恋するピアノ

紗智

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72.リセット(ごく軽い性描写あり)

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※※※双子視点です。


風呂は一番のくつろぎの場だ。
ドイツでは毎日入浴する人は少ない。
水が豊かだとか貴重だとかそのあたりの差も大きい。
でも俺たちは日本育ちの母さんに育てられたから、もともとちょっと感覚が違うのかもしれない。
一日一回は入浴する。
呑気だとかいつも機嫌がいいとか言われる俺たちだけど、ホトケさまじゃないんだから苛々することもあるし大変な時もある。
一日に溜まったゴチャゴチャや疲れを浴槽ですっかりお湯に溶かし出してから眠るんだ。
と、言っても。
さすがに生理的なイライラは湯に浸かっただけではなくなってはくれないわけで。
『そういう解消』も風呂場ですることが多い。
ベッドを汚したくないから、必然的にここになる。
いつも言葉で示し合せることなく、ほぼ同時に相手のものに手を伸ばす。
ひょっとして、自分で自分のものを処理しないことを、他の人が知ったらおかしく思われるのかもしれない。
でも俺たちは初めてこの行動を覚えた時にごく当たり前にこうしていた。
俺たちにとってこれが自然で、お互い自分のものを自分で処理したことは今まで一度もない。
よく『人にしてもらった方が気持ちいい』とか聞くけど、自分でしたことがないから比較のしようがない。
『……はぁ……』
息を詰めてしまうから、どうしても吐息が漏れる。
最近、目を閉じるのが癖になった。
多分相棒もそうだろう。
陶酔のような快感をもたらすこの手が、もしも相棒の手じゃなかったら。
手にしてるものが、意中の相手のそれだったら。
もしそうなら、自分ができる精一杯を尽くして、できる限りの気持ちよさを与えてやりたい。
この行為を覚えて数年しかたってなくて未熟だけど、手指を使うのは多分得意だ。
恋をしてから、これがなんだか上手になった気がする。
だって相棒だって、すごく巧みにいいところをうまく責めてくる。
『……っ、はぁ……』
変な声が漏れないようにするのが精いっぱいになりそうだ。
お互いの声が聞こえてしまうと現実に引き戻されてしまうから、この時は極力喋らないのが暗黙のルールだ。
そう、明日生の声は俺たちの声より少し高めだから。
明日生なら、どんな様子を見せてくれるんだろう。
想像を絶する色気を見せつけられて、俺はおかしくなっちゃうんだろうな。
どのタイミングで息を吐くんだろうか。
声はあげないんだろうか。
感じるたびに黒髪がサラッて揺れるんだろう。
きっと快感で乱れててもやっぱりどの瞬間もすごく綺麗なんだろう。
どんな表情を見せるんだろう……。
『……っ』
迫るような快感に煽られて、思考がどんどんエスカレートしていく。
思考にのめり込めばのめり込むほど、手にしたものに載せる想いも増して、より感じさせようと意識する。
相棒が無意識に首を横に振ったのがわかった。
絶頂が近い時の癖だ。
俺も限界に近い。
脳が痺れるような快感に侵されて、思考能力を奪っていく。
ほら、いかせてあげる。
今は気持ちよさだけを、感じて。
俺も一緒にいくから。
『……んっ……!』
最後に身を寄せて、終わる。
息を荒くつきながら、罪悪感に少しだけ見舞われる。
俺たちは心の中で明日生を犯しているようなものだ。
世の中の大抵の男が心の中で誰かを対象にしているとは思うけど、それでも罪悪感は払えない。
明日生も……誰かを思って自慰することがあるんだろうか。
どんな人を相手にするんだろう。
息が整うと、黙って俺たちは身体を洗って洗い場も綺麗に流して風呂場を出た。
これをした後は決まって何も喋らない。
特に黙ってる理由もないけど、喋ることも思いつかない。
あとは打ち合わせをして眠るだけだ。
そうしていつもよりゆったりと眠ると、また朝すっきりと起きられる。
二人でベッドに入る。
いつもベッドに入る時は下着も着けない全裸だ。
それで抱き合って眠るんだから、やっぱりもしかしてこれを知ったらおかしいと思う人はいるんだろう。
でももう俺たちはこれに慣れてしまった。
肌の感触、しっかりとした体温を感じている方が深くぐっすり眠ることができる。
睡眠時間が平均より少ない俺たちがいつも元気にしていられる秘訣はここにあるんじゃないかと思う。
目覚ましをセットして、おやすみのキスをゆっくりとひとつ。
『おやすみ、Wolfy』
『おやすみ、Amadeo』
お互いに腕を回してしっかり抱き合って。
引っ張られるように眠りに落ちて、気持ちをリセットする。
明日も呑気で機嫌の良い俺たちでいられるように。
お互いの存在と愛情を確かめながら眠るんだ。
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