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閑話(ホリックside)2

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慌てふためく妹の様子に、ホリックは色々と察した。



「あー・・・、カイルのため、か?」


「はい・・・スカルペル王国へ、この固形回復薬の伝授と、浄化のお手伝い・・・それに、カイル様が取り組んでいる魔石への術式付与のお手伝いにもなるか、と・・・」



ぱちり、と瞬きをしたジャスミンが、真っ赤な顔のままホリックを見、こくりと頷いたまま俯いた。



ーーー 幼い頃から、可憐な容姿で加護欲をそそる彼女の周りには、常にその隣の座に居ようとする令息達が互いに牽制し合い、醜い争いが絶えなかった。中には、無理矢理に手込めにしようとする者まで現れる始末。
そんな中、時折こちらの国へ訪問していたカイル王子は、薬草の話や、聖魔法の術式についての話など、専門家顔負けの知識の話を彼女に振り、助け舟を出していたのだ。

しかも彼女について褒めるのは、周囲の令息達の様に容姿や立ち振る舞いについてではなく、彼女の知識や洞察力、発想力について。

お互いに、王子王女としての立場を弁え、国、民の為に、自分ができる事は何かを考え、討論する。

それは、王女として民に尽くすという彼女の矜持をくすぐり。彼に懐くには時間がかからなかった。

今回の留学で、カイルが来る事を誰よりも喜んでいたのはジャスミンだ・・・誰にも悟られないようにしていたが。
しかし、留学に入る前から、あの聖女マリカがジャスミンの美貌と人望に嫉妬し、嫌がらせをするようになっていた。

だから、彼女の安全確保のために、父上は地方の浄化の為の遠征に組み込んだのだろう。



「・・・もう、陛下父上がお許しになっているのだろう?ならば、私に言う事は何もないよ。カイルを支えやってくれ。それに、お前もあちらに行っていた方が安全だろうしな。」

「えぇ・・・そうですね。その分、お兄様には御負担をおかけしてしまいますが・・・」

「それは仕方ないさ。この国の王太子として立っているからには、これも仕事のうちだからな。まぁ、お前がカイルを手伝って、魔石付与が上手くいけば、あの聖女もでかい顔はできなくなるから、頑張ってくれ。」



聖女マリカの事を想像したのだろう。
しゅん、と申し訳なさそうな顔をするから、笑わせたくて、少し戯けて見せる。
すると、ふふ、とジャスミンは笑顔をみせた。 



「・・・分かりました。必ず成果を上げるよう、頑張ってまいります。お兄様もご自愛くださいましね?」

「あぁ。気をつけて行っておいで。カイルに宜しくな。」

「はい。勿論ですわ。」


そう言って、ふわり、と戸口で淑女の手本のような美しいカーテシーを見せ、ジャスミンは部屋を後にする。

戸が閉まると同時に、ホリックは大きく息を吐いた。


ーーー ジャスミンの恋心は、家族は皆知るところではあるが、当のカイル自身にはまっっっったく伝わってないんだよな。

一生懸命なジャスミンに応えるカイルは、あくまでもホリックの妹だしな、という感覚なのだろう。

あの子がカイルに対して、色々と露骨なアプローチ(とはいっても、図書室デートに誘ったり、お茶会に誘ったり程度の健全さだが)をしているのだが、それも『俺なんかにまで、慈愛の女神の如くな対応をしていて凄いなぁ。』と他人事すぎた対応で、ちょっと殴りたくなった。

まぁ、カイル自身が、こと恋愛ごとについては自己評価が低いから、自分に向けられる好意に鈍感な所が大きいのだが。

兄としては複雑な思いで、朴念仁なカイルにもちょっと腹が立つが・・・彼になら、国としても家族としても、ジャスミンを任せられるのは事実で。



「まぁ・・・せいぜい頑張っておいで。」



口の中の甘苦い飴を転がしながら、ホリックは、妹の健闘を祈る事にした。






***************


カイルにもフラグは有るらしい。
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