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第四章 ならず者たちの挽歌
第百八十四話 ヒルダの遣い
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「おい、ジャン、シェリー、ちょっと」
ニコラは隣ではしゃぐジャンとシェリーを呼んだ。
「んー? なに?」
「どうかしたの? ニコラ」
「この依頼だけど……」
彼は二人に依頼内容のことを話した。
「そんなに強いの? その火吐き鼠って」
シェリーはいまいちピンとこないといった顔で尋ねた。
「それは……僕も知らないけど、フェーブルの軍部が近づかないってことは、それなりに強いと見ていいはず……」
「でもよー、フェーブルの軍部とか警備隊って、アレックスたちに手も足も出なかった奴らだろ? 誘拐事件も窃盗事件も自力じゃ何にも解決できない……あっ」
ジャンはこの場がフェーブル国営のローハンターズギルドであることをすっかり忘れていた。受付嬢の顔がほんの少しひきつったのを見て、彼はいったん口を閉じた。
「ジャン、アレックスたちに手も足も出なかったのは僕らも同じだろ? それに、実態の掴めない相手に対して迂闊に手を出すのは危険だ」
「手も足も出なかったのはアレックスの野郎が異常に強かっただけで……雑魚は俺とおまえとラザールさんで倒したし、シェリーだって一人で何人も倒してる。それによー、今までだって実態の掴めない相手ばっかだったろ?」
「それはそうだけど……」
たしかにジャンの言う通り、彼らのこれまでの戦いは、戦力をほとんど把握できていない相手との戦いだった。その点で、今回の依頼がなにか大きく異なるなどということはない。
「あのでっけークモに比べたら火ぃ吐く鼠なんて大したことねーよ」
「ちょっとジャン! あたしの前でクモの話しないでよ! あー、思い出したら寒気してきた……」
「悪ぃ悪ぃ。なあニコラ、まだ依頼主に会ってもねーんだしよー、だめそうだったら断ればいいじゃねーか。な?」
「うーん」
ニコラはいまいち乗り気ではなかったが、ジャンの言うことも一理あった。依頼を受けるかどうかは話を聞いてから決めても規約上問題はない。この場で断らずとも、具体的な依頼内容を聞いてから断ればいいだけなのだ。
「あのー」
なかなか方針が固まらない中、受付嬢が間に入った。三人は彼女のほうを見た。
「依頼主の方、あちらにみえますが……」
彼女が示したほう、奥のテーブルを囲んで三人の男たちが座っていた。
「いるってよ、ニコラ。話聞くだけならタダなんだし、いいだろ?」
「……仕方ないなぁ。危険そうだったら断るんだぞ」
「わーってるって」
ニコラはしぶしぶ承諾した。それから受付嬢はハリル達に事情を説明し、奥の部屋に案内したあと、ジャンたちも同じ部屋に通した。
「失礼しまーす」
ジャンを先頭に三人が部屋に入ると、濃い端正な顔立ちの剣士風の男を中心に、魔術師風の細身の男と、戦士風の巨躯の男が座っていた。ハリル、マフムード、サルマーンの三人だ。男たちはジャンたちを見て立ち上がった。そしてハリルが代表して自己紹介を始めた。
「我々が、君たちに依頼した者だ。俺の名はハリル。ハリル・イブン・ジャファルだ。よろしく」
彼はジャンに向かって右手を差し出した。ジャンは彼の淡々とした無駄のない態度に少々気圧された。
「ど……どうも。ジャン=リュック・シャロンって言います」
二人は握手を交わした。シェリーたちもそれに続く。
「シェリー・ファヴァールと言います。よろしくお願いします」
「ニコラ・ポワティエと申します。よろしくお願いします」
「ジャン=リュックにシェリーにニコラか。この二人はマフムードとサルマーン。二人とも無口で俺以外とはほとんど口を利かないが、まあ悪い人間ではないから安心してほしい」
「「……」」
マフムードとサルマーンは黙ったまま軽く頭を下げた。
自己紹介が済むと、ハリルは受付嬢のほうを見た。席を外してほしいという合図だ。受付嬢は軽く一礼して部屋を出た。それからみな着席し、依頼内容の説明が始まると思われたそのときだった。ハリルは開口一番、ジャンたちが予想だにしないことを口にした。
「早速だが、単刀直入に言おう。我々は君たちが探しているヒルダ・ヴァレーズの遣いだ」
「「え!?」」
ジャン、シェリー、ニコラは一斉に声を上げた。三人は、まさかこんなところでヒルダの消息を掴めるなどとは思ってもみなかった。
ニコラは隣ではしゃぐジャンとシェリーを呼んだ。
「んー? なに?」
「どうかしたの? ニコラ」
「この依頼だけど……」
彼は二人に依頼内容のことを話した。
「そんなに強いの? その火吐き鼠って」
シェリーはいまいちピンとこないといった顔で尋ねた。
「それは……僕も知らないけど、フェーブルの軍部が近づかないってことは、それなりに強いと見ていいはず……」
「でもよー、フェーブルの軍部とか警備隊って、アレックスたちに手も足も出なかった奴らだろ? 誘拐事件も窃盗事件も自力じゃ何にも解決できない……あっ」
ジャンはこの場がフェーブル国営のローハンターズギルドであることをすっかり忘れていた。受付嬢の顔がほんの少しひきつったのを見て、彼はいったん口を閉じた。
「ジャン、アレックスたちに手も足も出なかったのは僕らも同じだろ? それに、実態の掴めない相手に対して迂闊に手を出すのは危険だ」
「手も足も出なかったのはアレックスの野郎が異常に強かっただけで……雑魚は俺とおまえとラザールさんで倒したし、シェリーだって一人で何人も倒してる。それによー、今までだって実態の掴めない相手ばっかだったろ?」
「それはそうだけど……」
たしかにジャンの言う通り、彼らのこれまでの戦いは、戦力をほとんど把握できていない相手との戦いだった。その点で、今回の依頼がなにか大きく異なるなどということはない。
「あのでっけークモに比べたら火ぃ吐く鼠なんて大したことねーよ」
「ちょっとジャン! あたしの前でクモの話しないでよ! あー、思い出したら寒気してきた……」
「悪ぃ悪ぃ。なあニコラ、まだ依頼主に会ってもねーんだしよー、だめそうだったら断ればいいじゃねーか。な?」
「うーん」
ニコラはいまいち乗り気ではなかったが、ジャンの言うことも一理あった。依頼を受けるかどうかは話を聞いてから決めても規約上問題はない。この場で断らずとも、具体的な依頼内容を聞いてから断ればいいだけなのだ。
「あのー」
なかなか方針が固まらない中、受付嬢が間に入った。三人は彼女のほうを見た。
「依頼主の方、あちらにみえますが……」
彼女が示したほう、奥のテーブルを囲んで三人の男たちが座っていた。
「いるってよ、ニコラ。話聞くだけならタダなんだし、いいだろ?」
「……仕方ないなぁ。危険そうだったら断るんだぞ」
「わーってるって」
ニコラはしぶしぶ承諾した。それから受付嬢はハリル達に事情を説明し、奥の部屋に案内したあと、ジャンたちも同じ部屋に通した。
「失礼しまーす」
ジャンを先頭に三人が部屋に入ると、濃い端正な顔立ちの剣士風の男を中心に、魔術師風の細身の男と、戦士風の巨躯の男が座っていた。ハリル、マフムード、サルマーンの三人だ。男たちはジャンたちを見て立ち上がった。そしてハリルが代表して自己紹介を始めた。
「我々が、君たちに依頼した者だ。俺の名はハリル。ハリル・イブン・ジャファルだ。よろしく」
彼はジャンに向かって右手を差し出した。ジャンは彼の淡々とした無駄のない態度に少々気圧された。
「ど……どうも。ジャン=リュック・シャロンって言います」
二人は握手を交わした。シェリーたちもそれに続く。
「シェリー・ファヴァールと言います。よろしくお願いします」
「ニコラ・ポワティエと申します。よろしくお願いします」
「ジャン=リュックにシェリーにニコラか。この二人はマフムードとサルマーン。二人とも無口で俺以外とはほとんど口を利かないが、まあ悪い人間ではないから安心してほしい」
「「……」」
マフムードとサルマーンは黙ったまま軽く頭を下げた。
自己紹介が済むと、ハリルは受付嬢のほうを見た。席を外してほしいという合図だ。受付嬢は軽く一礼して部屋を出た。それからみな着席し、依頼内容の説明が始まると思われたそのときだった。ハリルは開口一番、ジャンたちが予想だにしないことを口にした。
「早速だが、単刀直入に言おう。我々は君たちが探しているヒルダ・ヴァレーズの遣いだ」
「「え!?」」
ジャン、シェリー、ニコラは一斉に声を上げた。三人は、まさかこんなところでヒルダの消息を掴めるなどとは思ってもみなかった。
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