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1章
アクシデントと接近2
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「槙野? おい、大丈夫か」
(この声は……)
「佐伯……さん?」
それだけ呟いたところで、私の記憶は途切れた。
次に意識を取り戻した時、目に入ったのは見知らぬ天井だった。
(あれ? ここ、どこ)
完全に記憶が戻らず、数秒目を開けたまま考えてしまう。
すると、聞き覚えのある声が耳元で響いた。
「槙野、気がついてよかった」
(ん……?)
黙って顔を横に向けると、心配そうに私を見ている佐伯さんの顔があった。
(整った顔だな……唇の形もすごく綺麗。キスしたら心地良さそう)
ぼんやりそんなことを思っているうちに、意識がはっきりしてきた。
「わ!」
(どうして佐伯さんが??)
がばっと起き上がると、ズキンっと頭が痛んで思わずこめかみに手を当てた。
「つつ……」
「まだ横になってたほうがいい」
「え……っと、ここ、どこですか」
「俺の部屋」
言われてそっと周りを見渡すと、そこはシンプルな家具で統一された部屋だった。
(一体何が……)
頭痛と共に、うっすら冷や汗が滲んでくる。
「お前、空きっ腹に塩鮭とジョッキビールを二杯入れたの覚えてない?」
「あ……」
頭は痛いけれど、定食を食べて日本酒を飲んだことがハッキリ思い出せてしまった。
同じお店に佐伯さんもいたのも思い出し、彼が介抱してくれたのだろうことも予測がついた。
(……やってしまった)
「す、すみません。私……またご迷惑かけたんですね」
「迷惑っていうか、他の男と間違えて抱きつかれたのは困ったかな」
「──…っ!」
どうやら私は圭吾への未練を口にしつつ、佐伯さんに絡みついていたらしい。
もう穴があったら永遠にそこに入っていたいほどに恥ずかしい。
「本当にすみません!! す、すぐ出て行きますので!」
「いいけど、槙野の服まだ乾いてないよ」
「えっ」
ベッドから降りようとして自分の着ている服を確かめると、上が大きめのパーカーだ。
「これ……佐伯さんのですか?」
「そう」
(ってことは……)
「色々汚れちゃったからね。ブラウスとカーディガンは脱がせた」
「ひぇっ」
けろっとしている佐伯さんに対し、私は小さく悲鳴を上げて頭を抱える。
具体的には言わないでくれているけれど、きっと私は嘔吐してしまったのだろう。そんなものまで処理させ、元彼と間違えて抱きつく自分。最低すぎて言葉もない。
すると佐伯さんは私の頭をクシャッと撫でながら笑った。
「俺がいてよかったな。一人だったら、お持ち帰りされてたかもよ」
「は、はぁ……」
(お持ち帰りはわからないけど、お店の人には確実に迷惑かけただろうな)
佐伯さんが服を脱がせつつも手を出さずにいてくれたのはよかった。
(いや、私に手を出すほど不自由してないだろうけど)
「その、お粗末なものを見せてしまって、すみません」
「は? 粗末って?」
突然謝った私に、佐伯さんは驚いて目を見開く。
「その、私……女としてあんまり魅力ないみたいなので」
自分のことをこんなふうに言うなんて卑屈だなと思ったけれど、弱りきっているせいか口が止められない。
すると佐伯さんは怪訝な顔をした。
「誰か槙野にそんなこと言った奴がいるの?」
「……元婚約者に」
口にすると、胸の軋むような痛さが戻ってくる。
「女として見られなくなった……って」
アルコールで一度解放されたせいか、胸に溜まっていたものが一気に吹き出してくる。
結局私は、これまでのことを佐伯さんに洗いざらい話してしまった。
(この声は……)
「佐伯……さん?」
それだけ呟いたところで、私の記憶は途切れた。
次に意識を取り戻した時、目に入ったのは見知らぬ天井だった。
(あれ? ここ、どこ)
完全に記憶が戻らず、数秒目を開けたまま考えてしまう。
すると、聞き覚えのある声が耳元で響いた。
「槙野、気がついてよかった」
(ん……?)
黙って顔を横に向けると、心配そうに私を見ている佐伯さんの顔があった。
(整った顔だな……唇の形もすごく綺麗。キスしたら心地良さそう)
ぼんやりそんなことを思っているうちに、意識がはっきりしてきた。
「わ!」
(どうして佐伯さんが??)
がばっと起き上がると、ズキンっと頭が痛んで思わずこめかみに手を当てた。
「つつ……」
「まだ横になってたほうがいい」
「え……っと、ここ、どこですか」
「俺の部屋」
言われてそっと周りを見渡すと、そこはシンプルな家具で統一された部屋だった。
(一体何が……)
頭痛と共に、うっすら冷や汗が滲んでくる。
「お前、空きっ腹に塩鮭とジョッキビールを二杯入れたの覚えてない?」
「あ……」
頭は痛いけれど、定食を食べて日本酒を飲んだことがハッキリ思い出せてしまった。
同じお店に佐伯さんもいたのも思い出し、彼が介抱してくれたのだろうことも予測がついた。
(……やってしまった)
「す、すみません。私……またご迷惑かけたんですね」
「迷惑っていうか、他の男と間違えて抱きつかれたのは困ったかな」
「──…っ!」
どうやら私は圭吾への未練を口にしつつ、佐伯さんに絡みついていたらしい。
もう穴があったら永遠にそこに入っていたいほどに恥ずかしい。
「本当にすみません!! す、すぐ出て行きますので!」
「いいけど、槙野の服まだ乾いてないよ」
「えっ」
ベッドから降りようとして自分の着ている服を確かめると、上が大きめのパーカーだ。
「これ……佐伯さんのですか?」
「そう」
(ってことは……)
「色々汚れちゃったからね。ブラウスとカーディガンは脱がせた」
「ひぇっ」
けろっとしている佐伯さんに対し、私は小さく悲鳴を上げて頭を抱える。
具体的には言わないでくれているけれど、きっと私は嘔吐してしまったのだろう。そんなものまで処理させ、元彼と間違えて抱きつく自分。最低すぎて言葉もない。
すると佐伯さんは私の頭をクシャッと撫でながら笑った。
「俺がいてよかったな。一人だったら、お持ち帰りされてたかもよ」
「は、はぁ……」
(お持ち帰りはわからないけど、お店の人には確実に迷惑かけただろうな)
佐伯さんが服を脱がせつつも手を出さずにいてくれたのはよかった。
(いや、私に手を出すほど不自由してないだろうけど)
「その、お粗末なものを見せてしまって、すみません」
「は? 粗末って?」
突然謝った私に、佐伯さんは驚いて目を見開く。
「その、私……女としてあんまり魅力ないみたいなので」
自分のことをこんなふうに言うなんて卑屈だなと思ったけれど、弱りきっているせいか口が止められない。
すると佐伯さんは怪訝な顔をした。
「誰か槙野にそんなこと言った奴がいるの?」
「……元婚約者に」
口にすると、胸の軋むような痛さが戻ってくる。
「女として見られなくなった……って」
アルコールで一度解放されたせいか、胸に溜まっていたものが一気に吹き出してくる。
結局私は、これまでのことを佐伯さんに洗いざらい話してしまった。
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