5 / 61
5話 存在価値
しおりを挟む
「ん……ふっ」
絶え間ないキスに目の前がくらっとして、体を離す。
「どうしたの」
「私……アンリを、好きになってないよ」
(こんな強引ことをする人、好きじゃない)
体の疼きは気付かないふりをしてアンリを睨んでみるけれど、彼は全く平気な顔で私の体を抱き上げた。
「やっ、下ろしてよ!」
「ベッドじゃないと、さすがにきついよ?」
私が足をバタバタさせてもアンリは腕を緩めない。男性の力がこんなに強いものだと分かって、改めて強くなった。
(こういうのが嫌だから、最初に言ったのに)
アンリは泣きそうになっている私をベッドに寝かせると、口に指をぐっと入れてきた。
(な、何?)
「僕をそんなに好きじゃないっていうなら、指を噛み切ったら。そうすれば、さすがに痛くて少しはひるむかもよ」
「……」
指が舌の上に乗っていて、少しでも動かすと変な感覚が襲ってくる。
(噛み切るなんて……できるはずないよ)
私は指を入れられたまま首を横に振る。
するとアンリはふっと笑って指を抜き取った。
「そう……優しいんだね、ジュリは」
「そ、そういうことじゃないでしょ。どうしてこんな強引なことするの」
頭を起こして訴えると、アンリは思いの外神妙な顔つきになる。
「今までの女は……僕がやることに、抵抗しなかったから」
ぽつりと言った言葉には、微かな寂しさがあって私の怒りも少し冷める。アンリは何かが欠落している……そう感じた。
それでも憎しみを抱くような感情はなくて、保護してあげたいというか……不思議な感覚になる。
「これまで、愛した女性はいなかったの?」
「いたのかな……忘れた」
私の横に体を横たえると、アンリは興味深そうに見つめてくる。吸い込まれそうな青の瞳が私の真横にあって、自然に鼓動が早くなってきた。
(も、もう……これは好きとかじゃないってば!)
「どうして僕を好きじゃないの」
純粋に不思議がっているアンリの言葉に、私は肩の力が抜ける。
「恋とか愛って……もっとじっくり相手を知る必要があると思う」
恋をろくにしたこともない私が言うにはいささか説得力に欠けるけれど、片思いをした過去を考えると、やっぱり最低でも好きだと自覚するだけの時間は必要だと思った。
「じっくりか……面倒くさいな」
ハァとため息をついて、アンリは私の胸元のホックを外した。驚いて私は彼の手を止める。
「な、何するの」
「肌を触るくらい、いいでしょ」
アンリの長い指が私の胸元を滑って、さらり肩を撫でた。そのまま上半身がはだけて空気が肌に触れる。
(あ……)
昼の明るい日の中で自分の肌が人目に晒されるのは、例えようもなく恥ずかしい。私は身を縮めて、アンリの手を逃れようとした。
「逃げないで……ジュリはこの国を助けられる唯一の女性なんだよ。国を救えるなんて、すごいことだと思わない?」
後ろから私を抱きしめ、背中に鼻を押し付ける。吐息の熱が伝わってきて、思わずびくりと体が震えた。
(国を……救う?)
「私はそんな大した女じゃない……どちらかというと、平均より少し下くらいだと思うし」
自分の腕を抱きしめて、なんだか惨めな気持ちになる。すると後ろでアンリが驚いたように言った。
「誰が決めたの?それを決めるのはジュリじゃないでしょ」
「……」
思いがけない言葉に、私はそれ以上の反論ができなくなる。
あまり意識していなかったけれど、ここに連れてこられるまで私は自分に勝手な評価をつけて暮らしていた。
存在価値、容姿の程度、異性に好かれる価値……確かに誰からもそれらを言い渡されたわけじゃない。単に暮らしていく中で自分が感じて、自分に採点を与えていたに過ぎない。
「それでも、私は……王子様に愛されるほどの価値はないと思うよ」
私の言葉に、アンリが少し怒ったように言う。
「本気で言ってる?じゃあ僕が王子じゃなかったら、抱かれてたの」
「そうじゃないよ」
そこまで言ったところで、ドア越しにエリオの声がした。
「アンリ様、すみません……リカルドが至急お会いしたいとの事なのですが」
アンリは自分の髪をくしゃっと搔きむしると、ベッドから勢い良く降りた。
私の肩にそっとシーツをかけると、そのままドアに向かって声をかける。
「今行く。リカルドには少し待てと言え」
「かしこまりました」
身だしなみを整えたアンリは私に視線を向けて、微笑んだ。
「王子は忙しいよ……ちょっと行ってくるから、少し待ってて」
「……うん」
エリオに返事をした時のアンリを見て、私の胸がドクンと脈打ったのは何だったのか。触れられることへの抵抗もそれほどなくて、私は混乱の中でアンリが出て行く後ろ姿を見ていた。
(あの綺麗な王子様を、私はどう思ってるの)
絶え間ないキスに目の前がくらっとして、体を離す。
「どうしたの」
「私……アンリを、好きになってないよ」
(こんな強引ことをする人、好きじゃない)
体の疼きは気付かないふりをしてアンリを睨んでみるけれど、彼は全く平気な顔で私の体を抱き上げた。
「やっ、下ろしてよ!」
「ベッドじゃないと、さすがにきついよ?」
私が足をバタバタさせてもアンリは腕を緩めない。男性の力がこんなに強いものだと分かって、改めて強くなった。
(こういうのが嫌だから、最初に言ったのに)
アンリは泣きそうになっている私をベッドに寝かせると、口に指をぐっと入れてきた。
(な、何?)
「僕をそんなに好きじゃないっていうなら、指を噛み切ったら。そうすれば、さすがに痛くて少しはひるむかもよ」
「……」
指が舌の上に乗っていて、少しでも動かすと変な感覚が襲ってくる。
(噛み切るなんて……できるはずないよ)
私は指を入れられたまま首を横に振る。
するとアンリはふっと笑って指を抜き取った。
「そう……優しいんだね、ジュリは」
「そ、そういうことじゃないでしょ。どうしてこんな強引なことするの」
頭を起こして訴えると、アンリは思いの外神妙な顔つきになる。
「今までの女は……僕がやることに、抵抗しなかったから」
ぽつりと言った言葉には、微かな寂しさがあって私の怒りも少し冷める。アンリは何かが欠落している……そう感じた。
それでも憎しみを抱くような感情はなくて、保護してあげたいというか……不思議な感覚になる。
「これまで、愛した女性はいなかったの?」
「いたのかな……忘れた」
私の横に体を横たえると、アンリは興味深そうに見つめてくる。吸い込まれそうな青の瞳が私の真横にあって、自然に鼓動が早くなってきた。
(も、もう……これは好きとかじゃないってば!)
「どうして僕を好きじゃないの」
純粋に不思議がっているアンリの言葉に、私は肩の力が抜ける。
「恋とか愛って……もっとじっくり相手を知る必要があると思う」
恋をろくにしたこともない私が言うにはいささか説得力に欠けるけれど、片思いをした過去を考えると、やっぱり最低でも好きだと自覚するだけの時間は必要だと思った。
「じっくりか……面倒くさいな」
ハァとため息をついて、アンリは私の胸元のホックを外した。驚いて私は彼の手を止める。
「な、何するの」
「肌を触るくらい、いいでしょ」
アンリの長い指が私の胸元を滑って、さらり肩を撫でた。そのまま上半身がはだけて空気が肌に触れる。
(あ……)
昼の明るい日の中で自分の肌が人目に晒されるのは、例えようもなく恥ずかしい。私は身を縮めて、アンリの手を逃れようとした。
「逃げないで……ジュリはこの国を助けられる唯一の女性なんだよ。国を救えるなんて、すごいことだと思わない?」
後ろから私を抱きしめ、背中に鼻を押し付ける。吐息の熱が伝わってきて、思わずびくりと体が震えた。
(国を……救う?)
「私はそんな大した女じゃない……どちらかというと、平均より少し下くらいだと思うし」
自分の腕を抱きしめて、なんだか惨めな気持ちになる。すると後ろでアンリが驚いたように言った。
「誰が決めたの?それを決めるのはジュリじゃないでしょ」
「……」
思いがけない言葉に、私はそれ以上の反論ができなくなる。
あまり意識していなかったけれど、ここに連れてこられるまで私は自分に勝手な評価をつけて暮らしていた。
存在価値、容姿の程度、異性に好かれる価値……確かに誰からもそれらを言い渡されたわけじゃない。単に暮らしていく中で自分が感じて、自分に採点を与えていたに過ぎない。
「それでも、私は……王子様に愛されるほどの価値はないと思うよ」
私の言葉に、アンリが少し怒ったように言う。
「本気で言ってる?じゃあ僕が王子じゃなかったら、抱かれてたの」
「そうじゃないよ」
そこまで言ったところで、ドア越しにエリオの声がした。
「アンリ様、すみません……リカルドが至急お会いしたいとの事なのですが」
アンリは自分の髪をくしゃっと搔きむしると、ベッドから勢い良く降りた。
私の肩にそっとシーツをかけると、そのままドアに向かって声をかける。
「今行く。リカルドには少し待てと言え」
「かしこまりました」
身だしなみを整えたアンリは私に視線を向けて、微笑んだ。
「王子は忙しいよ……ちょっと行ってくるから、少し待ってて」
「……うん」
エリオに返事をした時のアンリを見て、私の胸がドクンと脈打ったのは何だったのか。触れられることへの抵抗もそれほどなくて、私は混乱の中でアンリが出て行く後ろ姿を見ていた。
(あの綺麗な王子様を、私はどう思ってるの)
0
お気に入りに追加
209
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
騎士団長の欲望に今日も犯される
シェルビビ
恋愛
ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。
就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。
ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。
しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。
無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。
文章を付け足しています。すいません
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
イケメン御曹司、地味子へのストーカー始めました 〜マイナス余命1日〜
和泉杏咲
恋愛
表紙イラストは「帳カオル」様に描いていただきました……!眼福です(´ω`)
https://twitter.com/tobari_kaoru
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私は間も無く死ぬ。だから、彼に別れを告げたいのだ。それなのに……
なぜ、私だけがこんな目に遭うのか。
なぜ、私だけにこんなに執着するのか。
私は間も無く死んでしまう。
どうか、私のことは忘れて……。
だから私は、あえて言うの。
バイバイって。
死を覚悟した少女と、彼女を一途(?)に追いかけた少年の追いかけっこの終わりの始まりのお話。
<登場人物>
矢部雪穂:ガリ勉してエリート中学校に入学した努力少女。小説家志望
悠木 清:雪穂のクラスメイト。金持ち&ギフテッドと呼ばれるほどの天才奇人イケメン御曹司
山田:清に仕えるスーパー執事
完結 チート悪女に転生したはずが絶倫XL騎士は私に夢中~自分が書いた小説に転生したのに独占されて溺愛に突入~
シェルビビ
恋愛
男の人と付き合ったことがない私は自分の書いた18禁どすけべ小説の悪女イリナ・ペシャルティに転生した。8歳の頃に記憶を思い出して、小説世界に転生したチート悪女のはずが、ゴリラの神に愛されて前世と同じこいつおもしれえ女枠。私は誰よりも美人で可愛かったはずなのに皆から面白れぇ女扱いされている。
10年間のセックス自粛期間を終え18歳の時、初めて隊長メイベルに出会って何だかんだでセックスする。これからズッコンバッコンするはずが、メイベルにばっかり抱かれている。
一方メイベルは事情があるみたいだがイレナに夢中。
自分の小説世界なのにメイベルの婚約者のトリーチェは訳がありそうで。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる