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歪んだように廻り出した歯車は、
歪んだように廻り出した歯車は、#05
しおりを挟む◇◆◇
真澄のお腹の子は、順調に成長していた。男同士で、しかも兄弟間で身籠った子。世間に大っぴらに出来る事ではないけれど、それでも日が経つにつれ、真澄は生まれて来る子供に、愛情と期待を膨らませていった。
「真澄様、もうすぐですね。お身体は大丈夫ですか」
「うん。最近この子、前よりよく動くんだ。生まれてきたら、きっと僕が小さい時より元気だと思うんだ」
お腹をさすりながら、真澄は嬉しそうにそう言う。今真澄の世話をしているのは、妊娠が分かったあの日、医者を呼んだあの使用人だった。
そして迎えた、出産予定日。事を公に出来ない事もあり、必要最低限の人数でその時を待つ。
数時間の陣痛とともに真澄は、創と数人の使用人に見守られ、無事出産を果たした。
「……おめでとうございます! 元気な男の子ですよ」
初めて抱く我が子。妊娠が分ってから、ずっとこの日を心待ちにしていた。嬉しさで涙が溢れる。きっと、これから待ち受ける運命は、楽なものではないだろう。それでも、この子がいれば何も怖くはない――そう思った。
「兄さん、僕にも抱かせてくれないか? 一人占めなんて、ずるいじゃないか」
そういう創に、真澄は抱いていた子を渡す。
嬉しくて忘れていた。いや、最近の創は昔の様に穏やかだったから、信じたかったのかもしれない。
ぴゅぅ――っ
子を抱いた創が指笛を鳴らす。それを合図に部屋の戸を蹴破って、数人の男達が押し入って来る。男達は創を守る様に、創を囲う。
「……あなた方は、一体何なんですか」
まだ上手く動けない真澄を守る様にしながら、男達の前に立ったのはあの使用人だ。
「主様よぉ……こいつら全員、殺しちまって良いんですかい」
「ああ。兄さんは殺すなよ」
使用人の問いには答えず、男達は汚い笑いを浮かべて、雇い主である創に声をかけたのだった。
「……なっ!? 創様……まさか――っ」
そこから先はまさに、地獄絵図だった。逃げようとした者、真澄を守ろうとした者、その場にいた者は皆、殺された。騒ぎを聞きつけ、他の使用人が部屋に駆け付けた頃には、その場にいた使用人の亡骸が床に転がり、その中心には彼らを斬り殺したであろう、男達と顔を真っ青にして震えながら涙を流している真澄。そして、泣き叫ぶ赤ん坊を抱きながら不敵に笑う創の姿があった。
「こ、これは一体!?」
状況が飲み込めない。それでも、今迂闊に近付けば、自分達や真澄の命が危ない事だけは分かった。
「……お前達、意外と早かったな。まあいい。今から正式にこの周防家の後継者は、周防創――この僕だ。ここに転がる奴らみたいになりたくなかったら、僕には逆らわない方がいい」
「…………」
誰もが口を閉ざす。赤ん坊の泣き声だけが、未だに響き渡っていた。
「……うるさい餓鬼だな。おい、刀を貸せ」
「……は、はじめくん……な、なにを」
震える声で真澄がそう創に問い、手を伸ばす。創はその手を振り払い、赤ん坊の頭を片手で掴み、男から受け取った小太刀で躊躇なく殺す。
「うわあああああっ――」
「あっははははははは!!」
静かになった部屋には、真澄の絶叫と創の笑い声がいつまでも響き渡っていた。
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