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第四章 ならず者たちの挽歌
第百七十一話 内部情報
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クロードは昨日、フェーブルの官吏からこの情報を内々に聞いていたという。ジャンたちがミーヌで鋼鉄のならず者を撃退したあと、フェーブルの上層部は重い腰を上げ、先の逮捕者の余罪を徹底的に追及した。その中で、逮捕者のうちの一人が一連の誘拐事件について白状したとのことらしい。
犯人がわかった以上、上層部もそれを放置するわけにいかない。しかし、自国の軍と警備隊には手に負えないことも重々承知していたため、上層部はすぐさまクーラン帝国に特殊諜報部隊の派遣を要請した。ほどなくして、クーラン側から承諾の旨が伝えられ、特殊諜報部隊の一部が隠密裏にフェーブルへ派遣されることとなった。
クーランの特殊諜報部隊の実力はすさまじく、すでに鋼鉄のならず者の居場所を突き止め、逮捕に向けて動いているとのことらしい。このままスムーズにことが運べば、窃盗団は遠からず逮捕されることになるだろう。そして誘拐された子女の居場所を吐かせたら、あとは国費を使って彼女らを取り戻せばそれで万事解決というわけだ。
これで当面の脅威は去るだろう。誘拐された子女を取り戻せばヒルダも戻ってくるかもしれない。フェーブル王国にとっても、ジャンたちにとっても、喜ばしいことには違いない。ただ、クロードもジャンも、自分たちの手で決着を付けられないことを少々残念に思っていた。クロードはセオドアとの再戦を果たせないであろうことに、ジャンはアレックスに対し、雪辱を晴らせないであろうことに、若干のもどかしさを感じていた。
しかしこれでいいのだ。これ以後の被害を最小限に抑え、フェーブル国民の安全を守るためには、むしろもっと早くそうしていればよかったことなのだ。これで終わりにできるならそうしたほうがいいに決まっている。それはだれの目にも明らかなことだった。
「そういうわけだから、そのヒルダって娘の居場所も、そのうちお上が突き止めるだろうよ。ま、これで一件落着ってところだな」
クロードは表向きさっぱりしていた。もう四十近い妻子持ちなのだから、喧嘩の約束に固執するのも子どもじみていると、彼は自分に言い聞かせた。
「ところでクロードさん、少し気になったことがあるんですが……」
ニコラはいまの話に引っかかるところがあったようだ。
「なんだ? なにか変なところでもあったか?」
「変なところというか、クロードさんはフェーブル王室の関係者と繋がりがあるんですか?」
彼の疑問はもっともだった。クロードはフェーブルの官僚に目を付けられているはず。それなのに、こんな内部情報が耳に入るのはいかにも不自然だ。
「あー、それな。実は俺のツレに何人か官吏になった奴がいてな、そいつらを通して常に情報を仕入れてるってわけよ。もちろんバレないようにな。言うまでもないが、この話は上から正式に発表があるまでは他言無用だぞ。いいな?」
「「うん」」
クロードは先日の一件でジャンたちのことを信頼していたし、なにより昨日のシェリーの様子を見て、少しでも慰めになるような話をしてやりたいと思っていた。そこにタイミングよくこの情報が入って来たというわけだ。
「ところで、これからどうするんだ? 行先は決まってんのか?」
クロードはジャンに向かって尋ねた。
「いんや、なんも決めてねぇ。とりあえず、もう少しこの町でぶらぶらしながら考えよっかなって思ってる」
「そうか。じゃあせっかくだから、記念撮影でもしてきたらどうだ? この近くに腕のいい技師がやってる撮影所があったはずだ」
「へぇ、そうなんだ。ニコラ、シェリー、どうする?」
ジャンは二人にも意見を求めた。
「実はこうなると思って、撮影所の場所はセミナー前日に調べておいたよ」
「さっすがニコラ、準備いいわね。あたしも賛成。旅に出てからまだ一枚も写真撮ってないし」
「んじゃ、決まりだな」
こうしてクロードの提案により、ジャンたちはネヴィール滞在中に記念撮影をすることになった。
「おっちゃん、ありがとう。ラザールさんも。それじゃあ俺たち、昼飯食ってくるから」
「ああ、またな」
三人はその場を離れ、昼食をとることにした。
犯人がわかった以上、上層部もそれを放置するわけにいかない。しかし、自国の軍と警備隊には手に負えないことも重々承知していたため、上層部はすぐさまクーラン帝国に特殊諜報部隊の派遣を要請した。ほどなくして、クーラン側から承諾の旨が伝えられ、特殊諜報部隊の一部が隠密裏にフェーブルへ派遣されることとなった。
クーランの特殊諜報部隊の実力はすさまじく、すでに鋼鉄のならず者の居場所を突き止め、逮捕に向けて動いているとのことらしい。このままスムーズにことが運べば、窃盗団は遠からず逮捕されることになるだろう。そして誘拐された子女の居場所を吐かせたら、あとは国費を使って彼女らを取り戻せばそれで万事解決というわけだ。
これで当面の脅威は去るだろう。誘拐された子女を取り戻せばヒルダも戻ってくるかもしれない。フェーブル王国にとっても、ジャンたちにとっても、喜ばしいことには違いない。ただ、クロードもジャンも、自分たちの手で決着を付けられないことを少々残念に思っていた。クロードはセオドアとの再戦を果たせないであろうことに、ジャンはアレックスに対し、雪辱を晴らせないであろうことに、若干のもどかしさを感じていた。
しかしこれでいいのだ。これ以後の被害を最小限に抑え、フェーブル国民の安全を守るためには、むしろもっと早くそうしていればよかったことなのだ。これで終わりにできるならそうしたほうがいいに決まっている。それはだれの目にも明らかなことだった。
「そういうわけだから、そのヒルダって娘の居場所も、そのうちお上が突き止めるだろうよ。ま、これで一件落着ってところだな」
クロードは表向きさっぱりしていた。もう四十近い妻子持ちなのだから、喧嘩の約束に固執するのも子どもじみていると、彼は自分に言い聞かせた。
「ところでクロードさん、少し気になったことがあるんですが……」
ニコラはいまの話に引っかかるところがあったようだ。
「なんだ? なにか変なところでもあったか?」
「変なところというか、クロードさんはフェーブル王室の関係者と繋がりがあるんですか?」
彼の疑問はもっともだった。クロードはフェーブルの官僚に目を付けられているはず。それなのに、こんな内部情報が耳に入るのはいかにも不自然だ。
「あー、それな。実は俺のツレに何人か官吏になった奴がいてな、そいつらを通して常に情報を仕入れてるってわけよ。もちろんバレないようにな。言うまでもないが、この話は上から正式に発表があるまでは他言無用だぞ。いいな?」
「「うん」」
クロードは先日の一件でジャンたちのことを信頼していたし、なにより昨日のシェリーの様子を見て、少しでも慰めになるような話をしてやりたいと思っていた。そこにタイミングよくこの情報が入って来たというわけだ。
「ところで、これからどうするんだ? 行先は決まってんのか?」
クロードはジャンに向かって尋ねた。
「いんや、なんも決めてねぇ。とりあえず、もう少しこの町でぶらぶらしながら考えよっかなって思ってる」
「そうか。じゃあせっかくだから、記念撮影でもしてきたらどうだ? この近くに腕のいい技師がやってる撮影所があったはずだ」
「へぇ、そうなんだ。ニコラ、シェリー、どうする?」
ジャンは二人にも意見を求めた。
「実はこうなると思って、撮影所の場所はセミナー前日に調べておいたよ」
「さっすがニコラ、準備いいわね。あたしも賛成。旅に出てからまだ一枚も写真撮ってないし」
「んじゃ、決まりだな」
こうしてクロードの提案により、ジャンたちはネヴィール滞在中に記念撮影をすることになった。
「おっちゃん、ありがとう。ラザールさんも。それじゃあ俺たち、昼飯食ってくるから」
「ああ、またな」
三人はその場を離れ、昼食をとることにした。
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