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俺はヒーローになりたかった[大人組過去編]

君が選んだのは僕なんだ。僕、だけど…。side木嶋龍

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“恋人が自分以外の人間と抱き合っている”そんな光景を見たら、人はなにを思うのだろうか。

僕は、なにを感じたのだろうか。

僕の恋人の登校はとても早い。
なんでも、人のいない教室で静かに過ごすのが好きなんだとか。

そして、僕は、その人のいない教室で静かに過ごす彼を見るのが好きになっていた。

(いつも、いつ気がつくかなって思って見てるんだけど、結局毎回僕が負けて、話かけちゃうんだよなぁ…)

そんなことを考えながら、“今日こそは”と教室へ向かった。

(え……?)

どうやら、今回も僕の負けだった。それも、不戦敗というやつだ。

(なんで、伊藤と太狼が、抱き合ってんの…?)

太狼の手は、伊藤を自ら抱きしめているような位置にあった。
そして、伊藤はただ、そこに立っているだけのようだった。

(あれ…?友達って、なんだっけ…?恋人って、僕だよな…?)

頭が混乱して、僕は静かにその場を離れた。

しばらくして、朝のチャイムが鳴った。
けれど、僕の頭は混乱したままだった。

(きっと、何か理由があるはずだ。太狼は、人を騙すような人じゃない。きっと、なにか…)

そう思って、話しかけようとするも、中々タイミングが取れず昼になった。

「太狼、昼一緒に食べないか?」

思い切って声をかけるも、
「ごめん、今日は約束があるんだ、また今度食べよう。」
と言われてしまった。

“誰と”約束があるんだ、とか、そんなわかり切ってることは聞けなかった。

(どうせ、伊藤なんだろうな…。)

太狼と伊藤の間には、僕が入れないようなそんな“何か”がある。僕だけじゃない、きっと、誰も2人の間には入れない。

(なぁ、太狼…お前といるときの伊藤は、僕といる時の伊藤と全く違うんだよ。)

でも、きっと、それを太狼は気付いていない。

僕といる太狼を見る伊藤の目。僕を見る、伊藤の目。

太狼の隣にいる時の伊藤は、僕の隣にいる時の太狼の表情と似ているんだ。

それが、どういう意味か、太狼はまだ知らないのだろう。


けれど、それでいい。


太狼が選んだのは僕なのだから。

僕からは、絶対、なにがあろうと離れない。

(残念だったな、伊藤。太狼の恋は、僕だったよ。)

心の中で伊藤に悪態を吐いてみるが、頭に付いたモヤは消えなかった。

それから放課後になり、また太狼を誘ってみたが“約束”が僕を断った。

(また、伊藤か…。)

その日は色々と考えて寝付きが悪かった。
なんなら、夢見も悪かった。

(なんで、伊藤と太狼が付き合う夢なんかみるんだよ…。)


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