上 下
54 / 126
さらなる高みへ

訓練開始

しおりを挟む
「刀は両手剣と比べても当然、両刃の片手剣と比べても軽い。重量に任せて叩き切るのでも突き刺すのでも無く、その切れ味を活かして斬る。けどその代わり、他のどの武器に比べても刀身は薄く脆い。正面から重い一撃を受ければ折れるし、堅牢な守りに下手に斬り込んでも刀身が耐えられない。そもそも普通に受けたら刃こぼれしちゃう。まずは受け止めるんじゃ無くて受け流す感覚を掴むところから」

 淡々と静かな顔で説明するレイ。対する俺はレイの猛攻を必死に受けていた。
 あらゆる角度から斬り込まれる剣戟を即座に判断し受け流すように如月で斜めに受け流す。その度に金属がぶつかる甲高い音が響くが、その音はレイが三回斬り込む内に一回なれば良い方だ。殆どが防御が間に合わず寸止めで終わっている。

 刀の戦い方を教えてあげると言われ数時間、他の武器との違いを簡単に説明され、以降はこうして刀の防ぎ方を身に染み込ませるべくひたすらレイの剣戟に対応している。

「ただ正直に刀を動かすだけじゃ無くて順手と逆手の使い分け、鞘を使うことも意識して」

 度々こうしてアドバイスをくれ、それを活かせる軌道で攻撃してくるから着実に身についているという実感は確実に得られる。ただそれを差し引いてもキツい!

 ダルナ初めギルドの教官の特訓は合間合間でフィードバックの時間が設けられるし、ドラグニールの特訓は何度も死ぬから精神的な摩耗は少しはあるけど、疲労という面ではそれ程無い。それに二つとも自由に動けるというてんも大きいのだろう。それに対しこの訓練はひたすらその場でレイの攻撃を防ぐだけ。休憩が無いこともそうだが、ほぼ動かないと言うことが身体的に疲労している体を精神的にも疲労させてくる。

「はい。今日はここまで」

 体力の限界を感じた瞬間、唐突に攻撃の嵐は止み、ふらりと蹌踉めいた俺をレイが受け止めたところで俺の意識はゆっくり消えていった。


         ***


「ほう。こちらで目覚めたか」

 俺はドラグニールとの特訓の精神世界で目を覚ました。

「恐らく肉体の疲労は回復しておらぬが、精神は眠ったことにより回復してこちらで目覚めたのだろう」
「……肉体が回復してないならそのまま寝とけよ俺」

 社畜精神がまだ残ってたのか?

「しゃーない、折角だ。ちょっと相手してくれよ」
「全く。我をそのような扱いをするのは貴様だけだろうよ。……ふむ。たまにはこう言う趣向はどうだ?」

 ドラグニールは少し考えそう言い、何か呪文を唱えるとその巨体は徐々に縮み姿を変え、やがて俺と瓜二つな見た目になった。違いと言えば髪は赤く、尻尾と翼はそのまま残っている。……何か既視感があるな。

「先程までの訓練を活かすならこういった姿の方が良いだろう。武器は……これでいいだろう」

 ドラグニールが両腕を振り下ろすと、まるで剣のように爪が伸びた。

「ほれ。行くぞ」

 尻尾を地面に叩き付け速い初速を得、更に翼で加速し遅いかかる。
 振り下ろされる右爪に対し、俺はその勢いを利用するように如月を右手で逆手に持ちドラグニールの攻撃を右手側に滑らせ空いた右脇に左手で鞘を叩き込む。

「甘いわ!」

 しかしドラグニールは鞘の当たる直前、翼をはためかせて空中で回転し俺を吹き飛ばし距離を取った。俺は体勢を崩さないよう着地し、今の動作を確かめるように如月を握る右手を見た。

 今の動き……かなり自然に出来た気がする。前なら出来たとしてもここまで無意識的には出来なかったと思う。即日でこんな効果が出るものなのか?

「ほら、続けていくぞ!」

 次々と襲い来るドラグニールの連撃。同じ人型とはいえ飛行しているから対人の太刀筋とは違うのだが、それでも前までなら受け止めるだけだった防御が今では反撃に繋げる初動として機能していた。

 刀身での防御はあくまで攻撃の軌道を逸らすだけ。受け止めるのは鞘か手甲。ただ防ぐのでは無く次の行動への繋ぎをイメージして体を動かす。

 ただひたすらレイの攻撃を必死に防ごうとしていただけだが、ただ防ぐという一点に関しては一気に経験値が上がったようで、かなりスムーズに出来るようになっている。ただ……。

「――ふむ。受けの攻撃、いわゆるカウンターか。その動きは以前までに比べれば格段にあがっておるが、それ以外は全くだな。一度も我に当たっとらんぞ」
「そっちはまだだからなぁ。今までのやり方も、この受け方からの連撃って考えるとちょっと違和感あるし」
「明日の貴様に期待だな。ほれ、もう時間だ」

 その言葉を最後に俺の意識は落ち、そして目を覚ます。

「おはよう」

 ぐっと伸びをして、声をかけられた方を振り向く。
 思えばこうして起き抜けにおはようと言われたのはいつ以来だろうか。いや、もしかしたら初めてかもしれない。

「おはようございます」

 俺はレイに挨拶を返し、新しい一日を踏み出した。

 ……もうレイの部屋で寝ていたことに関しては考えるだけ無駄なのだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

朝起きたら女体化してました

たいが
恋愛
主人公の早乙女駿、朝起きると体が... ⚠誤字脱字等、めちゃくちゃあります

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

異世界でも目が腐ってるからなんですか?

萩場ぬし
ファンタジー
目付きが悪さからか理不尽な扱いを受けるサラリーマン、八咫 来瀬(やた らいせ)。 そんな彼はある日、1匹の黒猫と出会う。 「仮にラノベみたいな……異世界にでも行けたらとは思うよな」 そう呟いた彼は黒猫からドロップキックをされ、その日を境に平凡だった日常から異世界生活へと変わる。 決して主人公にはなれない男のダークファンタジー!

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

転生してもノージョブでした!!

山本桐生
ファンタジー
八名信夫40歳、職歴無し実家暮らしの無職は運命により死去。 そして運命により異世界へと転生するのであった……新たな可愛い女の子の姿を得て。 ちなみに前世は無職だった為、転生後の目標は就職。

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...