27 / 40
26
しおりを挟む慌てた様子の魔族側のメンバー。
見上げると、ティグレさんは、強面顔の眉が寄り、怒っている風に見える顔で私を見下ろす。
でも3年一緒にいて分かるのは、この顔は、とっても心配してくれている顔。
ーーー もう、いい加減、蹴りをつけなきゃ。
「おおっ!それでは早速の我が国に向かう準備を!我らが国王がお待ちしております!」
使者達は安堵の表情を浮かべ、これで国王様が報われる、だの、我が国も持ち直せる、だの、好き勝手にヒソヒソしていた。
その様子にイラッとして。
私は彼らを睨みつけた。
「・・・勘違いなさらないで下さい。
3年もの間見つからなかった帰還陣が、本物であるのかの確認をするだけです。
魔王様、屍人王グラハム様の同行許可を頂けませんか?
それに、ティグレさん、シロエさん、アイザックさん、一緒についてきてもらえますか?」
「あぁ、構わぬぞ。」
「無論、サクラが嫌だって言っても、俺はついて行くつもりだった。」
「当たり前だよ。全世界の魔法使いに喧嘩売ったようなもんだからね。売られた喧嘩は買うよ?」
「何言ってんだ。《グランブルー》のメンバーの一大事だろうが。頼まれんくても、一緒に行ってやる。」
魔王様は二つ返事でオッケーをくれる。
ティグレさんは、ぎゅうぎゅうと私を抱きしめ、シロエさんには肩を軽く叩かれ、アイザックさんには頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。
グラハム様やアイリーン様、部屋に控える護衛の人達も、ほっとした様子で笑ってくれた。
やっぱり、ココは、みんなは、私の居場所になってくれている。
帰りたい気持ちはある。
けれど、帰れたとしても、此処に戻ってきたいと思ってしまう気持ちが、生まれてしまったのだと、強く感じた。
《ルークサンドラ》の帰還陣が本物でなければ、もう、諦めよう。
お世話になったこの国に、骨を埋める覚悟をしよう。
それを口に出す覚悟はまだ無いけれど。
決着がついたら、しっかり話そう。
使者達が慌てふためく。
お呼び立てするのは聖女様だけで、とか、他国の視察を受け入れる準備は、とか、ぐちゃぐちゃいっている。
そんな中、色々考えて、私は顔を上げた。
不意に、くすり、と笑う声が聞こえた。
見ると、魔王様が優しげな顔でこちらを見ている。
目が合うと、にやりと口角を上げて頷いた。
・・・何だろうか、この見透かされた感。
私の心臓が跳ね上がると同時に、魔王様は使者達に顔を向け言い放つ。
「屍人王グラハムよ。聖女サクラに付き、魔法使いシロエと共に《ルークサンドラ》の帰還陣の検分に赴け。龍王アーガイル、獣王ティーガ。聖女サクラの護衛として同行し、彼の地に帰還陣が無ければ、聖女を召喚した陣を破壊してこい。」
「「「御意に」」」
「なっ!?」
「はいはーい、ティーガ。これ渡しておくわぁ。」
魔王様の指示に焦る使者達を尻目に、アデリーン様が、スパン、と何かをティグレさんに投げて寄越す。
難無く右手でキャッチした彼は掌を開く。
私も一緒に覗き込むと、掌には指輪が転がっていた。
「向こうにいる諜報部隊のコ達にはそれを見せなさい。それがあれば、あのコ達への指揮権はアンタにあるのが分かるはず。好きに状況確認してちょーだい。」
「分かった。感謝する。」
「さぁ!話は決まった。このような胸糞悪い話は、尻尾を掴んだ時点で、サッサと片付けるに限る。貴様らもまとめて、そちらの国に送ってやろう!」
慌てふためく使者達を尻目に、魔王様は、使者と私達を《ルークサンドラ》の王城前へと転送した。
0
お気に入りに追加
282
あなたにおすすめの小説
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
浮気して婚約破棄したあなたが、私の新しい婚約者にとやかく言う権利があるとお思いですか?
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるクレーナは、ある時婚約者であるラカールから婚約破棄を告げられた。
彼は浮気しており、その相手との間に子供ができたことから、クレーナのことを切り捨てざるを得なかったのだ。
しかしながらラカールは、煮え切らない態度であった。彼は渋々といった感じで、浮気相手と婚約しようとしていたのだ。
身勝手なことをしたというのに、責任を取る確固たる覚悟もない彼に対して、クレーナは憤った。だがラカールは、婚約破棄するのだから関係ないと、その言葉を受け入れないのだった。
婚約者から離れたクレーナは、侯爵令息であるドラグスと出会った。
二人はお互いに惹かれていき、やがて婚約を結ぶことになるのだった。
そんな折、二人の前に元婚約者であるラカールが現れた。
彼はドラグスのことを批判して、クレーナには相応しくないと批判してきたのである。
「浮気して婚約破棄したあなたが、私の新しい婚約者にとやかく言う権利があるとお思いですか?」
しかしクレーナは、ラカールをそう言って切り捨てた。
そこで彼女は知ることになった。ラカールが自分の知らない間に、随分と落ちぶれていたということを。
婚約者に捨てられましたが
水川サキ
恋愛
婚約して半年、嫁ぎ先の伯爵家で懸命に働いていたマリアは、ある日将来の夫から告げられる。
「愛する人ができたから別れてほしい。君のことは最初から愛していない」
浮気相手の女を妻にして、マリアは侍女としてこのまま働き続けるよう言われる。
ぶち切れたマリアはそれを拒絶する。
「あなた、後悔しますわよ」
【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。
西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。
私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。
それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」
と宣言されるなんて・・・
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
【完結】嘘八百侯爵令嬢の心を、無表情王太子は掴みたい
葉桜鹿乃
恋愛
「あら、ご存知ありません?」
この言葉の後に続くのは全て嘘八百……だけれど、ソニア・ヘイドルム侯爵令嬢の言葉にはその場にいる誰もがそれを分かって耳を傾ける。
その場にいる人を幸せにする『嘘』を吐くのが彼女であり、それは王太子妃として諸外国と渡り歩くための社交性の一つとして評価されていた。
しかし、当のソニアは『王太子妃、引いては国母なんてなりたく無いわい、嘘吐き女として精々振る舞ったるわ!』という、王太子妃候補からふるい落とされたい一心での振る舞いだった。
王太子妃候補は5人。そして王太子であるランドルフ・ディ・ヴァレンティヌは紺の絹糸のような髪に黒曜石の瞳の美丈夫であり、『氷の貴人』と呼ばれる無表情、無感情な男だ。見た目と帝王たる威厳、知識と知性はあるが、愛される、とは程遠い。
そんな彼を支える妻として王太子妃を選ぶべく、1ヶ月の間離宮を与えられた王太子妃候補『リリィクイン』たち。
ソニアは平和に、平穏に、誰の家とも不和を起こさず、実家に帰る事を目的にしていたが、何故か他の候補が勝手に身を引いていく……?
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも別名義で掲載中です。
駆け落ちした姉に代わって、悪辣公爵のもとへ嫁ぎましたところ 〜えっ?姉が帰ってきた?こっちは幸せに暮らしているので、お構いなく!〜
あーもんど
恋愛
『私は恋に生きるから、探さないでそっとしておいてほしい』
という置き手紙を残して、駆け落ちした姉のクラリス。
それにより、主人公のレイチェルは姉の婚約者────“悪辣公爵”と呼ばれるヘレスと結婚することに。
そうして、始まった新婚生活はやはり前途多難で……。
まず、夫が会いに来ない。
次に、使用人が仕事をしてくれない。
なので、レイチェル自ら家事などをしないといけず……とても大変。
でも────自由気ままに一人で過ごせる生活は、案外悪くなく……?
そんな時、夫が現れて使用人達の職務放棄を知る。
すると、まさかの大激怒!?
あっという間に使用人達を懲らしめ、それからはレイチェルとの時間も持つように。
────もっと残忍で冷酷な方かと思ったけど、結構優しいわね。
と夫を見直すようになった頃、姉が帰ってきて……?
善意の押し付けとでも言うべきか、「あんな男とは、離婚しなさい!」と迫ってきた。
────いやいや!こっちは幸せに暮らしているので、放っておいてください!
◆本編完結◆
◆小説家になろう様でも、公開中◆
【完結】愛とは呼ばせない
野村にれ
恋愛
リール王太子殿下とサリー・ペルガメント侯爵令嬢は六歳の時からの婚約者である。
二人はお互いを励まし、未来に向かっていた。
しかし、王太子殿下は最近ある子爵令嬢に御執心で、サリーを蔑ろにしていた。
サリーは幾度となく、王太子殿下に問うも、答えは得られなかった。
二人は身分差はあるものの、子爵令嬢は男装をしても似合いそうな顔立ちで、長身で美しく、
まるで対の様だと言われるようになっていた。二人を見つめるファンもいるほどである。
サリーは婚約解消なのだろうと受け止め、承知するつもりであった。
しかし、そうはならなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる