。





「似合いますか?」





ソフィアの綺麗なピンクゴールドの髪に赤い花の髪飾りがとても良く映えて似合っている。

早速着けて貰えた事に喜んだルイスは嬉しそうに微笑んだ。





「あぁ…良く似合っている」







そうして二人は楽しく会話をしながら帰路に着いたのであった。

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