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俺は君のヒーローだ。

21 ずっと一緒……。

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水曜日が来た。

俺は、重い足取りで学校へ向かった。
勿論隣に虎は居ない。

(・・・なんで、俺デートするなんて返事したんだろう・・・。)

溜息をついて教室へ向かった。

「お、おはよう、真木早いな。」

「田中先生、おはようございます。」

田中先生は、黒板を丁寧に消している最中だった。

(そういえば、田中先生と智也さんは知り合いなんだよな。)

「田中先生、とも・・・伊藤先輩ってどんな人ですか。」

「・・・智也が、どんな人かって?」

凄く嫌な顔をした田中先生が俺をみた。

「はい。」

「・・・馬鹿な奴だよ。あいつは。自分の幸せなんて無い方がいいと思ってる。本当に、馬鹿なんだよ。」

先生は、悲しそうな笑みを浮かべてそう言った。

「あとは、物凄く性格が悪いな。あ、だから真木も気を付けろ。あいつは嫌な奴だからな。」

「え、あ、はい。」

(・・・智也さんが、嫌な奴・・・?想像付かないな。)

それから、放課後になってメールが届いた。

(ん?智也さんだ。)

[学校出ちゃった?]

そのメールに首を傾げて、智也さんに電話をかける。

『優翔どうしたの?』

「いや、あのメールの意図が読めなかったので。」

『あー、で、まだ学校いる?』

「はい、居ますけど」

「真木ちゃん、今日は一緒にかえ・・・電話中?」

虎が廊下から教室に入ってきた。

「あぁ、悪い。」

『・・・今の声はお友達?」

「あ、はい、そうです。それで、学校にいますけどどうかしたんですか?」

『あー、迎えに来ちゃった。』

「・・・はい?えっと、どこにいるんですか?」

『校門の前?』

それを聞いて窓から校門を見た。

(いや、まぁ遠すぎて見えないけど。)

「わかりました、今から行きます。」

『あー、ゆっくりでいいよ。焦って階段から落ちたら大変だから。』

「わかりました。」

電話を切って、荷物を持つ。

「・・・真木ちゃん、一緒に帰れない?」

悲しそうに虎が俺をみた。

「あぁ。悪い。約束があるんだ。」

「っ、じゃあ、途中まででいいから。」

(んんんんんー。断れ。断るんだ俺。)

「・・・途中までだならな。」

(あー、なんで、断らないの?!俺!)

虎は嬉しそうに俺をみた。

数日なのに久々に思える2人きりの空間だった。

(俺は、ヒーロー。俺はヒーロー。)

自己暗示のように脳内で呟いて心を落ち着かせる。

「真木ちゃん。どうして最近一緒に行ってくれないの?」

「・・・虎は、彼女がいるだろ。」

「え、うん。いるけど。」

「だったら、友達より彼女と一緒居たいものだろ。」

「え・・・。僕は、真木ちゃんと一緒にいたいんだよ?だから、だから・・・。」

虎が立ち止まって俺を苦しそうにみた。

「どうしたら、真木ちゃんと一緒に居られるの。」

涙みたいに零した虎の言葉が俺の心に落ちた。

(・・・勘違い、したら駄目だ。駄目だろ。俺はヒーローだ。ヒーローなら言わないと駄目だ。)

「一緒には居ただろう。ただ、時間が少なくなっただけだ。2人きりが消えただけだ。」

「僕は、ずっと一緒がいいよ。」

「・・・どうせ大人になったら虎だって結婚するだろ?俺だって結婚するだろうし。ずっと一緒は無理だよ。」

「・・・結婚?」

「でも、俺はヒーローだからな。虎に呼ばれたら飛んでいく。それでいいだろう。」

「ヒーロー・・・。」

昇降口に着いて俺は逃げるように虎から離れた。

「あ、優翔!」

「智也さん。」

校門の側に居た智也さんはニコニコ笑って俺の方に来た。

「さぁ、デート行こうか。」

目の前に智也さんの手が差し出された。

「・・・はい?」

「ほら、僕の手を取って。」

俺はおずおずとその手を取った。

「うん、よくできました。」

智也さんは、俺を引っ張るような形で歩き出した。

「これなら、兄に連れ去られてる弟みたいに見えるでしょ?」

智也さんは、そう行って俺を振り向いて笑った。


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