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第四章 ならず者たちの挽歌
第百九十八話 黒幕
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ハリルたちはニコラとマフムードの体力に配慮しつつ、可能な限り速く先へと進んだ。包囲されるのを避けるため、魔力を探知しながら。
「この壁は壊せそうだな。サルマーン、やれ」
「うす」
途中邪魔な壁に阻まれたときは、ハリルが壁を叩いて厚みを確認し、壊せそうならサルマーンに壊させ、無理やり通路を確保した。
ジャンは帰り道がわからなくならないよう壁に目立つ傷を付ける役を仰せつかった。彼はハリルから渡された、石工が使うのみのような道具を使い、一定間隔で壁に目印を付けて行った。
その間、火吐き鼠は迷いながらも少しずつ距離を縮めてきた。マフムードはその位置を把握し、大群を撒きながら少しずつ洞窟の奥に進む進路を探した。しかしある程度進むと、いよいよ敵と戦わざるを得ない状況に陥った。
「兄者、今回は避けられそうにないですよ」
「そのようだな」
後方と側面からは追いかける敵が、そして前方からも数匹の魔力が近づいてくる。前方の敵は、すでにハリルやジャンが殺気を感じ取れる距離まで近づいてきている。また敵の魔力の位置からして、これ以上壁を壊して切り抜けるのは難しい。
「いいか、手はずはさっきと同じだ! だが迎撃している余裕はない! こちらから距離を詰めるぞ!」
ハリルは皆に指示を飛ばし走り出した。ジャンとシェリーは余裕があったが魔術師であるニコラとマフムードにとっては楽ではない。ニコラは走りながら冷静に状況を把握していた。
(この状況、あと何回戦闘があるかわからない以上、回復魔法で魔力を消耗するわけにはいかない。走り込みでもしておくんだったな)
回復魔法と身体強化の魔法を使えばジャンたちと同じペースで走れないわけではない。しかし彼には敵の魔法を打ち消すという重要な役割がある。むやみやたらと魔法を使うわけにはいかない。
だがニコラには、魔力の配分よりも気になることがあった。彼は走りながらハリルの後姿を見た。
(それにしても妙だ。ここまでの三人の戦いぶりを見る限り、僕たちがいなくてもここまで来ることは可能だったはず。敵の火球を相殺する役が必要だといっても、僕と同レベルの熱系魔法を扱える魔術師がシルバーランクに一人もいないとは思えない。ヒルダさんに関わる機密事項だって、黙っていればいい話じゃないか。僕たちの実力を見込んで依頼したと言っていたけど、やっぱりなにかおかしい)
彼はハリルたちの言行に不可解な点が多いことを、改めて不信に思った。そして、そんな彼にある閃きが舞い降りた。
(そうだ! シェリーだ! シェリーはヒルダさんのこととなると感情が先行してしまう。彼らは僕たちのことを調べつくしていた。ならシェリーの気持ちを利用しようと考えてもおかしくない)
ニコラの頭の中で点と点が結び付いていく。
(この先に火吐き鼠より強い魔獣がいるとしても、シェリーはそう簡単には逃げない。僕とジャンも、シェリーを置いて逃げるわけにはいかない。逃げ出さず、あわよくば自分たちの身代わりになってくれそうな戦力が三人も手に入る。彼らにとっては都合がいい話じゃないか)
彼のハリルたちに対する嫌疑が深まっていく。しかし一点だけ、不可解な点が残っていた。
(でもそれ以前に、彼らはなんでヒルダさんを助けようとしてるんだ? 彼らには、さらわれた他人の娘を助けるメリットなんてなにもない。ヴァレーズさんはもうこの世にいないのだから、ヒルダさんを故郷に帰したところで一文の得にもならないはずだ)
彼の脳裏に様々な事柄が浮かび上がる。ヒルダが家族と険悪な関係だったこと、ヴァレーズ家周辺の火災、不可解な依頼、そしてこの、誰かの手の上で操られているかのような不気味な感覚。
(……まさか! 黒幕はヒルダさん自身なんじゃ!?)
ニコラはここにきて、この依頼の裏の思惑に感づき始めた。
「この壁は壊せそうだな。サルマーン、やれ」
「うす」
途中邪魔な壁に阻まれたときは、ハリルが壁を叩いて厚みを確認し、壊せそうならサルマーンに壊させ、無理やり通路を確保した。
ジャンは帰り道がわからなくならないよう壁に目立つ傷を付ける役を仰せつかった。彼はハリルから渡された、石工が使うのみのような道具を使い、一定間隔で壁に目印を付けて行った。
その間、火吐き鼠は迷いながらも少しずつ距離を縮めてきた。マフムードはその位置を把握し、大群を撒きながら少しずつ洞窟の奥に進む進路を探した。しかしある程度進むと、いよいよ敵と戦わざるを得ない状況に陥った。
「兄者、今回は避けられそうにないですよ」
「そのようだな」
後方と側面からは追いかける敵が、そして前方からも数匹の魔力が近づいてくる。前方の敵は、すでにハリルやジャンが殺気を感じ取れる距離まで近づいてきている。また敵の魔力の位置からして、これ以上壁を壊して切り抜けるのは難しい。
「いいか、手はずはさっきと同じだ! だが迎撃している余裕はない! こちらから距離を詰めるぞ!」
ハリルは皆に指示を飛ばし走り出した。ジャンとシェリーは余裕があったが魔術師であるニコラとマフムードにとっては楽ではない。ニコラは走りながら冷静に状況を把握していた。
(この状況、あと何回戦闘があるかわからない以上、回復魔法で魔力を消耗するわけにはいかない。走り込みでもしておくんだったな)
回復魔法と身体強化の魔法を使えばジャンたちと同じペースで走れないわけではない。しかし彼には敵の魔法を打ち消すという重要な役割がある。むやみやたらと魔法を使うわけにはいかない。
だがニコラには、魔力の配分よりも気になることがあった。彼は走りながらハリルの後姿を見た。
(それにしても妙だ。ここまでの三人の戦いぶりを見る限り、僕たちがいなくてもここまで来ることは可能だったはず。敵の火球を相殺する役が必要だといっても、僕と同レベルの熱系魔法を扱える魔術師がシルバーランクに一人もいないとは思えない。ヒルダさんに関わる機密事項だって、黙っていればいい話じゃないか。僕たちの実力を見込んで依頼したと言っていたけど、やっぱりなにかおかしい)
彼はハリルたちの言行に不可解な点が多いことを、改めて不信に思った。そして、そんな彼にある閃きが舞い降りた。
(そうだ! シェリーだ! シェリーはヒルダさんのこととなると感情が先行してしまう。彼らは僕たちのことを調べつくしていた。ならシェリーの気持ちを利用しようと考えてもおかしくない)
ニコラの頭の中で点と点が結び付いていく。
(この先に火吐き鼠より強い魔獣がいるとしても、シェリーはそう簡単には逃げない。僕とジャンも、シェリーを置いて逃げるわけにはいかない。逃げ出さず、あわよくば自分たちの身代わりになってくれそうな戦力が三人も手に入る。彼らにとっては都合がいい話じゃないか)
彼のハリルたちに対する嫌疑が深まっていく。しかし一点だけ、不可解な点が残っていた。
(でもそれ以前に、彼らはなんでヒルダさんを助けようとしてるんだ? 彼らには、さらわれた他人の娘を助けるメリットなんてなにもない。ヴァレーズさんはもうこの世にいないのだから、ヒルダさんを故郷に帰したところで一文の得にもならないはずだ)
彼の脳裏に様々な事柄が浮かび上がる。ヒルダが家族と険悪な関係だったこと、ヴァレーズ家周辺の火災、不可解な依頼、そしてこの、誰かの手の上で操られているかのような不気味な感覚。
(……まさか! 黒幕はヒルダさん自身なんじゃ!?)
ニコラはここにきて、この依頼の裏の思惑に感づき始めた。
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