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第一章 盗賊団「鋼鉄のならず者」
第五十四話 汚い大人
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俺はコインが落下する前に仕掛けようと考えたんだけど……。あの人、俺がコインを投げた瞬間の、そのわずかなすきを狙って仕掛けてきたんだ。俺が言うのもなんだけど、酷い人だよ。しかもこの話、他の人に伝えるときは決まって俺が先に仕掛けてきたみたいに言うんだよ。まあ俺も実際そうしようとしてたんだから別にいいけどさ。
おやっさんは俺がコインをはじくほんの一瞬の隙を突いて間合いを詰め、強烈なジャブを顔面に叩き込んできたんだ。それがまた切れのあるジャブで、まったく反応が追い付かなかった。鼻にもろに食らったから本当に痛かったよ。俺は意識より先に本能で状況を理解し、おやっさんの二撃目をかわして間合いをとった。
「はぁ、はぁ……。酷い奴だな、あんた。自分は正々堂々戦うみたいに言っておいて」
「はぁ? なにが? コインは落ちただろ?」
「落ちる前に仕掛けてきた……」
「おーい、言いがかりはよしてくれよ。現にコインは落ちてるだろ? ほれ。ガス灯の灯りで見えるだろ? それともなにか? おまえ、俺がコインが落ちる前に仕掛けたっつー確かな証拠でもあんの? 俺にはコインが地面に落ちたように見えたんだけどなー」
俺はそれなりに場数を踏んできたつもりだったし、卑怯な手を使ってくる人間とやり合うことだって少なくなかった。そもそも自分自身がそういうタイプだったし。でもあの人ほど臆面もなくそれをやってのける人は後にも先にもお目にかかったことがない。本当にあの人には恐れ入るよ。皮肉ではなく、本心からね。
「なに言っても無駄そうだね。汚い大人の代表みたいな人だ」
「なんとでも言えや、犯罪者。さあ、反撃する気がないならこちらから行くぞ」
おやっさんはそう言うとまた一気に間合いを詰め、俺の足に強烈なローキックを打ち込んできた。たぶん俺のトンファーを見て、上半身への打撃はガードされると予見したんだろう。それにスピードでは俺の方が勝っていたから、足を狙って動きを鈍らせるのは定石だ。あの人は常に一直線に勝ちを狙いにくる。
「くっ!」
「すきありっ!」
「!!?」
おやっさんはローキックでよろめいた俺の腕をつかみ、すぐさま足をかけてテイクダウンをとりにきた。そして倒れる俺にそのまま関節技をかけようとしてきたんで、俺は瞬時にそれを外し、体勢を立て直してすぐさま反撃しようとしたんだ。あの人相手に中途半端に距離をとるのはかえって下策だってことは直感的にわかった。
(距離をとったらそれに合わせて距離を詰められ、完全に相手のペースに持ち込まれる。ここは接近戦で一気に決着をつけないと)
俺は体勢を立て直したと同時に、おやっさんのわき腹めがけてトンファーを打ち込んだ。あの人はそれを瞬時に見切り、脚で俺の攻撃を受け止めた。俺はその一瞬の硬直を狙ってもう一方のトンファーであの人の顔面を狙ったんだけど、ぎりぎりで身を引いて避けられた。しかしすきを作ることには成功したので、俺はさらに間合いを詰め、乱打で一気呵成に攻め立てたんだ。
おやっさんはしばらく俺の攻撃を手足でガードするしかなかったんだけど、一発いい具合に当たってね。たぶんあれで左腕の骨が完全に折れたんだと思う。かなり顔を歪めてたからね。けど、それを見て「やった!」と思ったのが間違いだった。
俺はかつてない強敵に決定的な打撃を与え、自分でも気づかないほどの刹那、舞い上がっていたんだと思う。さっきのコインのときよりもずっと短い、本当に一瞬のすきだった。「やった! 折ったぞ!」と思った次の瞬間、あの人は俺の右手首をつかみ、一瞬で肘を極めてきた。そして次の瞬間、肘はあらぬ方向に曲がり、俺は激痛に悶えていた。
おやっさんは俺がコインをはじくほんの一瞬の隙を突いて間合いを詰め、強烈なジャブを顔面に叩き込んできたんだ。それがまた切れのあるジャブで、まったく反応が追い付かなかった。鼻にもろに食らったから本当に痛かったよ。俺は意識より先に本能で状況を理解し、おやっさんの二撃目をかわして間合いをとった。
「はぁ、はぁ……。酷い奴だな、あんた。自分は正々堂々戦うみたいに言っておいて」
「はぁ? なにが? コインは落ちただろ?」
「落ちる前に仕掛けてきた……」
「おーい、言いがかりはよしてくれよ。現にコインは落ちてるだろ? ほれ。ガス灯の灯りで見えるだろ? それともなにか? おまえ、俺がコインが落ちる前に仕掛けたっつー確かな証拠でもあんの? 俺にはコインが地面に落ちたように見えたんだけどなー」
俺はそれなりに場数を踏んできたつもりだったし、卑怯な手を使ってくる人間とやり合うことだって少なくなかった。そもそも自分自身がそういうタイプだったし。でもあの人ほど臆面もなくそれをやってのける人は後にも先にもお目にかかったことがない。本当にあの人には恐れ入るよ。皮肉ではなく、本心からね。
「なに言っても無駄そうだね。汚い大人の代表みたいな人だ」
「なんとでも言えや、犯罪者。さあ、反撃する気がないならこちらから行くぞ」
おやっさんはそう言うとまた一気に間合いを詰め、俺の足に強烈なローキックを打ち込んできた。たぶん俺のトンファーを見て、上半身への打撃はガードされると予見したんだろう。それにスピードでは俺の方が勝っていたから、足を狙って動きを鈍らせるのは定石だ。あの人は常に一直線に勝ちを狙いにくる。
「くっ!」
「すきありっ!」
「!!?」
おやっさんはローキックでよろめいた俺の腕をつかみ、すぐさま足をかけてテイクダウンをとりにきた。そして倒れる俺にそのまま関節技をかけようとしてきたんで、俺は瞬時にそれを外し、体勢を立て直してすぐさま反撃しようとしたんだ。あの人相手に中途半端に距離をとるのはかえって下策だってことは直感的にわかった。
(距離をとったらそれに合わせて距離を詰められ、完全に相手のペースに持ち込まれる。ここは接近戦で一気に決着をつけないと)
俺は体勢を立て直したと同時に、おやっさんのわき腹めがけてトンファーを打ち込んだ。あの人はそれを瞬時に見切り、脚で俺の攻撃を受け止めた。俺はその一瞬の硬直を狙ってもう一方のトンファーであの人の顔面を狙ったんだけど、ぎりぎりで身を引いて避けられた。しかしすきを作ることには成功したので、俺はさらに間合いを詰め、乱打で一気呵成に攻め立てたんだ。
おやっさんはしばらく俺の攻撃を手足でガードするしかなかったんだけど、一発いい具合に当たってね。たぶんあれで左腕の骨が完全に折れたんだと思う。かなり顔を歪めてたからね。けど、それを見て「やった!」と思ったのが間違いだった。
俺はかつてない強敵に決定的な打撃を与え、自分でも気づかないほどの刹那、舞い上がっていたんだと思う。さっきのコインのときよりもずっと短い、本当に一瞬のすきだった。「やった! 折ったぞ!」と思った次の瞬間、あの人は俺の右手首をつかみ、一瞬で肘を極めてきた。そして次の瞬間、肘はあらぬ方向に曲がり、俺は激痛に悶えていた。
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