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88.魅力という言葉
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※※※康成視点です。
10歳離れた弟の俊介は両親によく似ている。
黒い髪に黒い瞳で、元気で少し生意気だ。
僕とは何もかも違っていて、可愛い。
今年6歳ともなるといよいよ遊び盛りで、時々本もゆっくり読ませてくれない。
自由が丘の駅前のロータリーにあるカフェの2階席は静かなことが多い。
窓際の席は駅のロータリーが見下ろせて開放感があってお気に入りだ。
コーヒーも値段の割になかなかおいしい。
唯一の趣味の読書だし、明日から夏休みになる。
今日くらいはここでゆっくり本を読んでも俊介は許してくれるだろう。
2杯目のコーヒーに手を付ける。
昼食の時間は終わって店内も空いてきている。
隣もそのまた隣の席も空いていた。
「えくすきゅーずみー」
とても爽やかな綺麗な高い声。
どんな美人の女性かと思って振り返った。
意外にも、そこに立っていたのは学校の制服姿の小柄な少年だった。
でも、ただ単なる少年とは思えなかった。
端正だとか、華奢だとか、美形だとか、僕が憧れる日本美人系だとか、そう簡単に言ってしまえばそれまでだ。
爽やかさやまっすぐさや伸びやかさ、芯の強さ、健やかさ、柔軟さ、寛容さなど彼を彩るたくさんのものがにじみ出ていて形作っている。
『魅力』と言う言葉の本当の意味を僕は初めて知った。
今まで『魅力』というものをちゃんと知ってると思い込んでいただけだった。
「めいあいていく…ゆあねいばーしーと?」
やはり綺麗な声でそう言って彼は僕の隣の席を指さした。
内容も発音もめちゃくちゃな英語だ。
席を指さされて彼の言いたいことが分かり、微笑んで日本語で答えた。
「この席ですか? どうぞ。日本語話せます」
「ありがとうございます」
ニコリと彼は微笑みを返し、隣に掛けた。
どきりとした。
ありがとうございます、と言ったはっきりとした礼儀正しい言葉使いにも。
小柄だとわかっていたのに想像以上に座高が低かったことにも。
どこからどう見ても日本人のようだけど…脚が長い。
スタイルがいいんだ。
彼はLサイズのアイスココアを飲みながらトレイに乗せていたモンブランケーキとバナナスコーンを食べてしまうと、大きい荷物からワークブックを取り出して広げて取りかかり始めた。
夏休みの初めに大きい荷物を持った学制服。
自由が丘にいるならまず国都海の寮生だろう。
諒と覚が楽しそうによく話す、ロングレッグスハウスのひとりだ。
でも、多分ロングレッグスハウスのメンバーだからじゃない。
彼自身に、僕は声をかけたかった。
問題が難しいらしくて頭を抱えた彼の横で、僕はグラスを置いて口を開いた。
「わからないところがあったら、教えましょうか?」
彼は顔を上げた。
女の子でも、こんな清楚な美人の顔立ちはなかなかない。
見蕩れそうになるのをごまかすために、微笑んだ。
「本当ですか!? 英語、苦手なんです……! 助かります!」
店内に声が響きすぎないように。
しかししっかりと喜びを表した囁き声で彼は言った。
ゾクリと耳に響く。
こういう声を美声というんだな、変声するのがもったいない。
横のワークブックをふと見た。
あれ? 中学生のレベルじゃない。
彼のシャツの胸元のバッジを見る。
校章のバッジに並んで、『Ⅰ-3』と書かれたバッジがある。
意味するのは1年3組、か。
そういえばこのあたりで見かける国都海の生徒が着ている制服は2種類のデザインがある。
今彼が着ているものは、身体が大きい生徒……高等部っぽい生徒が着ていることが多い。
同学年か……。
改めて彼の姿を見た。
身長は160ちょっとくらいだろうな。
僕が国際科にいるからなおさら、小さく見える。
「あの、ここなんですけど…… which か where かどちらを使うのか……どうやって区別するのかわからなくて」
ワークブックのレベルは高いけど、本当に彼は英語が苦手みたいだ。
僕は幼いころから英語を話していた。
でも小等部の普通科で日本語から英語を分析する英文法も学習したから、教えるのは得意だ。
丁寧に解りやすいよう、混乱することがないように。
気をつけて教えた。
「ありがとうございます……こんなに親切に……。あの、何か注文するものありませんか? 僕、ささやかですけどなんでもお好きなものをごちそうします」
「そんなの、別に、いいよ……?」
「でも」
断るのも悪いのかな。
じゃあ、アイスコーヒーのMサイズを頼みます、と言って笑った。
「待っててくださいね、行ってきます」
階下に向かう彼の歩く姿を見ていた。
すごく、軽やかだ。
明らかに何かのスポーツをしている人の動作。
あんなに小柄で美人なのに、かっこよく見える。
姿が見えなくなってもまだ階段の方を眺めている自分に気付いて、向き直る。
以前、ロングレッグスハウスのメンバーの誕生日に、諒たちに誘われたけど、またあんな機会ないかな。
ん?
あれ?
何こんなに気になってるんだろう。
……あれ、ちょっとこれ、まずくないかな。
10歳離れた弟の俊介は両親によく似ている。
黒い髪に黒い瞳で、元気で少し生意気だ。
僕とは何もかも違っていて、可愛い。
今年6歳ともなるといよいよ遊び盛りで、時々本もゆっくり読ませてくれない。
自由が丘の駅前のロータリーにあるカフェの2階席は静かなことが多い。
窓際の席は駅のロータリーが見下ろせて開放感があってお気に入りだ。
コーヒーも値段の割になかなかおいしい。
唯一の趣味の読書だし、明日から夏休みになる。
今日くらいはここでゆっくり本を読んでも俊介は許してくれるだろう。
2杯目のコーヒーに手を付ける。
昼食の時間は終わって店内も空いてきている。
隣もそのまた隣の席も空いていた。
「えくすきゅーずみー」
とても爽やかな綺麗な高い声。
どんな美人の女性かと思って振り返った。
意外にも、そこに立っていたのは学校の制服姿の小柄な少年だった。
でも、ただ単なる少年とは思えなかった。
端正だとか、華奢だとか、美形だとか、僕が憧れる日本美人系だとか、そう簡単に言ってしまえばそれまでだ。
爽やかさやまっすぐさや伸びやかさ、芯の強さ、健やかさ、柔軟さ、寛容さなど彼を彩るたくさんのものがにじみ出ていて形作っている。
『魅力』と言う言葉の本当の意味を僕は初めて知った。
今まで『魅力』というものをちゃんと知ってると思い込んでいただけだった。
「めいあいていく…ゆあねいばーしーと?」
やはり綺麗な声でそう言って彼は僕の隣の席を指さした。
内容も発音もめちゃくちゃな英語だ。
席を指さされて彼の言いたいことが分かり、微笑んで日本語で答えた。
「この席ですか? どうぞ。日本語話せます」
「ありがとうございます」
ニコリと彼は微笑みを返し、隣に掛けた。
どきりとした。
ありがとうございます、と言ったはっきりとした礼儀正しい言葉使いにも。
小柄だとわかっていたのに想像以上に座高が低かったことにも。
どこからどう見ても日本人のようだけど…脚が長い。
スタイルがいいんだ。
彼はLサイズのアイスココアを飲みながらトレイに乗せていたモンブランケーキとバナナスコーンを食べてしまうと、大きい荷物からワークブックを取り出して広げて取りかかり始めた。
夏休みの初めに大きい荷物を持った学制服。
自由が丘にいるならまず国都海の寮生だろう。
諒と覚が楽しそうによく話す、ロングレッグスハウスのひとりだ。
でも、多分ロングレッグスハウスのメンバーだからじゃない。
彼自身に、僕は声をかけたかった。
問題が難しいらしくて頭を抱えた彼の横で、僕はグラスを置いて口を開いた。
「わからないところがあったら、教えましょうか?」
彼は顔を上げた。
女の子でも、こんな清楚な美人の顔立ちはなかなかない。
見蕩れそうになるのをごまかすために、微笑んだ。
「本当ですか!? 英語、苦手なんです……! 助かります!」
店内に声が響きすぎないように。
しかししっかりと喜びを表した囁き声で彼は言った。
ゾクリと耳に響く。
こういう声を美声というんだな、変声するのがもったいない。
横のワークブックをふと見た。
あれ? 中学生のレベルじゃない。
彼のシャツの胸元のバッジを見る。
校章のバッジに並んで、『Ⅰ-3』と書かれたバッジがある。
意味するのは1年3組、か。
そういえばこのあたりで見かける国都海の生徒が着ている制服は2種類のデザインがある。
今彼が着ているものは、身体が大きい生徒……高等部っぽい生徒が着ていることが多い。
同学年か……。
改めて彼の姿を見た。
身長は160ちょっとくらいだろうな。
僕が国際科にいるからなおさら、小さく見える。
「あの、ここなんですけど…… which か where かどちらを使うのか……どうやって区別するのかわからなくて」
ワークブックのレベルは高いけど、本当に彼は英語が苦手みたいだ。
僕は幼いころから英語を話していた。
でも小等部の普通科で日本語から英語を分析する英文法も学習したから、教えるのは得意だ。
丁寧に解りやすいよう、混乱することがないように。
気をつけて教えた。
「ありがとうございます……こんなに親切に……。あの、何か注文するものありませんか? 僕、ささやかですけどなんでもお好きなものをごちそうします」
「そんなの、別に、いいよ……?」
「でも」
断るのも悪いのかな。
じゃあ、アイスコーヒーのMサイズを頼みます、と言って笑った。
「待っててくださいね、行ってきます」
階下に向かう彼の歩く姿を見ていた。
すごく、軽やかだ。
明らかに何かのスポーツをしている人の動作。
あんなに小柄で美人なのに、かっこよく見える。
姿が見えなくなってもまだ階段の方を眺めている自分に気付いて、向き直る。
以前、ロングレッグスハウスのメンバーの誕生日に、諒たちに誘われたけど、またあんな機会ないかな。
ん?
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