92 / 93
92.招待チケット
しおりを挟む
※※※明日生視点です。
7月末に『ZOKKOH』のライブがあった。
さらに8月始めから半ばに『ラファエル』の全国ツアーがある。
二人は大丈夫だろうか。
『ZOKKOH』は甲斐さんと行ったんだけど、今回はチケットが取れなかった。
悔しい。
地方なら取れるだろうか。
新曲の初披露もあったのになあ。
悲しくてついつい『ラファエル』ばかり聴いてしまう。
談話室でみんなといる時でさえアイポッドを手放さない始末だ。
黙々と数式を解いていると、急に何か周りの気配が変わった気がした。
顔を上げると、何やら夜穂先輩が笑いをこらえている。
何だろうと振り向こうとした時、聴いていた曲が突然消えた。
「「明ー日生っ! こんにちはっ!」」
「えっ!?」
諒さんが僕のイヤホンを外して、覚さんが僕の頭を撫でていた。
び、びっくりした……。
夜穂先輩が馬鹿笑いする。
「あ、明日生、全然気付かねえんだもん!!」
「だって、曲聞いてたから音聞こえないし……!」
夜穂先輩はここのところやたらテンションが高い。
もともと高い人なのに……。
まあ、無理もないけどね。
夜穂先輩が国都海にきたときから好きだったらしいから、10年越しの思いが実ったってことだ。
僕だったら、もっともっと浮かれるだろう。
「何聴いてたの?」
諒さんが手にしてたイヤホンに耳を近づけた。
「あ……」
なんだか恥ずかしい気がして止めようとしたけど、遅かった。
「ラファエル?」
「そうなんだ、明日生ラファエル聴いてたのか」
「はい……」
いたたまれなくて、うつむいた。
「そうそう、ラファエルは今週末に東京でコンサートなんだよ」
「新曲もやるからよかったら聴きに来てよ」
今ばかりは二人の朗らかさがつらい。
「……どうしたの、明日生?」
「すっかり下向いちゃって?」
今度は夜穂先輩が僕の頭を撫でた。
「明日生、ラファエルのツアーのチケットが取れなかったから落ち込んでるんだよなー」
「夜穂先輩!」
夜穂先輩に怒ってから、恐る恐る二人の顔を見た。
きょとんとしてる。
「明日生、ラファエルのチケット取るつもりだったの?」
競争率が高いのはわかってるけど、取るつもりだったんですよ。
「えー、早く言えばいいのに。東京のでいいの? 何日目?」
「えっ」
「二日とも来る?」
覚さんがかばんから書類ケースを取り出した。
「あ、私も行きます!」
甲斐さんがパソコンから顔を上げてすかさず挙手した。
「はい」
覚さんが甲斐さんにチケットを手渡す。
え?
「はい、明日生」
二枚、チケットを手渡された。
見ると、『御招待チケット』と書かれていた。
嘘……。
「あ、ありがとうございます……!」
諒さんと覚さんは僕ににこっと微笑みかけると、良実先輩たちのほうを向いた。
「夜穂ちゃんと良実ちゃんは?」
「え、俺ライブとかコンサートとか行ったことねえよ?」
「あ、俺もだ」
「「ないんだったら来てみよーう!」」
それぞれに覚さんはチケットを渡した。
「着てく服もねえけど……」
「あ、そういえばそうだね」
「「服? あげようか?」」
「いいよ、そこまでは」
「明日生から奪うからいいよ」
良実先輩が可瀬美姫が可愛いから楽しみだと言った。
夜穂先輩は苦笑してる。
二人はきょとんとして聞いていた。
少なくとも可瀬美姫は二人の好みじゃないようだ。
「たっだいまーぁ」
あれ?
「貴也じゃん、おかえり」
「どうしたの? 帰ってくるには早いけど」
貴也先輩は長期休みには必ず帰省して、いつも休みが終わるぎりぎりに帰ってくる。
「あははは、成績落ちすぎてオヤ怒ってて、いづらいから帰ってきた! 勉強するって口実でね」
その割には機嫌は良さそうだ。
「口実あってよかった、夏休みなんか絶対こっちにいたほうが面白いよな」
「「貴也の実家ってどこだっけ?」」
「船橋だよ」
「「フシブシ……??」」
フとシはあってる。
「シップ・ブリッジ!!」
地名を英訳しても意味ないから……。
「千葉県ですよ、東京の隣の県」
「「そうなんだ、割と近いのかな」」
「んー、そうだね、結構近いかも」
貴也先輩は夜穂先輩の手からチケットを取り上げた。
「なにこれ……ラファエル? へー、そういえばツアーだったな」
「貴也もおいでよ?」
「俺、『ZOKKOH』の方が好きなんだよなあ」
「ごめん、『ZOKKOH』は先週ライブ終わっちゃったよ。次やる時にあげるね」
それにしても、こんなにたくさんチケットを配ってしまってもいいものなんだろうか。
「なんか、大丈夫なんですか? こういうチケットって音楽関係の人に配るものなんじゃなくて?」
諒さんと覚さんは笑った。
「平気平気! 他の友達にも配ってるし。康成なんか諒の友達なのに来るんだよ?」
ああ、康成さんって、徒咲の国際科の金髪の人だっけ。
前に話してたなあ。
「ラファエルって、秋に終わるんだっけ。やっぱ俺も行きたいな」
覚さんが貴也先輩にもチケットを渡した。
結局みんなで行くことになるのか。
貴也先輩がなんだか楽しそうに訊いてきた。
「何着て行こうかなあ、明日生、ラファエルのファンってどういう服装が多い?」
「え……スタンダードというかクラシカルな正装の人も結構いるかなあ」
「買いに行こ?」
みんなが見蕩れると評判の微笑で貴也先輩はねだってきた。
「今からですか!?」
このひとが来てくれている時に出かける気になんてなれない。
「「あ、俺たちも行く!」」
「えっ」
いや、それだけは無理ですから。
あなた方が渋谷の街中へ現れたらどんな騒ぎになるやら。
結局、貴也先輩と二人で行きたがる二人を説得した。
7月末に『ZOKKOH』のライブがあった。
さらに8月始めから半ばに『ラファエル』の全国ツアーがある。
二人は大丈夫だろうか。
『ZOKKOH』は甲斐さんと行ったんだけど、今回はチケットが取れなかった。
悔しい。
地方なら取れるだろうか。
新曲の初披露もあったのになあ。
悲しくてついつい『ラファエル』ばかり聴いてしまう。
談話室でみんなといる時でさえアイポッドを手放さない始末だ。
黙々と数式を解いていると、急に何か周りの気配が変わった気がした。
顔を上げると、何やら夜穂先輩が笑いをこらえている。
何だろうと振り向こうとした時、聴いていた曲が突然消えた。
「「明ー日生っ! こんにちはっ!」」
「えっ!?」
諒さんが僕のイヤホンを外して、覚さんが僕の頭を撫でていた。
び、びっくりした……。
夜穂先輩が馬鹿笑いする。
「あ、明日生、全然気付かねえんだもん!!」
「だって、曲聞いてたから音聞こえないし……!」
夜穂先輩はここのところやたらテンションが高い。
もともと高い人なのに……。
まあ、無理もないけどね。
夜穂先輩が国都海にきたときから好きだったらしいから、10年越しの思いが実ったってことだ。
僕だったら、もっともっと浮かれるだろう。
「何聴いてたの?」
諒さんが手にしてたイヤホンに耳を近づけた。
「あ……」
なんだか恥ずかしい気がして止めようとしたけど、遅かった。
「ラファエル?」
「そうなんだ、明日生ラファエル聴いてたのか」
「はい……」
いたたまれなくて、うつむいた。
「そうそう、ラファエルは今週末に東京でコンサートなんだよ」
「新曲もやるからよかったら聴きに来てよ」
今ばかりは二人の朗らかさがつらい。
「……どうしたの、明日生?」
「すっかり下向いちゃって?」
今度は夜穂先輩が僕の頭を撫でた。
「明日生、ラファエルのツアーのチケットが取れなかったから落ち込んでるんだよなー」
「夜穂先輩!」
夜穂先輩に怒ってから、恐る恐る二人の顔を見た。
きょとんとしてる。
「明日生、ラファエルのチケット取るつもりだったの?」
競争率が高いのはわかってるけど、取るつもりだったんですよ。
「えー、早く言えばいいのに。東京のでいいの? 何日目?」
「えっ」
「二日とも来る?」
覚さんがかばんから書類ケースを取り出した。
「あ、私も行きます!」
甲斐さんがパソコンから顔を上げてすかさず挙手した。
「はい」
覚さんが甲斐さんにチケットを手渡す。
え?
「はい、明日生」
二枚、チケットを手渡された。
見ると、『御招待チケット』と書かれていた。
嘘……。
「あ、ありがとうございます……!」
諒さんと覚さんは僕ににこっと微笑みかけると、良実先輩たちのほうを向いた。
「夜穂ちゃんと良実ちゃんは?」
「え、俺ライブとかコンサートとか行ったことねえよ?」
「あ、俺もだ」
「「ないんだったら来てみよーう!」」
それぞれに覚さんはチケットを渡した。
「着てく服もねえけど……」
「あ、そういえばそうだね」
「「服? あげようか?」」
「いいよ、そこまでは」
「明日生から奪うからいいよ」
良実先輩が可瀬美姫が可愛いから楽しみだと言った。
夜穂先輩は苦笑してる。
二人はきょとんとして聞いていた。
少なくとも可瀬美姫は二人の好みじゃないようだ。
「たっだいまーぁ」
あれ?
「貴也じゃん、おかえり」
「どうしたの? 帰ってくるには早いけど」
貴也先輩は長期休みには必ず帰省して、いつも休みが終わるぎりぎりに帰ってくる。
「あははは、成績落ちすぎてオヤ怒ってて、いづらいから帰ってきた! 勉強するって口実でね」
その割には機嫌は良さそうだ。
「口実あってよかった、夏休みなんか絶対こっちにいたほうが面白いよな」
「「貴也の実家ってどこだっけ?」」
「船橋だよ」
「「フシブシ……??」」
フとシはあってる。
「シップ・ブリッジ!!」
地名を英訳しても意味ないから……。
「千葉県ですよ、東京の隣の県」
「「そうなんだ、割と近いのかな」」
「んー、そうだね、結構近いかも」
貴也先輩は夜穂先輩の手からチケットを取り上げた。
「なにこれ……ラファエル? へー、そういえばツアーだったな」
「貴也もおいでよ?」
「俺、『ZOKKOH』の方が好きなんだよなあ」
「ごめん、『ZOKKOH』は先週ライブ終わっちゃったよ。次やる時にあげるね」
それにしても、こんなにたくさんチケットを配ってしまってもいいものなんだろうか。
「なんか、大丈夫なんですか? こういうチケットって音楽関係の人に配るものなんじゃなくて?」
諒さんと覚さんは笑った。
「平気平気! 他の友達にも配ってるし。康成なんか諒の友達なのに来るんだよ?」
ああ、康成さんって、徒咲の国際科の金髪の人だっけ。
前に話してたなあ。
「ラファエルって、秋に終わるんだっけ。やっぱ俺も行きたいな」
覚さんが貴也先輩にもチケットを渡した。
結局みんなで行くことになるのか。
貴也先輩がなんだか楽しそうに訊いてきた。
「何着て行こうかなあ、明日生、ラファエルのファンってどういう服装が多い?」
「え……スタンダードというかクラシカルな正装の人も結構いるかなあ」
「買いに行こ?」
みんなが見蕩れると評判の微笑で貴也先輩はねだってきた。
「今からですか!?」
このひとが来てくれている時に出かける気になんてなれない。
「「あ、俺たちも行く!」」
「えっ」
いや、それだけは無理ですから。
あなた方が渋谷の街中へ現れたらどんな騒ぎになるやら。
結局、貴也先輩と二人で行きたがる二人を説得した。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あの日、北京の街角で4 大連デイズ
ゆまは なお
BL
『あの日、北京の街角で』続編。
先に『あの日、北京の街角で』をご覧くださいm(__)m
https://www.alphapolis.co.jp/novel/28475021/523219176
大連で始まる孝弘と祐樹の駐在員生活。
2人のラブラブな日常をお楽しみください。
ノイジーガール ~ちょっとそこの地下アイドルさん適性間違っていませんか?~
草野猫彦
ライト文芸
恵まれた環境に生まれた青年、渡辺俊は音大に通いながら、作曲や作詞を行い演奏までしつつも、ある水準を超えられない自分に苛立っていた。そんな彼は友人のバンドのヘルプに頼まれたライブスタジオで、対バンした地下アイドルグループの中に、インスピレーションを感じる声を持つアイドルを発見する。
欠点だらけの天才と、天才とまでは言えない技術者の二人が出会った時、一つの音楽の物語が始まった。
それは生き急ぐ若者たちの物語でもあった。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
俺を食べればいいんじゃない?
夢追子
BL
大学生の隼人は、腹をへらして学生寮へと帰宅する。だが、いつもは騒がしい学生寮は静かで、中にいたのはマイペースな怜一人であった。他のみんなは揃って先に近くの定食屋に行ってしまったらしい。
がっかりした隼人が、しょうがなく共用の冷蔵庫を漁っていると背後から音もなく、怜が忍び寄ってきて・・・・。(漫画版も公開中です。良かったら見てくださいね。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる