上 下
146 / 283
第三章 亡国の系譜

第百四十六話 ソフィのはからい

しおりを挟む
 今日の講義はこれが最後だったので、受講者たちはそのまま正面玄関に向かっていた。ジャンたちもその流れに乗ってそちらへ向かうと、入口付近に研究員たちが並んで立っていた。どうやらソフィはそこにはいないようだ。

 ジャンが研究員たちの様子をうかがうと、端に立っていたノーマンが彼に気付き、こちらに来るように手で合図をした。

「おい、ノーマンさんが呼んでるみたいだぜ」
「え? どこ? あ、ほんとだ」

 三人はノーマンのいるほうへ歩いて行った。

「やあ、お疲れ様」
「「お疲れ様です」」

 ノーマンはどうもジャンたちに用事があるようだった。

「終わってすぐで申訳ないけど、所長が奥で待ってるから、ついてきて」

 ノーマンはそう言って三人を案内した。彼について後ろの廊下を真っすぐ奥へと進むと、突き当たって右手に休憩室があった。ノーマンはドアを三回ノックした。

「はい」

 ソフィの声だ。

「所長、お連れしました」
「そう。じゃあ中に通して」
「はい」

 ノーマンはドアを開け、中に入るよう合図した。

 三人が休憩室に入ると、ソフィは椅子に掛けてなにやら難しそうな本を読んでいた。彼女は切りのいいところまで読んで本を机に置いた。

「所長、私はこれで」
「ええ、ありがとう、ノーマン」

 ノーマンは軽く一礼してドアを閉めた。

「三人とも、そこのソファにかけて」

 三人はソフィの指示に従ってソファに座った。

「さっきはどうもありがとう。講義は楽しんでもらえたかしら」
「はい、大変勉強になりました」
「俺も、全部はわかんなかったけど面白かったぜ」
「あたしも、すごく考えさせられました」
「そう、それはよかったわ」

 ソフィは満足げに微笑んだ。

「ところであなたたち、今夜の宿はもう決まってるの?」

 彼女の質問にはニコラが答える。

「いえ、前の宿を今朝チェックアウトしたきりで、このあと探さなければなりません」
「そう。それならわたしが泊っている部屋を使うといいわ。宿代もばかにならないでしょう?」
「マジ!? おばさんの泊まってるのってすっごい部屋だろ?」
「えー、いいんですか!?」

 ソフィの申し出にジャンとシェリーは身を乗り出した。ニコラは申し訳なさそうな顔をしていたが、二人が乗り気な様子だったため口を挟めなかった。

「大丈夫よ。それにわたしはクーラン帝国の国賓扱いだから、先方もできる限りサービスしたいみたいなのよ。昨日ホテルの支配人に甥っ子が友人を連れて来てるみたいだから泊めてもいいかって尋ねたら、二つ返事でオーケーしてくれたわ」
「「やったー!」」

 ジャンとシェリーは大喜びした。それもそのはず、彼らがここに来るまでに宿泊してきたのは、クロードの家を除けばすべて安いモーテルばかり。ニコラのようにギルドの依頼先の家にひと月居候させてもらったわけでもない。それが国賓の招かれるような高級ホテルに泊まれるというのだから、興奮しないはずがない。

「喜んでもらえて嬉しいわ。ニコラ、あなたも遠慮しないでいいのよ。気を遣ってくれてありがとう」
「え!? いや、その……僕は別に、気を遣ってなんか……」

 ニコラはソフィに気持ちを見透かされ、恥ずかしそうにした。

「それじゃ、わたしは用事を済ませてくるから、ここで待ってて」

 ソフィはそう言っていったん休憩室から出て行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

別れてくれない夫は、私を愛していない

abang
恋愛
「私と別れて下さい」 「嫌だ、君と別れる気はない」 誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで…… 彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。 「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」 「セレンが熱が出たと……」 そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは? ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。 その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。 「あなた、お願いだから別れて頂戴」 「絶対に、別れない」

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

(完)私の家を乗っ取る従兄弟と従姉妹に罰を与えましょう!

青空一夏
ファンタジー
 婚約者(レミントン侯爵家嫡男レオン)は何者かに襲われ亡くなった。さらに両親(ランス伯爵夫妻)を病で次々に亡くした葬式の翌日、叔母エイナ・リック前男爵未亡人(母の妹)がいきなり荷物をランス伯爵家に持ち込み、従兄弟ラモント・リック男爵(叔母の息子)と住みだした。  私はその夜、ラモントに乱暴され身ごもり娘(ララ)を産んだが・・・・・・この夫となったラモントはさらに暴走しだすのだった。  ラモントがある日、私の従姉妹マーガレット(母の3番目の妹の娘)を連れてきて、 「お前は娘しか産めなかっただろう? この伯爵家の跡継ぎをマーガレットに産ませてあげるから一緒に住むぞ!」  と、言い出した。  さらには、マーガレットの両親(モーセ準男爵夫妻)もやってきて離れに住みだした。  怒りが頂点に到達した時に私は魔法の力に目覚めた。さて、こいつらはどうやって料理しましょうか?  さらには別の事実も判明して、いよいよ怒った私は・・・・・・壮絶な復讐(コメディ路線の復讐あり)をしようとするが・・・・・・(途中で路線変更するかもしれません。あくまで予定) ※ゆるふわ設定ご都合主義の素人作品。※魔法世界ですが、使える人は希でほとんどいない。(昔はそこそこいたが、どんどん廃れていったという設定です) ※残酷な意味でR15・途中R18になるかもです。 ※具体的な性描写は含まれておりません。エッチ系R15ではないです。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

処理中です...