【更新中】暗香浮動 第三章

澪汰

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全て忘れてしまえるものならば、

全て忘れてしまえるものならば、#04

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 ――周防邸 執務室


「早かったな」

 驚くでもなく恐怖するでもなく、余裕さえ携えて創は二人を出迎える。創の横には二人の護衛。

「……あの程度の奴らで、俺を足止め出来るわけねーだろ」

 相手との間合いを図る様に一歩前に出ながら、真澄を庇う様に一瞬彼らから目線を外して見せる。

 ――キィィンッ!!

 好機と見たのか、片方が勢いよく斬り込んで来るが、それを身体半分で避け、そのまま背中に刀を突き立てる。そしてその刀を引き抜きつつ、凝りもせず突っ込んで来ているもう一人の刀を弾き、そのまま腹に刀身を突き立てる。二人とも声を上げる間もなく一瞬にして息絶える。

 流石の創も、ほぼ一撃で倒されるとは思っていなかったのだろう。彼の顔から余裕が消えていた。恐怖、焦燥、怒り。様々な感情を含み、絞り出すように発せられた叫びにも似た怒号。

「……なぜだ!? こいつらは……!」

 手練れだったのだろう。それなりの。
 ただそれよりも遥かに伊吹の方が強かった、それだけの事だ。

「伊吹くんっ、血が……!」

 創と対峙すると、あの時の恐怖が鮮明に蘇って来る。けれど、今はあの時とは違う。見届けると約束したのだ。震える足に何とか力を込めて、伊吹の隣へ一歩踏み出す。

「返り血だよ。俺は何ともねーよ」

 伊吹が血で汚れた手を着物の端で拭ってから、そっと真澄の頬に触れる。そして真澄を自分の方に引き寄せると、創に向き直る。

「周防創――最期に遺言聞いてやるよ」
「貴様ッ!? 俺を馬鹿にするのも大概しろ! 俺は……俺は、こんなとこで死ぬわけにはっ――うぐあああッ!!」

 そう言って創が刀を構えるが、それを意図も簡単に叩き落して、身体に一太刀。そのまま動かなくなる。

「…………」
「行こう、まーちゃん」

 去り際、真澄は一度だけ創の方を振り返った。本当は少しだけ期待していたのだ。この結末にならない事を。

「さよなら……創くん」
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