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1章
変化と戸惑い3
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売店でコーヒーを買い損ねた私は、リキットでアイスコーヒーを作ろうと給湯室に入る。
「はぁ」
(昨日の今日で、こんな展開。あり得ない)
ジェットコースターのように気持ちが上がったり下がったりを繰り返すうち、心が麻痺してしまうんじゃないかと思ってしまう。
(……佐伯さんなら、なんて言ってくれるかな)
無意識に佐伯さんからの言葉を求めてしまう自分がいて、驚く。
「槙野?」
「っ!』
まさかと思って振り返ると、以前と同じように佐伯さんがマグを片手に立っている。
(タイミング良すぎ)
私が驚いているのに構わず、彼は無表情のまま私が手にしているグラスを覗いた。
「アイスコーヒーなら、俺のも一緒にいいかな」
「あ、はい。いいですよ」
あまりに普通の態度だから、私も気が抜けて普通にマグを受け取る。
「氷とミルクは入れます?」
「氷だけお願い」
「了解です」
佐伯さんが愛用している大きめのマグにリキットのコーヒーエキスを垂らす。
氷を二つほど入れ、ミネラルウォーターを注いだ。
カラカラと涼しげな音をたてるマグを渡すと、彼はお礼の代わりに私を見つめた。
「……まだ何か悩んでる?」
「い、いえ」
「嘘だな……朝と全然表情が違う」
(ううっ、洞察力の鋭い上司だとこういうのありがたいけど、困る!)
「これ以上は甘えられないです」
そう口にしながらも、この後心をどう切り替えたらいいのかは分かっていない。
同じ空間に佐伯さんがいてくれるだけで、嘘みたいにざわついていた心が落ち着いている。
(どうしてこの人といると、こんなに安心するんだろう)
不思議に思っていると、佐伯さんが困ったようにため息をついた。
「俺に利用価値があるなら、すればいいよ」
「り、利用?」
(そんなことするわけないじゃない)
「槙野が元気がないと俺が困る」
「えっ」
(それ……どういう意味で言ってるの)
まさか佐伯さんがこんなことを言うなんて思わないから言葉を失ってしまう。
すると彼は意外なほど優しい表情で私の頬を撫でた。
「ごめん。困らせてるな」
(触れてる指の感触が……優しい)
そこに何か特別な想いが宿っているようで、今まで静かだった鼓動がにわかに騒ぎ始める。
(これは違う、恋じゃない。私……圭吾のことで悩んでるから、甘えたくなってるだけ)
そう言い聞かせないと、本当に彼の魅力に吸い込まれてしまいそうだった。
「私……佐伯さんを好きになったりしません。大丈夫です」
なんとかそう答えると、彼は意外にも少し傷ついたような顔をした。
そして、すぐにふっと笑って頬にかけていた手を離した。
「そりゃ、そうだな」
(もっと別の言葉を言うべきだったかな)
私の中でも混乱がありすぎて、今の自分がどんな気持ちなのか理解できない。
「コーヒーありがとう」
「あ……」
佐伯さんは心残りのあるような笑顔を残し、給湯室を出ていく。
(どう答えたらよかったの?)
広い背中を見送りながら、私は動揺を誤魔化したくて冷えたコーヒーをぐっと喉に通した。
***
その日、アパートに戻った私は口コミで評判のいいマッチングアプリをインストールしていた。
(社内じゃない人がいい。次の恋は社外で探そう)
すぐには見つからなくても、探している間にも気持ちが紛れるだろう。
とはいえ、アプリ内の男性を何時間眺めても特に会いたいと思える人すら見つからない。
「だめだ……心が全然動かない」
次々に着信するお誘いのメールも、目を通すのすら苦痛になって一旦スマートフォンを手放した。
深いため息と共にソファの上に身を投げ出し、天井を眺める。
(無意識に似てる人を探しちゃってるのかなぁ)
「……誰に?」
ふと身を起こし、自分が今想像したのが圭吾ではなく佐伯さんなのに気がつく。
(えっ、嘘でしょ)
恋愛体質でない私が、こんな簡単に心変わりなんてするはずがない。
(そうだよ。佐伯さんは特別魅力的だから、ちょっと刺激が強めだっただけだよ)
「給湯室で意味深だったのも、気のせいだ」
(そう思わないと、また傷つきそうで怖い)
バクバクと脈打つ胸を抑え、私はもたげそうになる感情を必死に押し殺した。
「はぁ」
(昨日の今日で、こんな展開。あり得ない)
ジェットコースターのように気持ちが上がったり下がったりを繰り返すうち、心が麻痺してしまうんじゃないかと思ってしまう。
(……佐伯さんなら、なんて言ってくれるかな)
無意識に佐伯さんからの言葉を求めてしまう自分がいて、驚く。
「槙野?」
「っ!』
まさかと思って振り返ると、以前と同じように佐伯さんがマグを片手に立っている。
(タイミング良すぎ)
私が驚いているのに構わず、彼は無表情のまま私が手にしているグラスを覗いた。
「アイスコーヒーなら、俺のも一緒にいいかな」
「あ、はい。いいですよ」
あまりに普通の態度だから、私も気が抜けて普通にマグを受け取る。
「氷とミルクは入れます?」
「氷だけお願い」
「了解です」
佐伯さんが愛用している大きめのマグにリキットのコーヒーエキスを垂らす。
氷を二つほど入れ、ミネラルウォーターを注いだ。
カラカラと涼しげな音をたてるマグを渡すと、彼はお礼の代わりに私を見つめた。
「……まだ何か悩んでる?」
「い、いえ」
「嘘だな……朝と全然表情が違う」
(ううっ、洞察力の鋭い上司だとこういうのありがたいけど、困る!)
「これ以上は甘えられないです」
そう口にしながらも、この後心をどう切り替えたらいいのかは分かっていない。
同じ空間に佐伯さんがいてくれるだけで、嘘みたいにざわついていた心が落ち着いている。
(どうしてこの人といると、こんなに安心するんだろう)
不思議に思っていると、佐伯さんが困ったようにため息をついた。
「俺に利用価値があるなら、すればいいよ」
「り、利用?」
(そんなことするわけないじゃない)
「槙野が元気がないと俺が困る」
「えっ」
(それ……どういう意味で言ってるの)
まさか佐伯さんがこんなことを言うなんて思わないから言葉を失ってしまう。
すると彼は意外なほど優しい表情で私の頬を撫でた。
「ごめん。困らせてるな」
(触れてる指の感触が……優しい)
そこに何か特別な想いが宿っているようで、今まで静かだった鼓動がにわかに騒ぎ始める。
(これは違う、恋じゃない。私……圭吾のことで悩んでるから、甘えたくなってるだけ)
そう言い聞かせないと、本当に彼の魅力に吸い込まれてしまいそうだった。
「私……佐伯さんを好きになったりしません。大丈夫です」
なんとかそう答えると、彼は意外にも少し傷ついたような顔をした。
そして、すぐにふっと笑って頬にかけていた手を離した。
「そりゃ、そうだな」
(もっと別の言葉を言うべきだったかな)
私の中でも混乱がありすぎて、今の自分がどんな気持ちなのか理解できない。
「コーヒーありがとう」
「あ……」
佐伯さんは心残りのあるような笑顔を残し、給湯室を出ていく。
(どう答えたらよかったの?)
広い背中を見送りながら、私は動揺を誤魔化したくて冷えたコーヒーをぐっと喉に通した。
***
その日、アパートに戻った私は口コミで評判のいいマッチングアプリをインストールしていた。
(社内じゃない人がいい。次の恋は社外で探そう)
すぐには見つからなくても、探している間にも気持ちが紛れるだろう。
とはいえ、アプリ内の男性を何時間眺めても特に会いたいと思える人すら見つからない。
「だめだ……心が全然動かない」
次々に着信するお誘いのメールも、目を通すのすら苦痛になって一旦スマートフォンを手放した。
深いため息と共にソファの上に身を投げ出し、天井を眺める。
(無意識に似てる人を探しちゃってるのかなぁ)
「……誰に?」
ふと身を起こし、自分が今想像したのが圭吾ではなく佐伯さんなのに気がつく。
(えっ、嘘でしょ)
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(そうだよ。佐伯さんは特別魅力的だから、ちょっと刺激が強めだっただけだよ)
「給湯室で意味深だったのも、気のせいだ」
(そう思わないと、また傷つきそうで怖い)
バクバクと脈打つ胸を抑え、私はもたげそうになる感情を必死に押し殺した。
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