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2章
1話 分かりにくい人4
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昨夜タカちゃんに呼び出されて、情熱的な愛の言葉と一緒に首筋にきつくキスされたことを思い出す。
(痕が残ってたなんて……ていうか、めちゃくちゃ恥ずかしい!!)
「すみませんっ、私……こんな」
「謝るくらいなら、その男とは早急に別れて」
「え……?」
「プライベートは関係ないって思う? でもそんな男と付き合ってたら、傷ついて落ち込む日も多いでしょ」
(不安になったり悩んだりすることはあるけど、それで仕事に出られないなんてことない)
仕事には影響はないと言おうとする私に、瑞樹さんはさらに言葉を足す。
「アシスタントの陽毬が落ちてると、一緒にいる俺のクオリティが下がる」
「っ、そんなことにならないよう……気をつけます」
「陽毬が気をつけてたって、傷つける相手が外にいるんじゃ俺が困るんだ」
(こんなの、セクハラ。パワハラ……じゃない)
そんな言葉もよぎるけれど、ハッキリそう言い切れる感じがしない。
どこか、瑞樹さんが言っていることが正しいように思う自分もいるのだ。
(でも、タカちゃんとそんな簡単に別れるなんてできないよ)
心の端で愛されていないと感じながらも、本当は不器用な人なんじゃないかと思っている。
都合のいい女なんじゃないかと感じながらも、勘違いだったら申し訳ないとも思う。
何より、これまで付き合ってきた思い出に情が湧いている。
そんな私の本心を見抜いたように、瑞樹さんは核心を貫いてきた。
「君を大切に思ってたら、仕事初日の恋人を抱いたりしないし、見える場所にキスマークなんてつけない」
「それは……」
(私も感じたことだ。でも必要とされて嬉しかったのも事実だ)
「確かに勝手なところもありますけど、優しいところもありますし」
「誰だって優しいところあるよ。犯罪者がお年寄りに席を譲ることだってあるし……人間ってそういうもんでしょ」
何を言っても譲らない勢いで迫ってこられてしまい、言葉が続けられない。
すると、瑞樹さんは少し緊張感を和らげて私を見つめた。
「俺が言いたいのは、そいつがいい人間かどうかじゃない。陽毬を愛してるのかどうかってことだよ。見えるとこに跡をつけるなんてただのマーキングだし、それは愛じゃない」
「っ!」
ここまでハッキリ言われてしまうと、もう黙り込むしかない。
「…………」
瑞樹さんは推し黙る私の顔を見つめ、そっと顔を近づけた。
(っ!?)
頬に触れた温もりがキスだったと理解され、全身に言葉にならない甘い感覚が押し寄せた。
「瑞樹……さん?」
何度も目を瞬かせると、彼は真剣そのものの顔で私を見入る。
「試しに、今日から俺を恋人だと思って過ごしてみたら?」
「恋人? でも瑞樹さんは……」
「恋愛はしないよ。でも今の彼氏と別れるには上書きする人間が必要でしょ」
男は別名保存。
女は上書き保存。
過去の恋人をどう位置付けるかの例えで言われる言葉だ。
(そんな簡単にタカちゃんを上書きするなんて、できないよ)
自分の頬をそっと撫でながら、私は震えそうになる声を抑えながら答える。
「自分のことで瑞樹さんに迷惑は……かけられないです」
「遠慮は必要ないよ。陽毬を価値ある女性にするのは、恩師への恩返しだし」
「恩返し……」
「義務と言ってもいいかな」
義務と恩返し。
これは恋人は演じられるけど、それ以上を期待しないでという釘差しなのか。
(お父さんへの恩返しにしては重すぎる気もするし。瑞樹さんて何考えてるか、わかんないな)
さっきキスされた甘い感覚も薄れ、やや体が冷えていく感じすらする。
「少し……考えさせてください」
当たり前だけれど、こんな妙な提案をすぐには受け入れられなくて。
私は戸惑いながら短くそれだけ答えていた。
瑞樹さんはふうとため息をついて、いいけどと短く言って、何事もなかったように私から離れた。
(痕が残ってたなんて……ていうか、めちゃくちゃ恥ずかしい!!)
「すみませんっ、私……こんな」
「謝るくらいなら、その男とは早急に別れて」
「え……?」
「プライベートは関係ないって思う? でもそんな男と付き合ってたら、傷ついて落ち込む日も多いでしょ」
(不安になったり悩んだりすることはあるけど、それで仕事に出られないなんてことない)
仕事には影響はないと言おうとする私に、瑞樹さんはさらに言葉を足す。
「アシスタントの陽毬が落ちてると、一緒にいる俺のクオリティが下がる」
「っ、そんなことにならないよう……気をつけます」
「陽毬が気をつけてたって、傷つける相手が外にいるんじゃ俺が困るんだ」
(こんなの、セクハラ。パワハラ……じゃない)
そんな言葉もよぎるけれど、ハッキリそう言い切れる感じがしない。
どこか、瑞樹さんが言っていることが正しいように思う自分もいるのだ。
(でも、タカちゃんとそんな簡単に別れるなんてできないよ)
心の端で愛されていないと感じながらも、本当は不器用な人なんじゃないかと思っている。
都合のいい女なんじゃないかと感じながらも、勘違いだったら申し訳ないとも思う。
何より、これまで付き合ってきた思い出に情が湧いている。
そんな私の本心を見抜いたように、瑞樹さんは核心を貫いてきた。
「君を大切に思ってたら、仕事初日の恋人を抱いたりしないし、見える場所にキスマークなんてつけない」
「それは……」
(私も感じたことだ。でも必要とされて嬉しかったのも事実だ)
「確かに勝手なところもありますけど、優しいところもありますし」
「誰だって優しいところあるよ。犯罪者がお年寄りに席を譲ることだってあるし……人間ってそういうもんでしょ」
何を言っても譲らない勢いで迫ってこられてしまい、言葉が続けられない。
すると、瑞樹さんは少し緊張感を和らげて私を見つめた。
「俺が言いたいのは、そいつがいい人間かどうかじゃない。陽毬を愛してるのかどうかってことだよ。見えるとこに跡をつけるなんてただのマーキングだし、それは愛じゃない」
「っ!」
ここまでハッキリ言われてしまうと、もう黙り込むしかない。
「…………」
瑞樹さんは推し黙る私の顔を見つめ、そっと顔を近づけた。
(っ!?)
頬に触れた温もりがキスだったと理解され、全身に言葉にならない甘い感覚が押し寄せた。
「瑞樹……さん?」
何度も目を瞬かせると、彼は真剣そのものの顔で私を見入る。
「試しに、今日から俺を恋人だと思って過ごしてみたら?」
「恋人? でも瑞樹さんは……」
「恋愛はしないよ。でも今の彼氏と別れるには上書きする人間が必要でしょ」
男は別名保存。
女は上書き保存。
過去の恋人をどう位置付けるかの例えで言われる言葉だ。
(そんな簡単にタカちゃんを上書きするなんて、できないよ)
自分の頬をそっと撫でながら、私は震えそうになる声を抑えながら答える。
「自分のことで瑞樹さんに迷惑は……かけられないです」
「遠慮は必要ないよ。陽毬を価値ある女性にするのは、恩師への恩返しだし」
「恩返し……」
「義務と言ってもいいかな」
義務と恩返し。
これは恋人は演じられるけど、それ以上を期待しないでという釘差しなのか。
(お父さんへの恩返しにしては重すぎる気もするし。瑞樹さんて何考えてるか、わかんないな)
さっきキスされた甘い感覚も薄れ、やや体が冷えていく感じすらする。
「少し……考えさせてください」
当たり前だけれど、こんな妙な提案をすぐには受け入れられなくて。
私は戸惑いながら短くそれだけ答えていた。
瑞樹さんはふうとため息をついて、いいけどと短く言って、何事もなかったように私から離れた。
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