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xxxがみてる
しおりを挟む観覧車のゴンドラがゆっくりと地上を離れてゆく。
ふわりふわり。
地上から空へ。唯はガラスの向こうをドキドキしながら見ていた。
唯は自分の顔が赤くなっていないか、心配になりながら対面に座る直人の方を見た。
そして笑顔。
彼の顔が真っ赤だった。
直人とつき合い始めたのは1週間前だ。
だからこれは2回目のデート。
「みなとみ〇いに行こう」彼がそう誘ってくれた時、唯は頷いた。
そう、2回目のデート。
一回目はドキドキしすぎて手も繋げなかった。
今日の直人は、最初から手をつないでくれた。
「人多いから」
そして少し照れながら言うのだ。「はぐれないように」って。
街の雑然とした音が遠く離れてゆく。
夕日が遠くに見える。
今日のデートもこれでおしまい。
最後に「観覧車、乗ろう?」と直人が誘ってくれた。
ゴンドラでキス。
そんなことを期待しなかった自分がいないわけではない。
幸い、すいていたのか。ゴンドラには2人だけ。
となりのゴンドラにも誰も乗っていない。
けれども、結局何も起きなかった。
お互いに照れくさくて、乗っている間は逆にも緊張しまくりで、、
唯は少しだけがっかりしながら、ゴンドラを降りた。
うん、でも女は度胸。
門限が早い唯はそろそろ帰らなければならない。
直人が歩き出そうとするけど、唯は立ち止まった。
「ねぇ」
直人が振り返る。
唯は直人の目を見つめる。
「ここで、キスして」
高校三年生にもなると、受験だってある。
予備校で会った二人は、高校も違うから平日はなかなか会えない。
だからデートは重要なのだ。
特に直人みたいに、顔がいいくせに奥手の男の子には、ライバルがいっぱいいた。
唯は手に入れたいのものの為には努力を惜しまない主義だった。
唯の家はマンションの三階にある。
父は転勤が比較的多い為、現在は父の会社が用意した社宅だ。
4LDKで、そこそこ広い。
唯の部屋にはベランダ側に面していて窓もある。
唯は受験勉強を進めながら、今日のデートを思い返していた。
1回目で手をつなぎ、2回目でキス。
うん、まずまずじゃない?
唯はそんなことを考えながら、時計をみる。
そこそこ遅い時間だった。
明日からまた学校が始まる。
そろそろ寝ようかと、考えたその瞬間、
ふと人の気配を感じた。
窓の方から?
唯は振り返って、背後にあるベランダの方、窓の方をみた。
もちろん、誰もいない。
カーテンは閉まっているから当然外はみえないし、外からも見ることは出来ない。
そもそもここは三階だ。
ゆっくりとカーテンの方へ歩いてゆく。
そして、勢いよくカーテンを開ける。
誰もいない。
「ふう」
ため息をつく。
「気のせい、か」
ピコン。
LI〇Eの通知音がなった。
直人からだった。
微妙な時間なメッセージだけど、内容はシンプルだった。
『勉強頑張ってる?無理しないでね』
デートの後から何度かメッセージのやり取りをしてはいたけど、勉強するからと一旦応答をやめていた。直人も寝るところだろうか。
『うん。ちょうど寝ようと思ってたところ』
『そっか。遅くゴメンね。じゃあおやすみ』
『お休み』
スマホを充電器の上に置くと、カーテンを閉め直して着替える。
ベッドに寝転がり、電気を消すと睡魔が襲ってきた。
あ。
唯は違和感で目が覚めた。
体が動かない。
だけど眼だけは動く。
視線の先に何かが見えた。
肌色の塊。
なにかで見たことがある。
ちょうどそう、あんな感じの。
頭があって、目が、、
ああ、胎児だ。
まだお腹の中にいる赤ちゃん。
ちょうど枕の横あたりに、彼女はいた。
唯は直感的にそれが何となく女の子のような気がした。
いきなりそんなものが現れて、なおかつ金縛り中だというのに唯はあんまり驚けなかった。
「気を付けて」
そんな声が聞こえた。
どこかで聞いたことがある女の子の声だった。
ここのところ、唯を悩ませている問題がある。
視線に過敏に反応してしまったのも、それが原因だ。
誰かに見られている気がするのだ。
最初は自意識過剰かとも思った。
自分でいうのもなんだけど、唯はそれなりに可愛いと自覚していた。
化粧だって、髪型だって、ギリギリ許される範囲で最大限工夫している。
2年の時の担任とは相性が悪く、大学入試の推薦はもらえなかったが、予備校に通うことになって、直人に出会えた今ならそれも許せる。
優等生で通っていたし、実際成績はそんなに悪くない。
ラブレターも貰ったことや告白だってされたことはある。
でもなぜか、「肉食無理」みたいな顔をして別れを切り出されるのは腑に落ちない。
3回目でキス以上を求めるのは間違っているだろうか?いや間違っていない。
だから視線を集めること自体には、不満はなかった。
だけど、この視線は唯が一人でいるときにやたらに感じるのだ。
駅のホーム、帰り道の歩道橋、マンションの玄関ホール、そして自分の部屋。
誰かといるとき、例えば直人といるときは流石に視線を感じない。
意識すれば、誰かにつけられているような気もするし、視線だって感じる。
郵便受けが引っ張り出されていたような痕跡がある時もあった。
明確にストーカーの存在が明らかになったのは、マンションのゴミ捨て場で事件が起きたからだ。
このマンションは唯の父が務める電機メーカーが丸ごと買い上げている社宅マンションの為、いってしまえば関係者以外は入ってこれないはずなのだ。
そのマンションで、唯の家族が捨てたゴミが荒らされる事件があった。
あいにくゴミ捨て場には監視カメラが設置されていなかった。
ただ、マンションの敷地内の出入りには守衛のいる門を通る必要があり、そのモニターには不審人物は記録されていなかったとのこと。
ゴミが荒らされていることを見つけたのは、直人だった。
偶然直人の父も、唯の父と同じ会社に勤めていたため、このマンションに棟は違うが住んでいた。唯の住むA棟と直人の住むB棟はゴミ捨て場が共通だった。
朝、たまたまゴミを捨てに来た直人が、荒らされているゴミを見つけたのだ。
それをきっかけに直人とは知り合い、たまたま同じ予備校に通っていることもわかり仲良くなったのだ。
「気を付けて」
なんだかなぁと、思うようになったのはその言葉からだった。
微妙に直人のヤキモチがうざったくなってきたのだ。
LI〇Eの着信音があれば、誰からとか聞いてくるし、電話で話してれば聞き耳を立てている気がする。
最初はヤキモチ焼かれるぐらい好かれていると思うと、それはそれで気持ちよかったけど、度を超すといつしかキモチワルイに反転していた。
致命的だったのが、共通の友人であるはずの健とコンビニで偶然会って、ほんの数分立ち話をした時だった。
「なんで、健と隠れて合ってるの?」
どこからか聞きつけてきた直人がいきなりそんなことを言い出したのだ。
マジキモイ。
唯はさっさと別れることにした。
あれ?私、男見る目もしかしてなくね?
自覚したのは、「別れて」ってしっかり直人に言ったにもかかわらず、直人の方は「別れたくない」とゴネ始めたからだ。
いやホントキモイ。
電話もしつこいので着信拒否した。
LI〇Eも当然ブロックした。
予備校では仲の良い女友達に事情を伝え、分れたことは広めてもらい、かつストーキングされていて困っていることも周知してもらった。
それでもしつこく付きまとうので、結局、唯の父経由で直人の父親にも伝えてもらった。
そこまでしてようやっと、直人からの接触がなくなった。
やっと解放されたと思い、唯は油断していたのだろう。
直人の事件があってから3カ月、唯がその日、夏期講習から帰宅すると両親がいなかった。
そういえば、知り合いのところに出かけるとかいってたっけ?
「あ、母さんたち今日は帰ってこないのかぁ」
テーブルの上には、お金と夕食はなにかデリバリーしてくれというメモが残っていた。
とりあえず、最近お気に入りのタイ料理店で適当に頼むことにした。
しばらくして、ドアチャイムがなる。
随分はやいなぁとか思いながら、つい唯は玄関を無造作に開けてしまった。
ドアの前にいたのは直人だった。
「なあ、やり直そうよ」
直人は、部屋の中にあがってきた。
唯が逃げるとリビングまで追いかけてきて、壁際に追い詰める。
「誤解があったんだよ。ね? 俺さ、唯のこと、ほんとに好きなんだよ」
恐怖で動けなくなった唯の瞳を覗き込む見つめる直人。
「唯が悪いんだ。あんなに積極的だったのに。別な男にも気を持たせていたなんて」
ぺろりと唯の瞼を舐める。
「でも許してあげるよ。俺、唯のことならなんだって許せるよ」
そしてキスを迫ってくる。
唯は、頭の片隅でこれ抵抗すると殺されるかもしてないと冷静に考えていた。
直人は抵抗が弱まった唯の腰を抱きながら、ゆっくりと迫ってくる。
その時だった。
唯の部屋の火災報知器が突然なった。
唯は、とっさに直人を突き飛ばすと部屋を飛び出した。
ちょうど隣の部屋から出てきた近所のおばさんに助けを求める。
「ストーカー!助けて!」
直人の件は、マンション内でもそれなりに有名になっていたらしく、おばさんをはじめとした近所の人たちはすぐに間に入ってくれた。
結局、直人一家はマンションから引っ越していった。
ある夏の暑い日。
ハガキが一枚届いた。
唯は、ストーカー事件以来なるべく早く郵便物は回収するようにしていた。
それは室内型納骨堂からの挨拶状だった。
唯は、そのハガキが妙に気になった。
祖母や祖父は、父方も母方も健在だ。
そもそも父は次男で、田舎の墓に入らず自分で準備するようなことを以前、正月に親戚一同集まった時に話していたのをなんとなく覚えていた。
だとしたら家族のものかもしれないが、、、
唯は思い切って、両親にそのハガキのことを訪ねた。
「今日来てた、ハガキのことなんだけど……」
両親はその問いに、なにか思うことがあったのだろう。
姿勢を正した。
「うん。そろそろお前に話してもよいかもしれないな」
「そうね」
両親は互いに確認し合うと一つの話をしてくれた。
「お前には、双子の姉がいるはずだったんだ」
そうして話してくれたのは、その生まれるはずだった姉は、死産で生まれてきてしまったらしい。
その後、唯がとり上げられた。
唯が、実は一人っ子ではなかったという話だ。
そっか。だから声が私と似てるんだ。
今年は、唯も墓参りに行くことになった。
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