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第5章 女装男子と永遠に
29 会いたくなかった、会いたかった人。
しおりを挟む絽紀のプレゼントを買いに少し遠い街へ出掛けることにした。
「真琴とデート久々だぁ~」
秋桐は、電車に揺られながら小さな声で嬉しそうにしている。
車内に人は少ない。俺はそっと秋桐の指を掴んだ。
「真琴?」
「デート、なんだろ。」
「ふふ、そーです。」
秋桐は、嬉しそうに俺の手を握った。
遠い街なら、大丈夫。知り合いも居ないはず。
俺は馬鹿だからそんな事で安心して、気を抜いていた。
なんとなく、店が多そうな駅で降りた。
「いいの、あるといいね。」
ニコニコ笑う秋桐に返事して街を歩く。
「……可愛いな。」
しばらく歩いてショーウィンドウにある雑貨たちが目に留まった。
ファンシーなだけじゃない。一つ一つが繊細に出来上がっている。
「……入る?」
「ぇ、あ、えーと、ま、まぁ、リアムさんも好きそうだしな!可愛いの!」
一瞬クローゼットの中の服が頭をよぎったが取っ払った。
リリンと音を立てて扉が開く。
(……扉を開けるとこですら可愛いなんて……)
「いらっしゃいませ」
二十代ぐらいの女性がレジにいた。
店には彼女1人のようだった。
店内は広い方ではなかったが見るものは沢山あった。
「んんんん、悩ましい。」
「何かあったの?」
俺の頭の中には2つ。
赤い糸とネコが描いてあるペアのマグカップ
綺麗なヘリクリサムの花が彫ってある写真立て
「このマグと写真立て。どっちがいいと思う?」
「んー、確かに悩ましいね。」
「絽紀は多分、どっちをあげても喜ぶんだろうけど……んー、悩むな。」
「……プレゼント、ですか?」
ふわっと香水の匂いと共に店員の女性が横に来た。
「あ、はい。友達の、結婚式で……。」
(なんだ、嫌な感じがする。)
記憶の奥で何かが俺を止めている。
この人から離れろ。
ここから離れろ。
「あ、そうなんですか。おめでとうございます。結婚式でしたら、こちらの写真立てがオススメですよ。こちらの花麦藁菊、別名ヘリクリサムは花言葉を、永遠の記憶、永遠の思い出、と言ったもので結婚式のプレゼントにぴったりですよ。」
「へー!そうなんですか。じゃあこっちにしようか。……真琴?」
「え、あ、あぁ、そうしよう。」
「……ぇ……まこ、と?」
店員さんが驚いたように俺を見た。
「あの、もしかして華宮 真琴さん、ですか?」
「え、どうして……」
「おい、真弘。お前また勝手に店に出て……。」
その声は耳にすんなりと入って、俺の心臓を掴んだ。
『真琴、お前は私の自慢だよ。』
頭に置かれた手の感触。大好きだった低い声。
「……真琴……?」
そして、俺と母さんを捨てた人。
「……父、さん……。」
俺は、咄嗟に秋桐の手を取って店から逃げ出した。
「っ、真琴?!」
(嫌だ。なんでだ。なんで今更会うんだよ。)
頭の中からあの人の記憶が溢れた。
「真琴!真琴!!」
「っ……ご、めん。」
しばらく走って、河川敷に来た。
水はキラキラ光っていた。
「真琴……?……泣いてるの?」
「ごめん。ごめん、俺……。」
「……真琴。おいで、大丈夫だから。」
秋桐は、川に掛かる橋の下まで俺を連れて行って抱きしめてくれた。
「……真琴。聞いてもいい?」
しばらくしてきた問いに俺は頷いた。
「あの人は、俺の本当の父親なんだ。」
そう言って、俺は父親が俺を捨てた事。それがショックだった事を話した。
「……俺の顔は、あの人に似たんだ。よく、娘は父親に顔が似て、息子は母親に顔が似るって言うけど……そんなの、嘘だった。だから……俺は、俺の顔が嫌いだった。あの人を思い出すから。」
(だから、俺は……)
秋桐に言うなら、今だと思った。俺が、女装を始めた理由。
「……秋桐、俺はだから」
「真琴さん!!」
さっきの店の店員の声がした。
「真琴さん!どこですか!真琴さん!」
その声は、必死に俺を呼んでいた。
秋桐と目があった。
「真琴、」
秋桐は、声を詰まらせたが俺は頷いた。
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